2016年3月31日木曜日

日経ビジネス清水崇史記者は株式市場が分かってない?

この記者はマーケットのことが根本的に分かっていないのではないか--。そう思える記事が日経ビジネス3月28日号に出ていた。「シリーズ 財務が変える 第6回 企業のカタチ 日本航空(JAL) 資産効率高め『成長の壁』突破へ」という記事を書いた清水崇史記者は、日航のEV/EBITDA倍率について以下のように説明している。

【日経ビジネスの記事】
福岡空港で出発を待つ日本航空の航空機

日航は屈指の高収益体質にもかかわらず、この指標では業界内でも低位に甘んじている。世界の主要航空会社のEV/EBITDA倍率を見ると、欧米大手よりも総じてアジア勢の方が高い。

日航の同倍率は4.1倍。それに対して香港のキャセイ・パシフィック航空は6.7倍で、金融市場が企業の稼ぐ力を6.7年先まで期待していることを意味する。ANAHDは6.3倍、シンガポール航空は4.4倍だ。

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EV/EBITDA倍率は「金融市場が何年先まで企業に稼ぐ力を期待しているか」を示す指標ではない。単に「EV(企業価値)がEBITDA(利払い前・税引き前・償却前利益)の何倍か」を示しているだけだ。記事中の用語解説で書いているように「M&A(合併・買収)では投資を回収する期間の目安になる」とは言えるだろう。

EV/EBITDA倍率は「現状の利益水準が続くとすれば、買収後何年ぐらいで投資資金を回収できるか」の大まかな目安にはなる。しかし、買収時には「現状の利益水準が続く」との前提で考えるとは限らない。また、「投資資金を回収してしまえば、後は利益がゼロでも赤字でも構わない」と考えて買収するわけでもない。

これは買収を考えている投資家に限らない。株式市場では基本的に「限りなく遠い将来」まで見通して株価が形成されていると考えるべきだ(遠い将来になればなるほど、株式の現在価値に与える影響は小さくなるので、非常に遠い将来はほとんど無視してよい要素にはなる)。EV/EBITDA倍率が6.7倍だからといって「6.8年先以降の稼ぐ力には期待していない」とのコンセンサスが市場参加者にあるわけではない。

この記事に関しては以下の記述にも疑問を感じた。

【日経ビジネスの記事】

日航がEV/EBITDA倍率を引き上げる秘策はあるのか。斉藤典和・専務執行役員(CFO=最高財務責任者)は「分母のEBITDAに相当する収益力を高めるのが王道。その上で財務の健全性を維持しながら、分子のEVを左右する資本構成を検討していく」という。

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「そもそも日航はEV/EBITDA倍率の引き上げに取り組む必要があるのか」との疑問も湧くが、日航もその気のようなので、倍率引き上げを目指すとしよう。ならばEVはなるべく大きくし、EBITDAは小さくするのが「王道」だ。しかし、斉藤専務は「分母のEBITDAに相当する収益力を高めるのが王道」だと発言している。企業として「利益をなるべく少なくします」と言えないのは分かる。しかし、「倍率を引き上げるのに、分母を増やしてどうする」とツッコミは入れたくなる。

利益を増やせば株式時価総額が膨らむ方向に作用して、結果的にEV/EBITDA倍率が上がる可能性はある。しかし、そうなるとは限らない。利益を増やしながら倍率を高めるためには、利益増加を上回るペースで企業価値を高める必要があるが、記事からはその道筋が見えてこない。

清水記者は有利子負債を増やすことも倍率引き上げに寄与すると考えているようだ。これも単純にそうとは言えない。

【日経ビジネスの記事】

日航は本業の収益で投資に必要なキャッシュを賄う方針だが、日銀のマイナス金利導入で企業の資金調達コストは下がっている。焦点は、2003年以来、途絶えている社債の発行再開だ。社債などの有利子負債はEVを押し上げる効果も併せ持つ。

斉藤専務は「イベントリスク(災害や景気、テロに伴う旅客需要の急減」に備えて自己資本を厚くしておく必要がある。同時に、多様な資金調達も経営の課題だ」と話す。投資家の需要が旺盛な5年物などを軸に、最大500億円の社債発行を検討している。

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社債などの有利子負債はEVを押し上げる効果も併せ持つ」のは事実だが、日航の場合はどうか。「日航は本業の収益で投資に必要なキャッシュを賄う方針」らしい。だとすれば、社債発行で入ってきたカネは基本的に現預金として残ってしまう。記事でも触れているように「EV=株式時価総額+ネット有利子負債」だ。「ネット有利子負債=有利子負債-現預金」なので、有利子負債が増えても、その分が現預金として手元にあればネット有利子負債は変化しない。つまりEVも変わらない。

「いや。調達した資金はM&Aなどに使うんだ」と清水記者は言うかもしれない。その場合、ネット有利子負債は増えるし、投資がうまく行けば株式時価総額も増える可能性が高いので、EVの増加要因ではある。ただ、投資の成功が分母のEBITDAも増やしてしまうため、EV/EBITDA倍率が上向くかどうかはこれまた微妙だ。

こうやって見てくると、清水記者が株式市場などの仕組みをきちんと理解して記事を書いているのかどうか、かなり怪しい。


※記事の評価はD(問題あり)。暫定でDとしていた清水崇史記者への評価はDで確定とする。清水記者については「昨年11月の対談を今頃載せる日経ビジネスの不見識」も参照してほしい。

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