2019年11月2日土曜日

日経 五十嵐沙織記者が書いた「ETF 長期投資の活用法」への注文

2日の日本経済新聞朝刊マネー&インベストメント面に載った「ETF 長期投資の活用法~低コスト 少額で国際分散」という記事は悪い出来ではないが、気になる点もあった。
福岡市立福岡女子高校 ※写真と本文は無関係

まず以下のくだりだ。

【日経の記事】

都内に住む60代のSさんは日本株と金に投資するETFを保有している。「個別株も持っているが、常に業績や株価をウオッチする必要がある。その点、ETFは指数連動なので放ったらかしにできるのが魅力」と話す。



◎ほぼ変わらないような…

個別株」は「常に業績や株価をウオッチする必要がある」が「ETFは指数連動なので放ったらかしにできる」と「都内に住む60代のSさん」は考えているらしい。そんなに違うものかなとは思う。

投資に対するスタンス次第だが、「個別株」を「放ったらかし」にする手もある。「ETF」に関しても、最適な売り時を見極めようとするならば、企業業績など経済状況に目配りした上で、「指数」の動向も「ウオッチ」すべきだ。

個別株」だと「放ったらかし」にはできないが「ETF」ならば可能と取れるコメントを記事に盛り込むと、読者に誤解を与える恐れがある。

次に気になったのが以下の説明だ。

【日経の記事】

株価指数など指数に連動するよう運用するため、比較的低コストなのも特徴だ。ETFも投資信託と同様、保有している間は信託報酬などの保有コストがかかる。東京証券取引所によると、ETFの信託報酬は平均0.06~0.95%と、公募投信の0.1~1.65%より低い



◎「平均」にしては幅が…

ETFの信託報酬は平均0.06~0.95%と、公募投信の0.1~1.65%より低い」という説明が引っかかる。「平均」にしては幅が広すぎる。「東京証券取引所」がそう言っているのかもしれないが、なぜ幅があるのか謎だ。

ついでに言うと「ETFも投資信託と同様」と書くと「ETF」は「投資信託」ではないとの誤解を与えてしまう。「ETFは指数連動型の投資信託の一種」と記事でも書いているのだから、それを前提に丁寧な説明をしてほしい。

最後にもう1つ注文を付けたい。

【日経の記事】

また、ETFの積み立て購入ができる証券会社は少ないため、投信のように積み立てていきたいなら、手動で購入するしかない


◎本当に「手動で購入するしかない」?

上記の説明は矛盾している。「投信のように積み立てていきたい」場合、「ETFの積み立て購入ができる証券会社」に口座を作る手がある。「積み立て購入」に対応してくれる「証券会社は少ない」としても、ゼロではないのだから「手動で購入するしかない」とは言えない。

付け加えると、ここでも「ETF」は「投信」ではないと取れる書き方になっている。筆者の五十嵐沙織記者には、そうした細かい点まで配慮できる書き手に育ってほしい。


※今回取り上げた記事「ETF 長期投資の活用法~低コスト 少額で国際分散
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20191102&ng=DGKKZO51686640R01C19A1PPD000


※記事の評価はC(平均的)。五十嵐沙織記者への評価も暫定でCとする。

2019年11月1日金曜日

短い記事ながら問題山積みの日経「日鉄など、鋼板に大型投資」

1日の日本経済新聞朝刊 企業1面に載った「日鉄など、鋼板に大型投資 EV向けの需要増に対応」という記事は酷い出来だった。この完成度で世に送り出せるのが悪い意味で凄い。短い記事の中に問題点がぎっりし詰まっている。
のこのしまアイランドパークのコスモス
       ※写真と本文は無関係です

記事の全文は以下の通り。

【日経の記事】

鉄鋼大手各社が電気自動車(EV)などに使う高機能鋼板で大型投資に踏み切る。日本製鉄は広畑製鉄所(兵庫県姫路市)に数百億円を投じて生産設備を増強するJFEスチールも国内で設備増強の検討に入った。環境規制の高まりでEVなどの高性能化に役立つ鋼板の需要が増えている。米中対立の長期化で収益が悪化する中、成長分野に投資を絞り込む。

両社が増産するのは「電磁鋼板」と呼ぶ製品。変圧器やモーターなどの中心部に使う磁性のある鋼板だ。

◇   ◇   ◇

問題点を列挙してみる。

◆問題その1~まとめ物になってる?

