2018年9月13日木曜日

治療で救える度合いが「がん生存率」で分かると日経は言うが…

がん生存率」は「がんと診断された際に治療でどれほどの人を救えたかの指標」と言えるだろうか。日本経済新聞の記者はそう信じているようだが、おそらく違う。日経には以下の内容で問い合わせを送った。
芥屋の大門(福岡県糸島市)※写真と本文は無関係です

【日経への問い合わせ】

12日の日本経済新聞朝刊社会面に載った「がん3年生存率71% 5年生存率は横ばい65% ~国立がんセンター 治療法開発に活用」という記事についてお尋ねします。記事では「がん生存率」について以下のように解説しています。

がんと診断されてから一定の期間後に生存している人の割合。国立がん研究センターなどが、がん以外の死亡の影響を除いた『相対生存率』を、がんの部位や治療法、進行度ごとに集計し、算出する。がんと診断された際に治療でどれほどの人を救えたかの指標となる

がん生存率」は「がんと診断された際に治療でどれほどの人を救えたかの指標」にはならないと思えます。今回の調査では、前立腺がんと診断された人の3年生存率が「99%」となっています。単純化のために「がん以外の死亡」はないと考えましょう。この場合、前立腺がんと診断された人が100人とすると、99人は3年後も生存しています。ここから「治療でどれほどの人を救えたか」を読み取れるでしょうか。

記事を書いた人は「治療で99人を救えた」と考えそうです。「治療しなければ3年後には100人が死亡する」との前提に基づけば、その判断でよいでしょう。しかし、実際は「治療しなくても生存していた人」がいそうです。

前立腺がんは進行が遅いことが知られています。ゆえに「治療で救えた」人は99人をかなり下回るでしょう。「治療でどれほどの人を救えたか」を確かめるには「治療あり」と「治療なし」でランダム化比較実験をする必要があります。「がん生存率」では「治療でどれほどの人を救えたかの指標」とはなり得ません。

記事の説明は誤りと考えてよいのでしょうか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

付け加えると「がん生存率」について「がんと診断されてから一定の期間後に生存している人の割合」とするのも正確さに欠けます。記事では「がん生存率」を「相対生存率」だと書いています。だとすれば、がんと診断された100人のうち「一定の期間後」に40人が生存していても「がん生存率」40%とは基本的になりません。比較対象群の生存率が80%であれば「がん生存率」は50%に上がります。

今回の用語解説では「がん生存率がんと診断されてから一定の期間後も、がんによる死亡がなかった人の割合」とでもすれば、問題は解消しそうです。

問い合わせは以上です。お忙しいところ恐縮ですが、回答をお願いします。御紙では、読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。「世界トップレベルのクオリティーを持つメディア」であろうとする新聞社として、責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

がん生存率」は「治療で救えなかった人がどれほどいるか」を知る手掛かりにはなるだろう。調査対象者が全て治療を受けているとすれば、「がん生存率」が低い場合、治療に多くを期待できないとは言える。

だが、「がん生存率」が高い場合に治療が有効と考えるのは早計だ。風邪薬で考えれば分かる。風邪薬を飲んで10日以内に風邪が治った人の割合が99%だとしよう。そこで「風邪薬は効く。ほとんどの人が風邪薬に救われている」と言えるだろうか。風邪薬を飲まなくても、ほとんどの人は10日以内に回復するはずだ。

がんでも似たようなことが言える。膵臓がんの3年生存率が15%で、前立腺がんでは99%だとしても、そこから「前立腺がんでは治療を受ける意味がある」とは判断できない。

記事を書いた日経の記者は、おそらくその辺りを理解していない。

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追記)結局、回答はなかった。


※今回取り上げた記事「がん3年生存率71% 5年生存率は横ばい65% ~国立がんセンター 治療法開発に活用
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180912&ng=DGKKZO35251510R10C18A9CR8000


※記事の評価はD(問題あり)。

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