2016年6月3日金曜日

週刊ダイヤモンド「スバル社名変更の真意」に問題あり

週刊ダイヤモンド6月4日号に載った「最大顧客ボーイングも納得 『スバル』社名変更の真意」はあれこれ納得できない記事だった。まず、見出しでは「ボーイングも納得」となっているが、記事にはそうした記述が見当たらない。ボーイングが出てくる部分は以下のようになっている。
唐津湾(佐賀県唐津市) ※写真と本文は無関係です

【ダイヤモンドの記事】

また、祖業である航空機部門への影響についても限定的だ。富士重経営陣は、米ボーイングなどの重要顧客を抱える航空機部門幹部たちに社名変更のお伺いを立てたが、「ボーイングすら、富士重のことをスバルと呼ぶので問題ない、ということになった」(富士重幹部)という

----------------

砕けた言い方をすれば、富士重の経営陣が社内の航空機部門幹部に「社名変更しようと思うけど、どうかな」と聞いたら、「ボーイングもウチのことをスバルって呼んでるし、問題ないんじゃないですか」と答えたという話だろう。富士重の航空機部門幹部は「納得」しているかもしれないが、ボーイングが納得したわけではないはずだ。看板に偽りありと言える。

見出しにある「社名変更の真意」にも疑問が残る。記事では「なぜ今、社名変更をするのか」と問題提起しているが、その後を読んでも「社名変更の真意」が判然としない。関係する部分を見てみよう。

【ダイヤモンドの記事】

なぜ今、社名変更をするのか。その狙いについて吉永泰之・富士重社長は、「富士重という社名には愛着があるし、反対もあった。でも、社内に向けてメッセージを発信すべきと判断した」と説明する

富士重自らが「スバル」の名を背負うことで、ブランドの発信力は今まで以上に高まることになる。「これまでも、スバルブランドを磨こうよ、と言い続けてきた。社名変更によって、従業員の皆さんが、それを磨く当事者なのだということを示したかった」(吉永社長)という

そもそも、国内外の販売店は全てスバルブランドで統一されており、インパクトは小さい。海外の現地法人にしても、ほぼ全てがスバルの名を冠しており、「むしろ海外では、富士重よりもスバルの方が名が通っており、ユーザーには何の驚きもない」(同)という。

----------------------------------------

上記の説明を読んで、なぜ今この時期に社名変更するのか納得できるだろうか。「社内に向けてメッセージを発信すべきと判断した」「社名変更によって、従業員の皆さんが、それを磨く当事者なのだということを示したかった」と言われても、「なぜ今」なのかは手掛かりすらない。しかも「国内外の販売店は全てスバルブランドで統一されており、インパクトは小さい」と筆者の山本輝記者自身が書いている。「なぜ今」なのかは謎のままだ。

社名変更に掛かるコスト」の説明も引っかかった。

【ダイヤモンドの記事】

気になるのは社名変更に掛かるコストだが、「普通に積算すれば2億円程度」(同)しか掛からないという。先述の通り、販売店は既にスバルで統一されており、主な費用である看板の付け替えなどが国内拠点の5~6カ所のみで済むためだ。2008年に、パナソニックが松下電器産業から社名変更した際の費用が300億~400億円だったことを考えると、非常に少額である。

----------------------------------------

パナソニックとの比較では確かに「少額」だが、「主な費用である看板の付け替えなどが国内拠点の5~6カ所のみで済む」のに「社名変更に掛かるコスト」が「2億円程度」も掛かるのが驚きだ。1つの工場で看板を替えたりするだけで数千万円の費用になるのだろう。そういうものかもしれないが、「非常に少額」とは思えなかった。

最後に、記事の結論部分で使った「名は実の賓なり」という諺の使い方にも疑問を呈しておきたい。

【ダイヤモンドの記事】

「大きくはないが、強い特徴を持ち質の高い会社」を標榜する富士重。名は実の賓なりというが、社名変更は足掛かりにすぎない。ブランドにふさわしい戦略が今後不可欠となる。

----------------------------------------

筆者の山本記者は「名は実の賓なり」という諺を「名前よりも中身の方が重要」とのニュアンスで使っているように見える。しかし、辞書で調べると「徳が主で、名誉は客であること。名誉は徳に伴うべきものであること」(デジタル大辞泉)となっている。「名誉は徳に伴うべきものであるというが、社名変更は足掛かりにすぎない」と言い換えてみると、ちょっと違うかなと思える。


※記事の評価はD(問題あり)。山本輝記者への評価も暫定でDとする。

0 件のコメント:

コメントを投稿