2018年10月6日土曜日

タイトルから問題あり 日経ビジネス特集「無定年時代」

日経ビジネス10月8日号の特集「『無定年』時代~年金激減後の働き方」には色々と問題を感じた。「『無定年』時代」というネーミングは不正確だし、「年金崩壊カウントダウン」と言う割に「年金崩壊」が起きそうな話は出てこない。瑣末な間違い指摘も含めて、以下の内容で問い合わせを送った。
平和祈念像(長崎市)※写真と本文は無関係です

【日経BP社への問い合わせ】

日経ビジネス編集部 田村賢司様 武田安恵様 吉岡陽様

10月8日号の特集「『無定年』時代~年金激減後の働き方」についてお尋ねします。この中の「定年が近づく前に確認しよう あなたの老後生活 健全度チェック」という記事に以下の記述があります。

まずは定年時点で、退職金と合わせて貯蓄が3000万円以上あるか確認したい。そして次に、年金、再雇用後の給料など、定年後の収入から支出を差し引いた不足額が100万円以内に収まっているか、チェックしよう『不足額を100万円以内に抑えられれば、貯蓄3000万円を30年かけて取り崩すことで対応できる』と馬養氏は話す。貯蓄が少ない、もしくは支出が100万円を上回る場合は、働く頻度を増やすか支出を抑える努力が求められる

文脈から考えて「支出が100万円を上回る場合」は「不足額が100万円を上回る場合」の誤りではありませんか。「支出」を用いるならば「支出超過額」でしょうか。

付け加えると、今回の「健康度チェック」は他にも問題ありです。貯蓄1億円で定年直前の年収は1000万円、60歳定年の後は無収入、支出見込み額500万円というケースで考えましょう。

チェック1の「貯蓄額3000万円以上」で10点を得ますが、「定年後の年間収支」で「不足額が100万円超」となって2点、「定年後の仕事の報酬」が「現役時の4割程度より下」で2点に留まり、合計で14点です。4段階評価の下から2番目の「やや危険レベル」となります。「なるべく現役時の半分程度の収入は確保できるよう妻にもパート・アルバイトなどしてもらう」必要があるそうです。納得できますか。

年間500万円を5年間取り崩すとしても65歳時点で7500万円の貯蓄があります。ここでは貯蓄額を1億円としましたが、これが10億円となると「やや危険レベル」には何の説得力もありません。「貯蓄額3000万円以上」を一律に10点としては、適切な評価は困難です。

他にも、特集で引っかかった点を列挙しておきます。まずは「働きたくても働けない~介護離職者の壮絶な戦い」という記事についてです。


(1)「認知症」患者も「健やか」?

記事に出てくる「大久保礼子さん」の気持ちを「母にはいつまでも健やかであってほしい」と記述しています。しかし記事によると大久保さんの母は「認知症」で「町内を徘徊して警察に保護されることも何度もあった」そうです。

いつまでも健やかであってほしい」というのは、現状が「健やか」な人に使う言葉ではありませんか。かなり進行した「認知症」を抱える大久保さんの母は「健やか」とは言い難いでしょう。


(2)「両立無理」なのにバイトの面接?

記事の前半で大久保さんは「(母親の介護と)仕事の両立なんて到底無理」と語っています。しかし、その後に「飲食店のアルバイト」の面接を受けて「不採用」になった話が出てきます。「両立なんて到底無理」と言っている人がアルバイトの面接に臨むのは辻褄が合いません。

大久保さんは「食品工場の深夜の出荷作業」の求人に触れて「でも、昼間は介護で、夜は仕事では『過労死』してしまう」とも述べています。これも解せません。記事によると、大久保さんの母親はデイサービスに「週3日」通っています。「短期宿泊するショートステイ」も利用しています。だとすれば「週3日」は昼間に働けます。

記事の情報から判断すると、大久保さんは「昼間に週1~3回は働けるのに働いていないだけ」だと思えます。


(3)「働き続けなければならない」=「無定年」?

