2021年10月3日日曜日

「育児男女差→出生率低下に影響」が苦しい日経1面「チャートは語る」

3日の日本経済新聞朝刊1面に載った「チャートは語る~育児男女差が際立つ日本 男性、参加時間2割 出生率低下に影響」という記事は説得力がなかった。「チャートは語る」というタイトルに反して、「育児男女差」が「出生率低下に影響」していると語ってくれる「チャート」は見当たらない。天野由輝子記者(女性活躍エディター)と北爪匡記者はデータを強引に解釈して自分たち好みのストーリーを組み立てたのだろう。少子化問題では、この手の記事が目立つ。

岡城跡

記事中のグラフには「家事・育児時間の男女差は少子化に影響する」というタイトルが付いている。「合計特殊出生率」と「家事・育児時間の男女差」を16カ国分(日本、韓国、イタリア、スペイン、英国、豪州、ニュージーランド、フランス、米国、フィンランド、カナダ、ドイツ、オランダ、デンマーク、ノルウェー、スウェーデン)見せている。

グラフから相関関係は感じられない。「合計特殊出生率」の差が小さいためだ。韓国の0.92が目立つ程度で、残りの国は1.24~1.87の狭い範囲に集まっている。「『家事・育児時間の男女差』にあまり関係なく先進国の出生率はドングリの背比べ」と感じた。

家事・育児時間の男女差」が16カ国中最大の日本は出生率1.36。「家事・育児時間の男女差」が日本を大きく下回るイタリアとスペインは出生率がそれぞれ1.27と1.24。筆者らの見立てとは逆になっている。

家事・育児時間の男女差」が2番目に小さいノルウェーの出生率は1.53。6番目のカナダは1.47。7番目のフィンランドに至っては1.35で日本と同レベル。相関関係さえ怪しいのに、このデータから「育児男女差」が「出生率低下に影響」していると結論を出すのは無理がある。

記事の中ではきちんと因果関係を示せているのだろうか。当該部分を見てみよう。


【日経の記事】

経済協力開発機構(OECD)のデータ(19年)で日本と韓国の男女差が際立つ。日本の女性が家事や育児に割く時間は男性の4.76倍、韓国は4.43倍にのぼる。ともに男性の参加時間は女性の2割ほどの計算だ。両国とも急速な人口減少につながる出生率1.5を下回り、韓国は20年の出生率が0.84まで低下した。男女差が2倍以内の国ではおおむね出生率1.5以上を維持している

東京都の女性会社員(39)は6月、念願の第2子を出産した。残業もある管理職として働くが、仕事と子育ては両立できるとの予測が立っていた。第1子(9)の誕生以来、会社員の夫(45)が家事育児に主体的に取り組んできた。出産への決め手は、自分だけが負担を背負い込まないですむ安心感だったという。

米ノースウェスタン大のマティアス・ドゥプケ教授らは欧州19カ国のデータを分析し、育児の大半を担うことで女性が出産に消極的になり、出生率が低下することを経済学的に裏付けた。ドゥプケ教授は「欧州以上に日本や韓国の男女の分担が不平等なことは、両国の低出生率と密接に関係している」と指摘する


◎そう来たか…

男女差が2倍以内の国ではおおむね出生率1.5以上を維持している」ーー。「そう来たか」とは思う。まず「2倍以内」という基準でイタリアとスペインを消す。そして「おおむね」と付けてカナダとファンランドは例外扱いにする。間違ってはいないが強引だ。

16カ国は筆者らの好みで選んだはずだ。なのに相関関係すら見えてこない。その辺りは筆者らも分かっているのだろう。「マティアス・ドゥプケ教授」の話を持ち出してくる。

しかし、これまた苦しい。「欧州19カ国のデータを分析し、育児の大半を担うことで女性が出産に消極的になり、出生率が低下することを経済学的に裏付けた」と書いているだけで具体的なデータはない。しかも「欧州19カ国」の話で日本は入っていない。

この辺りにも筆者らは一応配慮している。「欧州以上に日本や韓国の男女の分担が不平等なことは、両国の低出生率と密接に関係している」と「ドゥプケ教授」に語らせているが、やはりデータはない。

結局、「育児男女差」が「出生率低下に影響」していると言える明確なエビデンスは記事中に見当たらない。「ドゥプケ教授」の「分析」は多少の「裏付け」になるかもしれないが、データを示していないので何とも言えない。これで「チャートは語る」になっているのか。

この手の記事の書き手が陥りやすい傾向に触れておこう。以下のような流れで記事ができていると推測している。

・男女格差を小さくしたいという願望がまず存在する

・その願望を実現するために「少子化克服」をエサにしたいと考える

・男女格差の縮小が少子化対策になるという話を組み立てようとする

・途上国や新興国を含めると話が成立しないので無視する

・先進国の中で何とか話を作ろうとするがエビデンスに乏しく論理展開が強引になる


今回の記事には「OECDのデータ(17年)では、児童手当や育休給付、保育サービスといった日本の家族関係の公的支出は国内総生産(GDP)比1.79%。比率ではフランスやスウェーデンの約半分の水準にとどまる。支出が多い国は出生率も比較的高い」との記述もある。

そして記事に付けた「日本は家族向け政策への支出が少ない」というグラフを見ても、やはり出生率との明確な相関関係を見て取れない。

なのに結論は「男性が家事育児に参加しやすい環境づくり、そして子育て関連予算の充実と効率的な配分――。日本の出生率向上にはこの両輪が欠かせない」となってしまう。

日本もかつては「出生率」が高かった。当時は「男性が家事育児に参加しやすい環境」が整っていて「子育て関連予算の充実と効率的な配分」がなされていたのか。

海外と比べるならば、人口置換水準(出生率で2を少し上回る水準)を安定的に上回る国を見てほしい。それらの国は「男性が家事育児に参加しやすい環境」で日本を大きく上回るのか。「子育て関連予算の充実と効率的な配分」が素晴らしいのか。

そこにヒントがあるはずだ。



※今回取り上げた記事「チャートは語る~育児男女差が際立つ日本 男性、参加時間2割 出生率低下に影響

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20211003&ng=DGKKZO76291710T01C21A0MM8000


※記事の評価はD(問題あり)。天野由輝子記者への評価はDを据え置く。北爪匡記者への評価は暫定C(平均的)から暫定Dへ引き下げる。

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