2017年6月25日日曜日

「日経は夜回り廃止」が大げさな東洋経済「残業禁止時代」

日経新聞は『夜回り廃止』」という見出しを見つけた時は「本当にそんな英断を下したのか」と驚いたが、見出しに騙されただけだった。週刊東洋経済7月1日号の第1特集「残業禁止時代」の「Part1 労基署が狙う企業 大手企業でも是正勧告が続出 ブラック職場の改善待ったなし」という記事で日本経済新聞社に触れた部分を見てみよう。
旧長崎税関三池税関支署(福岡県大牟田市)
         ※写真と本文は無関係です

【東洋経済の記事】

ハードワークでは新聞も負けていない。特ダネを追う記者の夜討ち、朝駆けは日常茶飯事。朝刊の最終版である「14版」の締め切りが午前1時前後に設定されているため、記事の最終工程はどうしても夜中になってしまう。

16年12月6日には、朝日新聞東京本社が中央労働基準監督署から是正勧告を受けた。編集ではなく財務部門の20代社員が、同年3月に「三六協定」を超える85時間20分の残業をしていた。

今後は各紙の編集部門がターゲットとなる可能性もあるが、記者の残業削減は簡単ではない。事件の発生は時と場所を選ばないし、よい記事を書くために徹夜することもあるからだ。

そんな中、重い腰を上げたのが日本経済新聞社だ。今年2月10日に長谷部剛専務(東京本社編集局長)が局員に対し「働き方改革に本腰を入れる。われわれの頃と時代が変わった」と言明。編集総務や人事労務の部長も同席し、「取材先の自宅を定期的に夜訪れる“定例夜回り”はやめろ」「必要な場合も交代制とし、朝と夜は別の人間が行け」「残業抑制へ締め切り重視を徹底する。特ダネを連発する記者でも締め切りが守れなければマイナス評価」などと訴えた。

重要ニュースは最終14版だけに入れることがあったが、禁止された。14版で変更するのは1面と、天変地異対応がある社会面や最新展開が必要なスポーツ面のみで、ほかは13版で完結する。

ここまで真剣な理由は、新卒採用への逆風が強いため。内定者が働き方への不安を口にして入社を辞退するケースが、会社側の想定を上回っているのだ。

英フィナンシャル・タイムズを買収したこともあり、インターネットの電子版を優先する「デジタルファースト」が徹底され始めたことも深夜に集中しない働き方に一役買っているようだ。

夜回りのあり方に関する議論や削減は、程度の差こそあれ、他社も行っている。記者だけでなく整理部などスタッフ全員が終電までに帰ることを奨励する社もある。

朝日では、社会部が毎週水曜日を「ノー残業デー」に設定。記者クラブに属さない遊軍記者が半数ずつ早帰りをしている。

なお、日経新聞社にも5月30日付で労基署から即時是正勧告が出ている。対象は編集局以外の、裁量労働でない職場で、三六協定の45時間を超過しているケースについてだという。会社側は特別条項を設けるべく、三六協定の見直しを組合に提案している


◎「夜回り廃止」には程遠いような…

日経の「長谷部剛専務」が「働き方改革に本腰を入れる」と発言したのは事実なのだろう。だが、改革の内容を見た上で、筆者である田邉佳介記者が「(日経は)ここまで真剣」と思ったのが解せない。記事の内容を見る限り、日経の本気度はかなり低そうだ。
白壁通り(福岡県うきは市)※写真と本文は無関係です

取材先の自宅を定期的に夜訪れる“定例夜回り”はやめろ」「必要な場合も交代制とし、朝と夜は別の人間が行け」という指示が守られたとしても「夜回り廃止」ではない。なので「日経新聞は『夜回り廃止』」という見出しは不正確だ。

定例夜回り」はダメだが、それ以外の「必要な場合」の夜回りがOKならば、大きな変化はないだろう。「朝と夜は別の人間」が行くとしても、夜回り朝回りの回数自体に大きな変化がないので、記者全体への負荷はそんなに変わらないはずだ。

日経が記者の「働き方改革に本腰を入れる」つもりがあるならば、「いずれ発表されると分かっているものを発表前に書くこと」へのこだわりを捨てるべきだ。手始めに「待っていれば発表されるネタ(合併、人事など)を事前に報道しても社長賞や編集局長賞などの表彰の対象としない。また、こうしたネタの報道で他社に出遅れたとしても人事面でマイナス評価はしない」と宣言してはどうだろうか。

その上で夜回りを原則として禁止するのが好ましい。どうしても必要な場合については、許可制にして回数に制限(例えば年間30回以下)を設けるといった対策が考えられる。こうすれば、かなり負担軽減につながるはずだ。

細かい説明は省くが、合併や人事などを発表前に報道する社会的意義はほとんどない。事前報道に成功しても、収益面でのプラスもほぼないと見ていい。残るのはメンツの問題だけだ。ここをクリアできれば、記者は無駄な仕事を減らせるし、会社は「働き方改革」を前進させられる。だが、日経にできるかと言えば無理だろう。

それは長谷川専務の「残業抑制へ締め切り重視を徹底する。特ダネを連発する記者でも締め切りが守れなければマイナス評価」という発言からも読み取れる。裏を返すと、これまでは特ダネを連発していれば、締め切りを守らなくてもマイナス評価にならなかったのだろう。

締め切りを守るなんて基本中の基本だと思えるが、日経は違ったようだ。そして長谷川専務は「特ダネを追わなくていいから締め切りは厳守しろ」とは言っていない。今後も特ダネは重視するのだろう。「どこかが報道しなければ世に出てこない発掘型の『特ダネ』は重要だ。しかし、それ以外の早耳筋的な特ダネを無理して追いかける必要はない」と長谷川専務が宣言してくれるとよいのだが…

ついでに言うと「5月30日付で労基署から即時是正勧告が出ている」件でも、日経に大きな変化がないと読み取れる。記事によると「会社側は特別条項を設けるべく、三六協定の見直しを組合に提案している」らしい。「三六協定の45時間を超過しているケースについて」出た「即時是正勧告」への対応が、「三六協定」の順守ならば分かる。だが、日経は「45時間を超過して」も問題がないように「特別条項」を設けるという。これを「働き方改革」に「真剣に」取り組もうとする会社の対応だと田邉記者は感じたのだろうか。


※記事の評価はC(平均的)。田邉佳介記者への評価はCを据え置く。

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