2018年9月24日月曜日

「女性への成績操作 統計学から類推」に無理がある川口大司東大教授

週刊ダイヤモンド9月29日号に載った「数字は語る~統計学から類推 医学部受験での女性への成績操作」という記事は根拠に欠ける内容だった。「男女の間での合格率の差の一部は、女性の方が入試のハードルが高く設定されていたことによるものと類推されるのではないか」と筆者の川口大司氏(東京大学大学院経済学研究科教授)は述べているが、因果関係があると「類推」した理由を示していない。
高崎山自然動物園(大分市)※写真と本文は無関係です

記事では以下のように説明している。

【ダイヤモンドの記事】

仮に医学部が男女の受験生を差別なく取り扱っているとすると、入学後の平均的学力には男女差がないと予想される。そこで卒業時の学力を示すと考えられる医師国家試験における男女の合格率を見てみよう。

平成30年の医師国家試験の合格率は男性89.1%に対して女性は92.2%である。この数字の差はさほど大きくないと思われるかもしれないが、誤差の範囲といえるだろうか。

受験者が男性6685人、女性3325人であったという情報を合わせると、二項分布の平均値の差の検定を行うことができる。男性と女性の合格率の差は偶然生まれたものであるという仮説に対して、統計的検定を行ってみると、「t値はマイナス5.155、両側検定・有意水準1%で帰無仮説(きむかせつ)を棄却」ということになる。つまり、医師国家試験の合格率は女性の方が高いのである男女の間での合格率の差の一部は、女性の方が入試のハードルが高く設定されていたことによるものと類推されるのではないか



◎どこから「入試のハードル」が出てきた?

男性と女性の合格率の差は偶然生まれたものである」可能性が低いことは「統計的検定」によって確認できたのだろう。問題はその後だ。特に根拠を示さずに「男女の間での合格率の差の一部は、女性の方が入試のハードルが高く設定されていたことによるものと類推されるのではないか」と書いている。

そう「類推」しただけだと言われれば、それまでだ。ただ「統計学から類推」とは言い難い。川口氏が紹介した「統計的検定」は合格率の男女差が偶然かどうかを示しているだけで、「女性の方が入試のハードルが高く設定されていたことによるものと類推」できる材料は示していない。

例えば「医学部の女子学生は入学後に男子学生より真面目に勉強する傾向がある」とすれば、それが原因で「合格率の差」が生じているのかもしれない。「入試のハードル」が影響している可能性を排除はできないが、他の原因候補に比べて有力だと判断する理由も見当たらない。

川口氏の分析は、受験時の学力と「医師国家試験」の点数に強い相関関係があるとの前提に基づいている(ある程度の相関関係はありそうだが…)。しかし、受験時の難易度が最も高いとされる東京大学医学部の「医師国家試験」合格率は90%で、大学別で見ると51位に当たるようだ。

ちなみに、偏差値で東大を大きく下回る浜松医大の合格率は96%。両大学の合格率の差が統計的に有意と判断できる場合、「東大医学部では裏口入学で学力の低い学生を入学させているのではないか」と「類推」すべきだろうか。可能性の1つとして考慮するのは構わないが、有力候補とするには何か根拠が必要だ。

ついでに記事の書き方に2つ注文を付けておきたい。

◎「統計的検定」なしでも同じでは?

統計的検定」の結果を紹介した後で「つまり、医師国家試験の合格率は女性の方が高いのである」と結論付けている。そう言われると「『統計的検定』をしなくても分かっていることでは?」と聞きたくなる。「合格率は男性89.1%に対して女性は92.2%」と川口氏も書いている。

つまり、女性の医師国家試験合格率が高いのは偶然とは考えにくいのである」と伝えたかったのかもしれないが、そうは説明していない。


◎もう少し噛み砕いた方が…

これはダイヤモンド編集部の担当者の責任も大きいが「t値はマイナス5.155、両側検定・有意水準1%で帰無仮説(きむかせつ)を棄却」が何を意味するのかはもう少し丁寧に説明してほしい。それが無理ならば、ここは省いていい。

ダイヤモンドの読者の知的水準は平均より高いとは思う。それでも「t値はマイナス5.155、両側検定・有意水準1%で帰無仮説(きむかせつ)を棄却」と言われて、しっかり理解できる人は稀だろう。


※今回取り上げた記事「数字は語る~統計学から類推 医学部受験での女性への成績操作
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/24575


※記事の評価はD(問題あり)。川口大司 東京大学大学院経済学研究科教授への評価も暫定でDとする。

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