この記事はいわゆる「まとめ物」だ。「鉄鋼大手各社が電気自動車(EV)などに使う高機能鋼板で大型投資に踏み切る」と打ち出しているので「鉄鋼大手各社」に共通する動向を伝えているはずだ。

しかし出てくるのは「日本製鉄」と「JFEスチール」のみ。「鉄鋼大手」と言っても残りは神戸製鋼所ぐらいしかないのは分かるが、2社でまとめるのは苦しい。

しかも「JFEスチール」は「国内で設備増強の検討に入った」だけ。結局、「大型投資に踏み切る」と言えるのは「日本製鉄」しかない。これなら「日本製鉄」の1社物にした方がいい。


◆問題その2~いつ「大型投資に踏み切る」?

繰り返し指摘してきたように、日経の企業ニュース記事は「when」が抜けがちだ。今回の記事も「数百億円を投じて生産設備を増強する」のがいつになるのか触れていない。


◆問題その3~具体的な数字が…

まず「数百億円」が引っかかる。記事の肝とも言える数字なので、幅を持たせてもいいからもっと明確に書きたい。例えば「200億~500億円」といった見せ方はできなかったのか。

生産設備を増強する」と書いているのに、どの程度の「増強」なのか分からないのも辛い。いくら聞いても日鉄が教えてくれなかったのかもしれない。その場合、自分が記者だったら記事にするのは諦める。


◆問題その4~「大型投資」と言える?

日経の別の記事によると、日鉄の2018年度の設備投資は「約4400億円」。日鉄にとって「数百億円」規模の設備増強を「大型投資」と呼んでよいのか微妙だ。中身の薄い記事を盛り上げるために「大型投資」と書いたのだろう。「数百億円」規模の投資額だと「成長分野に投資を絞り込む」と言えるかどうかも怪しい。


◆問題その5~「両社が増産する」?

既に述べたように「JFEスチール」は「国内で設備増強の検討に入った」だけだ。「増産する」かどうかは決まっていない。なのに「両社が増産する」と言い切っていいのか。

今回の記事をそのまま紙面化したデスクが日経社内にいると考えると怖い。「いくらなんでもこのレベルで読者に届けるのはまずいだろう」と思ってほしいところだが…。



※今回取り上げた記事「日鉄など、鋼板に大型投資 EV向けの需要増に対応
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20191101&ng=DGKKZO51634610R31C19A0TJ1000


※記事の評価はE(大いに問題あり)

2019年10月31日木曜日

「キャリアの終わりを意識する人」を誤解? 日経「働き方進化論」

キャリアの終わりを意識する人」とは「キャリアアップを意識」しない人と言えるだろうか。個人的には違うと思う。しかし31日の日本経済新聞朝刊1面に載った「働き方進化論 第4部~やる気の未来(2)社会人半ば、舞台新たに」という記事では、この2つを同一視している。
のこのしまアイランドパークのコスモス
        ※写真と本文は無関係です

まず「出世志向、40代転機」という見出しが付いた関連記事では以下のようにデータを紹介している。

【日経の記事】

パーソル総合研究所(東京・港)によると、42.5歳で出世したいと思わない人が思う人を上回り、45.5歳でキャリアの終わりを意識する人が意識しない人を抜く。

◇   ◇   ◇

本文には、このデータを根拠にしたと見られる以下の記述がある。

【日経の記事】

経済の変化が速くなると同時に社会人生活は長くなっていく。政府は企業に対し、25年度に65歳までの雇用を完全に義務化する。さらには70歳まで働けるようにする努力も義務付ける方針だが、働き手の意欲はそのかなり手前で転機を迎える。出世やキャリアアップを意識しながら働く人は40歳代で少数派になる



◎「少数派になる」?

