2018年9月26日水曜日

「労働生産性は先進国最下位」に関する日経ビジネスの回答

日本の労働生産性は先進国最下位」との説明は誤りではないかとの指摘に対して、日経ビジネス編集部から回答が届いた。回答に1週間以上を要したが、内容に大きな問題はない。問い合わせと回答はそれぞれ以下の通り。
浦上天主堂(長崎市)※写真と本文は無関係です



【日経BP社への問い合わせ】

日経ビジネス編集部 古川湧様 広田望様 津久井悠太様

9月17日号の特集「凄い生産性アップ 人を動かす科学と技術」の中の
Prologue~社員のやる気は それじゃ湧かない 昇給、昇進、飲み会、運動会……」という記事についてお尋ねします。問題としたいのは以下のくだりです。

日本生産性本部は17年12月、16年の日本の労働生産性がまたしても主要7カ国(G7)中最下位を記録したと発表した(経済協力開発機構=OECDのデータで日本の時間当たり労働生産性は46ドル)。データが取得可能な1970年以降の46年間、先進国最下位から一度も抜け出せていない

主要7カ国(G7)中最下位」だとしても「先進国最下位」とは言えません。「日本生産性本部」の資料でも、「日本の労働生産性」は先進国の一角をなすニュージーランドを上回っています。

このことは2018年1月22日号の特集「『おもてなし』のウソ」でも指摘しました。「先進国中で最下位──。各種の統計が示すように、日本の産業全体の生産性は極めて低いと指摘されている」との記述に関して、「『先進国中で最下位』とするのは誤りではないかと問い合わせたところ「グラフのタイトルで明示したように、日本の生産性は主要7カ国で最下位で、冒頭リード文で『主要先進国で最下位』と記しましたが、本文中では読者の混乱を招きかねない表現になっていたこと、頂戴したご指摘を踏まえ、今後の編集作業の参考とさせて頂きます」との回答を頂きました。

今回もほぼ同じパターンです。改めて問います。「日本の労働生産性」が「データが取得可能な1970年以降の46年間、先進国最下位から一度も抜け出せていない」との説明は誤りではありませんか。問題なしとの判断であれば、日本より下位にニュージーランドがいることをどう理解すればよいのか教えてください。

せっかくの機会なので、今回の特集に関する疑問を他にもいくつか挙げてみます。

<今のままではなぜダメなのですか?>

まず「なぜ生産性を上げる必要があるのか」を抜きに「生産性を上げるにはどうすれば良いのか」を論じているのが気になりました。特集では「豊かな日本では、粉骨砕身で働かなくてもそれなりの暮らしが保証される」とも書いています。この見方に同意はしませんが、仮にそうした状態にあるのなら、今のままでも良さそうです。

時間当たり労働生産性」で見れば日本はOECD加盟35ヵ国中20位です。世界全体では上位に入ると推測できます。OECD加盟国中20位だとなぜ問題なのかが知りたいところです。

G7の中では最下位なのでしょうが、日本生産性本部によると日本は「英国(52.7ドル)やカナダ(50.8ドル)をやや下回るあたりに位置している」そうです。つまりG7の中で特に劣後している訳でもありません。

時間当たり労働生産性」が「46ドル」ではなぜダメなのでしょう。そして、どこを目指せば良いのでしょうか。G7で6位ですか。それとも世界1位ですか。あるいは「時間当たり労働生産性で100ドル」ですか。


<説明になっていますか?>

次に以下のくだりを取り上げます

この労働生産性の国際基準をもって『日本の生産性が低い』とするロジックには、専門家から反論が多いのも事実。簡単に言えば、『国際比較で用いる労働生産性の計算式、GDP(国内総生産)÷労働量では、生産性の実態を正確に把握できない』という主張で、『だから日本人の働き方は非効率ではない』との指摘もある

これは説明になっていないと思えます。「国際比較で用いる労働生産性の計算式、GDP(国内総生産)÷労働量では、生産性の実態を正確に把握できない」と言える根拠を「簡単」でもいいので説明しないと、「労働生産性の国際基準」にどんな問題があるのか把握できません。


