2018年10月7日日曜日

「都心回帰」の根拠欠く日経「スーパー、都心に重点」

7日の日本経済新聞朝刊総合4面に載った「スーパー、都心に重点 大手20社出店、2割増 駅近立地奪い合い」という記事は苦しい内容だった。「出店エリアの都心回帰」が見られるとの分析は根拠に欠ける。「都心」と「都市部」をごちゃ混ぜに論じているのも引っかかった。
龍門の滝(大分県九重町)※写真と本文は無関係

記事を見ながら、問題点を具体的に指摘してみたい。

【日経の記事】

減少が続いていたスーパー各社の出店数が増勢に転じる。大手20社の2018年度の新規出店数は113店と前年度に比べ2割増える。東京などの都心部は人口流入が続くが、スーパーが少なく買い物に困る人も出ている。各社は駅前などで店舗網を広げ、人口集積による需要を取り込む。食品に注力するドラッグストアなどとの陣取り合戦が激しくなっている。

日本経済新聞社が大手20社に調査した。17年度の調査(15社回答)では、出店数は前年度比1割減。14年度以降出店数の減少が続いていたが、18年度に店舗拡大に転じることが明らかになった。

特徴は出店エリアの都心回帰だ。今年まとめた小売業調査では、首都圏の利便性がよい場所に出店する意向の企業が全国区のスーパー(15社)で約4割、各地域の有力スーパー(33社)で約2割に上った。


都心」出店数の推移なぜ見せない?

上記の説明からは「首都圏の利便性がよい場所都心」との前提を感じる。しかし「都心」とは「大都会の中心部。特に、東京都の中心部」(デジタル大辞泉)という意味なので、「首都圏の利便性がよい場所」であっても、「都心」に当てはまらない場所はたくさんある。ゆえに「首都圏の利便性がよい場所に出店する意向」を調べても「都心回帰」の動きは分からない。

さらに言えば「全国区のスーパー(15社)で約4割、各地域の有力スーパー(33社)で約2割に上った」と書いているだけで、過去の調査との比較がない。これでは「首都圏の利便性がよい場所に出店する意向」が強まっているかどうかも判断できない。

特徴は出店エリアの都心回帰だ」と言うならば、「都心」の定義を明確にした上で、「大手20社」の都心出店数の推移を示せば済む。しかし、今回の記事では「都心」の定義も都心出店数も不明だ。

記事の続きを見ていこう。

【日経の記事】

総務省によると東京23区への転入超過数は17年に前年比5%増えた。神奈川県や埼玉県などを含む東京圏でも大型マンションの増加などで、22年連続で転入超過が続く。都市部に人口が集中する一方、スーパーが少ないため「買い物難民」が発生している。7月に東京・飯田橋で小型店を出店した、いなげやの成瀬直人社長は「都心は日常的な買い物で不便な場所が多い」と指摘する。

西友は9月、東京都墨田区のJR錦糸町駅前の複合施設に「西友錦糸町店」を出店した。駅から徒歩1分の立地で総菜売り場を充実させ、共働き世帯や単身のビジネスパーソンを取り込む。西友は親会社の米ウォルマートが売却方針を固め、不採算店の整理を進めるが、集客の見込める駅前立地の店舗は重視する。

ライフコーポレーションは、18年度に前年度より3店多い10店を新規出店する。秋にJR田町駅など駅近くの商業施設で2店を出すほか、世田谷区でも都市型の旗艦店を出店する。

名古屋や大阪でも状況は同じだ。阪急オアシスは4月、JR大阪駅に隣接する商業ビルに、スーパーと外食を組み合わせた店舗を出店した。新業態で仕事帰りの若者ら新規の顧客を開拓する狙いだ。

一方、こうした都心部の物件は他業態との取り合いが激しい。特にドラッグストアの出店スピードはスーパーをしのぐ。

ドラッグストアの総店舗数は3月末時点で1万9534店舗(日本チェーンドラッグストア協会調べ)となり、4年間で約12%増えた。一方、スーパーは2万465店舗(業界3団体調べ)で同期間で約5%の伸びにとどまっている。ツルハホールディングスが業界で初めて2千店を突破するなど出店攻勢を強める。

ドラッグストアは生鮮品も含めた食品の取り扱いを拡充している。ホームセンターも食品の取り扱いを強化。スーパーから顧客を奪おうとする動きが鮮明になっている。

各社は都心立地により安定収益を目指すが、東京を中心に都心部では不動産価格が高止まりし、賃料や建設コストの負担も大きい。より緻密な採算管理が求められそうだ。


◎錦糸町を「都心」と言われても…

都心」と「都市部」が混ざって出てくるので分かりにくいが、「こうした都心部の物件」という書き方から判断して「東京都墨田区のJR錦糸町駅前」や「世田谷区」も「都心部」だと筆者ら(河野祥平記者と平嶋健人記者)は認識しているのだろう。しかし、一般的には「都心」に入らないはずだ。

ついでに言うと「JR田町駅」といきなり出てくるのも引っかかる。これでは東京にある駅かどうかも分からない。「JR田町駅(東京・港)など駅近くの商業施設で2店を出す」などとすべきだ。東京で記事を書いていると、どうしても東京目線が強くなってしまう。

プロと呼ぶに値する書き手を目指すならば「首都圏以外に住んでいる読者にいきなり『JR田町駅』で伝わるかな」と考えられるようになってほしい。

付け加えると「名古屋や大阪でも状況は同じだ」と書いているのに、「名古屋」の具体例が出てこないのも感心しない。スペースの関係で入れられないのならば「大阪など他の大都市でも状況は同じだ」とすれば問題は解決する。

さらに付け加えると「ドラッグストアの出店」に触れるならば、「都心」での動向に絞るべきだ。「スーパーの都心出店」が記事のテーマなので、「ドラッグストア」全体の動向に2段落を費やすのは無駄だ。


※今回取り上げた記事「スーパー、都心に重点 大手20社出店、2割増 駅近立地奪い合い
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20181007&ng=DGKKZO36227320W8A001C1EA4000


※記事の評価はD(問題あり)。河野祥平記者への評価はC(平均的)からDに引き下げる。平嶋健人記者への評価は暫定でDとする。河野記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

50代が「ゆでガエル世代」に見えない日経ビジネスの特集
http://kagehidehiko.blogspot.com/2016/08/50.html

やや看板倒れ 日経ビジネス特集「行きたい大学がない」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/02/blog-post_19.html

「仮想」不在の日経ビジネス「外食に仮想レストランの波」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/12/blog-post_6.html

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