特集の冒頭で「生計を立てるために働き続けなければならない現実が迫る。いわば、定年がなくなる『無定年』時代の到来だ」と記しています。

無定年時代」と聞くと「定年がない時代」だと思ってしまいます。しかし「定年が近づく前に確認しよう あなたの老後生活 健全度チェック」という記事もそうですが、特集では「定年後に働き続ける」という前提で話が進みます。これでは「無定年」とは言えません。


(4)所得代替率36%は「年金崩壊」?

PART 1~年金崩壊カウントダウン 2050年代に積立金は枯渇か」という見出しの「年金崩壊」は大げさだと思いませんか。「2050年代に積立金は枯渇か」となっているので、この頃に「年金崩壊」が起きると見ているのでしょう。

しかし「積立金が枯渇」した「翌52年」でも年金の「所得代替率」は「36.1%」です。「マクロ経済スライドを適切に実施」すると「所得代替率は46.8%と許容範囲内にとどまり、公的年金の機能は維持される」ようですが、10ポイントしか差がありません。

所得代替率36%は「年金崩壊」で、46%ならば「年金崩壊回避」と言えるでしょうか。恣意的に線引きしない限り、2つを「崩壊」と「崩壊回避」に分けるのは難しいでしょう。


(5)なぜ「2030年代前半」?

PART 1~年金崩壊カウントダウン 2050年代に積立金は枯渇か」という記事に付けたグラフには「2030年代前半には枯渇の恐れが顕在化し、危機感が広がる恐れも」という説明文が付いています。

しかし、なぜ「枯渇の恐れが顕在化」する時期を「2030年代前半」と特定しているのか記事を読んでも分かりません。記事では「2050年代に積立金は枯渇か」と既に「枯渇の恐れ」を伝えているので、「2020年代前半」に「危機感」が広がってもおかしくありません。と言うより、その方が自然です。

2030年代前半には枯渇の恐れが顕在化し、危機感が広がる恐れも」と書いてあると「2020年代には枯渇の恐れが顕在化せず、危機感も広がらない」との示唆を感じます。なぜそんな書き方をしているのか理解できませんでした。


(6)「中田大悟准教授らの試算」のはずでは?

グラフに関してもう1つ注文を付けます。「積立金」が「2050年代前半」に枯渇する推移を表す線には「中田大悟准教授らの試算」と書いてあります。しかし注記では「日本総合研究所の西沢和彦・主席研究員と創価大学の中田大悟准教授の推計を基に本誌で積立金の推移をイメージ化した。図は2人の作成ではなく、あくまで概念図」と説明しています。

これは感心しません。注記の通りならば、「中田大悟准教授らの試算」ではなく「本誌が描くイメージ(中田大悟准教授らの推計を基に作成)」とでもすべきでしょう。

読者の多くは小さな文字で書かれた注記まで目を通さないはずです。「中田大悟准教授らの試算」との説明を見れば「中田大悟准教授らの試算」をそのままグラフ化したと思うのが自然です。しかし、注記によれば、そうではありません。なぜこんな手法を選んだのですか。これでは「意図的に読者を誤解させようとしている」と思われても仕方がありません。

問い合わせは以上です。お忙しいところ恐縮ですが、回答をお願いします。

◇   ◇   ◇

回答が届けば内容を紹介したい。

追記)回答に関しては以下の投稿を参照してほしい。

日経ビジネス特集「無定年時代」への問い合わせに回答あり
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/blog-post_10.html



※今回取り上げた特集「『無定年』時代~年金激減後の働き方
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/NBD/15/special/100201085/?ST=pc

※特集の評価はD(問題あり)。担当者らの評価は以下の通りとする(敬称略)。

田村賢司(Dを維持)
武田安恵(Dを維持)
吉岡陽(C→D)

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