2023年5月23日火曜日

パワハラの具体的内容に欠けるFACTA「狂える『近鉄の老虎』小林哲也会長」

FACTAが経営者を批判する記事は総じて品がない。それでも事実の裏付けがしっかりしていればまだいい。しかし、そこも怪しい。6月号に載った「狂える『近鉄の老虎』小林哲也会長」 という記事も例外ではない。中身を見ながら問題点を指摘したい。

宮島

【FACTAの記事】

純粋持ち株会社の近鉄GHDへ15年に移行すると決めたのは小林氏だ。自らは事業を行わず、グループ各社の株式を保有することでグループ会社の事業をコントロールすることだけを事業目的とするのが純粋持ち株会社だ。小林氏はKNT|CTHDやKNTの一体何をコントロールしていたのか。取締役としての善管注意義務をどこに置き忘れたのか。自身の監督責任を棚に上げて小林氏は米田氏を詰問し、罵詈雑言を浴びせまくった。御年79歳の小林氏はアンガーコントロールができないご高齢なのだ。同業の私鉄各社の社長・会長たちは普段の小林氏の言動を見聞きして「あのパワーハラスメントはひどすぎる」と眉をひそめる。


◎どんな「罵詈雑言」?

小林氏は米田氏を詰問し、罵詈雑言を浴びせまくった」と言うものの具体的にどんな言葉を発したのか記していない。なのに「同業の私鉄各社の社長・会長たちは普段の小林氏の言動を見聞きして『あのパワーハラスメントはひどすぎる』と眉をひそめる」と発言の主を特定できないコメントを使って「パワーハラスメント」があったと印象付ける。これは頂けない。

記事の続きも見ておく。


【FACTAの記事】

小林氏は早稲田大学在学中に始めた少林寺拳法にのめり込み、一時は関西実業団少林寺拳法連盟の会長を務め、近鉄社内にも実業団少林寺拳法連盟の支部を作らせた。物理的パワハラもやりかねない雰囲気だから周囲が震え上がる。ただし典型的な内弁慶で、一歩会社の外に出ると借りてきた猫のようにおとなしくなる。


◎「やりかねない」と言われても…

物理的パワハラもやりかねない雰囲気だから周囲が震え上がる」という説明も感心しない。「物理的パワハラもやりかねない雰囲気」ということは「物理的パワハラ」の事実を確認できていないのだろう。なのに「物理的パワハラもやりかねない」人物だとイメージさせる書き方をするのはいかがなものか。

記事には他にも引っかかる部分があった。


【FACTAの記事】

「小林氏が地位に恋々とするのは、小林夫人が近鉄GHDのファーストレディーであり続けたいからだ」と解説する近鉄OBもいる。雑誌や新聞に小林氏を批判する記事が出ると、夫人は「ウチの主人は辞めないといけないのですか」と知り合いに電話をかけまくるという

近鉄GHDのトップ人事撤回を報じた4月25日付の産経新聞朝刊は「企業はトップ人事を発表する前に、新社長を取り巻く問題がないかなどのチェックを当然行う。今回の事態はそれが不十分だったことを示している」と指摘し、小林氏の統治能力に難があることを強くにおわせた。この記事を読んでパニックに陥った小林夫人からの電話ラッシュに知人たちはさぞや困惑したことだろう


◎どうでもよい話では?

小林夫人」の話は要らない。「小林夫人」が近鉄の経営に介入しているならまだ分かる。「知り合いに電話をかけまくる」だけなら取り上げる意味はない。あと「この記事を読んでパニックに陥った小林夫人からの電話ラッシュに知人たちはさぞや困惑したことだろう」と書いているが筆者は「4月25日付の産経新聞朝刊」が出た後に「小林夫人からの電話ラッシュ」があったかどうか確認したのだろうか。

