2018年10月2日火曜日

「論文独占」が分かりにくい日経「論文は誰のものか(上)」

1日の日本経済新聞朝刊 科学技術面に載った「論文は誰のものか(上)大手学術誌に投稿拒否 研究者ら論文独占に対抗 AI専門3000人署名」という記事は、何を以って「論文独占」と言っているのか分かりにくい。個人的には「論文独占」は起きていないように見える。
九重"夢"大吊橋(大分県九重町)※写真と本文は無関係です

日経には以下の内容で問い合わせを送った。

【日経への問い合わせ】

1日の朝刊 科学技術面に載った「論文は誰のものか(上)大手学術誌に投稿拒否 研究者ら論文独占に対抗 AI専門3000人署名」という記事と、「年間購読料、90年の9倍 出版社の寡占背景に 大学など研究費圧迫」 という関連記事に関してお尋ねします。

(1)「独占」でも「寡占」でもないのでは?

見出しで「論文独占に対抗」と打ち出し、「論文を独占して購読料の値上げを繰り返す大手学術雑誌に対抗し、研究者らが投稿を拒否したり契約を打ち切ったりしている」と書いていますが、記事には「論文を独占して購読料の値上げを繰り返す大手学術雑誌」の具体例が出てきません。

最初に出てくる「学術雑誌大手の英独シュプリンガー・ネイチャーが2019年1月に創刊するAIのオンライン学術雑誌『マシンインテリジェンス』」はまだ創刊前なので「論文を独占して購読料の値上げを繰り返す大手学術雑誌」とはなり得ません。しかも記事では「AIで世界最高峰の学術誌である『JMLR』」にも言及しています。

マシンインテリジェンス」の創刊と同時に「JMLR」は廃刊になるのですか。しかし、記事中にはそうした説明は出てきません。

関連記事では「背景にあるのは出版社の寡占だ。研究者が論文を掲載する海外学術誌は、日本の図書館などが支払う購読料ベースで、シュプリンガー・ネイチャー、エルゼビア、米ワイリーの3社が50%を占める。ほぼ寡占状態で、出版社の値上げ要求に断れない状況になっている」と解説しています。論文を集める出版社が「寡占」であれば「論文独占」はあまり起きなさそうです。

メインの記事には「ドイツは7月、大学の学長協会がオランダのエルゼビア社との交渉決裂を宣言し、200近くの研究機関で同社の学術誌を読めなくなった。フランスでも4月に100前後の研究機関がシュプリンガー・ネイチャーの1000以上の学術誌について購読契約を打ち切った」との記述もあります。

しかし、ここにも「エルゼビア」や「シュプリンガー・ネイチャー」が「論文を独占」していると判断できる材料はありません。

同社(シュプリンガー・ネイチャー)によると、世界のAI研究者へ論文の投稿を呼び掛けているが、掲載された論文を読めるのは購読料を支払った読者だけ。署名はこうした独占的な学術誌は研究の発展を阻害するとして、投稿を拒否する宣言だ」とも書いているので、「購読料を支払った読者だけ」が「掲載された論文を読める」ことを「独占」と表現している可能性も考慮しました。

しかし、これを「論文独占」とは言わない気がします。例えば新聞社が「購読料を支払った読者だけ」自社の記事を読めるようにした場合に「記事独占」と言いますか。そんなことを言い出したら、自社製品を有料でしか販売していない企業は全て「自社製品独占」になってしまいます。

論文を独占して購読料の値上げを繰り返す大手学術雑誌に対抗し、研究者らが投稿を拒否したり契約を打ち切ったりしている」という記述の「論文を独占」は誤りではありませんか。少なくとも誤解を招く表現だとは思えます。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

さらに言うと「寡占」も違うでしょう。「シュプリンガー・ネイチャー、エルゼビア、米ワイリーの3社が99%を占める」のならば「ほぼ寡占状態」です。しかし「3社」のシェアは「50%」です。残りの50%を他の出版社(4社以上はあるはずです)で占めているとすれば「ほぼ寡占状態」とは言えません。


(2)重複表現では?

関連記事の冒頭で「出版社が発行する学術誌の価格が値上がりしている」と書いています。「価格が値上がり」は重複表現ではありませんか。「出版社が発行する学術誌が値上がりしている」とすれば問題を解消できますし、文字数も少なくて済みます。


(3)論文は「場」ですか?

記事には「科学者が研究成果を発表する場として長年培っていた『論文』のあり方が問われている」「論文は科学者が研究成果を発表する場として長年歩んできた」といった説明が出てきます。

論文」は「研究成果を発表する場」でしょうか。「学術誌」を「研究成果を発表する場」とするのならば分かりますが、「論文研究成果を発表する場」と言われると違和感があります。


(3)「に」より「を」では?

最後に助詞の問題を1つ。「ほぼ寡占状態で、出版社の値上げ要求に断れない状況になっている」という文の「要求に断れない」が気になりました。「要求に断る」とはあまり言いません。「要求を断れない」とした方が日本語として自然ではありませんか。

問い合わせは以上です。お忙しいところ恐縮ですが、回答をお願いします。御紙では、読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。「世界トップレベルのクオリティーを持つメディア」であろうとする新聞社として、責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇


追記)結局、回答はなかった。


※今回取り上げた記事

論文は誰のものか(上)大手学術誌に投稿拒否 研究者ら論文独占に対抗 AI専門3000人署名
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20181001&ng=DGKKZO35882490Y8A920C1TJM000

年間購読料、90年の9倍 出版社の寡占背景に 大学など研究費圧迫
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20181001&ng=DGKKZO35882580Y8A920C1TJM000


※記事の評価はいずれもD(問題あり)。

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