2017年6月19日月曜日

「1秒以下」で不審者確保? 日経「胎動5Gの世界」

日本経済新聞朝刊1面で「胎動5Gの世界」という苦しそうな連載が始まった。19日の(上)「大競争時代再び AI・3D 映像どこでも」では最初の事例がいきなり怪しい。「群衆を空中に浮かぶドローンの4Kカメラがとらえ」てから、「警備員が、刃物を隠し持つ不審者を捕らえ」るまで「わずか1秒以下」というが、どう考えても無理だ。
大牟田市石炭産業科学館(福岡県大牟田市)
          ※写真と本文は無関係です

日経には以下の内容で問い合わせを送った。

【日経への問い合わせ】

「胎動5Gの世界(上)」という記事についてお尋ねします。記事には以下の記述があります。

「2020年7月24日夕。東京五輪の開会式を見ようと新国立競技場へ向かう群衆を空中に浮かぶドローンの4Kカメラがとらえた。半径150メートルにいる数千人の映像を人工知能(AI)が解析。攻撃性や緊張度、ストレスなど50の指標で異常値を示す人物を特定した。『不審人物発見』。スマートフォン(スマホ)にメッセージを受けた近くの警備員が、刃物を隠し持つ不審者を捕らえた。その間、わずか1秒以下。綜合警備保障(ALSOK)が昨年からNTTドコモと共同で始めた5Gを使った警備サービスの実証実験だ」

問題としたいのは「わずか1秒以下」という部分です。普通に考えれば、カメラが群衆を捉えてから不審者を捕まえるまでが「1秒以下」なのでしょう。スマホにメッセージが届いてから不審者を捕えるまでが「1秒以下」かもしれません。いずれにしても不可能です。メッセージを読んで行動を起こすだけで「1秒」は確実にかかります。そこから移動して不審者を捕まえるのにも「1秒」を大幅に上回る時間が必要なはずです。

この説明は誤りだと考えてよいのでしょうか。正しいとすれば、その根拠も併せて教えてください。

付け加えると、問題のくだりは実験結果を伝えているのかどうかがよく分かりません。「2020年7月24日夕」となっているので、未来予想的な説明なのかと最初は思いました。しかし、その後に「5Gを使った警備サービスの実証実験だ」と出てきます。これに関しては、どう理解すればよいのでしょうか。

上記の2点について回答をお願いします。御紙では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。クオリティージャーナリズムを標榜する新聞社として、掲げた旗に恥じない行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

映像解析を始めてからメッセージ送信までの時間が「1秒以下」という可能性はあるが、記事の書き方からは「不審者を捕らえた」ところまでで「1秒以下」としか解釈できない。それは、極めて特殊な前提を置かない限り不可能だ。
耳納連山(福岡県久留米市)※写真と本文は無関係です

よく分からない点は他にもある。AIが瞬時にそして正確に「攻撃性や緊張度、ストレスなど50の指標で異常値を示す人物を特定」できるとしよう。だが、その「不審者」が「刃物を隠し持つ」ことまで分かるのだろうか。

分からないとすれば、AIが怪しいと睨んだという理由だけで「不審者を捕らえた」ことになる。これは許されないだろう。映像解析だけで「刃物を隠し持つ不審者」だと判断できたとすれば、なぜそんな芸当ができるのか記事中で説明すべきだ。

次世代通信規格である第5世代(5G)」が「産業のかたちを変え、暮らしの隅々にまで影響を及ぼす」と訴えたいのは分かるが、今回はさすがに無理が過ぎる。朝刊1面の連載なので、編集局の幹部を含め多くの社員が紙面化の前に記事に目を通しているはずだ。なのに誰も疑問の声を上げなかったのだろうか。

ついでに、記事の問題点をもう1つ指摘したい。

【日経の記事】

自動運転のカギを握るのも5Gだ。通信の遅れが大きい4Gでは高速走行するクルマがブレーキを踏んでも、後続車のブレーキが作動するまで1メートル以上進んでしまう。5Gならわずか数センチメートル。実証実験を始めた5Gオートモーティブ・アソシエーションに参加する独ダイムラーやアウディをはじめ、トヨタ自動車など日本勢も5Gを使った運転支援機能の実用化を狙う。

◇   ◇   ◇

断定はできないが、上記のくだりは「隊列走行」の自動運転について述べているのだろう。この「実証実験」では、先行するクルマと「後続車」のブレーキがほぼ同時に働くことを目指しているようだ。通常の自動運転では、そうした必要性は乏しい。前のクルマとほぼ同時にブレーキ作動させるのが好ましくない場合も多いからだ。十分な車間距離があるのに、前のクルマとほぼ同時にブレーキをかけられても困る。

隊列走行」の自動運転に関する話ならば、その点を読者に明示すべきだ。その辺りを雑に書いていては、記事の作り手としての力量を疑われても仕方がない。


※今回取り上げた記事「胎動5Gの世界(上)大競争時代再び AI・3D 映像どこでも
http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170619&ng=DGKKZO17819160Z10C17A6MM8000

※記事の評価はD(問題あり)。

追記)結局、回答はなかった。

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