記事には気になる点がまだある。


【FACTAの記事】

小林氏が一旦は会長を退くと決断したのは昨年末、三重交通GHDのO会長が退任の意向を固めたことが影響したとの見方もある。O氏は近鉄の社長候補に名前が挙がっていたが、前任の山口昌紀社長が小林氏を選んだために三重交通に転じた経緯がある。関西財界ではO氏の知名度が圧倒的に高く、小林氏は本体社長に就いた後も、その動向を気にしていたフシがある。3歳若いO氏が先に退けば、小林氏の居座りがさらに目立ってしまうために、仕方なく取締役相談役になると3月に発表した、というのだ。


◎何のための「O会長」

O会長」をイニシャルにしているのが意味不明。「昨年末、三重交通GHDのO会長が退任の意向を固めた」などと書いているので人物は簡単に特定できる。記事中で本名を隠す意味がない。

他にも気になる点はある。

【FACTAの記事】

KNT|CTHDは調査委員会を立ち上げ、事実の解明と事態収拾を急ぐ。「KNT問題が解決するまでの小林氏留任」というのが近鉄GHDの公式見解。だが調査委員会が結果を出すまでに少なくとも3~6カ月はかかる。小林氏が半年だけ会長任期を延長するというのは非現実的。24年6月までやれば2025年国際博覧会(大阪・関西万博)は目前だ。在任中のレガシーがない小林氏だけに「万博で一旗揚げる」と言い出しかねない。近鉄GHD傘下の全従業員2万6605人(連結ベース)が恐れていた最悪のシナリオが浮上する


◎本当に「全従業員」が恐れていた?

近鉄GHD傘下の全従業員2万6605人(連結ベース)が恐れていた最悪のシナリオが浮上する」という話に至っては明らかにおおげさ。「全従業員2万6605人」に聞き取り調査をした訳でもないだろう。

記事の最終段落も見ておこう。


【FACTAの記事】

思うままに感情を爆発させるパワハラ行為は正しいのか、近鉄GHD内の人事異動に正当性はあるか、自らの出処進退に驕りや打算はないか、と熟考できないはずはない――。少林寺拳法とは、単に体を鍛える運動ではなく、正義を愛し人道を重んじる「人づくり」の行なのだから。


◎根拠を示さないと…

思うままに感情を爆発させるパワハラ行為は正しいのか」と問うなら「小林哲也会長」に「パワハラ行為」があったと言える根拠が欲しい。しかし今回の記事にはそれが見当たらない。となるとただ悪口を並べただけの記事に見えてしまう。


※今回取り上げた記事「狂える『近鉄の老虎』小林哲也会長」 https://facta.co.jp/article/202306019.html


※記事の評価はE(大いに問題あり)

2023年5月13日土曜日

民間の医療保険へと読者を誘導する日経 土井誠司記者の罪

民間の医療保険は「愚か者向けの保険」と言っても過言ではない。しかし日本経済新聞の土井誠司記者が13日の朝刊マネーの学び面に書いた「働く女性、がん治療費に備え~まず50万円超、生活費も貯蓄」という記事では民間の医療保険を前向きに取り上げていた。この記事を参考にして無駄な保険に入ってしまう読者がいるかもと考えると罪深い。

錦帯橋

医療費の負担を抑える健康保険の高額療養費制度を利用できれば、入院・入院外合わせても10万円未満で収まるケースもありそうだ」と「高額療養費制度」について触れてはいる。この制度があれば追加で民間の医療保険に入る必要はない。しかし「治療にかかる費用は病院に払う医療費だけではない」などと言って民間の医療保険に誘導していく。そこを見ていこう。


【日経の記事】

こうした制度を知ったうえで蓄えが足りなかったり、治療が長引くのが不安だったりするなら民間の保険が選択肢になる。若い女性では預貯金が十分でないとか、貯金があっても教育費や住宅ローンの返済などで使い道が決まっている場合があり、保険の必要性が高そうだ。


◎「保険の必要性が高そう」?

