2016年3月28日月曜日

「消費回復するはず」の前提に疑問 日経「エコノフォーカス」

28日の日本経済新聞朝刊総合・経済面に載った「エコノフォーカス~消費低迷、増税のせい? 
デフレ慣れ・可処分所得伸びず・耐久財需要先食い」という記事では、「個人消費がさえない」理由を藤川衛記者が探っている。「2014年4月の消費増税から間もなく2年がたつ」上に、「原油安や賃金の緩やかな改善といった好材料はあるのに、消費増税前の水準に戻らない」のは奇妙だとの問題意識が記事の出発点になっている。しかし、「個人消費は本来ならば回復するはずだ」との前提がそもそも成り立たないのではないか。

藤川記者は記事の最初の方で以下のように分析している。

虹の松原沿いの砂浜(佐賀県唐津市) ※写真と本文は無関係です
【日経の記事】

個人消費がさえない。政府は3月の月例経済報告で個人消費の判断を「消費者マインドに足踏みがみられる」と下方修正した。原油安や賃金の緩やかな改善といった好材料はあるのに、消費増税前の水準に戻らない。1997年は増税直後にアジア通貨危機に見舞われたが、当時と比べても低迷は長引いている。消費はどうしてこんなに弱いのか

2014年4月の消費増税から間もなく2年がたつ。物価変動の影響を除いて比べるため国内総生産(GDP)統計の実質値を見ると、増税前の13年度に316兆円あった個人消費は14年度に307兆円に減った。「増税前の駆け込み需要の反動」と誰もが考えた。

だが個人消費はその後も戻らない。直近の15年10~12月期は年率換算で304兆円。14年度を下回る低空飛行が続く

----------------------------------------

個人消費で「14年度を下回る低空飛行が続く」のは不思議だろうか。個人的には、当然だと思える。日経の2月8日の記事「実質賃金0.9%減 15年、物価上昇に賃上げ追いつかず」によると、実質賃金の「マイナスは4年連続」だ。名目賃金はわずかに増えても、それを上回って物価が上がっていれば、消費が振るわないのは当たり前だ。

消費低迷の理由を分析した部分にも疑問が残った。藤川記者が挙げた「理由」は以下のようになっている。

【日経の記事】

考えられる低迷の理由は、大きく3つある。

まず「デフレ慣れ」だ。値下げに慣れきった消費者は増税と物価上昇で節約志向を一層強めた。所得のうちどれだけ消費に振り向けたかをみる消費性向は増税前に75%程度だったが、直近は72%に下がり、消費者の財布のひもは堅くなった。

97年の消費税率の引き上げ幅は2%だったが、14年は3%と上げ幅が当時より大きく、駆け込み需要も想定以上に大きかった。買いだめを一気にしたツケともいえる。

2つ目は、税や保険料支出の急増だ。毎年のように国民年金保険料や厚生年金保険料が上がり、介護保険料や健康保険料も上がっている。せっかく賃金が上がっても保険料の増加が打ち消してしまう。安倍政権の3年間で税や保険料支出は5000円近く増えたが、可処分所得は2000円強の伸びにとどまる

第3に「消費喚起策」のはずの政策が需要を先食いした点だ。23日の記者会見で、石原伸晃経済財政・再生相は「家電エコポイントやエコカー減税が(需要の先食いに)結構効いている」と話した。耐久財消費は14年1~3月期に55兆円だったが、15年10~12月期は40兆円にとどまる。

----------------------------------------

疑問を感じたのが最初の「デフレ慣れ」だ。よく「デフレマインドが染み付いた消費者はさらに値段が下がると思うからなかなか物を買わない」といった説明に出くわす。これが正しいとすれば、「物価上昇」に転じた時には買い出動しそうなものだ。しかし、藤川記者の説明は逆だ。だとすると「デフレの方が消費が活発になる」との考えなのだろう。これが間違いとは言わない。ただ、「インフレよりデフレの方が消費は増えやすい」との判断であれば、それを明示してほしかった。

理由の「2つ目」に挙げた「税や保険料支出の急増」は消費低迷の要因として納得できる。結局、「カネがないから消費も増えない」というだけの話だろう。


※記事の評価はD(問題あり)。藤川衛記者への評価も暫定でDとする。

0 件のコメント:

コメントを投稿