2019年5月26日日曜日

「政敵」が首相を動かしてる? 日経 吉野直也記者「風見鶏」の問題点

日本経済新聞の政治コラム「風見鶏」の最大の問題点は、筆者の多くが「訴えたいこと」を持たずに記事を書いてしまうところだ。吉野直也記者もそうした筆者の1人だとこれまでも指摘してきた。26日の朝刊総合3面に載った「指導者を動かす政敵たち」という記事でも、その傾向は変わっていない。
一松邸(大分県杵築市)※写真と本文は無関係です

今回は後半部分から見ていこう。

【日経の記事】

「安倍1強」と言われる日本はどうか。今夏の参院選と併せて衆院選をする衆参同日選の観測が浮かぶのも、政敵の存在と無縁ではない。

安倍晋三首相の政敵の1人は衆院の野党第1党、立憲民主党の枝野幸男代表だ。首相側は野党が内閣不信任決議案を提出すれば、衆院を解散する大義に「当然なる」(菅義偉官房長官)と言い切る。

衆院を解散する場合、首相側が問うのは主に(1)消費税増税による全世代型社会保障の実現(2)憲法改正論議の推進――の2つとされる。

首相は野党党首として臨んだ12年衆院選を含め国政選挙で5連勝中だ。一方で第1次政権時代の07年参院選で惨敗し、退陣に結びついたことへの苦い記憶がある。

衆参同日選構想に通底するのは参院選で票を集めやすくなるとの期待だ。野党が衆参で統一の候補や比例名簿をつくるのは簡単でない。自民党が相対的に優位な情勢だ。

政敵は野党だけではない。自民党では総裁選で2度戦った石破茂氏が政敵とみなされている。首相側には石破氏がポスト安倍の最有力候補になるのを歓迎しない空気がある。

新元号「令和」の発表により、知名度が上昇した菅氏がポスト安倍の有力候補に急浮上したのは、この空気と関係する。石破氏と比べて岸田文雄政調会長らが有利な立場にはないとの認識も背景にある。

与党で3分の2を有する衆院を解散し、参院選との同日選に進むのか、参院選で勝てるとみれば、衆院解散は見送るのか。

世界の指導者の決断を探るうえで政敵たちの動きからも目が離せない


◎「政敵」が動かしてる?

今回の記事のテーマは「指導者を動かす政敵たち」だ。しかし、記事を読んでも「安倍晋三首相の政敵」が首相を動かしているようには見えない。「指導者を動かす政敵」に最も近いのは「立憲民主党の枝野幸男代表」か。
早稲田アリーナ(東京都新宿区)※写真と本文は無関係

ただ「動かす」感じは乏しい。「安倍晋三首相」は衆院解散に消極的だったのに「枝野幸男代表」が「内閣不信任決議案を提出」しようとする中で解散やむなしと心変わりしたのはらば分かる。しかし「枝野幸男代表」は不信任案提出に関しては「白紙」と言っているようだ。

衆参同日選構想に通底するのは参院選で票を集めやすくなるとの期待」であれば「枝野幸男代表」が動いたから「衆参同日選の観測が浮かぶ」とも言い難い。

もう1人の「石破茂氏」に関しては、記事を読む限り首相を動かしている気配さえ感じられない。「首相側には石破氏がポスト安倍の最有力候補になるのを歓迎しない空気がある」などとは書いているが「石破氏」の動きには全く触れていない。

それでいて「世界の指導者の決断を探るうえで政敵たちの動きからも目が離せない」と結論を導いている。この結びで着地させるならば、せめて「政敵たち」が「指導者を動かす」様子をしっかり描いてほしい。

さらに言えば「世界の指導者の決断を探るうえで政敵たちの動きからも目が離せない」のは吉野記者でなくても分かる当たり前の話だ。ベテランの政治記者が長々と政治について語った末の結論がこれでは辛い。

訴えたいことがないのに「風見鶏」の順番が回ってきて、苦し紛れに記事を書いているのだとは思う。それにしても、長く政治の世界を見てきて「世界の指導者の決断を探るうえで政敵たちの動きからも目が離せない」といった言わずもがなの結論しか捻り出せないものなのか。そこが残念だ。

ついでに前半部分にも1つ注文を付けておく。

【日経の記事】

指導者の思考や判断は往々にして政敵たちに影響されやすい。制裁の応酬が激しくなり、世界経済を揺るがす米中貿易戦争もその文脈でとらえられる。

中略)トランプ氏にとって来年の大統領選で戦うかもしれないバイデン氏ら民主党候補は政敵になる。トランプ氏のバイデン氏たたきは自然な流れだが、これは中国には不運な展開だ。

バイデン氏の中国に理解を示したかのような発言により、トランプ氏が中国に融和的な姿勢を取るのが難しくなったからだ。

敵の敵は味方だが、敵の味方は敵になる――。バイデン氏というトランプ氏の政敵要素が加味されたことで、米中貿易戦争の行方は一段と読みにくくなった



◎「読みにくく」なる?

バイデン氏の中国に理解を示したかのような発言により、トランプ氏が中国に融和的な姿勢を取るのが難しくなった」のならば「米中貿易戦争の行方」は読みやすくなったのではないか。

トランプ氏」は「米中貿易戦争」で中国に対して元々が強気だ。「バイデン氏」の「政敵要素」で「トランプ氏が中国に融和的な姿勢を取るのが難しくなった」とすると「トランプ氏の強硬姿勢は崩れない」と読めばいいのではないか。

強弱2つの要素がぶつかるのならば「読みにくくなった」と言うのも分かるが、そうはなっていない。「融和的な姿勢を取る」可能性が減退しているだけだ。


※今回取り上げた記事「風見鶏指導者を動かす政敵たち
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190526&ng=DGKKZO45230940U9A520C1EA3000


※記事の評価はD(問題あり)。吉野直也記者への評価はDを維持する。吉野記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

トランプ氏の発言を不正確に伝える日経 吉野直也記者
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/05/blog-post_7.html

トランプ大統領「最初の審判」を誤解した日経 吉野直也次長
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/03/blog-post_13.html

日経 吉野直也記者「風見鶏~歌姫がトランプ氏にNO」の残念な中身
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/no.html

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