2019年5月13日月曜日

ライドシェア「米2強上場が試金石に」が苦しい日経 小柳建彦編集委員

13日の日本経済新聞朝刊企業面に載った「経営の視点~ライドシェアは成り立つのか 米2強上場が試金石に」という記事は悪い出来ではない。同じ小柳建彦編集委員が書いた「経営の視点」でも、2018年9月17日付の「37億人のネットに『国境』 大手失策、国家の反撃招く」という記事よりかなり良くなっている。とは言え、気になるところはある。
別府海浜砂場(大分県別府市)
        ※写真と本文は無関係です

記事の終盤で小柳編集委員は以下のように書いている。

【日経の記事】  

利用者が多いほど利便性が増し競争優位になる効果が期待できるため目先の損益より顧客獲得優先――というのが将来価値を見込んで市場が赤字のインターネット企業に高い株価を付ける理屈だ。だが、ライドシェアには当てはまらないという指摘は多い。

コロンビア大経営大学院のレン・シャーマン客員教授はライドシェア業界が参入障壁が低く、行政による参入・料金規制がない限り過当競争で利益が出なくなるタクシー業界と「同じ構造だ」と指摘する。このため「自動運転の実用化まで利益は出ない」(米投資家)との声さえある。一方、参入・料金規制、労働規制が適用されれば競争条件はタクシーと同じ。欧米でドライバーを被雇用者とみなす判決が相次いでおり、現実的なシナリオだ。

利用者、ドライバー、会社、投資家の全員が「ウィンウィン」だとするライドシェアの事業モデルは、そもそも本当に成り立ち得るのか。上場後の米大手2社の業績と株価の動きがメルクマールになる



◎「メルクマールになる」?

まず「このため『自動運転の実用化まで利益は出ない』(米投資家)との声さえある」との説明が引っかかる。「ライドシェア業界が参入障壁が低く、行政による参入・料金規制がない限り過当競争で利益が出なくなる」構造だとしたら、「自動運転の実用化」ができても「利益は出ない」だろう。問題は「参入障壁」の低さのはずだ。

1社だけが「自動運転の実用化」を実現した状態で事業展開できるのならば話は別だが、そうした状況は考えにくい。

利用者、ドライバー、会社、投資家の全員が『ウィンウィン』だとするライドシェアの事業モデルは、そもそも本当に成り立ち得るのか」という問題に関して「上場後の米大手2社の業績と株価の動きがメルクマールになる」と小柳編集委員は解説している。

しかし「メルクマール」にはならない気がする。例えば「米大手2社」の業績が絶好調で株価も急上昇したとしよう。この場合「利用者、ドライバー、会社、投資家の全員が『ウィンウィン』」と言えるだろうか。「会社、投資家」は問題ない。だが「利用者、ドライバー」に関しては「業績と株価の動き」だけでは判断できない。

料金を上げて「利用者」の負担を増やした上で「ドライバー」をこき使い「業績と株価」を上向かせたのかもしれない。なのになぜ「上場後の米大手2社の業績と株価の動きがメルクマールになる」のか。

何を訴えたいかを十分に検討せずに記事を書き始め、結論部分は流れに任せて適当に書いたのではないか。その辺りを改善すれば、さらに完成度が高まるはずだ。

ついでに言うと「メルクマール」という横文字を使う必然性は乏しい。どうしても使うならば訳語は入れてほしい。個人的には「その答えは、上場後の米大手2社の業績と株価が教えてくれるはずだ」と直したい(「教えてくれる」とは思わないが、そこは置いて考えた)。見出しでは「米2強上場が試金石に」となっているので「試金石」を使う手もある。


※今回取り上げた記事「経営の視点~ライドシェアは成り立つのか 米2強上場が試金石に
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190513&ng=DGKKZO44688460R10C19A5TJC000


※記事の評価はC(平均的)。小柳建彦編集委員への評価はD(問題あり)からCへ引き上げる。小柳編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「インドの日本人増やすべき」に根拠乏しい日経 小柳建彦編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/04/blog-post_32.html

北朝鮮のネット規制は中国より緩い? 日経 小柳建彦編集委員に問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/09/blog-post_17.html

0 件のコメント:

コメントを投稿