2021年4月15日木曜日

日経「統治改革、東芝が試金石」に感じる川崎健編集委員の説明不足

東芝を巡る最近の動きは問題点が分かりづらい。15日の日本経済新聞朝刊総合1面に川崎健編集委員が書いた「統治改革、東芝が試金石~市場との対話、世界が注視」という記事も「結局、何が問題なのか」を絞り切れていないと感じた。

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順に中身を見ていこう。

【日経の記事】

買収提案を受けてから約1週間という急転直下の決定だった。東芝の車谷暢昭社長兼最高経営責任者(CEO)が14日辞任した。これは「資本市場からの逃避」と映る株式非公開化の是非を公正に検討するために不可欠なプロセスだ。市場との対話はスタート台に立ったばかり。東芝の今後の一挙手一投足は、日本の企業統治改革の真価を占う試金石となる

先週浮上した英CVCキャピタル・パートナーズなどによる東芝の買収提案は、その動機やプロセスに多くの市場関係者が疑問を呈していた。

CVCは車谷氏が前職で日本法人会長を務めていたファンドだ。東芝はアクティビスト(物言う株主)の大株主らとの対立が先鋭化していた。それだけに現経営陣の続投を支持してくれる友好的なファンドに全株を買い取ってもらって市場から退場する「出来レース」と市場は受け止めた


◎「出来レース」はダメ?

株式非公開化」の多くは、多数の株主の目を気にせず経営できるようにする目的がある。悪いことではない。悪いことならば「株式非公開化」を規制すべきだ。「英CVCキャピタル・パートナーズなどによる東芝の買収提案」が「出来レース」だとしても、既存株主の不利益とならない株価で買収してもらって「市場から退場する」のならば問題ないと思える。

しかし川崎編集委員は「東芝の車谷暢昭社長兼最高経営責任者(CEO)が14日辞任した」ことを「株式非公開化の是非を公正に検討するために不可欠なプロセス」だと言う。「車谷」氏がいても「株式非公開化の是非を公正に検討する」ことはできるはずだ。「車谷」氏がいる限り「株式非公開化の是非を公正に検討」できないとすれば、その方が「企業統治」として問題がある。

続きを見ていこう。

【日経の記事】

東芝は2017年、米原子力子会社だったウエスチングハウスの巨額損失が原因で監査法人の承認が必要な決算を作成できない事態に陥った。金融庁と東京証券取引所は有価証券報告書の提出や決算発表の延期を何度も承認。そこまでして東証が上場維持に腐心した東芝が今度は自ら上場廃止を選ぶとなれば、東証にとっては大きな痛手だ。


◎話が逸れているような…

東証が上場維持に腐心した東芝が今度は自ら上場廃止を選ぶとなれば、東証にとっては大きな痛手」かもしれないが「企業統治改革」とはあまり関係がない。話が逸れている印象を受ける。

さらに続きを見ていく。

【日経の記事】

あらゆる点で説明責任の放棄。日本は資本市場をゴミ箱と考えているのか」。東芝株主である海外アクティビストの一人はCVC案をこう批判していた。

取締役会の最も重要な役割は、株主の利益に反するような経営者の暴走を止めることだ。車谷社長の辞任決定を受けて大手運用会社のファンドマネジャーは「ギリギリで取締役会によるガバナンス(統治)が、ちゃんと機能したのではないか」と評価する。


◎川崎編集委員による「説明責任の放棄」では?

あらゆる点で説明責任の放棄。日本は資本市場をゴミ箱と考えているのか」というコメントがよく分からない。なぜ「CVC案」が「あらゆる点で説明責任の放棄」と言えるのか記事には説明がない。川崎編集委員による「説明責任の放棄」ではないのか。

日本は資本市場をゴミ箱と考えているのか」という部分も理解に苦しむ。「東芝ゴミ」ということか。しかし、なぜ「ゴミ」なのか不明。「CVC案」はわざわざ「ゴミ箱」から「ゴミ」を拾い出すものなのか。カネをかけて何のためにそんなことをするのか。このコメントを記事で使いたいのならば、もう少し丁寧に説明すべきだ。

さらに続きを見ていく。

【日経の記事】

「本人から辞任が出たということに尽きる」。永山治取締役会議長は会見でこう説明した。多くの市場参加者は取締役会が車谷氏にプレッシャーをかけた結果と受け止めている。

とはいえ、信頼回復に向けた綱川智新社長ら東芝経営陣と市場との対話は始まったばかりだ。最大の焦点は、非公開化案の是非を市場が納得する形で新経営陣が透明かつ公正な検討を進められるかどうかだ。

経営陣は「ファンドの買収提案は企業価値の向上につながらない」と判断し、買収を拒否するかもしれない。その場合は1株5000円というCVCの初期提案以上に株価を上げられる独自の経営計画を代案として市場に提示すべきだ


◎買収受け入れもあり?