キャリアの終わりを意識」している人は、その時点で既に「キャリアアップを意識」していないとの前提をこの記事には感じる。しかし別物ではないか。

例えば、30代後半になってメジャーリーグに挑戦する日本人投手がいるとしよう。野球選手としての「キャリアの終わりを意識」して当然の年齢になっている。しかし、この投手がメジャー入りやワールドシリーズ優勝を目指しているとすれば「キャリアアップを意識」してもいる。

キャリアの終わりを意識」しているからと言って「キャリアアップを意識しながら働く人」ではなくなったとは言えない。

会社勤めでも同じだ。「このままだと課長止まりか、頑張っても部長まで。取締役にはなれそうもないな。俺のキャリアも結局はそんなところか」と「キャリアの終わりを意識」している人がいたとしても、「部長になりたい」との意欲はある。つまり「キャリアアップを意識」している。

ついでに言うと「働き手の意欲」と「出世やキャリアアップ」を結び付ける書き方も引っかかった。無関係とは言わないが「働き手の意欲」に影響を与える要素の1つに過ぎない。

例えば、パートで働いている主婦の中には「出世やキャリアアップ」に関心がない人も少なからずいるだろう。だからと言って彼女らの「働き手」としての「意欲」が低いとは限らない。

出世やキャリアアップ」に関して「40歳代」で「転機を迎える」としても、「働き手の意欲」も同じように「転機を迎える」と判断するのは早計だ。



※今回取り上げた記事「「働き方進化論 第4部~やる気の未来(2)社会人半ば、舞台新たに」」
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20191031&ng=DGKKZO51594870Q9A031C1MM8000


※記事の評価はD(問題あり)

2019年10月30日水曜日

事業売却を求めても「物言う株主ではない」と書く日経の矛盾

30日の日本経済新聞朝刊 投資情報面に載った「キリンの多角化に異議~英運用会社が書簡 『ビールとの相乗効果なし』」という記事を読むと「物言う株主」とは何か分からなくなってくる。
瑞鳳殿の杉並木(仙台市)※写真と本文は無関係

記事の全文は以下の通り。


【日経の記事】

英投資運用会社のフランチャイズ・パートナーズ(FP)が、キリンホールディングス(HD)の進めるバイオや医薬品など多角化をやめて、中核事業のビールに専念するよう求める書簡を同社に送ったことが29日までに分かった。事業を巡る両社の議論が活発になりそうだ。

FPは2014年9月からキリンHDに出資。現在は発行済み株式の2%強を保有しているとみられる。キリンHDは2月にバイオ関連事業を手掛ける協和発酵バイオを子会社にすると発表。8月には化粧品や健康食品製造のファンケルと資本業務提携を結ぶなど非ビール事業強化を進める。

関係者によると、FPは当初、低迷していたブラジルのビール事業の売却などを支持していたようだ。だがバイオや医薬品などの強化を進めると反発に傾いた。「ビール事業と相乗効果はなく、ほかの事業への投資は非効率」とみているようだ。キリンHDの株価は2200円台で、18年4月に付けた高値(3199円)を3割程度下回る。

FPはビール事業以外の医薬・バイオ事業や国内飲料事業の売却なども求めている。ほかの株主とも問題意識を共有し、会社との対話を進めていく方針だという。

FPの運用資産は現在約1兆7000億円。投資先に積極的に経営改善を働きかける「物言う株主」ではなく、長期保有を前提としている。収益性が高く知的財産や特許などが資産の中心の世界企業20~30社に投資し、日本企業では任天堂や日本たばこ産業(JT)も保有する。キリンHDは「投資家との個別のやりとりについてコメントはできない」としている。


◎かなり「積極的」では?

投資先に積極的に経営改善を働きかける」株主が「物言う株主」だと筆者は認識しているようだ。異論はない。なのに「キリンホールディングス(HD)の進めるバイオや医薬品など多角化をやめて、中核事業のビールに専念するよう求める書簡を同社に送った」ことが判明した「英投資運用会社のフランチャイズ・パートナーズ(FP)」について「『物言う株主』ではなく~」と書いている。

普通に考えれば矛盾している。どう理解すればいいのだろうか。

まず考えたのが「FP」は「経営改善を働きかけ」てはいるが「積極的」ではないという可能性だ。しかし「バイオや医薬品などの強化を進めると反発に傾いた」「ほかの株主とも問題意識を共有し、会社との対話を進めていく方針」といった説明から判断すると、かなり「積極的」だ。「積極的」かどうかに明確な基準はないので「自分には消極的に見える」との弁明は不可能ではないが、かなり苦しい。

『物言う株主』ではなく、長期保有を前提としている」と書いているので「長期保有を前提」としていれば「物言う株主」ではないとの見方なのかもしれない。しかし「物言う株主」とは一般的に言っても「上場企業の経営に自らの考えを表明して積極的に関わる株主」(デジタル大辞泉)を指すので「長期保有」だから「物言う株主」ではないと見なすのは無理がある。

