2021年10月7日木曜日

「田舎暮らしより地方都市」と野尻哲史フィンウェル研究所代表が日経に書いているが…

6日の日本経済新聞夕刊マーケット・投資面にフィンウェル研究所代表の野尻哲史氏が書いた「十字路~地方移住 超高齢社会での効用」という記事はツッコミどころが多い。中身を見ながら具体的に指摘したい。

耳納連山と自転車と夕陽

【日経の記事】

新型コロナウイルス禍のテレワークで現役層の地方移住が注目されているが、主役は高齢者だ。東京23区はそれ以外の都道府県との人口移動で「60歳未満は純流入、60歳以上は純流出」が長く続いている。2020年、60歳以上の23区からの転出は2.8万人強、転入1.5万人弱、差し引き1.4万人弱で純転出だ。18年もそれぞれ2.8万人弱、1.7万人弱で、1.1万人強の純転出。コロナ禍の影響は大きくない。

高齢者の地方移住は生活コスト引き下げが主眼だが、生活水準を下げずにコストだけ下げるには田舎暮らしより地方都市が望ましい。東京23区と都道府県庁所在地を比べると消費者物価で4~5%低く、家賃指数で50%以上低い都市がほとんど。移住者は生活費減を評価し、それを余暇に回し生活を楽しんでいる。


◎「地方都市」は「田舎」じゃない?

まず「田舎」と「地方都市」の範囲がよく分からない。「地方都市道府県庁所在地」と筆者は言いたいのかもしれないが、それだと浜松市や北九州市が「地方都市」から外れてしまうので無理がある。

「地方都市=三大都市圏以外の県庁所在地」といった可能性も考えたが、記事の内容からそう解釈するのは困難だ。

田舎暮らしより地方都市が望ましい」という記述からは「地方都市は田舎ではない」との前提を感じるが、これも怪しい。平成の大合併の影響もあって県庁所在地でも山間部にかかっているところも珍しくない。「地方都市」に住んでも「田舎暮らし」となる可能性は十分にある。

さらに言えば「生活水準を下げずにコストだけ下げるには田舎暮らしより地方都市が望ましい」との説明も納得できない。「田舎暮らし」でも大きな家に住んだり高いクルマに乗ったり高級料理を楽しんだりといったことはできる。「田舎暮らし」だと必然的に「生活水準」が下がると見ているようだが、何か根拠があるのか。

続きを見ていく。

【日経の記事】

地方都市移住には個人目線のメリットだけでなく、超高齢社会特有の課題解決にも効果がある。国税庁によると年間相続市場は16兆円前後。非課税枠を考慮すれば実際の相続市場はその数倍と推計されるが、長寿で老々相続なら、それは「老後のための資産」として代々「死蔵」されかねない。贈与促進の背景はそこにあるが、相続でも贈与でも解決できないのが地方に住む高齢者のお金が相続・贈与を経て都会に流れ出すことだ。


◎「相続市場」?

年間で「16兆円前後」の遺産相続があるとして、それを「年間相続市場は16兆円前後」と言っていいのか。「16兆円前後」の売買があるなら「市場」と呼ぶのも分かるが、相続は遺産の売買ではない。

さらに見ていく。


【日経の記事】

退職金と相続資産を持つ60代が地方都市に移住すれば、資金を逆流できる。今後50年で高齢化率は現在の3割弱から4割弱に上昇し「高齢層は横ばい、現役層は3千万人以上減少」が予想される。高齢者が内需を支えるチカラにならざるを得ない中、高齢者の地方都市移住は地方経済にとって意義がある。相続資産の1割でも消費に漏れ出せば、国内総生産(GDP)1%ほどの押し上げ効果になる。地方都市移住をマクロ目線でも考える時期ではないか


◎で、どうする?

相続資産の1割でも消費に漏れ出せば、国内総生産(GDP)1%ほどの押し上げ効果になる」と言うが、それは日本全体の話で「地方都市移住」と直接の関係はない。

仮に「高齢者の地方都市移住は地方経済にとって意義がある」としても、どうやって「地方都市移住」を増やしていくのか。「地方都市移住をマクロ目線でも考える時期ではないか」と言うだけで、具体策は見当たらない。

地方都市移住をマクロ目線でも考え」た結果、どういう方策を取るべきだと野尻氏は結論付けたのか。そこが知りたかった。


※今回取り上げた記事「十字路~地方移住 超高齢社会での効用」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20211006&ng=DGKKZO76378070W1A001C2ENI000


※記事の評価はD(問題あり)

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