2018年10月8日月曜日

記事の手抜きが過ぎる週刊ダイヤモンド新井美江子記者

週刊ダイヤモンドの新井美江子記者はこんな手抜き記事を書いて、書き手としての良心が痛まないのか。10月13日号の「1両1000万円のコスト減に成功!~JR傘下で覆した電車の常識」という記事は、厳しく言えば読者への騙しだ。
九重"夢"大吊橋(大分県九重町)
       ※写真と本文は無関係です

見出しからは「電車の常識」を覆すようなコスト削減策が最近になって実現したような印象を抱くはずだ。しかし、記事の内容を見るとかなり怪しい。

記事の全文を見た上で具体的に指摘したい。

【ダイヤモンドの記事】

東日本旅客鉄道(JR東日本)100%子会社の車両メーカー、総合車両製作所(J-TREC)には今、思わず笑みがこぼれる商品がある。次世代ステンレス車両「sustina(サスティナ)」だ。

2012年9月にブランドを立ち上げて以来、JR山手線や東急田園都市線、都営浅草線などの新型車両に採用が拡大。16年度に50両超、17年度に250両超と、車両製造数を急増させているのだ。

9月4日にJR東日本が発表した横須賀・総武快速線用の745両の新造車両にも採用が見込まれており、製造数は18年度以降もしばらく順調に伸びそうである。

実はこのサスティナ、電車界の常識を打ち破る商品だ。

電車には、飛行機や自動車と違って、長らく当たり前ではなかったことがある。製造における共通プラットフォームの構築だ。電車は、各鉄道会社で差別化へのこだわりが強い。そのため、顧客ごとのニーズに細かく対応することこそ車両メーカーの使命とされ、なかなか実現に至っていなかった。

オーダーメードでも、利益さえ出れば車両メーカーとしては問題ない。しかし、電車は1モデルにつき数両の発注もあり得る典型的な多品種少量生産の製品で、もともと量産効果を出しにくい。何より、国内の車両メーカーの合計供給能力が需要の約1.5倍に上り、価格競争が激化していた。

「過当競争をどう勝ち抜くか」(宮下直人・J-TREC社長)。この状況に風穴をあけるための戦略ブランドこそサスティナなのだ。

誕生のきっかけは、J-TRECの前身である東急車輛製造のJR東日本傘下入りだ。JR東日本の在来線は、JR発足後に導入した新型車両だけで約8000両もある。この大量の車両製造を担うとともに、私鉄の車両も受注。それらに共通のプラットフォームを敷けば、部品の共通化により製造コストを大幅削減できるはず──。この思惑を形にしたわけだ。

実際にサスティナの車両は、ボディーや制御装置などを共通化することで、オーダーメード車両より1車両当たりおおむね1000万円も安く造れるというからコスト効果はばかにできない。モデルごとの差別化は、車両の“顔”と、ボディーのラッピングを変えることで対応。内装もオプションでパーツ等の変更を可能にした。

こうすることで、鉄道会社は差別化された車両を安値で調達できるし、部品メーカーは共通部品を大量納入できる。J-TRECの生産効率も著しく上がった。同型車両を造り続ければいいので工場の仕様変更の必要がない上、習熟度が上がりやすいからだ。

競合メーカーによる安値攻勢は熾烈化するばかりだが、鉄道製造に“共通化”を持ち込んだJ-TRECは一つの解を見つけたともいえる

◇   ◇   ◇

問題点を列挙してみる。

(1)いつ「電車界の常識」を打ち破った?

