2018年9月18日火曜日

無理が目立つ週刊ダイヤモンド「新 価格の支配者メルカリ」

週刊ダイヤモンド9月22日号の特集「新 価格の支配者メルカリ」はタイトルからして力みが見える。「メルカリ」が世の中を大きく変えつつあるとの前提に立って特集を構成しているが、その根拠は乏しそうだ。なので、かなり無理のある解説も目立つ。
芥屋の大門(福岡県糸島市)※写真と本文は無関係です

ダイヤモンド編集部には以下の内容で問い合わせを送った。

【ダイヤモンドへの問い合わせ】

週刊ダイヤモンド編集部 大矢博之様 山本輝様 野村聖子様 村井令二様 栃尾江美様

9月22日号の特集「新 価格の支配者メルカリ」についてお尋ねします。特集の冒頭で皆さんは以下のように記しています。

1000万人以上が使うようになったフリマアプリ『メルカリ』。日々100万点以上が出品され、あらゆるモノに値段が付く。そこで形成される相場は、消費者の声を具現化した現代の価値のバロメーターだ。そのデータをメルカリは握っている。本誌が独占入手したメルカリの取引価格データを基に、新たなモノの価値と、ユニコーン企業メルカリの実力を解き明かす

問題は2つあります。

ユニコーン企業メルカリの実力を解き明かす」と書いていますが、「メルカリ」は「ユニコーン企業」ではないでしょう。「ユニコーン企業」とは「企業評価額が10億ドル以上の非上場ベンチャー企業」を指します。特集でも触れているように「メルカリ」は「18年6月東証マザーズ上場」となったので「非上場ベンチャー企業」ではありません。

また、「フリマアプリ『メルカリ』」では「あらゆるモノに値段が付く」とも言い切っています。特集の中には「メルカリというマーケットの下では、服や家電、雑貨など、あらゆる所持品に資産価値が付く」との解説もあります。いずれも違うと思えます。

例えば、医薬品、たばこ、チケット類の「値段」がメルカリで付きますか。これらの商品をメルカリは「禁止されている出品物」に指定しています。

上記の2点に関して、記事の説明は誤りだと考えてよいのでしょうか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

ここからは「Prologue『買い物』の常識を変える~メルカリ経済の破壊力」という記事の問題点を指摘していきます。記事には以下の記述があります。

これまで商品の価格決定権をめぐってはメーカーと小売業が火花を散らし、消費者は一方的に提示された値段で買うしかなかった。しかし、メルカリの普及で『価格の支配者』は変わった。利用者1075万人のリアルな価値判断が反映された、『メルカリ相場』が形成されるようになったのだ。新品同様の商品も多数出品されており、消費者が店で買うより消費者間での売買を支持するにつれて、それが商品の“本当の値段”になっていく

まず「これまで商品の価格決定権をめぐってはメーカーと小売業が火花を散らし、消費者は一方的に提示された値段で買うしかなかった」という説明が間違っています。「メルカリ」がない2012年までの世界を考えてみましょう。

メルカリ」のない時代も、家電量販店や自動車ディーラーでは値引き交渉ができました。私もやったことがあります。そこでは「一方的に提示された値段で買う」必要はありませんでした。

今回の特集では「メルカリ」を「フリーマーケットアプリ」としています。だとしたら本来の「フリーマーケット」はどうだったでしょうか。「消費者は一方的に提示された値段で買うしかなかった」かどうかについては「メルカリ」も従来の「フリーマーケット」も違いは感じられません。

次は以下の記述です。

これまで個人の資産として計算できたのは、中古相場のある家やクルマなどに限られていた。メルカリというマーケットの下では、服や家電、雑貨など、あらゆる所持品に資産価値が付く

服や家電、雑貨」であれば「メルカリ」がない世界でも「資産価値」があったと思えます。例えば、中古品買取・販売の「ハードオフ」が1号店を出したのは1993年です。古着屋も2012年の時点では珍しくありません。

特集の中には「19年の歴史を誇るネットオークションサービス『ヤフオク!』で個人間取引市場を開拓したヤフー」との記述も出てきます。だとすれば「服や家電、雑貨など」に「資産価値が付く」のは「ヤフオク!」でも同じではありませんか。

今回の特集では「メルカリが日本の常識を一変させた」と訴えたいのでしょうが、それを裏付ける事実がないので無理のある説明になっています。「新 価格の支配者メルカリ」という特集のタイトルも同様です。

