2023年4月18日火曜日

マーケットへの理解不足が目立つ日経 藤田和明編集委員の「スクランブル」

日本経済新聞の藤田和明編集委員が18日の朝刊マーケット総合面に書いた 「スクランブル:バフェット流取引の妙味~長期の流動性に強み、SVBと逆の道」という記事にはマーケットに関する理解不足を感じた。中身を見ながら具体的に指摘していく。

錦帯橋

【日経の記事】

日本の商社株への投資を増やした米投資家ウォーレン・バフェット氏。金融取引としてみれば、長期で安く資金を集め、高めの配当利回りで利ざやを狙う「キャリー取引」ともいえる。かたや短期資金が流出し行き詰まった米シリコンバレー銀行(SVB)。脆弱な銀行の逆を行く時間軸の取り方で周到に利ざやを稼ぐのがバフェット流だ。

同氏率いる米投資会社バークシャー・ハザウェイの資金調達が14日明らかになった。円建てで総額1644億円になる。注目すべきは返済期間と金利水準だ。3年債から30年債まで広げた借り入れになる。金利は0.907~2.325%となっている。


◎「キャリー取引」を理解してる?

「キャリー取引とは、低金利の通貨で調達した資金を高いリターンが期待できる通貨で運用し、その差で収益を得る運用手法のこと」(楽天証券のマネー用語辞典)だ。「円建て」で資金を調達しても、それを「高いリターンが期待できる通貨で運用」せず「日本の商社株への投資」に充ててしまうのならば「キャリー取引」とは言えない。

「そんなことは分かっている。キャリー取引的な要素があると言いたかったのだ」と藤田編集委員は反論するかもしれない。だったら記事でその点を断ってもよさそうだが、最後まで読んでもそうした記述は見当らない。

続きを見ていこう。


【日経の記事】

これを元手に商社株に投資するとしよう。17日時点で三菱商事など5社の配当利回りは3.1~4.7%。単純な利ざやとしては3年債で2~3%強、30年債でも少なくとも2%近くを見込めると計算できる。

バークシャーの円建てでの調達はこれで総額1兆円を超える。過去の調達では利ざやが5%を見込めるような場面があってもおかしくなかった。


◎配当利回りに着目しても…

投資で「配当利回り」に着目する意味は基本的にない。1000円の株価で年間配当が100円ならば「配当利回り10%でお得」と考える人が多い。藤田編集委員もそうなのだろう。しかし配当は株式の価値を削って出すものだ。1000円の株で100円の配当をすれば株式価値は100円減るので株主にとって旨味はない。

株式投資ではキャピタルゲインも含めたトータルでリターンを見る必要があるが、なぜか多くの人が「配当利回り」だけに目を向けてしまう。金利1%で社債を発行して配当利回り3%の株を買えば2%の「利ざや」が見込めると考えるのは間違いだ。配当の多さは株価の下押しで相殺される。株価は配当以外の要因でも動いているので分かりにくい面はあるが、日経でマーケット関連の記事を書く編集委員ならば理解しておいてほしい。

さらに記事の続きを見ていく。


【日経の記事】

このキャリー取引が成功するカギは、配当利回りが見込んだ水準を将来も維持することにある。持続して現金を稼ぎ配当を増やし続ける投資先でなければならない。それをもってバフェット氏は経営の質といい、商社株に認めたのだといえる。


◎全然違うような…

マーケットに関して誤解があるので「このキャリー取引が成功するカギは、配当利回りが見込んだ水準を将来も維持することにある」という的外れな結論を藤田編集委員は導いてしまう。

商社株が減配にならなければ「配当利回りが見込んだ水準を将来も維持すること」はできるが、だからと言って「取引が成功」したとは言えない。やはり株価も含めたトータルでリターンを見るべきだ。「配当利回り」を維持できても株価が下がればトータルで損失が出る場合もある。「バフェット氏」がドルベースで「取引が成功」かどうかを見るならばドル円相場も重要な要素となる。

そんなことは改めて言うまでもないはずだが…。そこをベテランの書き手である藤田編集委員に指摘しなければならないのが辛いところだ。


※今回取り上げた記事「スクランブル:バフェット流取引の妙味~長期の流動性に強み、SVBと逆の道」

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230418&ng=DGKKZO70260580X10C23A4EN8000