<「生産性の低さ」を示していますか?>

次は以下の記述です。

ただ、たとえそうだとしても、日本企業の生産性の低さを示す指標は労働生産性だけではない。例えば有給消化率。大手旅行サイト運営の米エクスペディアによる国際調査では、2017年の日本の有給消化率は約50%で、2年連続で世界30カ国中、最下位だった。また、OECDが公開するデータベースによると、日本人の1日の平均労働時間(最新集計値)は363分と調査対象31カ国中最長。男性だけで見れば毎日452分も働いている。働き方改革が叫ばれた後も残業時間は減らず、厚労省の毎月勤労統計によれば、17年は12カ月連続で『所定外労働時間』が前年を上回り続けた。『働き方改革は不発だった』といわれても仕方がない現状だ

生産性」の意味を調べると「生産のために投入される労働・資本などの生産要素が生産に貢献する程度。生産量を生産要素の投入量で割った値で表す」(大辞林)と出てきます。「有給消化率」や「平均労働時間」は「(日本の)生産性の低さを示す指標」とは言えないのではありませんか。

有給消化率」が低くても、「平均労働時間」が長くても、生産性は高くなり得ます。「生産要素の投入量」に対して「生産量」が多ければ良いのです。一方、「有給消化率」が100%で「平均労働時間」が短くても、何も「生産」しなければ「生産性」はゼロです。

問い合わせは以上です。お忙しいところ恐縮ですが、回答をお願いします。


【日経BP社の回答】

お返事お待たせして大変申し訳ありませんでした。いつもご愛読いただき、ありがとうございます。この度お寄せいただいたご意見に回答いたします。

【1】「日本の労働生産性」が「データが取得可能な1970年以降の46年間、先進国最下位から一度も抜け出せていない」との説明は誤りではありませんか。問題なしとの判断であれば、日本より下位にニュージーランドがいることをどう理解すればよいのか教えてください。

ご指摘いただいた表現の直前で「主要先進7カ国」と記載しておりますので、表現の重複を防ぐ目的で主要先進7カ国を「先進国」と表現いたしましたが、正確には「主要先進7カ国」と表現すべきでした。ご指摘の通り、2018年1月22日号の特集「『おもてなし』のウソ」で頂いたご指摘と同じパターンでございます。ご指摘以来、編集部内の情報共有と校閲作業を強化してまいりましたが、遺憾ながら同様の事態の発生に至ってしまいました。今後はさらに一段と編集部内の情報共有と校閲作業を強化し、読者の混乱を招きかねない
表現を排除するよう努めてまいります。

【2】今のままではなぜダメなのですか?

ご指摘を受けて、特集班も強い関心を持ちました。今後、日本及び日本企業が今後も活力を維持していく上で、日本の人口や経済規模から見て目指すべき「時間当たり労働生産性」はどのレベルなのか、世界何位を目指すべきなのか、今後の視点の一つとさせていただきたいと思います。貴重なご意見有難うございました。

【3】労働生産性の国際基準にどんな問題があるのか把握できません。

誌面スペースの都合もあり割愛しましたが、ご指摘の通り、どんな問題があるのか詳細を誌面にて知りたいとのご要望もあるかと思います。これにつきましても、今後の視点の一つとさせていただきます。重ね重ね、貴重なご意見有難うございました。

【4】「有給消化率」や「平均労働時間」は「(日本の)生産性の低さを示す指標」
とは言えないのではありませんか。

「仕事の効率」という意味で「生産性」という言葉を使用しましたが、ご指摘の通り、辞書にある生産性の定義とは厳密には異なり、読者の混乱を招きかねない表現でした。これにつきましても、今後、編集部内の情報共有と校閲作業を強化し、読者の混乱を招きかねない表現を排除するよう努めてまいります。

以上を持ちまして、ご意見への返答とさせていただきたいと存じます。よろしくお願いいたします。


◇   ◇   ◇

日経ビジネスの今後に期待したい。


※今回取り上げた特集「凄い生産性アップ 人を動かす科学と技術
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/NBD/15/special/091101074/?ST=pc


※今回の特集に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「労働生産性は先進国最下位」とまた間違えた日経ビジネス
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/09/blog-post_10.html

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