若い女性では預貯金が十分でないとか、貯金があっても教育費や住宅ローンの返済などで使い道が決まっている場合があり、保険の必要性が高そうだ」という説明が謎。「預貯金が十分でないとか、貯金があっても教育費や住宅ローンの返済などで使い道が決まっている場合」は若くない女性でも男性でも当たり前にある。

若い女性」はがんなどになるリスクが「若くない女性」よりも小さい。なので公的保険に民間の医療保険を上乗せする理由は「若くない女性」以上になくなる。「預貯金が十分でない」なら余計な保険に加入せず「預貯金」を増やす方が得策だ。「3割負担の現役世代なら窓口で払うのは、乳がんが約18万円と約1万8000円、子宮がんは約19万円と約1万円」と土井記者も書いている。支払い額20万円程度のリスクに保険で備える必要はない。

差額ベッド代」などがかかると心配するなら「預貯金」を増やして対応すればいい。その前にがんになったら個室を諦めれば済む。必要な医療が受けられなくなる訳ではない。

記事の続きを見ていこう。


【日経の記事】

女性向け医療保険は、女性特有や女性に多い病気に対する保障を厚くした商品だ。通常の医療保険に女性向けの特約を付加するものもある。乳房や子宮、卵巣の疾病や、妊娠・出産に関する症状などの入院・手術の費用をカバーする。がんは乳がんや子宮がんに限らず、大腸がんや胃がんなど他の部位も対象になる。

「キュア・レディ・ネクスト」はオリックス生命保険の女性向け医療保険。1日当たりの入院日額を通常の医療保険に5000円上乗せし「個室に入りたい女性のニーズにも応えられる」と説明する。上乗せ分を合わせた日額1万円の一般的なプラン(1入院の支払限度日数60日)だと保険料(月額、終身払い)は30歳で2145円、40歳は2410円。がんと診断されたときなどに一時金(50万円)が出る特約を付けると2940円、3435円になる。

三井住友海上あいおい生命保険は医療保険「&LIFE 医療保険A(エース)セレクト」に「女性疾病給付特約」を加えると入院給付金が2倍になる。入院10日目まで一律10万円出るプラン(同60日)は月額の保険料(終身)が30歳が2560円で40歳は2675円。50万円の一時金が出る「ガン診断給付特約」を付けると3147円、3461円になる。

女性向けの医療保険は保障が厚い分、通常の医療保険より保険料は高めだ。加入は30~40代が中心。がんだけでなく、妊娠・出産のリスクや他の病気に備えたいという女性も多いようだ。


◎なぜ特定の保険を紹介?

土井記者はなぜ「キュア・レディ・ネクスト」と「&LIFE 医療保険A(エース)セレクト」を記事で取り上げたのか。「保険料」と「保障」内容を見て、この2つの保険が優れていると見たのなら、まだ分かる。しかし記事にそうした説明はない。結局、特定の保険に誘導する実質的な“広告”になっている。そこが残念。


※今回取り上げた記事「働く女性、がん治療費に備え~まず50万円超、生活費も貯蓄

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230513&ng=DGKKZO70928890S3A510C2PPK000


※記事の評価はD(問題あり)。土井誠司記者への評価もDとする。

2023年4月18日火曜日

マーケットへの理解不足が目立つ日経 藤田和明編集委員の「スクランブル」

日本経済新聞の藤田和明編集委員が18日の朝刊マーケット総合面に書いた 「スクランブル:バフェット流取引の妙味~長期の流動性に強み、SVBと逆の道」という記事にはマーケットに関する理解不足を感じた。中身を見ながら具体的に指摘していく。

錦帯橋

【日経の記事】

日本の商社株への投資を増やした米投資家ウォーレン・バフェット氏。金融取引としてみれば、長期で安く資金を集め、高めの配当利回りで利ざやを狙う「キャリー取引」ともいえる。かたや短期資金が流出し行き詰まった米シリコンバレー銀行(SVB)。脆弱な銀行の逆を行く時間軸の取り方で周到に利ざやを稼ぐのがバフェット流だ。

同氏率いる米投資会社バークシャー・ハザウェイの資金調達が14日明らかになった。円建てで総額1644億円になる。注目すべきは返済期間と金利水準だ。3年債から30年債まで広げた借り入れになる。金利は0.907~2.325%となっている。


◎「キャリー取引」を理解してる?

