2018年10月21日日曜日

日経ビジネス「世代論を排除する必要はない」に異議あり

日経ビジネス10月22日号の特集「働き方改革 やる社員 やらない社員 悪いのは、ミドルか現場かベテランか」では「世代論には否定的な見方もあるが主要諸国を見渡すと似たような考え方は存在する」「今、日本企業は、あらゆる知見を動員して働き方改革を成し遂げねばならない時期に来ている。その知見から、世代論を排除する必要はない」と「世代論」の有効性を訴えている。しかし「PART 2~抵抗勢力別 働き方改革攻略法 鍵は『階層間の相性』」という記事を読んでも、「世代論」の必要性は感じられなかった。
上人ケ浜公園(大分県別府市)
      ※写真と本文は無関係です

記事を見ながら、その理由を述べていく。

【日経ビジネスの記事】

働き方改革のネックは特定の年代でなく、全階層が抵抗勢力になっている可能性がある。状況を打開するには、改革を妨げている抵抗勢力ごとに細かく対策を練ることが必要だ。その鍵は階層間の相性の有効活用。成功企業の事例からはそんな事実が浮かび上がる。

「成功体験にこだわり、新しい価値観を受け入れない」──。働き方改革を進める中で、一部ベテラン社員からそんな抵抗を受けたお佛壇のやまき(PART1 仮説1参照)。同社がその後、どうしたかといえば、「社員の離反を恐れず、とにかく改革を推し進めた」だった。

改革の必要性を繰り返し訴え定時退社を迫る浅野社長を見て、その意志が固いことを知った抵抗勢力の多くは結局、退職。売り上げを支えてきたベテラン社員を失い、社内には一時不安が広がった。

しかし、浅野社長の改革を歓迎した勢力もあった。若手社員だ。接待を中心とする外交営業ではなく、店舗の魅力で商品を売ろうと、接客や店舗づくりのアイデアを募る「ホスピタリティ会議」を設置。会議で決まったアイデアは必ず実施するとした。そうした結果、社員の労働時間を大幅に削減するなど働き方改革を進めながら、県内仏壇販売シェア1位の座をその後も維持することに成功する。


◎「世代論」は要らないような…

働き方改革を進める」上で必要なのが「とにかく改革を推し進め」ることならば、「世代論」を考慮する必要はない。「全階層が抵抗勢力になっている可能性がある」のだから、とにかく「改革」をやるだけだ。「やまき」の事例は「世代論を排除」しても問題ないと教えているのではないか。

浅野社長の改革を歓迎した勢力もあった。若手社員だ」というのも引っかかる。特集では「全階層が抵抗勢力になっている可能性がある」と訴えている。しかし、「やまき」の「若手社員」は「抵抗勢力」になっていないようだ。

「例外はある」と担当者らは言うかもしれない。だとすると「世代論」に囚われない方が正しい判断ができそうだ。要はケースバイケースではないのか。

2番目の事例に移ろう。

【日経ビジネスの記事】

「享楽主義で、面倒な改革には消極的」──。そんな中間管理職などの一部抵抗勢力への対策として参考になるのがコニカミノルタジャパン(PART1 仮説3)のその後だ。

「保管文書ゼロ化」が難航した同社の対策を簡単に言えば、「改革の実行役を、ミドルより下の現場のリーダー格にした」だ。各部署に改革の実行役を選出。ペーパーレス化までのプラン作りや部署内での働きかけなど具体的な改革を一任したのだ。

既に指摘したように、この年代には、リスク回避優先思考の人がいる一方で、逆境にさらされてきたがゆえ、強い自立・開拓精神を持つ有能な人材もいるとされる(PART1 仮説5)。「改革の実行役として適任な人材が含まれている」と評価するのはリクルートワークス研究所の豊田主幹研究員だ。

