2021年10月30日土曜日

「原油高」が理由と言われても…日経「吉野家、牛丼7年ぶり値上げ」に足りないもの

発表物を記事にするのは、それほど難しくない。記事として必要な材料はニュースリリースの中にかなり盛り込まれている。だからと言って全てが揃っている訳ではない。そこに注意が要る。30日の日本経済新聞朝刊ビジネス面に載った「吉野家、牛丼7年ぶり値上げ 並426円に~肉・油高騰、モー限界」という記事を題材に、この問題を考えてみたい。

夕暮れ時の筑後川

記事の全文は以下の通り。

【日経の記事】

牛丼チェーンの吉野家は29日、主力商品の「牛丼」を値上げしたと発表した。店内で提供する並盛で39円引き上げて426円になった。並盛の値上げは2014年以来、7年ぶり。輸入牛肉や原油の価格の高騰を受け、値上げに踏み切った。円安の進行も背景に輸入肉や油の価格が高値で推移しており、外食全体で価格を見直す動きが広がる可能性がある。

同日午後3時から値上げを実施した。主力の牛丼(並盛)の税抜きの本体価格は36円値上げし、388円とした。軽減税率の影響で店内飲食の場合は426円、持ち帰りの場合は419円への改定となる。

牛丼の並盛価格の値上げは、14年12月に税抜き278円から352円への値上げ以来となる。店内飲食の価格で特盛は72円増の778円に、超特盛は94円増の899円とした。

同社によると「昨今の急激な輸入牛肉の価格高騰や原油高の影響を受け、自助努力だけでは現在の価格を維持することが困難な状況となった」という。牛丼店が使用する米国産バラ肉(ショートプレート)の卸値(冷凍品、大口需要家渡し)は1キロ1075円前後と20年夏の安値から2倍近い水準で高止まりしている。

同業では松屋フーズも9月下旬に牛丼チェーン「松屋」で、関東以外で販売していた「牛めし(並盛)」を320円から380円に値上げしていた。ゼンショーホールディングスの「すき家」は現時点で値上げの予定はないという。


◎「油」はどう関係?

肉・油高騰、モー限界」という見出しを見た時は「油=食用油」だろうと考えた。しかし中身を見ると「原油」。牛丼チェーンの「吉野家」が「原油高の影響」で「値上げに踏み切った」というのは、よく分からない。ところが記事を最後まで読んでも「原油高」と「値上げ」がどう関係するのか不明のままだ。

ニュースリリースでも「昨今の急激な輸入牛肉の価格高騰や原油高の影響を受け、自社努力だけでは現在の価格を維持することが困難な状況となりました」と記しているだけだ。ならば「吉野家」に追加で取材してほしい。

ちなみに共同通信の記事では「原油高によって物流費がかさみ、包装材のコストが上昇しているのも響いたという」と解説している。「原油高」と言っても国内のガソリン価格はそれほど上がっていないし「包装材のコスト」が牛丼の原価に占める比率なんてわずかだろうとも思うが、このレベルの説明でもあれば助かる。

日経の記者は「なんで原油高が牛丼の値上げにつながるのか」を説明すべきだとは感じなかったのか。「きっと物流費と包装材コストの問題だろう。それは読者にも自明だし」とでも判断したのか。だとしたら不親切が過ぎる。

記事の書き方に技術的な問題も感じたので、2つ指摘したい。

(1)「実施」は要らない

実施」という言葉は「基本的に記事では使わない言葉」と覚えておいてほしい。多くの場合、使わない方がスッキリする。「同日午後3時から値上げを実施した」は「同日午後3時に値上げした」でいい。


(2)重複を避けよう

牛丼の並盛価格の値上げは、14年12月に税抜き278円から352円への値上げ以来となる」という文には2つの重複がある。

まず「価格の値上げ」だ。「価格」と「」がダブっている。「並盛価格の引き上げ」または「並盛の値上げ」としたい。

値上げは~値上げ以来となる」という「値上げ」の繰り返しにも拙さを感じる。「牛丼並盛の値上げは、14年12月に税抜き278円から352円へ引き上げて以来となる」とすれば問題はなくなる。


※今回取り上げた記事「吉野家、牛丼7年ぶり値上げ 並426円に~肉・油高騰、モー限界

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20211030&ng=DGKKZO77135770Z21C21A0TB0000


※記事の評価はD(問題あり)

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