2016年3月29日火曜日

脱線気味だが興味深い 東洋経済の特集「金融緩和中毒」

週刊東洋経済4月2日号の第1特集「効かないけどやめられない 金融緩和中毒」は興味深い内容だった。42ページにも及ぶ大作ながら、これと言ってツッコミを入れる部分も見当たらなかった。ただ、金融緩和絡みで40ページを超える特集を組むのは難しかったのか、途中からかなり脱線してしまう。ちなみに週刊エコノミスト4月5日号も「世界史に学ぶ金融政策」という金融緩和絡みの特集だが、こちらは脱線がない。その点で両誌を比べるとエコノミストに軍配が上がる。
菜の花が咲くJR久大本線(福岡県久留米市)
              ※写真と本文は無関係です

東洋経済も64~87ページは問題ない。ところが88~89ページの「ようやく『定義』が確立された段階の仮想通過」辺りから急速に金融緩和との関連が薄れていく。90~91ページの「吹き始めた解散風~消費増税再延期で同日選の虚実」は完全に政治関連記事だし(筆者も政治ジャーナリスト)、94~97ページの「米国論『トランプ大統領』でどうなる」、104~105ページの「英国EU離脱 是か非か」、106~107ページの「日中貿易 大転換の予感」なども金融緩和との関連はほぼない。

特集は必要ならば長くてもいい。しかし、テーマを「金融緩和」に定めたのならば脱線はなるべく避けるべきだ。脱線して42ページの特集にするぐらいならば、エコノミストのように合計26ページで脱線なしの方が望ましい。

今回の東洋経済の特集で最も注目すべき記事は、英国金融サービス機構(FSA)元長官のアデア・ターナー氏にインタビューした「日本はヘリコプターマネーに踏み込むべきだ」(72~73ページ)だろう。「正統派論客まで極論を語り始めた」と見出しにあるように、何となく最初から「ヘリコプターマネーなんてあり得ない」と思い込んでしまうが、よく考えてみるとターナー氏の主張に反論するのは意外に難しい。一部を紹介しよう。

【東洋経済の記事】

--具体的には?

私の提言はこうだ。たとえば、財務省が17年4月からの消費増税を行わないと宣言する。あるいは、国民の銀行口座に1人につき10万円を入れる。または商品券を発行する。1年以内に使わなければ、価値をなくしたり、一部を使えなくしたりする。さまざまなやり方がある。財源は中銀の紙幣増刷だ。

--ハイパーインフレのおそれは?

なぜハイパーインフレが気になるのか。たとえば日銀がヘリコプターからマネーを落としたとしよう。この額が100万円だったら、ハイパーインフレが起きる可能性は低い。しかし巨額の規模で行えばハイパーインフレが起きるかもしれない。効果的な刺激策になる場合とハイパーインフレの間の金額はないのか。答えは「ある」だろう。

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確かに答えは「ある」だ。ターナー氏はヘリコプターマネーのリスクも語っている。「ただし、政治リスクがある。いったんこれが可能であると認めてしまうと、政治家はつねに繰り返し大きな金額で行おうとするからだ。マネーファイナンスは薬と同じだ。決まった量を飲めば聞くが、過度に飲めば死に至ることもある」。本能的にヘリコプターマネーを恐れるのは「適量」を飲むことが極めて困難に思えるからだろう。だが、それでは「適量を飲むこともできる」との主張を退けるには力不足だ。


※色々と考える材料を与えてくれた点も含め、特集への評価はB(優れている)とする。暫定でD(問題あり)としていた野村明弘副編集長への評価は暫定でC(平均的)に引き上げる。山田徹也副編集長の評価はBを据え置く。

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