2021年4月26日月曜日

むしろ増加? 「女性研究者による論文は世界的に減少」に根拠欠く日経の記事

26日の日本経済新聞朝刊 科学技術面に載った「苦悩する女性研究者~子育て・介護負担」という記事によると「2020年春、女性研究者による論文は世界的に減少した」らしい。しかし、それを裏付けるデータが見当たらない。当該部分を見ていこう。

三隈川(筑後川)

【日経の記事】

新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な流行)の中、家庭で子育てや介護の負担が女性に偏りやすいことを背景に、科学界でも男女格差の拡大が懸念されている。多くの国でロックダウン(都市封鎖)や外出制限が実施された2020年春、女性研究者による論文は世界的に減少した。特にコロナ関連の論文執筆は引用回数などで将来のキャリアを左右し、影響が中長期に及ぶ可能性もある。

イタリアのミラノ大学などのグループはオランダの学術情報大手エルゼビアと協力し、同社が発行する全ての科学誌での論文投稿など500万人以上の研究者のデータを調べた。20年2~5月の論文投稿は全体で19年の同時期比30%増え、特にコロナと関わる健康・医学分野は63%の増加となった。

しかし、女性研究者の論文は男性ほど増えず、特に若手の女性ほど鈍化は顕著だった。コロナ関連の投稿数も女性のほうが少なかった。

研究グループは休校やオンライン授業で子供の在宅時間が増えるなど、家庭での女性の負担が重くなったと指摘。コロナ関連論文は注目を集めやすいため、研究業績の男女格差を広げた可能性がある。

米ミシガン大学などのグループも20年1~6月に発表されたコロナ関連論文を分析。女性が筆頭著者だった論文の割合は、19年の同時期に同じ科学誌に載った論文よりも19%少なかった。女性の中でも、実験などを中心的に担って筆頭著者になりやすい若手研究者が研究に取り組みにくかったことが背景にあるようだ。


◎肝心の数字はどこに?

最初に出てくる調査によると「20年2~5月の論文投稿は全体で19年の同時期比30%増え」ている。しかし「女性研究者による論文」が「減少した」訳ではない。「女性研究者の論文は男性ほど増えず、特に若手の女性ほど鈍化は顕著だった」との記述からは「男性ほど」ではないが増加したと取れる。

もう1つの調査では「女性が筆頭著者だった論文の割合は、19年の同時期に同じ科学誌に載った論文よりも19%少なかった」と書いているだけだ。「論文」の総数が増えていれば「女性が筆頭著者だった論文の割合」が低下したとしても「女性が筆頭著者だった論文」が数としては増えている可能性がある。

結局、この2つの調査からは「女性研究者による論文は世界的に減少した」とは言えない。

しかも最初に出てくる調査では「女性研究者の論文は男性ほど増えず」と記しているだけで「女性研究者の論文」に関する具体的な数値が出てこない。「女性研究者の論文」が増えているから、あえて数値を見せなかったのではとの疑いは残る。その上で「女性研究者による論文は世界的に減少した」と書いたのならば、意図的に読者を騙したと言われても仕方がない。


※今回取り上げた記事「苦悩する女性研究者~子育て・介護負担」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210426&ng=DGKKZO71310350T20C21A4TJM000


※記事の評価はE(大いに問題あり)

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