2016年3月2日水曜日

「株価底入れ時期」の予測が残念な日経 鈴木亮編集委員

株価の予測なんて基本的に当たらないものだ。だから、「その手の記事を書くなら、ちゃんと的中させろ」とは言わない。ただ、外れてもいいから大胆に自分の見方を披露してほしい。記事に目を通す読者の多くもそう期待しているはずだ。その意味で、2日の日本経済新聞朝刊マネー&インベストメント面に載った「株価底入れ期待高まる~政策・自社株買いカギ」には少し失望した。筆者の鈴木亮編集委員ならば、リスクを取って思い切った予測をしてくれると期待していたのだが…。
石橋文化センター(福岡県久留米市) ※写真と本文は無関係です

記事の結論部分は以下の通り。

【日経の記事】

株価底入れの時期は、早ければ日米欧の金融政策決定会合などの重要日程をこなした3月中旬以降ではないだろうか。

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現時点で底入れしていないならば、上記の予測が外れる可能性はかなり低い。外れるのは3月上旬に底入れした時だけだからだ。記事が出た後は6営業日を残すのみ。その後ならば、いつ底入れしても見事に「的中」だ。せめて「底入れは近い。早ければ3月中旬にも」ぐらいは書いてほしかった。

さらに言えば「早ければ3月中旬以降」との表現は不自然だ。「3月中旬以降」には今年の12月も3年後も10年後も含まれる。それを「早ければ」と組み合わせても意味がない。

ついでに他にも気になる点を指摘しておきたい。

◎次こそ「追加緩和で底入れ」?

【日経の記事】

G20で経済成長に向けた国際協調が打ち出されたことで今後、各国の財政・金融政策の発動への期待が高まりそうだ。3月10日以降、欧州、日本、米国と中央銀行の金融政策決定会合がある(表C)。欧州は緊縮財政の見直しと追加金融緩和、日本も追加緩和と補正予算など財政出動、米国は利上げの見送りと、一連の成長戦略が期待される。

3月の決定会合で日銀が動くかどうかは見方が分かれるが、野村証券金融経済研究所の海津政信シニア・リサーチ・フェローは「1ドル=115円より円高方向の水準が定着しそうなら追加緩和に動く可能性がある」と読む。

4月に衆議院の補欠選挙、7月に参議院選挙があり、衆院の解散総選挙の可能性もくすぶっている。野党が合流や候補者調整など選挙対策を加速する中で、政府も国政選挙に向けて円高・株安の流れを変えるための対策を打つとの見方がある。本予算成立後、5兆円規模の補正予算など財政出動への期待が高まる

 (中略)日本株上昇につながる秘策を政府に期待する声もある。野村証券の海津氏は「5月下旬の主要7カ国(G7)首脳会議(伊勢志摩サミット)後に、政府は消費増税の再延長方針を打ち出す可能性がある」と語る。サミットで持続的な経済成長に向けた国際的な協調姿勢を示し、その実現のためという大義名分があれば、再延長も可能との読みだ。

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マイナス金利政策が株価底入れにつながらなかったのは鈴木編集委員も異論がないだろう。なのに、3月10日以降の追加緩和が今度は株価底入れにつながると見るのならば、その理由には触れてほしかった。「財政政策と組み合わせれば」とか「欧州などと同時にやれば」といった話には仕立てられるはずだ。

ただ、個人的には「追加緩和と財政出動が株価を本当に押し上げるかな」とは思う。例えば、マイナス金利は0.1%から1%にして、消費税率の引き上げは無期延期、さらには国債を増発して5兆円と言わず10兆円の補正予算を組んでみる。そうしたら「株は買いだ」となるだろうか。自分だったら「日本はいよいよヤバい(もちろん悪い意味で)」と感じて、株式市場から距離を置きたくなる。

付け加えると、米国に関する「一連の成長戦略」も気になる。「そんな話あったかな?」と思ってしまった。こちらの無知を責めるべきかもしれないが、もう少し説明が欲しい。

ついでに言葉の使い方でも注文を付けたい。

◎「在庫が改善」?

【日経の記事】

中国では経済減速を招いた不動産と設備の供給過剰のうち、不動産については先行きに光明が見えてきた。金融緩和や購入規制の緩和などで住宅在庫が好転している。2015年9月時点で平均在庫は12.8カ月分となり、1年間で6カ月分改善した。北京、上海など大都市の平均在庫は10カ月分で、適正といわれる水準まで下がっている。

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在庫が改善」という言い方は2つの意味で気になる。まず日本語としての不自然さだ。「雇用」とか「経済情勢」は改善すると思うが、在庫そのものは改善しないはずだ(倉庫に寝かせておくと品質が良くなるならば別だが…)。

「過剰在庫が解消に向かう」という意味で使っているのは分かるが、それは「改善」なのか。住宅には売り手と買い手がいる。在庫の減少は売り手には良い兆候でも、買い手には残念な話かもしれない。こういう問題では安易に「改善」「悪化」を使わない方が無難だ。

今回の場合ならば「住宅在庫が好転している→過剰在庫が解消に向かっている」「平均在庫は12.8カ月分となり、1年間で6カ月分改善した→平均在庫は12.8カ月分となり、1年間で6カ月分減少した」などとした方がよいだろう。


※当たり障りのない予測には不満が残ったものの、全体として大きな問題はないので記事の評価はC(平均的)とする。鈴木亮編集委員への評価もCを据え置くが、弱含みではある。

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