FP」自身が自分たちは「物言う株主」ではないと言っているのかもしれない。だが、記事を書く上でそこに縛られる必要はない。一般的な基準で「物言う株主」だと認識できるのならば「物言う株主」だ。

FP」は「キリンHD」に働きかけるまで「物言わぬ株主」だったのかもしれない。しかし、今回「積極的に経営改善を働きかけ」たのならば「物言う株主」に生まれ変わったはずだ。

色々と検討してみたが、「中核事業のビールに専念するよう求める書簡」を送ったことが事実ならば、やはり「FP」は「物言う株主」にしか見えない。


※今回取り上げた記事「キリンの多角化に異議~英運用会社が書簡 『ビールとの相乗効果なし』
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20191030&ng=DGKKZO51543440Z21C19A0DTA000


※記事の評価はD(問題あり)

2019年10月29日火曜日

日経記者に読んでほしい藤田勉・一橋大学特任教授の「親子上場肯定論」

企業経営や株式市場を取材する日本経済新聞の記者に読んでほしい記事が、週刊エコノミスト11月5日号に載っていた。「親子上場は会社の成長を促す 事業創造の支援に期待」というその記事では、一橋大学特任教授の藤田勉氏が「親子上場肯定論」を展開している。親子上場に否定的な記事が目立つ日経の論調を変えろとは言わない。ただ、藤田氏の「親子上場肯定論」に対して有効な反論ができるかどうかは、よく考えてほしい。
由布岳(大分県由布市)※写真と本文は無関係です

記事の一部を見ていこう。

【エコノミストの記事】

ZOZOがZホールディングス(旧ヤフー、以下、ZHD)に買収されることになった。これによって、ソフトバンクグループ(SBG)→ソフトバンク→ZHD→ZOZOと親子上場のチェーンが出来上がった。日本では、トヨタ自動車、NTT、SBG、ソニーなど時価総額上位企業の多くが親子上場しており、2019年9月末で東証上場企業のうち親会社を有する会社は367社、さらに上場親会社は305社ある。

何かと批判の多い親子上場だが、筆者は日本ではベンチャー企業が成長しにくいため、親子上場のインキュベーション(事業創業支援)機能を積極的に評価している。親子上場批判論は数多いので、以下、親子上場肯定論を中心に議論を進める。

日本ほど活発でないが、親子上場は大陸欧州や南米を中心に海外でも広く存在する。海外の証券取引所で、親子上場を禁止している例はない。


◎日経の社説との食い違い

日経は8月4日付の「看過できなくなってきた親子上場の弊害」という社説で「企業も日本特有の親子上場の数を減らす努力をすべきだ」と訴えた上で「欧米では親子上場は極めてまれだ。非中核事業の切り離しで親子上場になっても、数年後に完全売却し解消するのが一般的だ」と説明している。

日本ほど活発でないが、親子上場は大陸欧州や南米を中心に海外でも広く存在する」という藤田氏の解説とは整合しない。日経を信じれば「大陸欧州」でも「親子上場は極めてまれ」なはずだ。どちらが正しいのか判断できるデータは持ち合わせていないが、藤田氏の説明が正しいのならば、日経にとっては「親子上場」を否定する材料の1つが間違っていたことになる。

親子上場のデメリット」に関する藤田氏の見解を見ていこう。


【エコノミストの記事】

一方、親子上場のデメリットとして、(1)子会社が親会社にとって不要な人材の受け皿になる、(2)親会社の意向で不利な条件の商取引を子会社が強いられる、(3)少数株主を軽視した経営判断や資本取引が行われる、などが考えられる。親子上場はガバナンス上問題があるので、中には「禁止すべき」との声がある。

日本のコーポレートガバナンスの議論として、「社外取締役を増やすとガバナンスが良くなる」という見方がある。しかし、日本郵政や関西電力の例を見ても、立派な社外取締役が複数いるからといってガバナンスが良くなるとは限らない。

要は、社外取締役が効果を発揮する場合もあるし、効果を発揮しない場合もある、ということである。

親子上場も同様であり、良い親子上場と悪い親子上場がある。例えば、トヨタは、親子上場、株式持ち合いを駆使しているが、時価総額、利益とも日本最大であり、特段、ガバナンス上の問題があるようには見えない。

