2019年5月8日水曜日

おばあさん以外は「脇役」? 日経 武類祥子生活情報部長に異議

8日の日本経済新聞朝刊総合2面に載った「新時代の日本へ(6)主役はおばあさん」という記事に大きな問題は見当たらない。論旨もしっかりしている。ただ、その主張には同意できなかった。
大分県別府市 ※写真と本文は無関係です

筆者の武類祥子生活情報部長は以下のように記事を書いている。

【日経の記事】 

まだ見ぬ未来を憂うのは新時代の始まりにはふさわしくないかもしれない。ただ令和のこれからに思いをはせると、私たちが直面するシビアな現実が、いや応なしに浮かんでくる。少子高齢化、そして人口減少が本番を迎える時期と、令和は丸ごと重なるからだ。

2018年、総人口に占める高齢者の割合は28.1%になった。「令和の年表」をめくってみれば、24年の終わりには800万人いる団塊の世代が全員75歳以上になり、高齢者の高齢化が加速度的に進んでいく。

高齢者人口がピークを迎える42年、そして75歳以上人口が最大となる54年に向け、これから数十年の間、私たちは超高齢化の荒波を受け続けることになる。医療や介護の必要なお年寄りが激増し、支えるのに必要なお金も膨張していく。

その中で存在感を増していくのが高齢女性、つまりおばあさんたちだ。

長寿化を反映し、65歳以上の女性は18年、初めて2000万人を超えた。総人口の16%を占め、同世代の男性を500万人近く上回っている。そして今世紀の半ばには、日本人の5人に1人が高齢女性になる。そう、令和の主役はおばあさんなのだ

だが彼女たちが置かれた現状は、現時点では厳しいと言わざるを得ない。現在、要介護認定を受けている高齢者の7割近くが女性だ。健康寿命と平均寿命の差で示される不健康な期間も、男性より3年以上長い。

経済状況も明るくはない。男女の賃金格差は昔よりは縮まってきたものの、今でも男性の7割程度にとどまっている。

この格差を引きずったまま、高齢期を迎える女性は少なくない。65歳以上の就業率は男性の33.2%に比べ、女性は17.4%にとどまり、約16ポイントも低い。夫との離死別で一気に貧困に陥る問題も指摘されている。


◎他は脇役?

まず「令和のこれからに思いをはせる」上で日本人を「主役」とそれ以外に分ける必要があるのかとの疑問は感じた。武類部長の考えでは「令和の主役はおばあさん」で、おじいさん、おじさん、おばさん、若者は脇役なのだろう。

日本全体を考える上で、年齢や性別で区切って主役と脇役に分けることに個人的には抵抗がある。例えば武類部長が働く日本経済新聞社では、20代、30代、40代、50代で男女別に分けると50代男性が最大勢力となるはずだ。だからと言って「日経の主役は50代男性」と打ち出す意味があるのか。年代、男女の区別なく「主役」として頑張ってもらうべきではないのか。

さらに言えば「今世紀の半ばには、日本人の5人に1人が高齢女性になる」から「令和の主役はおばあさん」という考えにも同意できない。どうしても「主役」を決める必要があるならば、「令和」の日本を引っ張ってくれる人たちを選びたい。「人数が多い=主役」という基準は採用したくない。

おじいさん、おばあさん、おじさん、おばさん、若者の5つに分けて、その中から必ず「主役」を選べと言われたら、個人的には「若者」を推したい。

記事の後半部分も見ておこう。

【日経の記事】

だからこそ、おばあさんの活力を引き出すことが、令和の日本を明るくする。そう実感させてくれるのが、超高齢プログラマーとして知られる若宮正子さん(84)だ。

高卒で銀行に就職し、62歳まで働いた。リタイア後、母の介護で孤独になるのを防ぐため、60代でパソコンを始めた

プログラミングを独学で習得し、シニア向けのゲームアプリを作って、米アップルのティム・クック最高経営責任者(CEO)から称賛された。国連にも招待され、英語で堂々とスピーチするその姿は、世界を驚嘆させた。

「いくつになっても進化できる」が持論の若宮さんは、82歳で個人事業主に。長年、年金暮らしだったが所得税を納める立場になった。「稼いだ分は、シニアのIT(情報技術)力向上に使います」とほほ笑む。

先進国の多くで平均寿命は80歳を超え、高齢化のトップランナーである日本の行く末を見守っている。

令和の日本を象徴する高齢女性が、与えられた長寿を存分に謳歌する。そんな幸せそうなおばあさんたちの姿を、世界の人々も見たいに違いない。



◎特殊な事例を持ち出しても…

若宮正子さん(84)」は立派な人なのだろう。だが、それを見て「おばあさんの活力を引き出すことが、令和の日本を明るくする」と言われても困る。日本の「おばあさん」の半分以上が「若宮正子さん」を超える潜在的な能力を持っているとしたら、「おばあさんの活力を引き出す」やり方が有効かもしれない。

しかし「プログラミングを独学で習得」できるような「60代」は多くないだろう。仮に「習得」できても、現役世代と伍していけるだけのレベルに達するとは限らない。「『若宮正子さん』にできたのだから、他のおばあさんにもできるはず」と武類部長が考えているのならば、あまりに楽観的だ。

「そうは思っていない」と言うのならば、何のために「若宮正子さん」の事例を持ち出したのかという話になる。

高齢女性が、与えられた長寿を存分に謳歌する」のはもちろん好ましい。だが、それを実現するための方策が、みんなで「若宮正子さん」を目指すものならば、現実的な策とは言い難い。


※今回取り上げた記事「新時代の日本へ(6)主役はおばあさん
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190508&ng=DGKKZO44504230Y9A500C1EA2000


※記事の評価はC(平均的)。武類祥子 生活情報部長への評価はCを維持する。武類部長に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「日経 武類祥子次長『女性活躍はウソですか』への疑問」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/10/blog-post_79.html

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