2016年6月11日土曜日

日経「ウォール街ラウンドアップ」 中西豊紀記者の安易さ

日本経済新聞ニューヨーク支局の中西豊紀記者は夕刊マーケット・投資1面の「ウォール街ラウンドアップ」をまともに書き気がないのだろう。コラムのタイトルからも分かるように、NY市場の動向を分析するのが筋だ。10日の「ウォール街ラウンドアップ~馬なし馬車とグーグル」では、最初に申し訳程度にNY原油市場の動きを述べてはいる。しかし、その後の展開とはほぼ無関係だ。NY市場の分析をする意思がないのならば、執筆陣からは外れるべきだろう。

10日の「ウォール街ラウンドアップ」の全文は以下の通り。

震災後の熊本城(熊本市) ※写真と本文は無関係です
【日経の記事】

9日の米株式市場でダウ工業株30種平均は反落した。原油先物相場の指標も4営業日ぶりに反落し、1バレル51ドル台を割り込んだ。足元で原油価格に神経をとがらせているのが自動車メーカーだ。5月の米新車販売は前年同月比マイナス。6年続いた成長に鈍化の懸念が出始めるなか、自動運転など新たな収益のネタ探しが活発になっている。

 ミシガン州デトロイトにある歴史博物館。フロアの片隅に古ぼけた馬車がぽつんと置いてある。正式には「Horseless Carriage(馬なし馬車)」。1896年に初めてデトロイト市を走ったエンジンを積んだ馬車だ。今の自動車の原型といえる。

この時代、車はまだ「Automobile(自動車)」と呼ばれていなかった。フォード・モーターが低価格の量産車「T型フォード」を発売したのが1908年。人々が馬車と車を別物として扱うまでにはもう少し時間が必要だった。

似たようなことが今の自動車業界でも起きている。グーグルが開発を進めている「自動運転車」にはハンドルもブレーキもアクセルもない。ゼネラル・モーターズ(GM)やフォードが開発中の自動運転車とはまったくの別物だが、どれも「Self Driving Car」と呼ばれる。

グーグルの車が他社と違うのは「人工知能(AI)が運転手」という立場を貫く点だ。その場合、運転席にある機能は意味をなさないばかりか、コストになるだけ。おのずと車のデザインもそれに応じたものになる。

自動車メーカーはそうはならない。GMのメアリー・バーラ最高経営責任者(CEO)は「自動運転車は安全も大事だ」として、ハンドルやブレーキは必要と強調する。そもそも世界の交通法規の「憲法」ともいえるジュネーブ条約が運転手前提だ。だがルールの先を行くのが民間でもある。

トヨタ自動車はこのほど配車サービスの米ウーバーテクノロジーズへの出資を決めた。欧米自動車大手フィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)もウーバーと交渉中とされる。ウーバーの狙いは人が運転しないタクシー事業だ。配車サービス最大のネックは人件費。自動運転はこの問題を解決する。

技術提供を強く求めるグーグルと比べてウーバーは手を組みやすい。だがウーバーを媒介に自動車メーカーは知らずしてジュネーブ条約の枠を超えた「無人化」に踏み出している。各社がウーバーとの提携を急ぐのは「やがて人が車を保有しなくなる」との危機感からだが、あわせて業界秩序も崩れ始めている。

グーグルが火をつけた自動運転の開発競争はまだ研究室レベル。だがウーバーなど消費者に近い企業の登場により今後は急速に一般社会に溶け込んでいくだろう。「かつて自動運転車と呼ばれた装置」が新たな名称の下で走る日は、遠い未来の話でもなさそうだ。

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これは「自動運転車」の話だ。自動運転車が株式市場にどう影響してくるかといった分析は一切ない。この内容で自動運転車について論じたいのならば、別のコラムを選ぶべきだ。中西記者は「最初にちょっとだけNY原油の話を書いたから問題ないよね。後は好きなように書いていいよね」といった意識なのだろう。紙面の性格を考えれば、それが許されないのは明らかだ。

自動運転車の話が秀逸ならばまだ救いがあるが、そうでもない。いくつかツッコミを入れておこう。

◎「配車サービス最大のネックは人件費」?

ウーバーの配車サービスで「配車サービス最大のネックは人件費」だろうか。そもそもウーバーは運転者の人件費を負担していないのではないか。タクシー会社は会社が運転手の人件費を負担する。ウーバーは車のオーナーが空いた時間を活用して輸送サービスを手掛けるので低価格を実現できるのではないか。関連記事を読むと、ウーバーは料金の2割を仲介料として得ているという。タクシー会社もウーバーも全て自動運転車になってしまえば、ウーバーの優位性は消失しそうな気がする。


◎「自動運転の開発競争はまだ研究室レベル」?

グーグルも含め自動運転車の公道での実験はかなり進んでいる。「自動運転の開発競争はまだ研究室レベル」ではないだろう。グーグルは公道での実験で事故も起こしている。中西記者は本当に「自動運転の開発競争はまだ研究室レベル」と信じているのだろうか。

結論として、NY市場の分析を早々に捨て去ってまで書くような話ではない。安易な記事作りは中西記者のためにも読者のためにもならない。猛省を促したい。


※記事の評価はD(問題あり)。中西豊紀記者への評価もDを据え置く。同記者に関しては「苦しすぎる日経 中西豊紀記者『ウォール街ラウンドアップ』」「日経 中西豊紀記者『ウォール街ラウンドアップ』の低い完成度」も参照してほしい。

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