キャリー取引とは、低金利の通貨で調達した資金を高いリターンが期待できる通貨で運用し、その差で収益を得る運用手法のこと」(楽天証券のマネー用語辞典)だ。「円建て」で資金を調達しても、それを「高いリターンが期待できる通貨で運用」せず「日本の商社株への投資」に充ててしまうのならば「キャリー取引」とは言えない。

「そんなことは分かっている。キャリー取引的な要素があると言いたかったのだ」と藤田編集委員は反論するかもしれない。だったら記事でその点を断ってもよさそうだが、最後まで読んでもそうした記述は見当らない。

続きを見ていこう。


【日経の記事】

これを元手に商社株に投資するとしよう。17日時点で三菱商事など5社の配当利回りは3.1~4.7%。単純な利ざやとしては3年債で2~3%強、30年債でも少なくとも2%近くを見込めると計算できる。

バークシャーの円建てでの調達はこれで総額1兆円を超える。過去の調達では利ざやが5%を見込めるような場面があってもおかしくなかった。


◎配当利回りに着目しても…

投資で「配当利回り」に着目する意味は基本的にない。1000円の株価で年間配当が100円ならば「配当利回り10%でお得」と考える人が多い。藤田編集委員もそうなのだろう。しかし配当は株式の価値を削って出すものだ。1000円の株で100円の配当をすれば株式価値は100円減るので株主にとって旨味はない。

株式投資ではキャピタルゲインも含めたトータルでリターンを見る必要があるが、なぜか多くの人が「配当利回り」だけに目を向けてしまう。金利1%で社債を発行して配当利回り3%の株を買えば2%の「利ざや」が見込めると考えるのは間違いだ。配当の多さは株価の下押しで相殺される。株価は配当以外の要因でも動いているので分かりにくい面はあるが、日経でマーケット関連の記事を書く編集委員ならば理解しておいてほしい。

さらに記事の続きを見ていく。


【日経の記事】

このキャリー取引が成功するカギは、配当利回りが見込んだ水準を将来も維持することにある。持続して現金を稼ぎ配当を増やし続ける投資先でなければならない。それをもってバフェット氏は経営の質といい、商社株に認めたのだといえる。


◎全然違うような…

マーケットに関して誤解があるので「このキャリー取引が成功するカギは、配当利回りが見込んだ水準を将来も維持することにある」という的外れな結論を藤田編集委員は導いてしまう。

商社株が減配にならなければ「配当利回りが見込んだ水準を将来も維持すること」はできるが、だからと言って「取引が成功」したとは言えない。やはり株価も含めたトータルでリターンを見るべきだ。「配当利回り」を維持できても株価が下がればトータルで損失が出る場合もある。「バフェット氏」がドルベースで「取引が成功」かどうかを見るならばドル円相場も重要な要素となる。

そんなことは改めて言うまでもないはずだが…。そこをベテランの書き手である藤田編集委員に指摘しなければならないのが辛いところだ。


※今回取り上げた記事「スクランブル:バフェット流取引の妙味~長期の流動性に強み、SVBと逆の道

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230418&ng=DGKKZO70260580X10C23A4EN8000


※記事の評価はD(問題あり)。藤田和明編集委員への評価もDとする。藤田編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

IT大手にマネーが「一極集中」と日経 藤田和明編集委員・後藤達也記者は言うが…https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/11/it_26.html


「FANG」は3社? 日経 藤田和明編集委員「一目均衡」の説明不足
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/fang.html

改善は見られるが…日経 藤田和明編集委員の「一目均衡」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_2.html

「中国株は日本の01年」に無理がある日経 藤田和明編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/01.html

「カラー取引」の説明不足に見える日経 藤田和明編集委員の限界
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/02/blog-post_37.html

