2019年5月9日木曜日

日経 水野裕司上級論説委員の「中外時評」に欠けているもの

8日の日本経済新聞朝刊オピニオン面に水野裕司上級論説委員が書いた「中外時評~次はシニアの生産性革命」という記事では、「SCSK」の「シニア正社員」に関する説明に疑問が残った。問題のくだりは以下のようになっている。
小石川後楽園(東京都文京区)※写真と本文は無関係

【日経の記事】

システム開発大手のSCSKが18年7月に設けた「シニア正社員」制度は、実績によって報酬に大きく差をつける。これは定年の60歳を過ぎてから65歳に達するまでの雇用制度で、毎月の基本給に加えて賞与や専門能力に応じた手当などを支給する。

会社への貢献度をもとに4段階で評価し、賞与は最も低いランクではゼロだが、ひとつ上になるごとに年間約100万~150万円加算される。成果をあげることで年500万円近い報酬を上乗せできるわけだ。専門性にもとづく年1回の手当も最大30万~40万円になる

評価者の管理職には、「その人の潜在能力ではなく、パフォーマンスをしっかりみるよう言っている」(人事企画部の和南城由修副部長)。本人があげた収益をもとに、その仕事の価値を見極め、報酬に反映させるよう求める

こうした実力主義の報酬制度は、シニアの雇用に対するイメージを一新する。定年後の再雇用でも、定年延長の場合でも、賃金は60歳前と比べ大幅に下げるというのが流れだったからだ



◎賃金水準を比較しないと…

こうした実力主義の報酬制度は、シニアの雇用に対するイメージを一新する。定年後の再雇用でも、定年延長の場合でも、賃金は60歳前と比べ大幅に下げるというのが流れだったからだ」と書いているので「SCSK」の「シニア正社員『制度』」では「賃金は60歳前と比べ」て大きく下がることはないのだろう。

だが、それを裏付ける数字を記事では示していない。「成果をあげることで年500万円近い報酬を上乗せできる」「専門性にもとづく年1回の手当も最大30万~40万円になる」などと記しているだけだ。これだと50代までの「賃金」との比較ができない。それで「こうした実力主義の報酬制度は、シニアの雇用に対するイメージを一新する」と書くのは感心しない。

シニア正社員『制度』」に関する「SCSK」のニュースリリースを見ても「60歳前と比べ」た数値は出していない。水野上級論説委員が取材の結果、「60歳前と比べ」た水準を把握したのならば、それを読者に示すべきだ。記事の書き方からは「60歳前と比べ」た水準が分からないまま「シニアの雇用に対するイメージを一新する」と持ち上げてしまった可能性が高そうな気がする。

疑問は他にもある。「シニア正社員『制度』」では「本人があげた収益をもとに、その仕事の価値を見極め、報酬に反映させるよう求める」と水野上級論説委員は解説している。全ての「シニア正社員」が営業職ならば分かるが、そうは書いていない。総務や経理の「シニア正社員」もいる場合「本人があげた収益」をどうやって算出するのか謎だ。

記事では「働き手の納得感を得るためにも、若手からシニアまで年齢を問わず、職務や成果をもとに報酬を決める透明性の高い仕組みづくりが求められる」とも書いている。総務部で働く「シニア正社員」は「本人があげた収益」がないので、「賞与は最も低いランク」のゼロとなるのだろうか。それで「働き手の納得感」は得られるか。あるいは総務や経理で働く「シニア正社員」でも「本人があげた収益」を大きくする仕組みがあるのか。

記事を読んでも、結局は分からないままだ。これでは辛い。

記事の続きも見ておこう。

【日経の記事】

なぜ、60歳以降の賃金は抑えられてきたのか。賃金制度の歩みから考えてみよう。

戦後、日本企業は、若手や中堅のときの賃金は低めにし、中高年になれば厚めに払ってバランスをとる年功制をつくりあげた。全額を精算し終える時点が定年だ。企業は賃金の「後払い」により、社員に会社への忠誠を求めた。引き換えに社員が受けた恩恵が長期の雇用保障だ。

右肩上がりの賃金カーブは1990年代初めのバブル崩壊後、修正が進んだ。しかし、いまなお年功色は根強く残っている。60歳以降になると賃金ががくんと減るのはその反動だ。

だが、デジタル化とグローバル化が進み、生産性の向上が必須になったいま、日本的な賃金制度は抜本見直しを迫られている。働き手の納得感を得るためにも、若手からシニアまで年齢を問わず、職務や成果をもとに報酬を決める透明性の高い仕組みづくりが求められる。シニアの雇用拡大はそのきっかけになる


◎「きっかけになる」と言うのなら…

シニアの雇用拡大」が「職務や成果をもとに報酬を決める透明性の高い仕組みづくり」の「きっかけになる」と水野上級論説委員は解説する。どういう流れでそうなるのか明確ではないが、取りあえず受け入れてみよう。ただ、最初に紹介した「SCSK」では「シニアの雇用拡大」が「若手」も含めた「賃金制度」の「抜本見直し」につながった話にはなっていない。

シニアの雇用拡大はそのきっかけになる」と訴えるのならば、それを実証する事例が欲しい。


※今回取り上げた記事「中外時評~次はシニアの生産性革命
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190508&ng=DGKKZO44479700X00C19A5TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。水野裕司上級論説委員への評価もDを据え置く。水野上級論説委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

通年採用で疲弊回避? 日経 水野裕司編集委員に問う(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/11/blog-post_28.html

通年採用で疲弊回避? 日経 水野裕司編集委員に問う(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/11/blog-post_22.html

宣伝臭さ丸出し 日経 水野裕司編集委員「経営の視点」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/12/blog-post_26.html

「脱時間給」擁護の主張が苦しい日経 水野裕司編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/07/blog-post_29.html

「生産性向上」どこに? 日経 水野裕司編集委員「経営の視点」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/04/blog-post_23.html

理屈が合わない日経 水野裕司編集委員の「今こそ学歴不問論」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/01/blog-post.html

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