※記事の評価はD(問題あり)。藤田和明編集委員への評価もDとする。藤田編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

IT大手にマネーが「一極集中」と日経 藤田和明編集委員・後藤達也記者は言うが…https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/11/it_26.html


「FANG」は3社? 日経 藤田和明編集委員「一目均衡」の説明不足
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/05/fang.html

改善は見られるが…日経 藤田和明編集委員の「一目均衡」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/08/blog-post_2.html

「中国株は日本の01年」に無理がある日経 藤田和明編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/11/01.html

「カラー取引」の説明不足に見える日経 藤田和明編集委員の限界
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/02/blog-post_37.html

東証は「4市場」のみ? 日経 藤田和明編集委員「ニッキィの大疑問」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_28.html

合格点には遠い日経 藤田和明編集委員の「スクランブル」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/blog-post_10.html

説明に無理がある日経 藤田和明編集委員「一目均衡~次世代に資本のバトンを」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/01/blog-post_28.html

新型肺炎が「ブラックスワン」に? 日経 藤田和明編集委員の苦しい解説
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/02/blog-post_4.html

「パンデミック」の基準は? 日経1面「日米欧、時価総額1割減」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/02/11.html

「訴えたいこと」がないのが透けて見える日経 藤田和明編集委員の「一目均衡」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/09/blog-post_74.html

2023年4月13日木曜日

週刊東洋経済:大垣共立銀行を手放しに持ち上げる金田信一郎氏の眼力に問題あり

作家・ジャーナリストの金田信一郎氏が週刊東洋経済で始めた「ヤバい会社烈伝」という連載に期待していたのだが、早くも第2回で残念な内容となっている。記事の終盤を見た上で具体的に指摘したい。

宮島連絡船

【東洋経済の記事】

コンビニのような店舗、ドライブスルーATM、移動店舗……。実は、こうしたアイデアはすでに大垣共立銀行が実現している。若い銀行員を先進サービス企業に出向させて、ノウハウを学び取らせ、サービス業化を進めた。頭取自らも金融商品を生み出した。

「シングルマザー応援ローン」。それは借り入れが難しい、単身で子育てしている女性に向けた優遇ローンだ。子育てに邁進しているシングルマザーが返済を怠ることはない……。そこを支援すれば、少子高齢化が叫ばれる未来に変化をもたらすかもしれない。こうした社会を変えうる発想と、そこにあえてカネを流す胆力にこそ、「銀行の存在意義」がある。


◎どこが「優遇ローン」?

「大垣共立銀行」を金田氏は手放しに持ち上げる。持ち上げる価値があるなら、もちろんそれもありだ。しかし、どうも怪しい。「シングルマザー応援ローン」を「単身で子育てしている女性に向けた優遇ローン」と紹介しているが、どう「優遇」しているのか触れていない。

同行のホームページで金利を見ると「シングルマザー応援ローン」は年6.975%。同行には「キレイをかなえる女性専用ローン」という女性向けローンもあるようで、こちらは年5.975%と「シングルマザー応援ローン」より金利が低い。これでなぜ「シングルマザー応援ローン」を「優遇ローン」と言えるのか。

そもそも「育てに邁進しているシングルマザーが返済を怠ることはない」と同行が見ているのなら信用リスクがゼロ(そんなはずはないが…)なので貸出金利はかなり低くできる。さらに「優遇」を加えているのに、結果として他のローン商品より金利が高くなるとは…。金田氏は何かおかしいと思わなかったのか。「大垣共立銀行」の説明を疑いもなく鵜吞みにしたのか。だとしたら金田氏の「ヤバい会社」を見分ける力には大きな疑問符が付く。


※今回取り上げた記事「ヤバい会社烈伝(2)銀行、武富士、カネ貸し~体育会系っすから実は手荒いっす」


※記事の評価はD(問題あり)。金田信一郎氏への評価はB(優れている)からDへ引き下げる。

2023年4月11日火曜日

先祖返りしてミス放置に転じた日経ビジネス 磯貝高行編集長の罪

日経ビジネスが先祖返りしてミス放置の姿勢に転じた可能性が高い。東昌樹編集長時代には間違い指摘を受けたらきちんと対応するようになったが、今の磯貝高行編集長にその気はないようだ。3月25日に送った問い合わせと31日に届いた回答から、日経ビジネスの変化が透けて見える。その内容は以下の通り。