記事では「実はこのサスティナ、電車界の常識を打ち破る商品だ」と書いているが、いつ「常識」を打ち破ったのか明示していない。「2012年9月にブランドを立ち上げ」た段階で「共通のプラットフォーム」を用いていたとすれば、それが「電車界の常識を打ち破る」試みであったとしても、6年も前の話だ。「1両1000万円のコスト減に成功!~JR傘下で覆した電車の常識」と今になって打ち出す意味はない。
長崎港(長崎市)※写真と本文は無関係です

誕生のきっかけは、J-TRECの前身である東急車輛製造のJR東日本傘下入りだ」とも書いている。これも「2012年」の話なので、「1両1000万円のコスト減に成功」したのはこの頃と判断するのが自然だ。だとすれば、なぜ今頃になって記事にしたのか。

推測だが、書くことに困って苦し紛れに手抜き記事で誌面を埋めたのではないか。話が古過ぎるという後ろめたさがあるので「電車界の常識」を打ち破った時期を曖昧にしたと考えれば納得できる。

2012年に立ち上げたブランドを「次世代ステンレス車両『sustina(サスティナ)』」と書いてしまうところにも「ごまかし」を感じる。どこが「次世代」なのか。バリバリの現役世代ではないのか。


(2)「共通化」はJ-TRECの専売特許?

実はこのサスティナ、電車界の常識を打ち破る商品だ」「競合メーカーによる安値攻勢は熾烈化するばかりだが、鉄道製造に“共通化”を持ち込んだJ-TRECは一つの解を見つけたともいえる」と書いてあると、「鉄道製造」における「共通化」は「J-TREC」だけがやっていると思ってしまう。しかし違うようだ。

7月9日付で東洋経済オンラインに大坂直樹記者が書いた「山手線の『兄弟』を続々と生むメーカーの実力 JR東日本の子会社、『通勤車両』で得意技光る」という記事では以下のように説明している。

【東洋経済オンラインの記事】

自動車業界などで見られるプラットホーム戦略とは、車体の基本部分の仕様をできるだけ共通化することによってコスト削減を図る取り組みだが、この動きが鉄道業界にも波及している。海外の大手メーカーは、独シーメンスの「デジロ」「ベクトロン」、仏アルストムの「コラディア」などのように共通プラットホームを持つ標準車両をブランド化して鉄道事業者に売り込んでいる。

J-TRECも自社の標準車両を「sustina(サスティナ)」というブランドで営業展開している。同社はステンレス製車両を得意としているため、JIS(日本工業規格)でステンレス鋼材の材料記号を意味する「SUS」と、英語で「維持しやすい」を意味する「sustainable」にちなんだという。

日立製作所や川崎重工業も自社の標準車両にブランド名をつけて、鉄道事業者に売り込んでいる標準車両をベースに開発することにより開発費用を低減できるという点では各社共通だが、サスティナの場合は、JR東日本の車両保守のノウハウをふんだんに活用して、導入後のランニングコストも削減できるのが強みだ。

◇   ◇   ◇

この記事が大筋で正しければ、「鉄道製造」の世界で「共通化」は珍しくない。海外メーカーだけでなく「日立製作所や川崎重工業も自社の標準車両にブランド名をつけて、鉄道事業者に売り込んでいる」。

結局、「共通化」は新しいトレンドでも「J-TREC」独自の取り組みでもないのだろう。仮に「J-TREC」の「共通化」に他社にはない独自性があるのならば、そこを掘り下げるべきだ。


(3)本当に「解を見つけた」?

最後に細かい点を指摘しておきたい。「1車両当たりおおむね1000万円も安く造れるというからコスト効果はばかにできない」と新井記者は書いているが、「1車両当たり」の販売価格がどの程度か分からないと「1000万円」の評価が難しい。何%のコスト削減になるかは欲しいところだ。

記事では「鉄道会社は差別化された車両を安値で調達できる」とも書いているので、「サスティナ」は低コストだが価格も低いはずだ。「1000万円も安く造れる」としても、価格も同じように低くなるのならば「競合メーカーによる安値攻勢は熾烈化するばかりだが、鉄道製造に“共通化”を持ち込んだJ-TRECは一つの解を見つけた」とは言い難い。

コスト削減効果の方が値引き額を上回ると言えるのならば、その状況を新井記者は伝えるべきだ。そもそも「共通化」が業界共通の動きならば「競合メーカーによる安値攻勢」から逃れる「」になるはずもないが…。


※今回取り上げた記事「1両1000万円のコスト減に成功!~JR傘下で覆した電車の常識
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/24724


※記事の評価はD(問題あり)。新井美江子記者への評価もDを据え置く。

0 件のコメント:

コメントを投稿