つまり、個々の企業次第なのである。基本的に、情報開示が十分であれば投資は自己責任である。親子上場が好ましくないと考える投資家はそれらの企業に投資しないという選択肢がある

結論として、規制を最小にして、市場原理で不適切な親子上場を淘汰(とうた)し、好ましい親子上場が続々と誕生するような制度設計が必要である。

また、親子上場の適切性を見抜くことこそ、プロの投資家に期待されることである。


◎「おっしゃる通り」と思えるが…

藤田氏の主張に基本的には賛成だ。藤田氏のように「親子上場」を前向きには評価しないが、「情報開示が十分であれば」これと言って問題は感じない。

以前から訴えていることだが、「親子上場」に「ガバナンス上の問題」があれば、それは株価のディスカウントという形で反映されるはずだ。それを過小評価だと判断する投資家がいれば買いが入る。

藤田氏が言うように「親子上場が好ましくないと考える投資家はそれらの企業に投資しないという選択肢がある」。「情報開示」をしっかりさせて、後は投資家の判断に任せれば済む。

日経の記者(論説委員を含む)が「親子上場」否定論を展開する時は「なぜ投資家の判断に任せてはダメなのか」への答えを出してほしい。


※今回取り上げた記事「親子上場は会社の成長を促す 事業創造の支援に期待
https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20191105/se1/00m/020/010000c


※記事の評価はB(優れている)。藤田勉氏への評価も暫定でBとする。「親子上場」に関しては以下の投稿も参照してほしい。

親子上場ってそんなに問題? 日経「株式公開 緩むルール」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/03/blog-post_19.html

KNTの「親子上場」を批判するFACTAに異議あり
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/kntfacta.html

「親子上場」否定論に説得力欠く日経「大機小機」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_77.html

ヤフーとアスクルの件で「親子上場の問題点浮き彫り」という日経に異議
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/07/blog-post_24.html

ヤフー・アスクルの件を「親子上場」の問題と捉える日経の無理筋
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/blog-post.html

「弊害」多いのに「親子上場の禁止」は求めない日経社説の謎
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/blog-post_5.html

2019年10月28日月曜日

「羽田-伊丹便の人気が根強い理由」が苦しい東洋経済の橋村季真記者

週刊東洋経済11月2日号の特集「新幹線VS.エアライン」の中の「好立地なだけでなく豪華ラウンジも魅力に~羽田─伊丹便の人気が根強い理由」という記事は説得力に欠ける。「羽田─伊丹便の人気が根強い理由」について橋村季真記者は以下のように分析している。
成田空港のジェットスター機 ※写真と本文は無関係です


【東洋経済の記事】

阪急沿線に住んでいる人や、大きな荷物がある人は飛行機を選びますね」。伊丹での勤務経験がある航空関係者は、羽田─伊丹便の根強い人気の理由をこう説明する。

伊丹空港には大阪モノレールが乗り入れ、1駅隣の蛍池駅で阪急宝塚線と乗り換えができる。阪急は梅田や神戸・宝塚方面、モノレールは「転勤族」が多い北摂エリアへそれぞれつながる。出発地や目的地がこれら沿線の場合は飛行機の利用が便利だというのだ。

空港リムジンバスの路線が充実しているのも利点の1つ。JR大阪駅や難波、神戸の三宮など京阪神エリアの各地を発着する。関空や和歌山方面への玄関口であるJR天王寺駅からも、阪神高速経由で伊丹まで約30分。梅田からの所要時間と大差はない。

◇   ◇   ◇

気になった点を列挙してみる。

◎「羽田」の事情は関係ない?

伊丹」側の事情しか考慮していないのが、まず気になる。「羽田」側の事情は関係ないのか。ないならば、その理由に触れてほしかった。


◎「阪急」へのアクセスなら…

阪急」へのアクセスなら新幹線も負けていないと言うか、むしろ上回っていると感じる。新大阪から1駅で「JR大阪駅」(阪急の路線の中核である阪急梅田駅への乗換駅)だ。「1駅隣の蛍池駅で阪急宝塚線と乗り換えができる」という「伊丹空港」よりも新大阪の方が「阪急沿線」全体へのアクセスは良いと思える。

新大阪は地下鉄で1駅行けば南方駅でも阪急京都線に「乗り換えができる」。地下鉄を北に行くと、そのまま北大阪急行線に入り「北摂エリア」へとつながる。

阪急沿線に住んでいる人」全体で見て、新大阪駅より「伊丹空港」の方がアクセスが良いとは言い難い気がする。また「神戸・宝塚方面」のうち「神戸」に近い地域では、新神戸から新幹線に乗る方が「羽田─伊丹便」よりも東京方面へ向かう方法として一般的だろう。


◎やはり新幹線が有利では?

