2018年10月27日土曜日

本庶氏への小野薬品の「反論」報道が映し出す日経の問題

27日の日本経済新聞朝刊企業面に「ノーベル賞『小野薬も貢献』 相良社長、本庶氏に反論」という記事が出ている。この件に関しては、過去の記事も含めた日経の報道姿勢に問題を感じる。まずは今回の記事の一部を見ていこう。
由布岳(大分県由布市)※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

小野薬品工業の相良暁社長は日本経済新聞社の取材に応じ、京都大学の本庶佑特別教授のノーベル生理学・医学賞の受賞について「先生の業績が患者に届くまでに我々の努力や貢献もあった。その過程に関われたことを喜ばしく思う」と話した。本庶氏の受賞が決まった後、相良社長がインタビューに応じるのは初めて。

 小野薬品などは本庶氏らの免疫細胞の研究成果をもとに画期的ながん免疫薬「オプジーボ」を生み出し、がん治療の常識を変えた。だが本庶氏は受賞を受けた1日の記者会見で「小野薬品は研究で全く貢献していない」と批判した経緯がある。

この批判に対して相良社長は「我々は基礎研究の段階でもいくつかの部分で貢献している。内容も京大と書面に明記している」と反論した。本庶氏が特許を取得する際にも様々な面で支援したという。


◎最初はなぜ無視した?

受賞を受けた1日の記者会見」について日経は2日付で「記者会見の一問一答」まで載せているのに「小野薬品は研究で全く貢献していない」との発言は省いている。「その時は重要な問題だと思わなかった」と言われれば、理解できなくもない。しかし2日付の日経産業新聞の「ノーベル賞の本庶氏と小野薬、オプジーボに22年の執念」という記事は理解に苦しむ。この中で筆者の高田倫志記者(企業報道部)は「本庶氏と小野薬」の蜜月ぶりを描いている。

記事には「オプジーボの成功は、本庶特別教授の研究をどこまでも信じ、しかも莫大な研究開発費をかけてタッグを組み続けた小野薬品の勝利だったともいえるだろう」「関西に地盤を置く企業とアカデミアの密接な共同研究の長い歴史。これこそがイノベーションを生み出す土壌となっていることは間違いない」といった説明が出てくる。高田記者は1日の記者会見での発言を知らずに記事を書いたのか。それとも、あえて無視したのか。いずれにしても問題がある。

2日付の日経の「ノーベル賞の本庶氏『基礎研究振興へ基金』」という記事では「ノーベル生理学・医学賞の受賞決定から一夜明けた本庶佑・京都大学特別教授(76)は2日午前、日本経済新聞社の単独インタビューに応じた」と書いているが、ここでも「小野薬品は研究で全く貢献していない」という発言の真意を聞いた形跡はない。

そして3日付の日経では「ビジネスTODAY~小野薬 粘りの自社開発 オプジーボを本庶氏と共同研究 重い負担、主流は買収」という記事で再び以下のように書いている。
長崎大学病院(長崎市)※写真と本文は無関係です

本庶氏の受賞決定を受けた2日、小野薬品の株価は前日比98円(3%)高の3308円に上昇した。本庶氏と二人三脚でがん免疫薬『オプジーボ」』を生み出し、成功したことで一躍注目が集まった。同社は『本庶佑先生と共同研究できた巡り合わせに感謝しています』と声明を出した

この段階でも日経としては「小野薬品は研究で全く貢献していない」との発言を無視して、小野薬品は「本庶氏と二人三脚」というストーリーを維持しようとしていたのだろう。

日経としては当初から「小野薬品」寄りで、「小野薬品」にとって不都合な発言は無視するとの判断をしたと推測できる。しかし本庶氏の発言が大きな問題となり、「小野薬品」としても無視できなくなってきたので、自社寄りの報道をしてくれるメディアを使って「反論」を始め、日経がそれに協力したと考えれば腑に落ちる。

本庶氏と小野薬品の関係が良くないことを日経は記者会見で知り得たはずだ。なのに、それを無視して記事を作るのは明らかにダメだ。受賞直後の日経の報道は「あえて事実を曲げて読者に伝えた」と批判されても仕方がない。

そして今回の記事だ。会見から1カ月近くが経過した段階で「小野薬品」の反論を記事にするのならば、どちらの言い分に分があるのか材料を提示すべきだ。

記事では本庶氏の言い分については「小野薬品は研究で全く貢献していない」という会見でのコメントのみ。小野薬品に関しても「相良社長は『我々は基礎研究の段階でもいくつかの部分で貢献している。内容も京大と書面に明記している』と反論した。本庶氏が特許を取得する際にも様々な面で支援したという」と記しているだけだ。

いくつかの部分」とは具体的には何なのか。「小野薬品は研究で全く貢献していない」と本庶氏が言い切る理由を小野薬品はどう考えているのか。その辺りに斬り込まないまま、記事は別の話題へ移ってしまう。結局、どちらの言い分に分があるのか、記事からは判断できない。

「いずれ発表になるネタを発表前に報じることにこだわる」→「記事が企業寄りになる(特に企業報道部)」→「報道内容に問題が生じる」--。日経が抱える構造的な問題が「小野薬品」を巡っても起きているのではないか。根本原因を断ち切らない限り、「日経の報道は企業寄りで歪みやすい」という傾向は変わらない気がする。


※今回取り上げた記事「ノーベル賞『小野薬も貢献』 相良社長、本庶氏に反論
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20181027&ng=DGKKZO37010000W8A021C1TJC000


※記事の評価はD(問題あり)

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