上記のくだりからは「1株5000円というCVCの初期提案以上に株価を上げられる独自の経営計画を代案として市場に提示」できないのならば「CVC案」を受け入れる選択もあると取れる。

取締役会の最も重要な役割は、株主の利益に反するような経営者の暴走を止めることだ。車谷社長の辞任決定を受けて大手運用会社のファンドマネジャーは『ギリギリで取締役会によるガバナンス(統治)が、ちゃんと機能したのではないか』と評価する」と川崎編集委員は書いている。

CVC案」がまともな案である可能性もあるのに、なぜ「車谷」氏の動きを「暴走」と断じるのか。東芝にとってベストな経営判断をしようとしていた可能性は残る。

さらに続きを見ていく。

【日経の記事】

一方、CVCは正式な提案に向けて今後検討を加速するだろう。すでに買収案の検討に着手した米KKRなど、より高い値段で買収できると考える世界の名だたるファンドたちが、続々と東芝買収に名乗りを上げる可能性が高い。

ただ稼ぐ力に対して高すぎる価格で買収を受け入れるのも東芝の将来に禍根を残す。ファンドは自らの資金に外部借入金を足して買収金額を膨らませる。負債は買収後の東芝の貸借対照表(バランスシート)に載る。買収後に過剰に背負った借金返済のために事業売却や人員削減を迫られるようだと元も子もない。

日本のガバナンス改革は社外取締役の拡充など形式だけ整えているとの批判も多かった。「日本を代表する名門企業の一社である東芝の経営再建の行方は日本のガバナンス改革の真価をはかるテストケースとして世界から注目されるだろう」(川北英隆京大名誉教授)

CVCの買収提案は政府系ファンドの産業革新投資機構(JIC)や日本政策投資銀行(DBJ)の参加も想定するなど「官の影」もちらつく。東芝が政府の力も使って不透明な形で市場から退出するようなら、日本の統治改革は見せかけだけと世界から受け止められかねない


◎ではどうすれば…

東芝が政府の力も使って不透明な形で市場から退出するようなら、日本の統治改革は見せかけだけと世界から受け止められかねない」と川崎編集委員は言う。「政府の力」に頼るのがダメなのか「不透明な形」がダメなのか分からないが、どちらもダメだとしよう。

では「政府の力」に頼らず透明な形で「稼ぐ力に対して高すぎる価格で買収を受け入れ」た場合はどうなるのか。これも好ましくないと川崎編集委員は見ているようだが「日本の統治改革は見せかけ」ではないと証明できる効果はあるのか。それとも、これも「統治改革」の面で問題があるのか。

統治改革、東芝が試金石」と言うものの、どういう形で「試金石」になるのかよく分からない。「政府の力」に頼ると「統治改革」は失敗という理屈も疑問が残る。「政府の力」も使って成長力を高めて株主の利益を増やすのは「統治」として許されないのか。

川崎編集委員は記事を以下のように締めている。

【日経の記事】

「上場企業の品質を高めてこそ、日本が国際金融センターとして世界の投資家から注目してもらえる」。日本投資顧問業協会の大場昭義会長は指摘する。東芝の経営判断は、菅義偉政権が掲げる日本の国際金融センター構想が「掛け声だおれ」に終わらないかどうかのカギも握っている


◎そんな大げさな話?

これは大げさだと感じる。

東芝が驚くような好条件で「株式非公開化」を実現したとしよう。「政府の力」は使わないし透明性も申し分ない。その場合「日本の国際金融センター構想」が「『掛け声だおれ』に終わらない」可能性が一気に高まるだろうか。

高まらないとは言い切れないが「日本の国際金融センター構想」とは、そんなに簡単に実現するものなのかとは思う。

東芝の件を「日本にとって非常に重要な象徴的案件」と川崎編集委員は見ているのだろう。違うとは言わないが、説得力ある形で説明はできていない。お家騒動的に見る方が適切のような気はする。


※今回取り上げた記事「統治改革、東芝が試金石~市場との対話、世界が注視

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210415&ng=DGKKZO71013360U1A410C2EA1000


※記事の評価はD(問題あり)。川崎健編集委員への評価はDで据え置く。川崎編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。


川崎健次長の重き罪 日経「会計問題、身構える市場」http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_62.html

なぜ下落のみ分析? 日経 川崎健次長「スクランブル」の欠陥http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/09/blog-post_30.html

「明らかな誤り」とも言える日経 川崎健次長の下手な説明http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/02/blog-post_27.html

信越化学株を「安全・確実」と日経 川崎健次長は言うが…http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/07/blog-post_86.html

「悩める空売り投資家」日経 川崎健次長の不可解な解説
http://kagehidehiko.blogspot.com/2016/10/blog-post_27.html

日経「一目均衡」で野村のリーマン買収を強引に庇う川崎健次長
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/09/blog-post_11.html

英国では「物価は上がらない」と誤った日経「モネータ 女神の警告」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_29.html

日経 川崎健次長の「一目均衡~調査費 価格破壊の弊害」に感じた疑問https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/blog-post_23.html

日経 川崎健編集委員「一目均衡~失われた価格発見機能」に見える矛盾https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/03/blog-post_16.html

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