価格の支配者」と聞くと「価格決定権を持っている者」と理解したくなります。しかし「メルカリ」自身は価格決定権を持っていません。売買の場を提供しているだけです(価格を誘導する機能は持っているのでしょうが…)。例えば、圧倒的な存在感がある証券取引所があったとしても、その取引所が株式などの「価格の支配者」だとは言えません。

問い合わせは以上です。御誌では、読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。日本を代表する経済メディアとして責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

追記)結局、回答はなかった。


※今回取り上げた特集「新 価格の支配者メルカリ
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/24527


※特集全体の評価はD(問題あり)。担当者らの評価は以下の通りとする(敬称略)。

大矢博之(Dを維持)
山本輝 (C→D)
野村聖子(Dを維持)
村井令二(E→D)
栃尾江美(暫定D)


※大矢博之記者に関しては以下の投稿を参照してほしい。

セブン&アイ 反鈴木敏文派を「虫」と呼ぶ週刊ダイヤモンド
http://kagehidehiko.blogspot.com/2016/05/blog-post_9.html

ヨーカ堂の失敗触れず鈴木敏文氏称える週刊ダイヤモンド
http://kagehidehiko.blogspot.com/2016/05/blog-post_12.html

ぬる過ぎる週刊ダイヤモンドの鈴木敏文氏インタビュー
http://kagehidehiko.blogspot.com/2016/07/blog-post_11.html

都内でも「地方店」と書く週刊ダイヤモンド大矢博之記者
http://kagehidehiko.blogspot.com/2016/12/blog-post_18.html

柳井正氏の責任問わぬ週刊ダイヤモンドのユニクロ特集
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/07/blog-post_4.html

週刊ダイヤモンド特集「外食チェーン全格付け」に注文
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/11/blog-post_81.html

冒頭から矛盾あり 週刊ダイヤモンド「1億総転落 新・階級社会」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/04/1.html


※山本輝記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

週刊ダイヤモンド「スバル社名変更の真意」に問題あり
http://kagehidehiko.blogspot.com/2016/06/blog-post_3.html

間違いだらけ週刊ダイヤモンド「最強の高校」の高校マップ
http://kagehidehiko.blogspot.com/2016/11/blog-post_18.html

日産は「米国集中投資」? 週刊ダイヤモンドの記事に疑問
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/03/blog-post_6.html

看板に偽りあり! 週刊ダイヤモンド「究極の省エネ英語」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/11/blog-post_26.html


※野村聖子記者に関しては以下の投稿を参照してほしい。

「学閥」に疑問残る 週刊ダイヤモンド特集「医学部&医者」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2016/06/blog-post_15.html

週刊ダイヤモンド特集「子会社族のリアル」に感じる矛盾
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/02/blog-post_6.html

肝心の情報が欠けた週刊ダイヤモンド特集「がんと生きる」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/05/blog-post_7.html

冒頭から矛盾あり 週刊ダイヤモンド「1億総転落 新・階級社会」
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/04/1.html

説明が雑な週刊ダイヤモンド「医学部・医者」特集
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/blog-post_19.html

「医学部への道」が奇妙な週刊ダイヤモンド「医学部・医者」特集
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/05/blog-post_54.html

3番手でも「2番手グループ」?  週刊ダイヤモンド医学部特集
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/05/blog-post_73.html

近大は「医科大学」? 週刊ダイヤモンド「医学部・医者」特集
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/05/blog-post_18.html

今回も「学閥」に疑問 週刊ダイヤモンド「医学部・医者」特集
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2018/05/blog-post_82.html

週刊ダイヤモンド「不妊治療最前線」野村聖子記者に異議あり
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/blog-post_16.html


※村井令二記者に関しては以下の投稿も参照してほしい

グラフに明白な誤り 週刊ダイヤモンドのソフトバンク特集
http://kagehidehiko.blogspot.com/2016/09/blog-post_12.html

せっかくの「訂正とお詫び」が中途半端な週刊ダイヤモンド
http://kagehidehiko.blogspot.com/2016/09/blog-post_23.html

東芝メモリ買い手を「強盗と詐欺師」に見せる週刊ダイヤモンド
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/10/blog-post_2.html

東芝メモリ売却の「教訓」に説得力がない週刊ダイヤモンド
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/10/blog-post_69.html

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