2016年3月9日水曜日

「中間層の消費」には触れずじまい? 日経 田中陽編集委員

9日の日本経済新聞朝刊経済面に「経済観測~中間層の消費どうなる 消費税8% 痛税感なお」というインタビュー記事が出ていた。聞き手は田中陽編集委員で、しまむら社長の野中正人氏に消費動向などを語らせている。ただ、記事を最後まで読んでも「中間層の消費」を語っている部分が見当たらない。記事の一部を見ていこう。
松浦川河口部と虹の松原(佐賀県唐津市) ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

大ヒット商品が乏しいうえ暖冬の影響も重なりアパレル業界は苦境にある。消費の主役のはずの中間層はどのような買い物行動をとっているのか。実用衣料に強い、婦人服チェーン最大手、しまむらの野中正人社長に聞いた。

――年明けから株価が乱高下しています。消費に影響は出ていますか。

「一喜一憂するような感じではない。消費者は『買いたい』という気持ちは持っているが、一抹の不安を抱いている。足元では賃金が上がるかどうか、マイナス金利政策が世の中にどのような影響を及ぼすのか見定めている。先々は消費税率の引き上げや社会保障制度の行方が焦点だ」

「諸課題を消費者が納得感を持って受けとめれば消費は動き出す。今は背中を押してくれるだけの納得感がない」

――消費の地合いそのものはいかがですか。

「前回の5%から8%への消費税率引き上げの影響がまだ尾を引いている。5%時代の値札は消費税込みの総額表示だけだった。8%になって本体価格と税額を分けて表示したり本体と総額の両方を表示したりするところが出てきた。痛税感を意識せざるをえない。価格と価値のバランスを今まで以上に消費者は注視するようになっている」

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野中氏は消費全体を語ってはいるが、「中間層の消費」には言及していない。田中編集委員には「しまむらの利用者=中間層」との認識があるのかもしれない。しかし、常識的に考えれば低所得層の利用も少なくないはずだ。「いや違う。富裕層や低所得層はしまむらを全く利用しない。しまむらの社長が消費を語れば、それは『中間層の消費』についてなんだ」と田中編集委員が考えるのであれば、その点は明示すべきだ。

今回のインタビュー記事には他にも理解に苦しむ部分があった。

【日経の記事】


――どのような対策を。

「昨年半ばから前シーズンの商品を持ち越さないよう売れ残りは捨てた。売り場に新商品が入るようになり昨年9月以降、既存店売上高の前年同月比伸び率が2%を切った月はない」

「消費者の目は厳しく、1年前と同じ商品を販売しても手には取ってくれない。原材料が上がったからといって販売価格を上げても同じだ。素材、デザイン、機能などを消費者も納得してくれる価値のある商品は売れ行きがよい。裏地に起毛のある『裏地あったかパンツ』は昨シーズンは2900円だったが今シーズンは3900円にしても非常によく売れた

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消費者の目は厳しく、1年前と同じ商品を販売しても手には取ってくれない」の後が「販売価格を下げても同じだ」ならば分かる。しかし、野中氏は「販売価格を上げても同じだ」と語っている。元々手に取ってもらえない商品を値上げしたら、関心を持ってもらえないのは当然だ。「何を当たり前のことを…」との疑問は湧く。

その後の「裏地あったかパンツ」の例も腑に落ちない。これは「1年前と同じ商品」を価格を上げても売っても消費者が手に取ってくれているとも解釈できる。「『裏地あったかパンツ』は素材などが1年前とは違う」という話ならば、そこは触れてほしい。

野中氏の発言には矛盾を感じる部分もあった。

【日経の記事】

――アパレル業界全体が不振なのはなぜですか。

「大きなファッショントレンドがここ数年ないのが痛い。そのために価格競争に陥り、リスクを取ったトレンドの打ち出しをするところが少なくなった。ただアベノミクスによって極度な低価格志向は収まった。潮目は変わり、少しずつ特色のある商品を開発すればチャンスは大いにある」

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最初の方で野田氏はここ数年の傾向として「価格競争に陥り」と語っている。一方で「アベノミクスによって極度な低価格志向は収まった」とも述べている。「価格競争に陥ってはいるが、極度の価格競争ではない」との弁明はできるものの、かなり苦しい。

野田氏を責めているのではない。語り手を追及するような記事ならば話は別だが、インタビュー記事に登場する人物を「まともな人」に見せるのは、聞き手である記者の責任だ。今回、田中編集委員がその責任を果たしているとは言い難い。

最後に接続助詞「が」の使い方に触れておこう。

【日経の記事】

――地域別の商況は。

「関東南部、愛知、大阪、福岡などの大都市を抱える地域はいい。アベノミクスの恩恵を受けているのは大企業中心なのかもしれない。北海道や東北も健闘しているがガソリン価格の下落が追い風になった。この地域のロードサイド店の販売実績を下支えした」

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逆接でないところで接続助詞の「が」を使うのは好ましくないとされている。「北海道や東北も健闘しているがガソリン価格の下落が追い風になった」だと逆接の関係になっていない。「北海道や東北も健闘している。ガソリン価格の下落が追い風になった」とすれば簡単に問題を解消できる。田中編集委員が今後も記事を書いていくならば、覚えておいて損はない。

さらについでに言うと、ガソリン価格下落の恩恵は全国に及ぶはずだ。それが北関東や北陸では追い風にならないのに、北海道や東北ではしまむらの販売を下支えしているのはなぜか。「ガソリン」の話に触れるのならば、そこまで踏み込むべきだし、行数的に難しいとの判断ならば「ガソリン」の話は捨てて別の話題に紙幅を割いてほしい。


※記事の評価はD(問題あり)。田中陽編集委員への評価もDを維持する。

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