コニカミノルタジャパンではさらに一工夫し、実行役の“ご意見番”として、1度会社を退いたベテランを改革担当の専任者として再雇用した。一般論としては、上下の階層と相性が悪いといわれる現場のリーダーたちだが(PART1 仮説5)、「一昔前のベテランとは親和性がある」(豊田主幹研究員)という。「年齢差的に親子関係であることもあって、強い競争意識と高い勤労意識を持つ一昔前のベテラン層と、強い危機感で現状打開に励む現場のリーダー層は、考え方に共通する部分が少なくない」(同)からだ。

こうして自分たちに理解のある後ろ盾を得たためだろう、コニカミノルタジャパンの実行役たちは、ミドルをも巻き込み、「保存文書の仕分け」「作った紙文書を電子化するルール作り」「不要文書の廃棄」と改革を断行。積み上げれば4564mと富士山より高くなるほどだった書類の約86%を削減するのに成功した。今も保管文書ゼロを維持しているという。



◎辻褄が合わないような…

一昔前のベテラン層」に関して、今回の特集では「苦労=美徳の価値観」「成功体験への固執」が目立ち、改革への抵抗勢力になってきたと説明していた。そんな人たちがなぜ「改革担当の専任者」として役目を果たせるのか。「強い危機感で現状打開に励む現場のリーダー層」の邪魔をすると考えるのが自然だ。
九重"夢"大吊橋(大分県九重町)※写真と本文は無関係です

年齢差的に親子関係」になると急に「苦労=美徳の価値観」や「成功体験への固執」が消えるのか。それとも「一昔前のベテラン層」にも例外はいるという理由で片付けるのか。

この年代には、リスク回避優先思考の人がいる一方で、逆境にさらされてきたがゆえ、強い自立・開拓精神を持つ有能な人材もいる」との説明も「世代論」の苦しさを表している。「リスク回避優先思考の人がいる一方で、逆境にさらされてきたがゆえ、強い自立・開拓精神を持つ有能な人材もいる」のは20代でも80代でも同じだ。どちらか一方のタイプしかいない「世代」などあるのか。

強い自立・開拓精神を持つ有能な人材」を選んで改革を任せるのが上策ならば、やはり「世代論」は排除していい。結局、「世代」に関係なく「有能な人材」を探すしかない。A世代は「有能な人材」が8割いてB世代は1割だとしても、「世代論」を重視してA世代を重用する必要はない。それぞれの世代の「有能な人材」を選べば済む話だ。

個人的には「世代論には否定的」なタイプだ。それは役に立ちそうもないからだ。

今回の特集で担当者らは「各年代に生まれた全ての人が同じ気質を持つと主張しているわけではありません。年代の分類方法は諸説あり、特集で提示した分類は数ある仮説の一つにすぎません」と前置きしていた。

例外が数多くある上に「仮説の一つ」に過ぎない「世代論」を重視すべきだと主張する気持ちが理解できない。「今、日本企業は、あらゆる知見を動員して働き方改革を成し遂げねばならない時期に来ている」と特集では訴えているが、根拠の乏しい「知見」も「動員」すべきなのか。

自分が経営者だったら「世代」を考慮せず、人そのものを見て判断したい。人を見るより「世代」を重視した方が良い結果が得られるという明確な根拠がないのであれば「(活用すべき)知見から、世代論を排除」すべきだ。



※今回取り上げた特集「働き方改革 やる社員 やらない社員 悪いのは、ミドルか現場かベテランか
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/NBD/15/special/101601102/?ST=pc


※今回の特集に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「世代論」の守りは固めたが…日経ビジネス「働き方改革やる社員やらない社員」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/blog-post_20.html


※特集の評価はC(平均的)。担当者らの評価は以下の通りとする(敬称略)。

松浦龍夫(Cを維持)
古川湧(暫定D→暫定C)
広田望(暫定D→暫定C)
津久井悠太(D→C)


※古川記者、広田記者、津久井記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「労働生産性は先進国最下位」に関する日経ビジネスの回答
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/09/blog-post_39.html

0 件のコメント:

コメントを投稿