2021年6月20日日曜日

「風見鶏~愛されたい中国と『00后』」も苦しい日経 桃井裕理中国総局長

やはり日本経済新聞の桃井裕理中国総局長は書き手として厳しい。20日の朝刊総合3面に載った「風見鶏~愛されたい中国と『00后』」という記事の出来も良くない。訴えたいことがないのに何とか捻り出している印象を受ける。

筑後川昇開橋

最初に「全国統一大学入試」の話が出てきて延々と続くが、記事の構成上それほど重要ではない。行数稼ぎの臭いがする。まずはそこから見ていこう。


【日経の記事】

中国で年に1度の全国統一大学入試「高考(ガオカオ)」が6月上旬に実施された。参加者は日本の大学入試センター試験の20倍近い1078万人にのぼる。

中国人留学生が「日本の大学試験は簡単」というほど難易度も高いが、中でも受験生による検索キーワードの筆頭格は「作文」だ。大人でも難解で、試験後はネットで「高考作文大会」が開かれ、皆が挑戦する。

今年は「人」という字の書き方を描いた4コマ漫画の問題が話題になった。

問題用紙に示されたのは(1)第1画「筆を下ろしたら逆方向に運び、それを隠す」(2)第2画「真ん中に筆を下ろす。偏らない」(3)「止まって向きを変えゆっくりはねる」(4)「手本(描紅)」――という4コマのみ。

そして問われる。「自分の知識と評価を漫画に反映し『新時代の青年の思考』を体現して作文しなさい」

禅問答のような内容にネットの議論は盛り上がったが、大学を卒業して間もない女性にみせるとたちどころにこう答えた。「これはあまり難しくないですね」

まず「人はいかにして立派な人物になるかを論述します」。次に「新時代の青年の思考」とあるので「国家にどう貢献するかを書けばいいですね」。さらに4コマ目をみて思いついたように言った。「『描紅』とあるので共産党につなげれば絶対加点されます」

若き日の毛沢東による論文「体育の研究」に関する出題も話題となった。なぜなら中国国営中央テレビ(CCTV)が今年放映したドラマ「覚醒年代」に毛沢東が登場し「体育の研究」の意義を熱く説いていたためだ。ドラマをみた受験生は圧倒的に有利になった。

「覚醒年代はYYDS!(「永遠的神」の母音をつなげた流行語)」。ネット民は沸き立ち、一時は「覚醒年代yyds」が検索ワード上位に躍り出た。これまで若者は日本や韓国、アイドルのドラマばかりみていたが、今後はさぞかしCCTVのドラマも視聴率があがることだろう。

受験生は2000年以降生まれの「00后」世代に属する。受験が終わればネットで「寝そべり文化」や「落ち込み文化」など、ポジティブな共産党文化に逆らう風潮をはやらせ、YYDSのような言葉遊びもする。日本と変わらぬ今どきの若者だ


◎ほとんど要らない話では?

中国の若者も「日本と変わらぬ今どきの若者だ」と言いたいだけならば「全国統一大学入試」の話は丸ごと要らない。中国では「共産党」と受験が絡んでいるという話をしたいのならば「体育の研究」の事例だけで十分だろう。いずれにしても前置きが長すぎる。上記のくだりで記事の半分以上を使ってしまっている。

続きを見ていこう。


【日経の記事】

一方で、彼らはどの世代より愛国度が高いといわれる。教育の影響だけではない。生まれた時からネットは生活の一部で、海外の事情も少しは知っている。だからこそ上の世代のように米国への憧れは強くない


◎どこから聞いてきた?

『00后』世代」は「どの世代より愛国度が高いといわれ」ているらしい。しかし根拠は示していない。桃井総局長は何を基にそう言っているのか。

中国での調査が根拠ならば、そのデータが欲しい。誰かの見解を紹介しているのならば、それが誰かは明らかにすべきだ。

政治的な自由が制限された中国で若者の「愛国度」を正しく測定できるのかとの疑問はある。何らかの調査で「愛国度が高い」と出たとしても、それが若者の本心を反映しているとは限らない。

なのに「上の世代のように米国への憧れは強くない」などと桃井総局長は断定していく。確かな根拠はあるのか。そもそも「海外の事情も少しは知っている」のは「上の世代」も同じだろう。1990年代生まれの中国人は「海外の事情」を全く知らないと桃井総局長は信じているのか。

さらに見ていこう。


【日経の記事】

中国のほうが銃撃事件も起きず差別もなく、なにより大事な面白いネットのツールもたくさんある――。

根幹にそうした感覚があるからこそ「共産党が国辱をそそぎ立派な国を建設した」との「物語」に違和感はない。高考まで駆使しながら陰に陽に「愛の表明」を求める党の要求も自然に受け入れやすいといえる。


◎これまた、どこで確認?

