2019年5月5日日曜日

金融市場での「満点」とは? 日経 武類雅典編集局次長への注文

5日の日本経済新聞朝刊総合2面に載った「新時代の日本へ(4)革新に『満点』いらない」という記事は悪い出来ではない。しかし、色々と気になる点はあった。筆者の武類雅典編集局次長は編集局のトップに近い人物だ。その点も考慮しながら記事に注文を付けてみる。
伐株山園地(大分県玖珠町)から見た風景
          ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

グローバル戦略は懸命に進めてきた。働き方改革だって頑張っている。自己資本利益率(ROE)は、だいぶ良くなった。でも、何か物足りない。

日本の企業社会を体現する「ニッポン株式会社」の経営者がいるなら、こんな自己診断を下すのではないだろうか。欠けているのは、令和の時代に成長をけん引していくイノベーションの活力である。

151社と1社。米国と日本でユニコーン企業(評価額が10億ドル=約1100億円=を超す未上場の新興企業)の数を比べると、その差はあまりに大きい。米調査会社CBインサイツの集計(1月時点)によれば、中国は82社。インドが13社、インドネシアも4社あり、日本は埋没している。



◎「イノベーション」を測れる?

まず「ユニコーン企業の数」で「イノベーションの活力」を測るのが解せない。この指標の最大の問題は「未上場」という条件だ。「ユニコーン企業」が「インドネシアも4社あり」と武類次長は言う。このうち3社が上場すると「インドネシア」も日本並みに「埋没して」しまう。そうした評価に意味があるのか。3社は消えてしまった訳でも「イノベーション」の創出を止めてしまった訳でもない。

イノベーション」は「未上場の新興企業」の専売特許でもない。老舗の上場企業が「イノベーション」の担い手になる場合も当然にある。日本に「イノベーションの活力」が欠けていると訴えるならば、別の根拠を持ってくるべきだ。

記事の続きを見ていく。

【日経の記事】

理由はデジタル技術とインターネットの進歩を見くびっていたことにある。戦後の日本企業はまず「量」を追った。それが昭和だ。平成は「質」で勝負したが、世界は先を目指して猛スピードで動いていた。

ネット時代は斬新なイノベーションが瞬時に広まる。日本は「すぐに追いつける」といった過信を今こそ捨て去るときである



◎そんな「過信」ある?

日本は『すぐに追いつける』といった過信を今こそ捨て去るときである」と武類編集局次長は言うが、そんな「過信」をしている人が多数いるのか。「GAFAなんて大したことない。数年後には日本企業が追い付いて、GAFAを圧倒しているはずだ」といった主張は聞いたことがないが…。
杵築城(大分県杵築市)※写真と本文は無関係です

ついでに言うと「デジタル技術とインターネットの進歩」という書き方には重複感がある。「インターネットをはじめとするデジタル技術の進歩」などとすれば問題は解消する。

さらに記事の続きを見ていこう。

【日経の記事】

イノベーションは、最初は粗野であっても古い常識を壊して成長していく力だ。失敗にひるまず、試行錯誤を絶え間なく繰り返す中で生まれる一面がある。イノベーション論で知られる米ハーバード大学のクレイトン・クリステンセン教授は「敵はファイナンスである」と指摘している。

規律ある経営を守るだけの生真面目さは、イノベーション創出の足かせだ。金融市場の評価にとらわれすぎると、効率を優先するあまり、時に将来への投資が後回しになってしまう。お仕着せの尺度で測った「満点」はいらない



◎「金融市場」の「満点」とは?

お仕着せの尺度で測った『満点』はいらない」と武類編集局次長は言うが、何を以って「満点」とするのかが謎だ。「お仕着せの尺度」とは「ROE」か。仮に「ROE」だとしても、どうなったら「満点」なのか分からない。例えば50%、100%、200%のうちどの水準ならば「満点」なのか。

そもそも「効率を優先するあまり、時に将来への投資が後回しになってしまう」ような企業に「金融市場」は「満点」を与えるものなのか。

さらに言えば「金融市場の評価」に囚われるリスクを訴えている武類編集局次長自身が日本の「ユニコーン企業」の少なさを嘆いている点にも矛盾を感じる。

ユニコーン企業」とは「評価額が10億ドル=約1100億円=を超す未上場の新興企業」だ。そして「評価額」を決めるのは未公開株に関する「金融市場」の関係者だ。

記事の終盤に話を移そう。

【日経の記事】

日本企業は国内の人口減少と高齢化というハンディを背負ってもいる。成長力が衰えていけば、先人が残した産業遺産を懐かしむばかりの国に近づいていく。令和を生きる私たちは、再成長へイノベーションの種をつかみとれるのか。

日本生まれのユニコーン企業、プリファード・ネットワークス(東京・千代田)。人工知能(AI)を使い、わずかな血液からがんを早期発見する未来の医療に挑む。実現すると、今のように高額の診断装置に頼らずにすむかもしれない

開発の土台となっているのは、国立がん研究センターが長年蓄えてきた血液データである。日本の分厚いデータ資産と最新技術をかけ合わせたとき、「Disruptive(破壊的)」なイノベーションへの道筋が見えてくる



◎どこが「Disruptive(破壊的)」?

プリファード・ネットワークス」の話は「『Disruptive(破壊的)』なイノベーション」の具体例なのだろう。しかし「Disruptive(破壊的)」な感じはない。「実現すると、今のように高額の診断装置に頼らずにすむかもしれない」といった程度の変化にそんなインパクトがあるのか。

例えば1000万円の「診断装置」が不要になり10万円の「装置」で同じことができるようになるとしよう。だからと言って病院や医者が不要になる訳でない。抗がん剤や放射線による治療もなくならない。

高額の診断装置」を手掛けるメーカーの業績が悪化したりといった影響はあるだろう。しかし、それを「Disruptive(破壊的)」と呼ぶのは無理がある。

記事の最後も見ておく。

【日経の記事】

古いものは役に立たない。新しいものは分かりにくい。こうした先入観から解放されれば、積み重ねた知の力、眠らせていた好奇心の力を結びつけられる。その成果は、かたちや大きさが様々であっていい。

何も特別なことではない。まずは肩肘張らず、お互いが周りを眺めてみよう。そして動き出そう。そうでありたい新時代のスタートである。私たちは令和の傍観者ではない



◎まず日経を変えよう!

まずは肩肘張らず、お互いが周りを眺めてみよう。そして動き出そう。そうでありたい新時代のスタートである。私たちは令和の傍観者ではない」と武類編集局次長は記事を締めている。

心からそう思うならば、まずは日経の編集局内を「眺めてみよう」。日経では読者からの間違い指摘を当たり前のように無視して、記事中の誤りの多くを放置している。

武類編集局次長もある程度は知っているはずだ。もし知らないならば調べてみればいい。

そして動き出そう。そうでありたい新時代のスタートである。私たちは令和の傍観者ではない」と宣言したのならば、ミス放置という日経の悪癖を改める役割を率先して果たしてほしい。「傍観者」にならないと誓った武類編集局次長ならばできるはずだ。


※今回取り上げた記事「新時代の日本へ(4)革新に『満点』いらない
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190505&ng=DGKKZO44437590U9A500C1EA2000


※記事の評価はC(平均的)。武類雅典編集局次長への評価はCを据え置く。

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