2016年3月1日火曜日

本当に「ビジネスが貧困救う」? 日経1面「新産業創世記」

貧困層向けビジネスが貧困層を救っているかどうかは微妙だ。明確に「救っている」と言える場合もあるだろうが、「奪っている」と呼ぶべきものも多いと思える。1日の「新産業創世記~難題に挑む(3)収入2ドル層に三輪タクシー売る ビジネスが貧困救う」を読んでも、ビジネスが貧困を救っているようには見えなかった。特に最初の事例は、貧困層から徴収している金額が大きすぎる。

須佐能袁神社(福岡県久留米市) ※写真と本文は無関係です
【日経の記事】

「電気がつくようになって、子どもたちに夜、勉強を教えられるようになったわ」。アフリカ東部ケニア。首都ナイロビ郊外の土壁の簡素な自宅で、3人の子育てに追われるポーリーン・キラティア(31)がはにかんだ。

 この集落には今も電気は通っていない。一家に明かりをともすのはケニアのベンチャー、エムコパソーラーの太陽光で発電する装置。持ち運びできる大きさで2つの電灯と携帯電話の充電ケーブル、簡易ラジオがつく。

エムコパは2012年9月から収入が1日2ドル(約230円)未満の低所得者に装置の販売を始めた。今ではタンザニアなどでも展開、利用者は30万人を数える。

装置自体は珍しくない。中国製に比べても割高だ。それでも売れるのは銀行がお金を貸さない低所得者に割賦販売モデルを持ち込んだから。現地で普及する携帯電話の送金サービスを使い3500シリング(約4千円)の頭金と1日50シリングの使用料を1年間払い続けてもらう。

完済した顧客なら「一定の支払い能力がある」と判断して自転車など次の商品を売り込む。創業者の一人、ジェシー・ムーア(37)は「発電装置は我々のビジネスのきっかけにすぎない」と事業拡大に意欲を燃やす。

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記事に出てくる数字を基に円換算で計算すると、エムコパが顧客にしているのは年収8万4000円未満の人たちだ(1日の収入×365日で年収を計算)。太陽光発電装置で電気のある暮らしを手に入れるためには、頭金も含めて年間2万5000円前後が必要になる。年収8万4000円の人でも年収の3割が飛んでいく。収入がさらに下の層では半分を超える場合も十分にあり得る。これで「救っている」のか。

それでも1年我慢すれば発電装置が自分の物になるのならいいが、どうも怪しい。「1日50シリング」はあくまで「使用料」だ。常識的に考えれば、使用料とは別に発電装置の代金を分割で支払っていくのだろう。そして2年目以降も使用料は払い続ける--。もしそうならば、かなり危険な香りが漂ってくる。

見出しにも問題を感じた。今回の記事には「収入2ドル層に三輪タクシー売る」という見出しが付いている。ただ、それが確認できる記述は見当たらない。2番目の事例を見てみよう。

【日経の記事】

世界銀行によると1日の生活費が1.9ドルに満たない貧困人口は12年時点で約9億人。これまでも米プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)など世界企業が格安な製品やサービスで貧困層に挑んできた。その舞台に人材や資金力に限りがあるベンチャーや中小企業が立つ。

フィリピン首都マニラ近郊のビジネス街マカティ。グローバルモビリティサービス(GMS、東京・中央)は昨秋、バイクにサイドカーをつけた三輪タクシーの割賦販売を始めた。車両に遠隔制御装置を取り付け、支払いが滞ればエンジンを強制停止して車両を回収する。「これで銀行からお金を借りられない人たちにもお金が回る」。社長の中島徳至(49)は5千台の導入を狙う。

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1日の生活費が1.9ドルに満たない」と「収入2ドル」はかなり違うが、そこは問わないでおこう。ただ、グローバルモビリティサービスは「収入2ドル層」に限定して三輪タクシーを売っているのではなさそうだ。「収入2ドル層に三輪タクシー売る」と見出しに取るならば、「割賦販売の対象は1日の収入が2ドル未満の人」とか「フィリピンでは1日の収入が2ドルを切るとローンで車が買えない」とか「三輪タクシーをGMSから購入した人の9割は1日の収入が2ドル未満」といった話が欲しい。

最後の事例も疑問が残った。

【日経の記事】

14年8月、エチオピアの首都アディスアベバ近郊で工場を稼働した革製品のヒロキ(横浜市)。同国でしか採れない高級素材の羊革「エチオピアシープ」を日本向けの30万円のコートや10万円のバックに縫い上げる。

エチオピアシープは世界一丈夫といわれ、裁断や縫製が難しい。その技を日本人職人が約20人の現地従業員に丁寧に伝えた。新たな作り手が戦力となり革衣料の増収率は3割弱に。技能を身につけた従業員の賃金は現地平均の約6倍に増えた

社長の権田浩幸(48)は言う。「ビジネスとしてやるべきことをやる。それが結果的に彼らの生活を良くする」

急がず、気負わず。そんな企業家の気構えが貧困から人々を救う原動力になる。

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記事を読む限りでは、途上国に進出した企業が現地で高めの給料を出して人を雇っているだけの話だ。わざわざ「新産業創世記」で取り上げる必要があるのか。こういう事例が出てくると「ビジネスが貧困救う」に当てはまる話が見つからなくて苦労したのだなと思ってしまう。

ついでに言うと、「技能を身につけた従業員の賃金は現地平均の約6倍に増えた」という説明は感心しない。「現地平均の6倍」が事実でも、「現地平均の約6倍に増えた」と表現すると誤解を招く。「現地平均の約6倍に達する」とでも書くべきだろう。事業を始めた2014年に比べても賃金が「6倍」ならば、それを明示すべきだ。技能を身に付けた段階で一気に賃金が増える仕組みなのかもしれないが、記事からはどう賃金が「増えた」のか読み取れない。


※記事の評価はD(問題あり)。

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