岩国城


【日経ビジネスへの問い合わせ】

日経ビジネス 編集部 担当者様

3月27日号について2点お尋ねします。まず八巻高之記者が書いた「米ネットフリックスに独自番組を提供~債務超過のAbemaTV、探る打開策」という記事の以下の記述を見てください。

「CAは損失の続くAbemaTVを資金的に支えてきた。決算資料を総合すると、AbemaTVには22年9月末に固定負債が1168億円あり、CAが同額を貸し付けている。テレビ朝日もAbemaTVに約37%を出資するが、資金面でのサポートはCAが中心のようだ。引き受けた巨額の債務は回収可能なのか。CAは21年9月期単体決算でAbemaTVへ900億円の貸倒引当金を計上している。連結決算上は相殺されるものの、CA単体としての特別損失となった」

この中で引っかかったのが「引き受けた巨額の債務は回収可能なのか」というくだりです。素直に読めば「CA=サイバーエージェント」が「AbemaTV」から「巨額の債務」を「引き受けた」と取れます。しかし、その前には「1168億円」を「CAが貸し付けている」との説明しかありません。「CAからAbemaTVへの債務引き受け(債務譲渡)があった」とは書いていないのに「引き受けた巨額の債務は回収可能なのか」と唐突に出てきます。

記事中で説明がなかっただけで、実際に債務引き受けはあったとしましょう。この場合、その後の「回収可能なのか」と整合しません。債権は「回収」できますが債務の「回収」は意味不明です。「引き受けた巨額の債務は回収可能なのか」という記述は誤りではありませんか。「巨額の貸付金(債権)は回収可能なのか」などとすべきだった気がします。

次に在独ジャーナリストの熊谷徹氏が書いた「世界展望~ロシアのウクライナ侵攻でポーランドが欧州安全保障の中心に」という記事を取り上げます。ここで問題としたいのは「ポーランドは、ウクライナがロシアに占領されれば、ロシアの勢力圏と国境を接することになる」との記述です。

この説明だと「現状ではポーランドはロシアの勢力圏と国境を接していない」と取れます。しかし「ロシアの勢力圏」どころかロシアそのものと国境を接しているはずです。カリーニングラード州というロシアの飛び地があります。その国境線を確認してみてください。「ポーランドは、ウクライナがロシアに占領されれば、ロシアの勢力圏と国境を接することになる」という説明は不正確ではありませんか。筆者の熊谷氏が飛び地の存在を失念していたのだと推測していますが、いかがでしょうか。

質問は以上です。お忙しいところ恐縮ですが回答をお願いします。


【日経BPからの回答】

この度は貴重なご意見、ご指摘をいただき、ありがとうございました。いただきましたご意見は、日経ビジネス編集部へ確かに申し伝えました。編集部で対応を検討させていただきます。今後とも弊社刊行物を何卒よろしくお願い申し上げます。


◇   ◇   ◇


読者対応をしている部署から編集部に問い合わせを伝えてはいるのだろう。回答が返ってこないので編集部に確認したら、まともに回答する意思がないことが分かったので、読者対応の担当者としては上記のような返信をこちらにしたのだと思える。

「編集部で対応を検討させていただきます」と書いてあるので念のために10日ほど待ってみたが、その後の進展はない。日経ビジネス編集部はミス黙殺の方針に転じたと見るほかない。

最近の日経ビジネスには活気がない。読みたいと思える記事が少ない。さらに、読者から間違い指摘があっても実質的なゼロ回答で済ます。それでも磯貝高行編集長は自信を持って日経ビジネスを世に送り出せるのか。改めて考えてほしい。


※今回取り上げた記事「米ネットフリックスに独自番組を提供~債務超過のAbemaTV、探る打開策」

https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/depth/01731/


※記事の評価はD(問題あり)。八巻高之記者への評価もDとする。磯貝高行編集長への評価はEとする。磯貝編集長に関しては以下の投稿も参照してほしい。


インタビュー記事に粗さ目立つ日経ビジネスの磯貝高行編集長https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/05/blog-post_6.html

