2016年3月15日火曜日

分析やや甘い東洋経済 又吉龍吾記者「そごう柏店撤退」(2)

東洋経済オンラインに3月13日付で載った「『そごう柏店』を撤退に追い込んだ過酷な事情 ベッドタウン百貨店『閉鎖ドミノ』の序章か」という記事の分析の甘さをここでは取り上げたい。まずは西武旭川店に関する又吉龍吾記者の分析を見ていこう。
合所ダム周辺(福岡県うきは市) ※写真と本文は無関係です

【東洋経済オンラインの記事】

百貨店は都心の大型旗艦店を除くと、苦しい状況が続いている。今回閉鎖する西武旭川店は、その顕著な例の1つだ。旭川市の人口は1998年(36.4万人)以降、少子化や転出超過で減少の一途をたどる。2015年9月末では34.5万人となった。こうした状況から、「地方都市は百貨店が1店舗しか存続できないマーケットになった」(村田社長)。

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(1)で触れたように、普通に読むと「西武旭川店の撤退で旭川に百貨店は1店だけになるんだな」と思いそうになる。しかし、実際には百貨店は旭川から姿を消すようだ。村田紀敏セブン&アイ・ホールディングス社長の「地方都市は百貨店が1店舗しか存続できないマーケットになった」という言葉は、裏返せば「地方都市でも1店舗であれば百貨店が存続できる」と示唆している。しかし旭川ではそうはならなかった。

記事では、旭川に百貨店がなくなることを伝えず、1店舗は残るかのような書き方をしていた。「旭川から百貨店が消える」と明示した上で「旭川で最後の百貨店になったのに、なぜ残存者利益を得て生き残れなかったのか」を掘り下げてみれば、記事の完成度はより高まったはずだ。

次に、そごう柏店の撤退を又吉記者がどう分析しているのかを見ていく。

【東洋経済オンラインの記事】

だが、柏市は事情が異なる。東京のベッドタウンである同市は、旭川市とは逆に人口が増加している。2016年3月時点の柏市の人口は41.4万人と、10年前から3.3万人増えている。にもかかわらず、そごう柏店を閉めるという決断に至ったのはなぜなのか。

会社側が理由に挙げるのは、競争環境の激化だ。

1973年10月にオープンしたそごう柏店は、駅を挟んだ向かい側に同時期に開業した柏高島屋、同じ東口で1964年から営業を始めていた丸井柏店と競い合う形で、成長を遂げてきた。売上高は1991年2月期に590億円とピークを迎えた。

が、2000年代に入ると、半径5キロ圏内に次々と大型のショッピングセンター(SC)が進出。イオンモール柏をはじめ、流山おおたかの森S・C、ららぽーと柏の葉が相次いで開業した。

こうした逆風に、そごう柏店も手をこまぬいていたわけではない。大型SCがファミリー層をターゲットに位置づけるのに対し、そごう柏店はシニア層にターゲットを絞った品ぞろえやサービスに力を注いできた。2012年には百貨店内にカルチャーセンターを誘致し、俳句や短歌、音楽やダンスの講座を開くなど、シニア客の流入を図った。

「これらの取り組みは一定の成果があり、シニア客に絞った売り上げは回復トレンドにあった」(そごう・西武)。ただ、結果としては、シニア層以外の施策が乏しく、店舗全体の売り上げの減少に歯止めをかけることはできなかった。直近の2016年2月期の売上高は115億円と、ピーク時の2割程度にまで落ち込んでしまった。

一方、これまでは家族客に狙いを定めてきた近隣の大型SCは、シニア層を含む3世代の囲い込みに注力し始めている

「フードコートはナショナルチェーンだけではなく、素材にこだわった付加価値の高いテナントも増やすことで、幅広い年齢層に受け入れられるようにしている」(ららぽーと柏の葉を運営する三井不動産)

こうした取り組みが功を奏し、ららぽーと柏の葉は開業直後の2008年度は168億円だった売上高が、2014年度は222億円にまで増加した。この勢いは柏に限ったことではない。全国各地の大型SCはおおむね順調に客数を伸ばしており、今後も未開拓地域への進出を続けていくとみられる。

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そごう柏店は、駅を挟んだ向かい側に同時期に開業した柏高島屋、同じ東口で1964年から営業を始めていた丸井柏店と競い合う形で、成長を遂げてきた」と又吉記者は書いている。そして高島屋と丸井は今も営業を続けている。高島屋や丸井ではなく、そごうが撤退するのはなぜなのか。そごうが目立って苦しいのか、それとも駅周辺全体が地盤沈下しているのか。その辺りが分かれば、記事への満足度はさらに高まったと思える。

SC好調の理由に関する説明もかなり雑だ。「フードコートはナショナルチェーンだけではなく、素材にこだわった付加価値の高いテナントも増やす」と言われても、具体的にどんなテナントを増やしているのかイメージしにくい。それに、このコメントからは「ナショナルチェーン=付加価値の高くないテナント」との印象も受けるが、そうは決め付けられないだろう。

最後に記事の結論部分にも注文を付けておく。

【東洋経済オンラインの記事】

セブン&アイHDの村田社長は「閉店する2店を除いた既存の百貨店については、黒字を確保できている」として、残る21店の百貨店については存続させる意向を示した。ただ、柏の事例のように近隣で競合SCの進出が相次げば、現在は黒字を維持している店舗も安泰とはいえない。人口増加が続く柏での撤退は、郊外都市における百貨店閉鎖ドミノの序章となるかもしれない

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人口増加が続く柏での撤退は、郊外都市における百貨店閉鎖ドミノの序章となるかもしれない」と聞くと、これまで郊外都市における百貨店閉鎖はほとんど起きていないような印象を受ける。しかし、セブン&アイ傘下の百貨店に限っても、西武春日部店が今年2月末で閉店となった。2012年1月には、そごう八王子店も閉めている。グループ外に目を移せば、さいか屋川崎店が2015年5月で営業をやめた。「郊外都市における百貨店閉鎖ドミノ」は既に起きているとも言える。

八王子市や川崎市でも人口は増えているのに、百貨店の閉店は現実になっている。「柏での撤退」に特別な意味を持たせて「郊外都市における百貨店閉鎖ドミノの序章となるかもしれない」と結論付けるのは、ちょっと無理がある。


※色々と注文を付けたが、記事の基礎的な部分はしっかりしている。少し工夫を加えるだけで優れた記事に生まれ変わるはずだ。記事の評価はC(平均的)。暫定でB(優れている)としている又吉龍吾記者への評価は据え置く。又吉記者については「セブン&アイ鈴木敏文会長の責任質した東洋経済を評価」も参照してほしい。

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