佐賀関の黒ヶ浜(大分市)※写真と本文は無関係です |
まず「保護主義の波」は押し寄せているだろうか。記事の前半部分を見ていこう。
【日経の記事】
米石油エクソンモービルの株価が現地時間の2日、1年3カ月ぶりに80ドルを割った。地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」から離脱するとトランプ米大統領が前日に表明。資源開発規制の緩和で原油が値下がりするとの観測が広まった。
実は、この前から米エネルギー株は総じて弱含んでいた。5月下旬発表の予算教書に、国が備蓄する石油の半分を段階的に売る方針が盛り込まれたからだ。その規模は今後10年で166億ドル(約1兆8千億円)。資産運用会社エレメンツキャピタルの林田貴士社長は「メキシコ国境の壁の建設などに必要な資金作りが目的では」と推測する。
国際世論の反発や市場の懸念をよそに米国は「自国第一」の道を突き進む。だが歴史的にみて、内向き志向を強めるのは今に始まったことではない。世界恐慌翌年の1930年、関税を大幅に上げるスムート・ホーリー法を米議会は可決した。同法は報復関税を招き、世界を大戦に導いた。
◎「保護主義」と関係ある?
「『パリ協定』から離脱」すると表明し、「国が備蓄する石油の半分を段階的に売る方針」だとしても、保護主義と直接の関係はない。備蓄削減が「メキシコ国境の壁の建設などに必要な資金作りが目的」だと言うのはあくまで「推測」だし、不法移民対策の強化は「保護主義」とは言い難い。なのに「保護主義の荒波を食い止めるには今が踏ん張りどころだ」と訴えても、説得力は乏しい。
久留米工業高等専門学校(福岡県久留米市) ※写真と本文は無関係です |
以下の記述にも無理を感じる。
【日経の記事】
4月中旬、米株式市場の値動きの大きさの予想を示す「恐怖指数」は1カ月先が上昇し、3カ月先を逆転した。「近い将来ほど見通しにくい」というひずんだ状況は、一寸先すら分からない市場の不安を映している。
◎「不安」なのに恐怖指数は低水準?
「『恐怖指数』は1カ月先が上昇し、3カ月先を逆転した」という動きから「一寸先すら分からない市場の不安」を感じ取っているが、これは非常に苦しい。まず、時期が「4月中旬」だ。6月の記事で、なぜ2カ月近く前の話を持ち出しているのか。
それに「恐怖指数」を使って「市場の不安」を見るならば、指数の水準にまず目を向けるべきだ。そして、恐怖指数は低位で推移している。日経電子版の5月11日付には「嵐の前の静けさか 株の恐怖指数、23年ぶり低水準が示す未来 」という記事が出ている。
素直に受け取れば、恐怖指数からは「市場の楽観」が読み取れるはずだ。なのに、今回の連載では恐怖指数の水準の低さをあえて無視して、強引に「市場の不安」を読み取っている。「恐怖指数」が「一寸先すら分からない市場の不安を映している」と言うのならば、なぜ指数の水準が低いのかは解説すべきだ。
※今回取り上げた記事「市場の力学~ゆがむ秩序(下)保護主義の波、いつか来た道? 内向き志向 リスク増す」
http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170608&ng=DGKKZO17441720Y7A600C1MM8000
※連載全体の評価はD(問題あり)。連載の担当者らの評価は以下の通り。
土居倫之記者(Dを維持)
松崎雄典(C→D)
森田淳嗣(暫定D→D)
※今回の連載については以下の投稿も参照してほしい。
日経1面「市場の力学~ゆがむ秩序(上)」に感じた誤り
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/06/blog-post_6.html
問題多い日経1面「市場の力学~ゆがむ秩序(上)」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/06/blog-post_7.html
1930年は世界恐慌翌年? 日経「市場の力学(下)」の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/06/1930.html
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