2021年4月19日月曜日

台湾有事で「最悪の想定」が米中にらみあい? 日経 桃井裕理記者に感じる限界

日本経済新聞の桃井裕理記者が18日の朝刊総合3面に書いた「風見鶏~『台湾有事』と経済安保」という記事の問題点をさらに掘り下げてみる。まずは「台湾有事」について考えたい。

筑後川昇開橋

【日経の記事】

台湾海峡をめぐる「有事」の可能性が盛んに指摘され始めた。16日の日米首脳会談でも台湾海峡の平和と安定の重要性を確認した。

それでは実際に台湾有事が発生したら、日本の経済や社会にどのような事態が起こり得るのだろうか。

まず東シナ海や南シナ海で米中がにらみあい商業船の航行が難しくなる状況が考えられる。それが半年間続いたら……? 燃料や食料など様々な物資のサプライチェーンが断絶され日本経済は大混乱しかねない。

日本の石油備蓄は石油危機を経て約250日分を確保する。問題は発電燃料として需要が急増した液化天然ガス(LNG)。比率は約4割に達するが、超低温貯蔵が必要で長期在庫が持てない。輸入元もオーストラリアや東南アジア、中東など南シナ海経由に偏る。

航路を急きょ切り替えれば急場はしのげるが世界的にも物流の混乱が予想される。新型コロナウイルス禍でマスクの調達すらままならなかった日本にそんな芸当ができるのか。今年1月には厳冬で日本のLNG在庫が底をつきかけ「あわや停電」という状況に追い込まれた。スポット市場での緊急調達もできなかった。

日本の食料自給率は4割以下。米や小麦の備蓄は2~3カ月分あるが様々な食品で需給が逼迫し買い占めも起きかねない。日本の製造業は中国から東南アジアへサプライチェーンの分散を進めているが、南シナ海も「火薬庫」となるならばなお打撃は避けられない。中国や台湾の事業も継続が難しくなるかもしれない。


◎それが「最悪の想定」?

台湾有事」に関して「まず東シナ海や南シナ海で米中がにらみあい商業船の航行が難しくなる状況が考えられる」というのが、まず分からない。「米中」は「にらみあい」で済むとの前提なのか。その時に「台湾」は中国に占領されているのか。それとも単独で中国と戦っている状態なのか。曖昧な設定では困る。

記事の中で「日本には危機を直視するのを歓迎しない風潮がある。最悪の事態を想定すればコストもかかり、様々な事業の実現性も低下する」と桃井記者は書いている。「最悪の事態を想定」すべきとの考えならば「米中がにらみあい商業船の航行が難しくなる状況」を想定するのは甘すぎる。

米中」が「台湾有事」をきっかけに全面戦争に突入し、日本も米国とともに中国と戦う。結果として中国による核攻撃の対象となり、日本全土が壊滅的な損害を被るーー。「最悪の事態を想定」するならば、こんなところだろうか。少なくとも、日米が中国と戦争状態になる可能性は考慮すべきだ。

その辺りを「想定」すれば「中国や台湾の事業も継続が難しくなるかもしれない」などと呑気なことは言っていられない。戦死者が何百万人、あるいは何千万人出るのかといった点を考える必要が出てくる。

呑気に「経済安保」を論じるならば、「台湾有事」に関してなぜ「最悪の事態を想定」しなくて良いのかの説明は欲しい。それとも、「最悪の事態」でも米中にらみ合いで済むと見ているのか。

記事の結論部分にも注文を付けておきたい。

【日経の記事】

日本には危機を直視するのを歓迎しない風潮がある。最悪の事態を想定すればコストもかかり、様々な事業の実現性も低下する。

それでもかつては石油危機や食料安保が盛んに議論されたが、冷戦終結以降、危機を意識せずに生きていられる希少な時代に突入した。隣国が「一大生産地かつ巨大市場でありながらそれほど脅威ではない」という幸運に恵まれたためだ。

純粋に合理性、効率性のみを追求できた幸せな時代は過ぎ去った。非効率と共に生きる――。これが米中新冷戦時代の新常態となる。少なくとも福島第1原子力発電所の事故や新型コロナ禍で常に後手に回った過ちは二度と繰り返してはならない。


◎「幸せな時代は過ぎ去った」?

純粋に合理性、効率性のみを追求できた幸せな時代は過ぎ去った。非効率と共に生きる――。これが米中新冷戦時代の新常態となる」と書いているが全く同意できない。

「これまでと世の中が大きく変わる」と訴えた方が記事として成立しやすい。しかし、世の中はそんなに簡単には変わらない。なので大抵の場合は無理が生じる。今回もそうだ。

まず「純粋に合理性」を「追求」することはこれからもできる。「米中新冷戦時代」でも変わりはない。「最悪の事態を想定」すると「合理性」を「追求」できなくなると桃井記者は見ているのだろうか。

最悪の事態を想定」することに「合理性」があるのならば遠慮なく「追求」すべきだ。逆に「合理性」がないのならば「最悪の事態を想定」する必要はない。

付け加えると、戦後ずっと「台湾有事」も核戦争も可能性としてはあった。「最悪の事態を想定」すべきとの考えならば「冷戦終結以降、危機を意識せずに生きていられる希少な時代に突入した」などとは書かないはずだ。「最悪の事態を想定」すべきと訴える桃井記者自身が実は「最悪の事態を想定」せずに生きているのだろう。

次に「効率性」について考えよう。「最悪の事態を想定」すると「非効率」になるのは、その通りだろう。だが、これまでは「効率性のみを追求できた幸せな時代」との認識が間違っている。

地震などの災害に備えて拠点を分散したり調達先を多様化したりといった動きはこれまでも当たり前にあった。なのに桃井記者にはこれまでが「効率性のみを追求できた幸せな時代」と映るのか。「世の中が見えなさすぎ」と言わざるを得ない。

だから、こんな問題だらけの記事を書いてしまうのだろう。今回のような完成度の低い記事を読者に届ける「過ちは二度と繰り返してはならない」。桃井記者には書き手としての引退を勧告したい。


※今回取り上げた記事「風見鶏~『台湾有事』と経済安保」https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210418&ng=DGKKZO71126100Y1A410C2EA3000


※記事の評価はE(大いに問題あり)。桃井裕理記者への評価はD(問題あり)からEへ引き下げた。桃井記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「米ロ関係が最悪」? 日経 桃井裕理記者「風見鶏」に異議ありhttps://kagehidehiko.blogspot.com/2018/04/blog-post_1.html

問題多い日経 桃井裕理政治部次長の「風見鶏~『東芝ココム』はまた起きる」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/07/blog-post_19.html

日経「風見鶏~『台湾有事』と経済安保」に見える桃井裕理記者の誤解https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/04/blog-post_18.html

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