2018年10月11日木曜日

「軍事境界線が対馬海峡まで南下」に説得力欠く佐藤優氏

作家の佐藤優氏は優れた書き手だとは思う。訴えたいことも、しっかり持っている。ただ週刊東洋経済10月13日号に載った「知の技法 出世の作法(第552回)『新アチソンライン』を構築するトランプ大統領」という記事には問題を感じた。
平和公園(長崎市)※写真と本文は無関係です

台湾やフィリピンを含む「新アチソンライン」において、日本は「西の端」なのか。また「米朝和平の実現」によって「現在の北緯38度軍事境界線が対馬海峡まで南下する」との解説は根拠に欠けるのではないか。この2点について以下の内容で問い合わせを送った。


【東洋経済への問い合わせ】

佐藤優様  週刊東洋経済 担当者様

10月13日号の「知の技法 出世の作法(第552回)『新アチソンライン』を構築するトランプ大統領」という記事についてお尋ねします。記事の終盤で、佐藤様は以下のように説明しています。

<記事の当該部分>

朝鮮半島で北朝鮮との関係を安定化させた後、トランプ氏が着手するのは、「新アチソンライン」とも呼ぶべき防衛線の構築だと思われる。「アチソンライン」というのは、1950年に当時のアメリカ国務長官だったディーン・アチソンが行った演説で提起したもので、アリューシャン列島、日本、沖縄、フィリピンの外側に、彼らの考える対共産圏の防衛線を引いた。朝鮮半島は、防衛圏の外側に置かれた。そのことが朝鮮戦争を誘発した。

アチソン演説を「アメリカは朝鮮半島には介入しない」というシグナルと受け取った北朝鮮は、その5カ月後に韓国に侵攻した。トランプ政権下で再構築されるアチソンラインに「新」が付されるのは、かつてと異なり台湾が米国の防衛圏に含まれているからだ。

いずれにせよ、米朝和平の実現によって、朝鮮戦争が起こったことで幻となったアメリカの西太平洋の防衛線が復活する可能性がある。そこでは日本が朝鮮半島と角突き合わせる「西の端」に置かれることになる。現在の北緯38度軍事境界線が対馬海峡まで南下すると言うことでもある。


--ここからが質問です。

気になったのは「そこ(新アチソンライン)では日本が朝鮮半島と角突き合わせる『西の端』に置かれることになる」との説明です。

新アチソンライン」では「台湾が米国の防衛圏に含まれている」と佐藤様自身が書いています。そして「新アチソンライン」の内側に位置するフィリピンや台湾は日本より西に位置しています。「そこでは日本が朝鮮半島と角突き合わせる『西の端』に置かれることになる」との説明は誤りではありませんか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

週刊東洋経済では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。日本を代表する経済メディアとして責任ある行動を心掛けてください。

せっかくの機会なので、記事に関する感想も加えておきます。

今回の記事では「現在の北緯38度軍事境界線が対馬海峡まで南下すると言うことでもある」と結論付けていますが、説得力に欠けると感じました。

「そもそも韓国が中国、北朝鮮と組んで日米と対峙するだろうか」との疑問は湧きますが、取りあえず受け入れてみます。しかし、米国がなぜ韓国を「防衛圏」の外に置くのかが謎です。佐藤様もその理由に触れていません。「現在の北緯38度軍事境界線が対馬海峡まで南下する」と見るのならば、米国に関して「フィリピンや台湾は守るが韓国からは手を引く」と見る理由が要ります。

さらに気になるのが在韓米軍の存在です。佐藤様は「朝鮮戦争の休戦協定を平和協定に転換」すれば「米軍を中心とする朝鮮国連軍が解体される。直ちに在韓米軍の撤退には至らないとしても、朝鮮半島における米国のプレゼンスは著しく低下する」と書いています。

そして「現在の北緯38度軍事境界線が対馬海峡まで南下する」と話を進めていきます。だとすると「在韓米軍の撤退には至らない」状況でも「現在の北緯38度軍事境界線が対馬海峡まで南下する」ことになります。

対馬海峡を隔てて日米が中国、韓国、北朝鮮と対峙している時に、まだ「在韓米軍」が残っている訳です。現状で言えば、北朝鮮に米軍基地があるようなものです。かなり奇妙ではありませんか。これがあり得ると考えるのならば、その理由も欲しいところです。

こうした点を考慮すると「現在の北緯38度軍事境界線が対馬海峡まで南下すると言うことでもある」との説明には、やはり頷けません。

私からの質問と意見は以上です。お忙しいところ恐縮ですが、「西の端」に関しては回答をお願いします。

◇   ◇   ◇

追記)結局、回答はなかった。

※今回取り上げた記事「知の技法 出世の作法(第552回)『新アチソンライン』を構築するトランプ大統領
https://dcl.toyokeizai.net/ap/registinfo/init/toyo/2018101300


※記事の評価はD(問題あり)。過去の記事も含めて判断し、佐藤優氏への評価はC(平均的)とする。

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