2017年6月20日火曜日

問題山積 週刊エコノミスト稲留正英記者のロボアド記事

週刊エコノミスト6月27日号の特集「AIで増えるお金と仕事」の最初に出てくる「第1部 マネー編 誰でもAIで“賢い”投資家 ロボアドバイザーが自動で運用」という記事は問題が多すぎる。間違いだと思える説明もそうだが、何より気になるのは筆者の稲留正英記者に批判精神が感じられないことだ。ロボアドを手掛ける会社にうまく丸め込まれているのだろう。すっかり業界の回し者的な書き手になっている。

その辺りも含めて、稲留記者に問い合わせを送ってみた。内容は以下の通り。


【エコノミストへの問い合わせ】

週刊エコノミスト編集部 稲留正英様
久留米信愛女学院(福岡県久留米市)※写真と本文は無関係です

御誌を定期購読している鹿毛と申します。

6月27日号の特集「AIで増えるお金と仕事」に出てくる「第1部 マネー編 誰でもAIで“賢い”投資家 ロボアドバイザーが自動で運用」という記事についてお尋ねします。

まずは「金融ベンチャー企業『お金のデザイン』が提供するロボット・アドバイザー(ロボアド)サービス『THEO(テオ)』」のコストについてです。記事では「(テオの)手数料は運用資産の残高に対して1%。ETFの買い付けコストや信託報酬はすべて含まれる」と説明しています。

一方、同社のホームページでFAQを見ると「THEOでの運用にはどのような費用がかかりますか?」との問いに対する答えが「お客さまにご負担いただく費用は、お預かり資産に対して一定の割合で頂く投資一任報酬・購入ETFにかかる諸経費・そして運用資金をご送金頂く際の送金手数料となります」となっています。

さらに「ETFにかかる諸経費とは何ですか?」との問いに対しては「ETFという商品を組成する運用会社にお支払いいただく報酬を指します。ETFで運用を行う際には避けて通ることのできない『経費』です。ETFの値動きの中で自動的に差し引かれて、お客さまに間接的にご負担いただいている費用です」と答えています。

つまり投資家は「運用資産の残高に対して1%(投資一任報酬)」の他に「ETFの信託報酬(購入ETFにかかる諸経費)」を負担していると考えられます。「(テオの)手数料は運用資産の残高に対して1%。ETFの買い付けコストや信託報酬はすべて含まれる」との記述は誤りと考えてよいのでしょうか。正しいとすれば、その根拠も併せて教えてください。

次に「ファンドラップ」についてです。記事では「対象顧客は金融資産を数千万円以上持つ層で、最低投資金額は通常1000万円以上」と解説しています。調べてみると、ダイワファンドラップや日興ファンドラップは最低投資金額が300万円で、楽ラップ(楽天証券)に至っては10万円のようです。他のメディアでもファンドラップに関して「300万~500万円を最低投資額として申し込みを受け付ける金融機関が多い」(日経)などと紹介しています。
三池炭鉱宮原坑(福岡県大牟田市)
     ※写真と本文は無関係です

「最低投資金額は通常1000万円以上」との説明は誤りだと思えます。控え目に言っても不正確な記述ではありませんか。御誌の見解を教えてください。

今回の記事には他にも気になる点がいくつかありました。一例が以下のくだりです。

「この1年、英国のEU離脱や米トランプ大統領就任などの波乱要因があったにもかかわらず、テオやウェルスナビの収益が安定しているのは、資産運用の基本とされる『投資対象と期間の分散』の法則に従っているからだ」

まず「英国のEU離脱や米トランプ大統領就任」は株式市場にマイナスの影響がほとんど出ませんでした。英国のEU離脱決定直後に急落する場面はありましたが、すぐに戻しています。「英国のEU離脱や米トランプ大統領就任などの波乱要因があったにもかかわらず、テオやウェルスナビの収益が安定している」のは、別に凄いことではありません。御誌の「マーケット指標」を見てください。過去1年の騰落率は日経平均が+20%、NYダウが+18%など世界的にほぼ全面高です。運用成績が横ばいに近い「安定」であれば、株式市場の平均に負けているはずです。

「『期間の分散』の法則に従っている」との説明も不可解です。これは「時期を分けて投資すること」を指しているようですが、まず「この1年」で運用成績に関して有利な理由となるでしょうか。再び御誌の「マーケット指標」を見てください。世界主要株価の騰落率は総じて「1年>半年>1カ月」となっています。現時点から見れば、1年前の一括投資の方が毎月の積み立て投資よりも有利です。

また、「期間の分散」に従うかどうかは投資家次第ではありませんか。投資家が一括投資を選んで「テオやウェルスナビ」を利用すれば、「時期を分けて投資すること」は基本的にできないはずです。「テオやウェルスナビの利用=投資期間の分散に従う」と取れる書き方には問題がありませんか。

「投資対象の分散」に関しては、その意義を否定しません。ただ、これはロボアドを使わなくても簡単にできます。テオでは「自動的に30~40銘柄の米国上場のETF(上場投資信託)の中から最適な組み合わせを購入」するようです。言ってみればファンドオブファンズのようなもので、既存の投信と「分散」に関して大きな差はありません。「分散」をロボアドの長所として強調するのは適切なのでしょうか。

そもそもETFに投資する時点でかなりの「分散」はできています。複数のETFを自分で組み合わせるのも、それほど難しくありません。また、ロボアドが特別な運用能力を持っているわけでもありません。ETFの組み合わせが決まってしまえば後は「月1回、リバランスを行う」程度のロボアドに年1%(投資金額が1000万円ならば年10万円)もの手数料を払うのは、あまり合理的とは言えません。

今回のように「誰でもAIで“賢い”投資家 ロボアドバイザーが自動で運用」などと前向きにロボアドを取り上げるのであれば、「1%+保有ETFの信託報酬」というコストに見合うメリットが投資家にあると納得できる内容にしてほしいところです。残念ながら、それができているとは感じられませんでした。

随分と長くなってしまい申し訳ありません。お忙しいところ恐縮ですが、回答をよろしくお願いします。

◇   ◇   ◇

※回答が届く可能性は低いが、しばらく待ってみたい。記事や書き手への評価はエコノミスト編集部の対応を見てから決める。


追記)結局、回答はなかった。記事の評価はE(大いに問題あり)。稲留正英記者への評価は暫定でEとする。

0 件のコメント:

コメントを投稿