東証は「4市場」のみ? 日経 藤田和明編集委員「ニッキィの大疑問」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_28.html

合格点には遠い日経 藤田和明編集委員の「スクランブル」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/blog-post_10.html

説明に無理がある日経 藤田和明編集委員「一目均衡~次世代に資本のバトンを」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/01/blog-post_28.html

新型肺炎が「ブラックスワン」に? 日経 藤田和明編集委員の苦しい解説
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/02/blog-post_4.html

「パンデミック」の基準は? 日経1面「日米欧、時価総額1割減」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/02/11.html

「訴えたいこと」がないのが透けて見える日経 藤田和明編集委員の「一目均衡」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/09/blog-post_74.html

2023年4月13日木曜日

週刊東洋経済:大垣共立銀行を手放しに持ち上げる金田信一郎氏の眼力に問題あり

作家・ジャーナリストの金田信一郎氏が週刊東洋経済で始めた「ヤバい会社烈伝」という連載に期待していたのだが、早くも第2回で残念な内容となっている。記事の終盤を見た上で具体的に指摘したい。

宮島連絡船

【東洋経済の記事】

コンビニのような店舗、ドライブスルーATM、移動店舗……。実は、こうしたアイデアはすでに大垣共立銀行が実現している。若い銀行員を先進サービス企業に出向させて、ノウハウを学び取らせ、サービス業化を進めた。頭取自らも金融商品を生み出した。

「シングルマザー応援ローン」。それは借り入れが難しい、単身で子育てしている女性に向けた優遇ローンだ。子育てに邁進しているシングルマザーが返済を怠ることはない……。そこを支援すれば、少子高齢化が叫ばれる未来に変化をもたらすかもしれない。こうした社会を変えうる発想と、そこにあえてカネを流す胆力にこそ、「銀行の存在意義」がある。


◎どこが「優遇ローン」?

大垣共立銀行」を金田氏は手放しに持ち上げる。持ち上げる価値があるなら、もちろんそれもありだ。しかし、どうも怪しい。「シングルマザー応援ローン」を「単身で子育てしている女性に向けた優遇ローン」と紹介しているが、どう「優遇」しているのか触れていない。

同行のホームページで金利を見ると「シングルマザー応援ローン」は年6.975%。同行には「キレイをかなえる女性専用ローン」という女性向けローンもあるようで、こちらは年5.975%と「シングルマザー応援ローン」より金利が低い。これでなぜ「シングルマザー応援ローン」を「優遇ローン」と言えるのか。

そもそも「育てに邁進しているシングルマザーが返済を怠ることはない」と同行が見ているのなら信用リスクがゼロ(そんなはずはないが…)なので貸出金利はかなり低くできる。さらに「優遇」を加えているのに、結果として他のローン商品より金利が高くなるとは…。金田氏は何かおかしいと思わなかったのか。「大垣共立銀行」の説明を疑いもなく鵜吞みにしたのか。だとしたら金田氏の「ヤバい会社」を見分ける力には大きな疑問符が付く。


※今回取り上げた記事「ヤバい会社烈伝(2)銀行、武富士、カネ貸し~体育会系っすから実は手荒いっす」


※記事の評価はD(問題あり)。金田信一郎氏への評価はB(優れている)からDへ引き下げる。

2023年4月11日火曜日

先祖返りしてミス放置に転じた日経ビジネス 磯貝高行編集長の罪

日経ビジネスが先祖返りしてミス放置の姿勢に転じた可能性が高い。東昌樹編集長時代には間違い指摘を受けたらきちんと対応するようになったが、今の磯貝高行編集長にその気はないようだ。3月25日に送った問い合わせと31日に届いた回答から、日経ビジネスの変化が透けて見える。その内容は以下の通り。

岩国城


【日経ビジネスへの問い合わせ】

日経ビジネス 編集部 担当者様

3月27日号について2点お尋ねします。まず八巻高之記者が書いた「米ネットフリックスに独自番組を提供~債務超過のAbemaTV、探る打開策」という記事の以下の記述を見てください。

