2021年4月3日土曜日

説明が雑な日経1面連載「パクスなき世界~繰り返さぬために(3)」

3日の日本経済新聞朝刊1面に載った「パクスなき世界~繰り返さぬために(3)陰謀論に試されるネット 利器か凶器か人類に問う」という記事は雑な説明が目立った。前半部分を見てみよう。

室見川

【日経の記事】

あなたは正しい情報をもとに世界を見ていると思いますか――。

「新型コロナウイルスのワクチンは生物実験だ」。3月20日、米国やオーストリア、スイス、カナダなど、世界各地で同時に政府のコロナ対策に抗議するデモが開かれた。陰謀論を信奉する集団「Qアノン」やワクチン反対論者、トランプ前大統領の支持者らが各地でデモを繰り広げた

メディアの格付け機関、ニュースガードによると、米動画サイト「オディシー」で2020年11月~21年2月にフランス語の動画本数が英語を上回った。仏語圏の主要SNS(交流サイト)から排除された陰謀論者らが活動の場を米企業が運営するサイトに移したとみられている。サイト上では過激な言葉や真偽不明の情報が飛び交う。

メディア史に詳しい京都大学の佐藤卓己教授は人々の間で情報が拡散する仕組みについて、「語り手と受け手の相互作用で増殖する構造は同じだが、拡散する範囲・速度が上がっている」と指摘する。


◎どういうデモ?

最初の事例が謎だらけだ。「世界各地で同時に政府のコロナ対策に抗議するデモが開かれた」らしいが、なぜ「同時」に「デモが開かれた」のか書いていない。主催者がいるのか、誰かが呼びかけたのか。その辺りの説明は欲しい。

新型コロナウイルスのワクチンは生物実験だ」というのも誰の言葉か分からない。「デモ」の主要な訴えなのか。参加者の1人が掲げていただけの主張なのか。何の説明もない。

とにかく「新型コロナウイルスのワクチンは生物実験だ」という主張を取材班は「正しくない情報」だと思っているようだ。だが「生物実験」という見方が誤りとは言い切れない。「ワクチン」が人体に与える長期的な影響を検証せずに接種が進んでいるのは明らかだ。その意味で「生物実験」ではある。

陰謀論を信奉する集団『Qアノン』やワクチン反対論者、トランプ前大統領の支持者」とひとまとめにしているのも引っかかる。「ワクチン反対論者、トランプ前大統領の支持者」は「陰謀論を信奉」しているとは限らない。なのに同列に扱っていいのか。

そんなことはお構いなしに話は「オディシー」へと移っていく。「デモ」に関する雑な説明から何を読み取ればいいのか。「確かに、このデモの記述とかは鵜呑みにできない怪しい情報ですね」とでも思っておけばいいのか。

オディシー」の話もあまり意味がない。「過激な言葉や真偽不明の情報が飛び交う」のはツイッターなどの「主要SNS」も同じだ。「フランス語の動画本数が英語を上回った」ことから「仏語圏の主要SNS(交流サイト)から排除された陰謀論者らが活動の場を米企業が運営するサイトに移した」と推測しているが「だから何なの」と聞きたくなる。

その後に「情報が拡散する仕組み」へ話を移している。しかし「オディシー」の事例が「拡散する範囲・速度が上がっている」根拠になる訳でもない。無駄な事例としか思えない。

情報の詰め込み過ぎは日経の1面連載によく見られるパターンだ。事例をたくさん入れるので、1つ1つは説明不足になってしまう。ゆえに説得力が失われてしまう。

正しい情報をもとに世界を」見る大切さを訴えたいのならば、説明はもう少し丁寧にしてほしい。


※今回取り上げた記事「パクスなき世界~繰り返さぬために(3)陰謀論に試されるネット 利器か凶器か人類に問う

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210403&ng=DGKKZO70666230T00C21A4MM8000


※記事の評価はD(問題あり)

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