空港リムジンバスの路線が充実している」から新幹線よりも「羽田─伊丹便」を使うという利用者も限定的だと思える。「JR大阪駅や難波」からならば、鉄道で新大阪駅に向かう方が早い。「神戸」ならば前述のように新神戸から新幹線となりそうだ。

JR天王寺駅からも、阪神高速経由で伊丹まで約30分。梅田からの所要時間と大差はない」と橋村記者は言うが、問題は新大阪までの「所要時間」との比較だ。天王寺・新大阪間は電車で約20分。最終目的地が東京都心の場合、新幹線の方が目的地に早く着けそうだ。

※今回取り上げた記事「好立地なだけでなく豪華ラウンジも魅力に 羽田─伊丹便の人気が根強い理由
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/21948


※記事の評価はD(問題あり)。橋村季真記者への評価はDで確定とする。橋村記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「快適性向上への努力」調査方法に難あり 東洋経済「最強の通勤電車」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/02/blog-post_12.html

2019年10月27日日曜日

自衛隊の人手不足に関する分析が雑な日経 大石格編集委員

日本経済新聞の大石格編集委員の分析は基本的に雑だ。27日の朝刊総合3面に載った「風見鶏~『90万人割れ』時代の自衛隊」という記事でもその傾向に変化はない。
長崎港(長崎市)※写真と本文は無関係です

記事を見ながら問題点を指摘したい。

【日経の記事】

ふつうの公務員が楽をしているとはいわないが、自衛隊や警察、消防などが命懸けの任務に従事していることは論をまたない。

こうした厳しい仕事の担い手をどうやって確保するのか。少子高齢化の日本にとって、これは容易ならざる難題である。自衛隊員の実数は定員の9割だが、昔の兵隊に相当する「士」は7割しかいない。

折しも、2019年の出生数が90万人を割り込みそうだ、との報道が反響を呼んでいる。同年齢の100人にひとりが志願しても、20~30歳代の合計が18万人に満たなくなる日が遠からず来る。自衛隊の総定数は約25万人である。

企業などが人手不足に対処する方策は4つあるとされる。外国人、高齢者、女性、省力化である。コンビニに行くと、店員が着けている名札はカタカナの方が多いくらいだ。

米軍には外国人もいる。イラク戦争に従軍した米兵の18%は米国籍を持っていなかったそうだ。それに倣い、自衛隊も中国人を採用してはどうか……という日本人はいないだろう


◎そんな「日本人」いますけど…

自衛隊」が「中国人を採用」することに個人的には反対ではない。つまり「自衛隊も中国人を採用してはどうか……という日本人」はいる。

そもそもなぜ「中国人」限定で話を進めるのか。「米軍」の「外国人」が全て「中国人」とは考えにくい。「米軍」に倣うのならば、「米軍」と同じような運用方針で日本でもやれるかどうかを検討すべきだ。

百歩譲って「中国人を採用」するのが問題だとしても、それ以外の「外国人」もダメだとの根拠にはならない。「外国人」に頼れないとの大石編集委員の分析には、まともな理由が見当たらない。

記事の続きを見ていく。

【日経の記事】

自衛隊員の定年は階級ごとに違うが、早い人は53歳だ(22年以降は54歳)。これを高年齢者雇用安定法が企業に雇用を義務付ける65歳まで延ばせば、とりあえずの頭数はそろう

とはいえ、陸上自衛隊でいちばん人数が多い世代は実は50歳代だ。そのまま上にスライドするとどうなるか。隊員にグルコサミンを支給しなければならなくなるかもしれない



◎「65歳」以外の選択肢は?