CAは損失の続くAbemaTVを資金的に支えてきた。決算資料を総合すると、AbemaTVには22年9月末に固定負債が1168億円あり、CAが同額を貸し付けている。テレビ朝日もAbemaTVに約37%を出資するが、資金面でのサポートはCAが中心のようだ。引き受けた巨額の債務は回収可能なのか。CAは21年9月期単体決算でAbemaTVへ900億円の貸倒引当金を計上している。連結決算上は相殺されるものの、CA単体としての特別損失となった

この中で引っかかったのが「引き受けた巨額の債務は回収可能なのか」というくだりです。素直に読めば「CAサイバーエージェント」が「AbemaTV」から「巨額の債務」を「引き受けた」と取れます。しかし、その前には「1168億円」を「CAが貸し付けている」との説明しかありません。「CAからAbemaTVへの債務引き受け(債務譲渡)があった」とは書いていないのに「引き受けた巨額の債務は回収可能なのか」と唐突に出てきます。

記事中で説明がなかっただけで、実際に債務引き受けはあったとしましょう。この場合、その後の「回収可能なのか」と整合しません。債権は「回収」できますが債務の「回収」は意味不明です。「引き受けた巨額の債務は回収可能なのか」という記述は誤りではありませんか。「巨額の貸付金(債権)は回収可能なのか」などとすべきだった気がします。

次に在独ジャーナリストの熊谷徹氏が書いた「世界展望~ロシアのウクライナ侵攻でポーランドが欧州安全保障の中心に」という記事を取り上げます。ここで問題としたいのは「ポーランドは、ウクライナがロシアに占領されれば、ロシアの勢力圏と国境を接することになる」との記述です。

この説明だと「現状ではポーランドはロシアの勢力圏と国境を接していない」と取れます。しかし「ロシアの勢力圏」どころかロシアそのものと国境を接しているはずです。カリーニングラード州というロシアの飛び地があります。その国境線を確認してみてください。「ポーランドは、ウクライナがロシアに占領されれば、ロシアの勢力圏と国境を接することになる」という説明は不正確ではありませんか。筆者の熊谷氏が飛び地の存在を失念していたのだと推測していますが、いかがでしょうか。

質問は以上です。お忙しいところ恐縮ですが回答をお願いします。


【日経BPからの回答】

この度は貴重なご意見、ご指摘をいただき、ありがとうございました。いただきましたご意見は、日経ビジネス編集部へ確かに申し伝えました。編集部で対応を検討させていただきます。今後とも弊社刊行物を何卒よろしくお願い申し上げます。


◇   ◇   ◇


読者対応をしている部署から編集部に問い合わせを伝えてはいるのだろう。回答が返ってこないので編集部に確認したら、まともに回答する意思がないことが分かったので、読者対応の担当者としては上記のような返信をこちらにしたのだと思える。

編集部で対応を検討させていただきます」と書いてあるので念のために10日ほど待ってみたが、その後の進展はない。日経ビジネス編集部はミス黙殺の方針に転じたと見るほかない。

最近の日経ビジネスには活気がない。読みたいと思える記事が少ない。さらに、読者から間違い指摘があっても実質的なゼロ回答で済ます。それでも磯貝高行編集長は自信を持って日経ビジネスを世に送り出せるのか。改めて考えてほしい。


※今回取り上げた記事「米ネットフリックスに独自番組を提供~債務超過のAbemaTV、探る打開策

https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/depth/01731/


※記事の評価はD(問題あり)。八巻高之記者への評価もDとする。磯貝高行編集長への評価はEとする。磯貝編集長に関しては以下の投稿も参照してほしい。


インタビュー記事に粗さ目立つ日経ビジネスの磯貝高行編集長https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/05/blog-post_6.html

