2019年5月20日月曜日

株安でも「根拠なき楽観」? 日経 大林尚上級論説委員「核心」

日本経済新聞の大林尚上級論説委員が20日朝刊オピニオン面に「核心~令和財政 大戦時より深刻 改革棚上げ楽観のツケ」という苦しい記事を書いている。記事を見ながら問題点を指摘してみたい。
震動の滝(大分県九重町)
       ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】  

平成バブル経済を視覚に訴える定番にジュリアナ東京の映像がある。お立ち台で羽根つき扇子をふり回すボディーコンシャス姿は、往時を知らぬ世代の間である種の憧れをもって語られることがある。

しかし、このディスコが東京湾岸に開業したのは、バブル頂点から1年半になろうという1991年5月だ。同月の日経平均株価は2万5千円台。89年大納会の最高値より1万3千円下がっていた。余談ながら「お立ち台」が新語・流行語大賞に入ったのは、さらにその2年後。バブルの余韻と言えばもっともらしいが、日本経済はすでに奈落に沈みつつあった。根拠なき楽観である



◎「根拠なき楽観」?

なぜ「根拠なき楽観である」と断定しているのか謎だ。「同月の日経平均株価は2万5千円台。89年大納会の最高値より1万3千円下がっていた」のならば、株式市場に「根拠なき楽観」は感じられない。

さらにその2年後」の93年であれば「バブルが崩壊した」との認識が十分に広がっていた。就職氷河期が始まった頃でもある。大林上級論説委員はあの頃の日本社会の雰囲気を忘れてしまったのか。

「『お立ち台』が新語・流行語大賞に入った」のはその通りだろうが、だからと言って社会が「根拠なき楽観」に包まれていたとは言い難い。

記事の続きを見ていこう。

【日経の記事】

この頃の首相は経済運営の第一人者をもって任ずる宮沢喜一氏。92年夏、軽井沢にいた宮沢氏は孤立無援を味わっていた。自民党のセミナーで「必要なら公的関与をすることにやぶさかではない」と話したためだ。膨大な不良債権を抱えた大手銀行に公的資金を資本注入する必要性をにおわせた発言だった。

のちに宮沢氏は書き残している。「大蔵省は『変なことを言ってもらっては困る』という態度だ。銀行の頭取は『冗談じゃない。うちはそんな変な経営状態ではない』と思っている。経済界も『銀行にカネを出すなんて』と反発した。経団連の平岩外四会長は『そんなことは考えることもできません』とけんもほろろだった」(2006年4月26日付本紙「私の履歴書」)



◎みんな「軽井沢にいた」?

92年夏、軽井沢にいた宮沢氏は孤立無援を味わっていた」というが、どうも怪しい。「膨大な不良債権を抱えた大手銀行に公的資金を資本注入する必要性をにおわせた発言」をした段階では「孤立無援」かどうかは分からなかったはずだ。
長崎湾(長崎市)※写真と本文は無関係です

それとも「大蔵省」の幹部も「銀行の頭取」も「経団連の平岩外四会長」も「自民党のセミナー」に出席していて「宮沢氏」の意見に反対を表明したのだろうか。そもそも「自民党のセミナー」での発言なのに、党内で「孤立無援」だったと取れる説明が出てこない。これで「軽井沢にいた宮沢氏は孤立無援を味わっていた」と言われても信用する気にはなれない。

さらに続きを見ていく。

【日経の記事】

将来に発生が想定される重大な危機をあらかじめ防ぐ難しさを如実に表した、じつに貴重な証言である。

危機予防策の立案・実行はなぜ日の目を見にくいのか。3枚のカベが考えられる。

(1)当事者の意識欠如=予防策によって不利益を被る現在の関係者が一斉に反発する

(2)想像力の乏しさ=予防策はコストを伴う。それが危機発生による将来の損失より小さいという事実に現在のコスト負担者が思い至らな

(3)損な役回り=よしんば予防策を発動して危機封じ込めに成功したとしても、恩恵を受ける将来の人びとには何も起こらないのが当然と映る。苦労して策を講じた先人の功績は、後生に素通りされる

案の定、90年代半ば以降は金融機関の経営破綻が続出した。92年度からの10年間に不良債権処理に費やしたコストは累計90兆円規模に及んだ。

この問題にかぎらず、日本人が体験してきた危機には、根拠なき楽観や予防策への無理解が遠因になったものが少なからずある。その観点もふまえて明治期以降の国家財政を振り返ってみたい。


◎計算はできてる?

予防策はコストを伴う。それが危機発生による将来の損失より小さい」例として「宮沢氏」の話を持ち出したのだろう。しかし、損得を計算できているのかという問題がある。「92年度からの10年間に不良債権処理に費やしたコストは累計90兆円規模に及んだ」と大林上級論説委員は言うが、92年の段階で「公的関与」をした場合にどうなっていたかの試算がない。

例えば、早めに「公的資金」を10兆円入れれば公的な負担はこれだけで済んだが、実際には50兆円に負担が膨らんだといった計算ができているのならば分かる。しかし大林上級論説委員は「コストは累計90兆円規模」と書いているだけだ。

しかも、これは公的な負担の金額ではないだろう。金融機関の「コスト」が膨らんだとしても「公的資金」の負担が少ない方が良いという考えは成り立つ。また92年の段階で「公的資金」を投入していれば危機を未然に防げていたとの保証もない。

この問題は大林上級論説委員が考えるほど単純ではない。そもそも「予防策」に含めてよいのかとの疑問も残る。「膨大な不良債権を抱えた」状態にあったのならば、「予防策」と言うより既に起きてしまった問題への対処ではないのか。

大林上級論説委員は「予防策への無理解」を嘆くが、この問題を大林上級論説委員が正しく「理解」しているとも思えない。


※今回取り上げた記事「核心~令和財政 大戦時より深刻 改革棚上げ楽観のツケ
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190520&ng=DGKKZO44941220X10C19A5TCR000


※記事の評価はD(問題あり)。大林尚上級論説委員への評価はF(根本的な欠陥あり)を維持する。大林氏については以下の投稿も参照してほしい。

日経 大林尚編集委員への疑問(1) 「核心」について
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_72.html

日経 大林尚編集委員への疑問(2) 「核心」について
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/06/blog-post_53.html

日経 大林尚編集委員への疑問(3) 「景気指標」について
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post.html

なぜ大林尚編集委員? 日経「試練のユーロ、もがく欧州」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_8.html

単なる出張報告? 日経 大林尚編集委員「核心」への失望
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/10/blog-post_13.html

日経 大林尚編集委員へ助言 「カルテル捨てたOPEC」(1)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/12/blog-post_16.html

日経 大林尚編集委員へ助言 「カルテル捨てたOPEC」(2)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/12/blog-post_17.html

日経 大林尚編集委員へ助言 「カルテル捨てたOPEC」(3)
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/12/blog-post_33.html

まさに紙面の無駄遣い 日経 大林尚欧州総局長の「核心」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/04/blog-post_18.html

「英EU離脱」で日経 大林尚欧州総局長が見せた事実誤認
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_25.html

「英米」に関する日経 大林尚欧州総局長の不可解な説明
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/03/blog-post_60.html

過去は変更可能? 日経 大林尚上級論説委員の奇妙な解説
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/08/blog-post_14.html

年金に関する誤解が見える日経 大林尚上級論説委員「核心」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/11/blog-post_6.html

今回も問題あり 日経 大林尚論説委員「核心~高リターンは高リスク」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_28.html

日経 大林尚論説委員の説明下手が目立つ「核心~大戦100年、欧州の復元力は」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/100.html

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