ここでも、まともな分析はしていない。「65歳まで延ばせば、とりあえずの頭数はそろう」とは書いているが、この問題を考える上では2つの要素が必要だ。「自衛隊員」としての役割を果たす上で年齢的な限界は何歳辺りなのか。そして、限界まで「定年」を引き上げた時に「頭数」がどうなるかだ。

こうした分析をしないまま「隊員にグルコサミンを支給しなければならなくなるかもしれない」などと書いて、「定年」延長でも問題は解決しないとの結論を導く。これでは説得力がない。

女性」に関しても無理のある分析が続く。

【日経の記事】

女性はどうだろうか。隊員に占める比率は18年度末の時点で7%。政府は27年度までに9%に引き上げる方針だ。配置先の制限はほぼなくなり、間もなく潜水艦への乗務も始まる。

頼もしい限りだが、さらなる伸び代に期待しすぎない方がよい。女性が16%いる米軍も、実戦部隊の海兵隊だと9%どまりだ



◎「16%」に増やせるのなら…

今が「7%」で「米軍」並みに増やせば「16%」と2倍以上になる。それでどの程度の問題解決につながるのかを大石編集委員は教えてくれない。「米軍も、実戦部隊の海兵隊だと9%どまり」とのデータを根拠に「女性」にも頼れないという方向に導いていく。

そもそも「米軍」も「16%」が上限とは限らない。「米軍」がいずれは20%、30%と比率を高めていくかもしれない。仮に「米軍」は「16%」が限界だとしても、日本の限界が「米軍」と同じとは限らない。ここでも大石編集委員の分析は説得力に欠ける。

最後の「省力化」はさらに酷い。

【日経の記事】

省力化は、ドローンを活用した無人攻撃などが考えられるが、日本の研究は出遅れている



◎執筆が面倒になった?

記事を書くのが面倒になったのだろうか。「省力化」に関しては「ドローンを活用した無人攻撃などが考えられるが、日本の研究は出遅れている」で済ませている。

日本の研究は出遅れている」としても、これから挽回する可能性もある。それが無理ならば、外国から技術を導入する手もある。「省力化」は不可能と考える方が非現実的だ。どの程度の対応ができるのか予測は難しいだろう。だからと言って「日本の研究は出遅れている」で片づけてしまうのは強引すぎる。

そしてこの後、「となると、やはり若者をリクルートするしかないのか」とご都合主義的に結論を出してしまう。個人的には「外国人、高齢者(定年延長)、女性、省力化」のいずれもが「人手不足」への対応に有効だと感じる。

さらに言えば「自衛隊の総定数は約25万人」だからと言って、これを前提に人員確保の問題を考えるべきとも思えない。

外務省によると、日本よりもはるかに広い国土を持つオーストラリアは現役兵力が5万9800人(2019年2月時点)しかいない。国土面積が日本に近いニュージーランドに至っては1万人に満たない。

「北朝鮮問題などを抱える日本と事情が違う」という反論は成り立つが、だからと言って「25万人」を確保しないと防衛は無理とは言い切れない。自衛隊の人員確保の問題を考えるならば「そもそも自衛隊の適正人員はどの程度なのか」から検討したい。

それを大石編集委員に求めるのは高望みが過ぎるとは思うが…。


※今回取り上げた記事「風見鶏~『90万人割れ』時代の自衛隊
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20191027&ng=DGKKZO51453940W9A021C1EA3000


※記事の評価はD(問題あり)。大石格編集委員への評価もDを維持する。大石編集委員については以下の投稿も参照してほしい。

日経 大石格編集委員は東アジア情勢が分かってる?
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_12.html

ミサイル数発で「おしまい」と日経 大石格編集委員は言うが…
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/12/blog-post_86.html

日経 大石格編集委員は「パンドラの箱」を誤解?(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_15.html

日経 大石格編集委員は「パンドラの箱」を誤解?(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_16.html

日経 大石格編集委員は「パンドラの箱」を誤解?(3)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_89.html

どこに「オバマの中国観」?日経 大石格編集委員「風見鶏」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/08/blog-post_22.html

「日米同盟が大事」の根拠を示せず 日経 大石格編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/11/blog-post_41.html

大石格編集委員の限界感じる日経「対決型政治に限界」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/07/blog-post_70.html

「リベラルとは何か」をまともに論じない日経 大石格編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/10/blog-post_30.html

具体策なしに「現実主義」を求める日経 大石格編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/12/blog-post_4.html

自慢話の前に日経 大石格編集委員が「風見鶏」で書くべきこと
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/04/blog-post_40.html

米国出張はほぼ物見遊山? 日経 大石格編集委員「検証・中間選挙」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/blog-post_18.html