2023年4月3日月曜日

工場稼働率が上がると固定費が減る? 日経 西條都夫編集委員の誤解

日本経済新聞の西條都夫編集委員が相変わらず苦しい。今回は「固定費」について基礎的なことが理解できていないのではと思える記述を見つけた。日経には以下の内容で問い合わせしている。

宮島

【日経への問い合わせ】

日本経済新聞社 編集委員 西條都夫様

3日の朝刊ビジネス面に載った「経営の視点:『社会善』効率的に実現~エーザイ、熱帯病対策への挑戦」という記事についてお尋ねします。問題としたいのは「さらにDEC錠の生産で工場稼働率が上がり、生産関連の固定費も下がる」との記述です。

固定費とは「変動費に対する言葉で、特定の一期間内で操業度 (生産数量) の増減に関係なく発生総額の一定した原価をいう。固定資産税、減価償却費、火災保険料、固定給の賃金などがこれに属する」とブリタニカ国際大百科事典では説明しています。「操業度 (生産数量) の増減に関係なく発生総額の一定した原価」なのですから「工場稼働率」を引き上げても「生産関連の固定費」は減りません。

DEC錠の生産で工場稼働率が上がり、生産関連の固定費も下がる」との説明は誤りではありませんか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

工場稼働率」の向上は製品1個当たりの「固定費」を下げる効果はありますが、記事ではそうは書いていません。

こうしたもろもろの効果を合計すれば、LF対策に要する費用の数倍に及ぶ『リターン』をエーザイはすでに手にしている、と同社OBの柳良平・早稲田大学客員教授は試算する」との記述も記事にはありますが、無償で提供している「DEC錠の生産」を増やして製品1個当たりの「固定費」を減らしても、工場全体の「固定費」は減りませんし、変動費の分だけ利益を削るので、この点では「リターン」はマイナスです。

問い合わせは以上です。回答をお願いします。御紙では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。日本を代表する経済メディアの一員として適切な行動を心掛けてください。


◇   ◇   ◇


※今回取り上げた記事「経営の視点:『社会善』効率的に実現~エーザイ、熱帯病対策への挑戦

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230403&ng=DGKKZO69824540S3A400C2TB0000


※記事の評価はD(問題あり)。西條都夫編集委員への評価はDを据え置く。西條編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「絶望を希望に変える雇用改革」はどこに? 日経 西條都夫上級論説委員「核心」https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/02/blog-post.html

春秋航空日本は第三極にあらず?
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/04/blog-post_25.html

7回出てくる接続助詞「が」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/04/blog-post_90.html

日経 西條都夫編集委員「日本企業の短期主義」の欠陥
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/08/blog-post_82.html

何も言っていないに等しい日経 西條都夫編集委員の解説
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_26.html

日経 西條都夫編集委員が見習うべき志田富雄氏の記事
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_28.html

タクシー初の値下げ? 日経 西條都夫編集委員の誤り
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/04/blog-post_17.html

日経「一目均衡」で 西條都夫編集委員が忘れていること
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_14.html

「まじめにコツコツだけ」?日経 西條都夫編集委員の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/07/blog-post_4.html

さらに苦しい日経 西條都夫編集委員の「内向く世界(4)」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2016/11/blog-post_29.html

「根拠なき『民』への不信」に根拠欠く日経 西條都夫編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_73.html

「日の丸半導体」の敗因分析が雑な日経 西條都夫編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/02/blog-post_18.html

「平成の敗北なぜ起きた」の分析が残念な日経 西條都夫論説委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_22.html

「トヨタに数値目標なし」と誤った日経 西條都夫論説委員に引退勧告
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_27.html

「寿命逆転」が成立してない日経 西條都夫編集委員の「経営の視点」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/blog-post_17.html

「平井一夫氏がソニーを引退」? 日経 西條都夫編集委員の奇妙な解説
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/blog-post_19.html

「真価が問われる」で逃げた日経 西條都夫論説委員の真価を問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/09/blog-post_16.html

