2016年3月23日水曜日

週刊ダイヤモンド「不動産の割安偏差値」算出に残る疑問

週刊ダイヤモンド3月26日号の「ニッポンご当地まるごとランキング」はよく出来た特集だった。西日本に「女余り」の傾向があり、九州はそれが特に顕著だと示した「嫁が欲しくば九州に行こう? 男余り、女余りで地域格差」といった興味深い記事が並んでいて、飽きずに読めた。特集全体の完成度はかなり高い。
筑後川沿いに咲く菜の花と両筑橋(福岡県朝倉市) 
                 ※写真と本文は無関係です

ただ、特集Part 1「公的統計でここまでわかる」の中の「オープンデータから分かった不動産の『割安』地域はここ!」という記事は疑問の残る内容だった。記事では「統計分析を駆使し、オープンデータから不動産取引価格の『割安』な地域を導き出してみた」ようだが、そもそもどうやって「割安」を判断しているのか説明が不十分だ。

【ダイヤモンドの記事】

今回、本誌は不動産取引価格予測サイト「GEEO」を運営する統計調査会社、おたにの協力を得て、今後半年~1年以内に値上がりする可能性の高い地域を明らかにした

対象は、東京や横浜市、大阪市などの全国7大都市の138市区町。官公庁や民間企業が提供している公開情報(オープンデータ)から、現状で「割安」な地域を分析し、偏差値を出してランキング化した

(中略)この指標の肝は、中古住宅の実勢取引価格を中心にしていることである。そのため、「本来もっと高い値段で取引されているはずの地域や、開発余力のある地域が上位にくる傾向にある」(小谷祐一朗・おたに代表)。

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これを読んでも、どうやって「割安」を判断しているのか漠然としている。記事に付いている図の注記にも「7大都市の138市区町における中古住宅取引データおよびオープンデータ等を基に、現在割安な地域を分析、偏差値を出してランキング化した」と出ているだけで、具体的にどんなオープンデータを用いているのかは明らかにしていない。細かな計算方法を示せとは言わないが、もう少し算出基準を明らかにしないと、記事を参考にする気にはなれない。

この記事では「7大都市の138市区町」の中で最も割安なのが大阪市大正区だと紹介している。これに関する説明も、どうも腑に落ちない。

【ダイヤモンドの記事】

トップになったのが、冒頭の大阪市大正区だった。専門家の中には、オフィス需要が少なく大規模マンションのないような大正区が上位にくることに、首をかしげる人もいるかもしれない。

だが、この指標の肝は、中古住宅の実勢取引価格を中心にしていることである。そのため、「本来もっと高い値段で取引されているはずの地域や、開発余力のある地域が上位にくる傾向にある」(小谷祐一朗・おたに代表)。

その点、大正区は大阪市内でも注目度の低い地域であったからこそ、全国的にも『割安』な結果となったのである

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偏差値算出方法の最大のヒントは「中古住宅の実勢取引価格を中心にしていること」だ。あくまで推測だが、何らかの形で「不動産の本来価値」を算出し、それと「中古住宅の実勢取引価格」を比べているのだろう。しかし、割安な地域が分かったとしても、なぜそれが「今後半年~1年以内に値上がり」なのかは判然としない。

さらに言えば「割安=将来は上がる」と考えるのは早計だ。割安な状況は必ず解消されるとは限らないし、解消されるとの前提が正しいとしても、それは例えば他の地域の価格が下がることで割安度が平準化していく場合もある。そう考えると「大阪市大正区の不動産は割安ですよ。今後1年以内に値上がりする可能性が高いそうですよ」と言われても、眉に唾するしかない。

大正区は大阪市内でも注目度の低い地域であったからこそ、全国的にも『割安』な結果となったのである」という説明も妙だ。「注目度の低い地域ほど割安偏差値が高い」という傾向があるならばまだ分かる。しかし記事では以下のようになっている。

【ダイヤモンドの記事】

全国2位の福岡市中央区では、福岡空港の周辺規制の緩和によって、大規模開発がめじろ押しだ。今後10年間で30棟の民間ビルの建て替えを誘導するという「天神ビッグバン」計画を、福岡市が掲げているほどである。

3位の横浜市栄区も、鎌倉市にまたがるJR大船駅周辺や、東急建設による再開発の計画が明らかになるなど注目が集まっている

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上記のくだりを読む限り、「注目度の低い地域ほど割安偏差値が高い」という傾向は見当たらない。だとすると、大正区に関する説明は何だったのかと思えてしまう。記事に付いている東京23区の地図を見ても、割安偏差値が最も高いのが中央区で、最も低いのが荒川区。やはり「注目度の低い地域の偏差値は高い」と言える状況になっていない。

色々と注文を付けたが、この記事を除くと特集に目立った問題は感じなかった。全体的な完成度の高さを重く見て、特集の評価はB(優れている)とする。担当者のうち、田中博編集長と田島靖久副編集長への評価はF(根本的な欠陥あり)を、須賀彩子記者はE(大いに問題あり)を据え置く。浅島亮子副編集長、深澤献記者、ライターの嶺竜一氏は新規に暫定でBとする。  前田 剛副編集長と柳澤里佳記者は暫定Cから暫定Bへ引き上げる。暫定でBとしていた宮原啓彰記者と小島健志記者への評価はBで確定させる。


※田中編集長と田島副編集長への評価については「ダイヤモンド編集長へ贈る言葉 ~訂正の訂正について」「週刊ダイヤモンドを格下げ 櫻井よしこ氏 再訂正問題で」などを参照してほしい。須賀記者に関しては「素人くささ漂う ダイヤモンド『回転寿司』止まらぬ進化」「週刊ダイヤモンド 素人くささ漂う須賀彩子記者への助言」「ロイヤル社長を愚か者に見せる週刊ダイヤモンド須賀彩子記者」などが参考になるだろう。

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