2016年3月27日日曜日

「ラップ型投信」に誘い込む日経 小川和広記者への疑義

業界関係者が熱心に記者へ働きかけているのだろう。日本経済新聞に「ラップ型投信」を薦める記事がまた出ていた。筆者は小川和広記者。26日の朝刊マネー&インベストメント面に載った「ラップ型投信、じわり拡大 ~信託報酬安めの商品も」という記事を読む限り、小川記者も投信を売り込もうとする側に取り込まれていると考えてよさそうだ。

記事の中身を見ながら、問題点を指摘していきたい。
福岡県うきは市の隈上川に咲く菜の花 ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

日銀によるマイナス金利政策の導入を受け、定期預金の金利がゼロ%目前に下がってきた。これまで株式や外貨への投資には消極的で、地元の地方銀行の定期預金などに資産を預けていた人の間で人気を集めているのが「ラップ型投資信託」だ。国内外の幅広い金融商品に分散することでリスクを低減しやすいうえ、少額から始められる点が魅力で、購入する人がじわじわと増えている

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人気を集めている」「購入する人がじわじわと増えている」と読者を訴えているが、具体的なデータは記事に出てこない。りそなの商品に関して「3月22日時点で販売額は3商品合計で200億円を超えた」との記述があるだけだ。「ラップ型投資信託」が本当に人気を集めているかどうかは記事からは読み取れない。

その後の説明にも疑問が湧く。

【日経の記事】 

ラップ型投信は富裕層向けの投資一任サービス「ラップ口座」の仕組みを投信に応用した商品だ。国内外の債券や株式などを組み合わせて「安定型」「成長型」など目標利回りに応じて複数の商品を用意している金融機関が多い。ラップ口座のようにプロと個別に相談して運用対象を決められないが、1万円から投資できるなど少額から始められる場合が多い。

これまでラップ型投信は数多くの金融商品を組み合わせている分、残高に応じてかかる信託報酬が年1~2%程度と比較的高めだった。運用成績次第では利益を得られなくなる可能性もあり、敬遠する人も多かった

こうした不満に応える商品の一つが、りそなホールディングス傘下の3行が1月末から販売を始めた「R246」だ。ラップ型投信として初めて目標利回りを明示し、購入者が考える運用目標に合った商品を選びやすい。

国内外の株式や債券、不動産投資信託(REIT)で運用する。目標利回りは短期金利プラス2%の「安定型」、同4%の「安定成長型」、同6%の「成長型」の3種類。信託報酬もそれぞれ年0.6%、1%、1.1%と最低水準だ。「短期売買でなく、中長期的な保有を促す」(りそなアセットマネジメントの西山明宏社長)商品だ。

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ラップ型投信」について「信託報酬が年1~2%程度と比較的高めだった」とまず書いている。ならば「R246」の信託報酬がその中で低い部類だとしても「1%」「1.1%」については「比較的高め」に分類すべきだ。発表資料を見るとR246は販売手数料も税抜きで1%(1億円未満の場合)かかるようだし、個人的には「ラップ型投信への不満に応えて改善してくれたな」とは思えない。

では、安定型の「0.6%」ならば魅力的だろうか。記事によると、安定型は7割を国内債券で運用するようだ。まず、「超低金利で運用難だから」と考えてラップ型投信を選んでいるのに7割を国内債券へ振り向けることに合理性が乏しい。しかも、場合によってはマイナスの利回りになりそうな国内債券への投資分についても0.6%の信託報酬を取られる。とても選択肢には入れられない。

さらに記事の続きを見ていく。

【日経の記事】

りそなは流行商品の販売を主眼に置いた営業から、運用資産の目標利回りを基に適切な資産配分を提案する営業への転換を進めている。今回の投信はこうした方針の下での中核商品という位置づけだ。日銀がマイナス金利政策の導入を発表した1月29日から取り扱いを始め、3月22日時点で販売額は3商品合計で200億円を超えた。

こうした商品を取り扱う動きは地銀にも広がっている。静岡銀行は昨年11月からドイツ銀行グループと共同で企画したラップ型投信の販売を始めた。主な投資先を上場投資信託(ETF)にすることで信託報酬を抑えた。商品名は「プラチナラップ」。静岡銀全店と静銀ティーエム証券、ドイツ証券で買える。

投資初心者向けの安定型と成長型から選択できる。安定型はリスクの低い先進国株式や国債、投資適格社債が投資対象で、3カ月ごとの基準価格をマイナス3%までに抑えることを目指す。下限の目安を設定する商品は珍しく、購入者の安心感に訴えかける狙いだ。京都銀行も今年1月から安定型と成長型の2種類の取り扱いを始めた。

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小川記者が2番目に紹介している「プラチナラップ」もひどい。この投信は販売手数料が何と3%(税抜き)。これだけで問題外だ。小川記者は知らないのか、知っていてあえて触れていないのか…。成長型の信託報酬は0.93%(同)だが、主な投資対象をETFとしているのでETFの信託報酬も含めて考えると実質的な負担は小さくない。低コストのETFに投資するならば、「ラップ型投資信託」を経由しない方が賢明だ。せっかくの低コストが台無しになってしまう。

小川記者は記事を以下のように結んでいる。

【日経の記事】

ラップ型投信は少額から分散投資ができるため、投資初心者が定期預金に代わる商品として検討しやすい。元本を割り込むリスクを認識したうえで、手数料や運用構成、目標利回りなどを比べながら、自分に最も合った商品を選びたい

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マイナス金利政策の導入を受け、定期預金の金利がゼロ%目前に下がってきた」からと言ってラップ型投信を検討する必要がそもそもない。「金利がほとんどゼロ」なのは最近始まった話ではない。「0.01%の定期預金金利ではさすがに寂しい」という人はまず個人向け国債(変動10年)を検討すべきだ。これなら0.05%の利回りは確保できるし、金利上昇にも対応できる。

そうした選択をすっ飛ばして「ラップ型投信は少額から分散投資ができるため、投資初心者が定期預金に代わる商品として検討しやすい」と書く小川記者は全く信用できない。リスク資産は金融資産の3割にとどめて残りは安全に運用したいと考える「投資初心者」がいた場合、自分ならば「3割をETF(「少額から」を希望するならば普通のインデックス投信)に充て、残りは預貯金と個人向け国債に回したら」と助言する。少なくともコスト面ではラップ型投信より圧倒的に有利だ。

しかし、小川記者は「ラップ型投信」に関して「手数料や運用構成、目標利回りなどを比べながら、自分に最も合った商品を選びたい」とまとめている。投資初心者には「小川記者(あるいは日経)を信じてはダメだ」と声を大にして訴えたい。

※記事の評価はD(問題あり)。小川和広記者への評価もDとする。

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