周知の「顔」では?日経 西條都夫上級論説委員「核心~GAFA、もう一つの顔」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/08/gafa.html

「強引」な比較をあえて選ぶ日経 西條都夫上級論説委員「核心」のご都合主義https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/12/blog-post_21.html

2023年3月25日土曜日

前文での「宣言」は忘れた? 日経ビジネス生田弦己記者の記事に欠けていること

記事の前文(リード文)は「これから、こういうことを書きますよ」という読者に向けての宣言だ。前文で持たせた期待を裏切らないように記事を書くのが記者の務め。しかし日経ビジネス3月27日号に生田弦己記者が書いた「旭化成、最悪赤字転落も“勝算”~車載電池の絶縁材で1850億円減損」という記事では、その務めを果たせていない。まずは前文を見ていく。

宮島連絡船

【日経ビジネスの記事】 

旭化成が2023年3月期、同社にとって史上最悪となる1050億円の連結最終赤字を計上する見通しになった。15年に買収した車載電池用セパレーター(絶縁材)事業の不振で、1850億円もの減損損失を計上するからだ。ところが旭化成の工藤幸四郎社長は成長への自信を語り、株価も崩れるどころか発表直後は急騰した。なぜか


◇   ◇   ◇


株価も崩れるどころか発表直後は急騰した。なぜか」と書いているのだから、第二段落以降で、そこを分析してくれると期待してしまう。しかし、そうはなっていない。「株価」については記事の終盤で以下のように説明している。


【日経ビジネスの記事】

「戦略は間違っていなかった」「成長が確信めいたものになった」「湿式なら勝てる」──。8日の記者会見で、工藤社長は業績予想の大幅な下方修正を発表した経営者とは思えないほどの前向きな言葉を次々と口にした。

株価もおおむね持ちこたえた。ハイポア事業の平均的な投下資本利益率(ROIC)は2桁台といい、22~24年度の中期経営計画で掲げるROICの全社目標(24年度に8%以上)を上回っている。旭化成の成長を支えるけん引役の一つとしてハイポアに期待できそうな点が、株価が崩れなかった要因となったようだ

過去最悪の巨額赤字予想を示しながらも、成長への力強い自信を見せた旭化成。今後は投資家の期待に実績で応えることが求められる。今回の発表はしのいだとはいえ、株価は18年10月のピークに比べると約5割も安い。有言実行を果たせるかどうかが問われる。


◎「発表直後の株価」になぜ触れない?

株価も崩れるどころか発表直後は急騰した。なぜか」と前文で打ち出したのに、本文に入ると「株価もおおむね持ちこたえた」「株価が崩れなかった」とトーンが変わってくる。少なくとも「発表直後」にどのぐらいの「急騰」を見せたのかは読者に見せるべきだ。

株価も崩れるどころか発表直後は急騰した」件について、会社四季報オンラインの「旭化成が反発、今3月期の大幅赤字予想も織り込み済み」という3月9日付の記事では「当社の株価は22年に年間を通じて下落トレンドが続き1月中旬には923円の昨年来安値まで売られていた。この過程でポリポア社の不振は織り込んできていた」と伝えている。そして「アク抜け感が広がり、買い戻しや見直し買いが先行」したらしい。悪材料の発表直後に株価が上昇することは珍しくない。だいたいが「アク抜け感」が出るパターンだ。「旭化成」の場合も、その可能性が高い。

日経ビジネスの生田記者が違う見方をするなら、それはそれでいい。だったら「急騰」の要因をしっかり説明しないと。それが難しく「株価もおおむね持ちこたえた」で本文を作るなら、前文もそこに合わせるべきだ。

無理に前文で盛り上げようとしたのか。前文で書いたことを、記事を書き進めるうちに忘れてしまったのか。いずれにしても問題ありだ。


※今回取り上げた記事「旭化成、最悪赤字転落も“勝算”~車載電池の絶縁材で1850億円減損

https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/depth/01732/


※記事の評価はD(問題あり)。生田弦己記者への評価もDとする。