中国のほうが銃撃事件も起きず差別もなく、なにより大事な面白いネットのツールもたくさんある」という「感覚」が「『00后』世代」の「根幹」にあるらしい。これまたどこで確認したのか。「世代」に共通する「感覚」だと断定するには、かなりしっかりした調査が必要だろう。桃井総局長が自ら調べたのか。

続きを一気に見ていこう。ここから記事はようやく本題に入る。

【日経の記事】

折しも中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席は5月末「世界で愛される中国をめざせ」と指示した。今後は従来以上に大量のプロパガンダを海外で展開し中国への感謝表明を強いたりする例も増えるだろう。

中国は理解していない。国内で愛国キャンペーンが成功するのは一党独裁に加え「中華民族の復興」という物語への共感もあるからだ。海外での唐突かつ自己に無批判な承認欲求は中国への反発を強めかねない。

それでも中国に迎合せざるを得ない弱い国もある。日本や西側諸国は決してこの動きを看過してはならない。力で押せば誰もが「中国はYYDS!」と叫び出す――。そんな誤った成功体験は世界のためにも中国自身のためにもならない


◎具体的な話は?

海外」に話が移り「そんな誤った成功体験は世界のためにも中国自身のためにもならない」という結論に導いているが、ここでは具体的な事例が見当たらない。

海外での唐突かつ自己に無批判な承認欲求」を見せた場面があるなら、それこそ詳しく紹介すべきだ。結論に説得力を持たせるためには「全国統一大学入試」の話よりもはるかに重要性が高い。

確かに「唐突かつ自己に無批判」だと読者が納得できる材料が欲しい。「世界で愛される中国をめざせ」と「習近平国家主席」が「指示した」からと言って「唐突かつ自己に無批判な承認欲求」があるとは感じられない。

この動きを看過してはならない」と考える理由も謎だ。「唐突」だからダメなのか。それとも「自己に無批判」なのが問題なのか。

例えば、A国で大地震が起きたとしよう。そこで中国が「唐突かつ自己に無批判な承認欲求」に基づいて無償で救援隊を派遣して救助活動に当たるとしよう。中国は「承認欲求」があるので「タダで助けてやったんだ。感謝コメントを出してくれ」とA国の政府に要求する。A国は仕方なく感謝コメントを出す。

こんな感じだろうか。「日本や西側諸国は決してこの動きを看過してはならない」のか。「そんな誤った成功体験は世界のためにも中国自身のためにもならない」のか。親切の押し売り的な面はあるが、それが「世界のため」になる場合もあるだろう。中国の「承認欲求」を上手く利用する手はある。

絶対に「看過してはならない」と桃井総局長が考えるのならば、それはそれでいい。なぜ「看過してはならない」のかを説得力のある形で読者に伝えてほしかった。しかし全くできていない。

無駄な行数稼ぎをしなければならないほどネタに困っているのならば、コラム執筆は中国総局の部下に任せてはどうか。桃井氏は管理職の仕事に専念する。やはり、それが一番の解決策だと思える。


※今回取り上げた記事「風見鶏~愛されたい中国と『00后』」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210620&ng=DGKKZO73074750Q1A620C2EA3000


※記事の評価はE(大いに問題あり)。桃井裕理中国総局長への評価もEを据え置く。桃井総局長に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「米ロ関係が最悪」? 日経 桃井裕理記者「風見鶏」に異議ありhttps://kagehidehiko.blogspot.com/2018/04/blog-post_1.html

問題多い日経 桃井裕理政治部次長の「風見鶏~『東芝ココム』はまた起きる」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/07/blog-post_19.html

日経「風見鶏~『台湾有事』と経済安保」に見える桃井裕理記者の誤解https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/04/blog-post_18.html

台湾有事で「最悪の想定」が米中にらみあい? 日経 桃井裕理記者に感じる限界https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/04/blog-post_19.html

「新時代の日米(下)」を書いた日経の桃井裕理 中国総局長に引退勧告https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/04/blog-post_21.html

「G7背水の再起動(下)」でも粗が目立つ日経 桃井裕理中国総局長https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/06/g7.html

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