旧三井港倶楽部(福岡県大牟田市) ※写真と本文は無関係です |
社説の全文は以下の通り。
【日経の社説】
裁判で解雇が不当とされたとき、労働者がお金を受け取ることで紛争を解決する制度について、厚生労働省の有識者検討会が報告書をまとめた。制度の必要性をめぐってコンセンサスが得られていないとし、補償金の水準など具体的内容には踏み込まなかった。
解雇が不当で無効と認められても、会社との関係が悪化した人の職場復帰は簡単ではない。復職できない場合、中小企業では補償金をもらえずに泣き寝入りする例も多い。労働者の救済策になる金銭解決の制度は必要だ。今後、制度の創設に向けた議論を労働政策審議会で深めてほしい。
解雇の金銭解決制度は労働者からの申し立てがあった場合を対象とし、補償金の額に基準を設けることが想定されている。
復職以外に金銭補償という選択肢を明示できれば、不当解雇された人が別の仕事で再出発するのを後押しする意義がある。
一方で、労働者に金銭補償を選ぶよう促し、復職を妨げる企業が出てくるとの批判もある。労働組合は「お金を払っての解雇を増やすことになる」と反発している。
しかし、だからといって不当解雇で困っている人を助けられる制度を設けないのは建設的でない。
もちろん、制度の悪用は防がなければならない。国の労働局などの監視強化が求められる。労働者の自発的な申し立てかどうかを厳格にみる必要もある。乱用の防止策とセットで制度設計の議論を進めてはどうか。
個人と雇い主の紛争を処理する労働審判制度では、解雇をめぐるトラブルを金銭補償で解決する例も多い。だが、金額のばらつきが大きい。金銭解決制度をつくって補償金を安定的な額にすべきだ。
欧州諸国の金銭解決制度は補償金の上限を年収の1~2年分などとしている。海外の例も参考に、金額の水準を十分議論したい。
金銭解決を選んだ人が別の職に移りやすいよう、転職支援などの柔軟な労働市場づくりも大事になる。職業訓練の充実も急ぎたい。
◎「解雇の金銭解決制度」既にあるのでは?
「個人と雇い主の紛争を処理する労働審判制度では、解雇をめぐるトラブルを金銭補償で解決する例も多い」と社説の中で書いている。ならば「解雇の金銭解決制度」は既にあるはずだ。「労働者の救済策になる金銭解決の制度は必要だ」と改めて訴える必要はない。むしろ「既に制度があるのに、別の金銭解決制度を設ける必要があるのか」などと問題提起すべきだろう。
◎「金額のばらつき」は好ましくない?
「(労働審判制度では)金額のばらつきが大きい。金銭解決制度をつくって補償金を安定的な額にすべきだ」との主張も納得できない。金額は同じような水準にとどまるべきなのか。解雇前の収入、勤続年数、不当解雇の悪質さなどによって差が生じるのは当然だと思える。
千仏鍾乳洞(北九州市)※写真と本文は無関係です |
「欧州諸国の金銭解決制度は補償金の上限を年収の1~2年分などとしている。海外の例も参考に、金額の水準を十分議論したい」と社説では提案しているので、仮に「補償金の上限」を「年収の1年分」としてみよう。これで「補償金を安定的な額」にできるだろうか。
人によって差が大きい「年収」を基準にすると「金額のばらつきが大きい」状況は変えにくい。また「上限」だけを設定するのも「金額のばらつき」を抑える上では好ましくない。同じ年収でも、補償金が1年分か2カ月分かでは大きな差が生じてしまう。
「ばらつき」を抑えて「補償金を安定的な額」にしたいのならば、「補償金は一律1000万円」などとするのが効果的だ。しかし、状況がそれぞれ異なるのに、補償金は一律というやり方が合理的とは思えない。
◎本音で語った方が…
脱時間給の問題もそうだが、日経は本音を隠して労働者の味方のように振る舞おうとするから無理が生じるのではないか。日経の本音は「もっと解雇を容易にして経営の自由度を高めてあげるべきだ」といったところだろう。
「補償金を安定的な額にすべきだ」と書いた上で、欧州諸国が「上限」を設定していると言及している辺りに本音が透けて見える。「不当解雇で困っている人を助けられる制度」を本気で作りたいと考えるならば、補償金の「下限」を設定した上で、下限の水準を高くするように求めるはずだが…。
日経に労働者の味方になれとは言わない。経営側の代弁者でいいではないか。「経営側にとっては解雇の自由度を増した方がやりやすい。それが日本経済全体のためにもなる」などと主張した方がすっきりするし、奇妙な説明もしなくて済むはずだ。
※今回取り上げた社説「解雇の金銭解決制度は必要だ」
http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170604&ng=DGKKZO17280760T00C17A6EA1000
※社説の評価はD(問題あり)。
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