2023年4月3日月曜日

工場稼働率が上がると固定費が減る? 日経 西條都夫編集委員の誤解

日本経済新聞の西條都夫編集委員が相変わらず苦しい。今回は「固定費」について基礎的なことが理解できていないのではと思える記述を見つけた。日経には以下の内容で問い合わせしている。

宮島

【日経への問い合わせ】

日本経済新聞社 編集委員 西條都夫様

3日の朝刊ビジネス面に載った「経営の視点:『社会善』効率的に実現~エーザイ、熱帯病対策への挑戦」という記事についてお尋ねします。問題としたいのは「さらにDEC錠の生産で工場稼働率が上がり、生産関連の固定費も下がる」との記述です。

固定費とは「変動費に対する言葉で、特定の一期間内で操業度 (生産数量) の増減に関係なく発生総額の一定した原価をいう。固定資産税、減価償却費、火災保険料、固定給の賃金などがこれに属する」とブリタニカ国際大百科事典では説明しています。「操業度 (生産数量) の増減に関係なく発生総額の一定した原価」なのですから「工場稼働率」を引き上げても「生産関連の固定費」は減りません。

「DEC錠の生産で工場稼働率が上がり、生産関連の固定費も下がる」との説明は誤りではありませんか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。

「工場稼働率」の向上は製品1個当たりの「固定費」を下げる効果はありますが、記事ではそうは書いていません。

「こうしたもろもろの効果を合計すれば、LF対策に要する費用の数倍に及ぶ『リターン』をエーザイはすでに手にしている、と同社OBの柳良平・早稲田大学客員教授は試算する」との記述も記事にはありますが、無償で提供している「DEC錠の生産」を増やして製品1個当たりの「固定費」を減らしても、工場全体の「固定費」は減りませんし、変動費の分だけ利益を削るので、この点では「リターン」はマイナスです。

問い合わせは以上です。回答をお願いします。御紙では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。日本を代表する経済メディアの一員として適切な行動を心掛けてください。


◇   ◇   ◇


※今回取り上げた記事「経営の視点:『社会善』効率的に実現~エーザイ、熱帯病対策への挑戦」

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230403&ng=DGKKZO69824540S3A400C2TB0000


※記事の評価はD(問題あり)。西條都夫編集委員への評価はDを据え置く。西條編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「絶望を希望に変える雇用改革」はどこに? 日経 西條都夫上級論説委員「核心」https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/02/blog-post.html

春秋航空日本は第三極にあらず?
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/04/blog-post_25.html

7回出てくる接続助詞「が」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/04/blog-post_90.html

日経 西條都夫編集委員「日本企業の短期主義」の欠陥
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/08/blog-post_82.html

何も言っていないに等しい日経 西條都夫編集委員の解説
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_26.html

日経 西條都夫編集委員が見習うべき志田富雄氏の記事
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/03/blog-post_28.html

タクシー初の値下げ? 日経 西條都夫編集委員の誤り
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/04/blog-post_17.html

日経「一目均衡」で 西條都夫編集委員が忘れていること
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/06/blog-post_14.html

「まじめにコツコツだけ」?日経 西條都夫編集委員の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/07/blog-post_4.html

さらに苦しい日経 西條都夫編集委員の「内向く世界(4)」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2016/11/blog-post_29.html

「根拠なき『民』への不信」に根拠欠く日経 西條都夫編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_73.html

「日の丸半導体」の敗因分析が雑な日経 西條都夫編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/02/blog-post_18.html

「平成の敗北なぜ起きた」の分析が残念な日経 西條都夫論説委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/04/blog-post_22.html

「トヨタに数値目標なし」と誤った日経 西條都夫論説委員に引退勧告
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/blog-post_27.html

「寿命逆転」が成立してない日経 西條都夫編集委員の「経営の視点」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/blog-post_17.html

「平井一夫氏がソニーを引退」? 日経 西條都夫編集委員の奇妙な解説
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/06/blog-post_19.html

「真価が問われる」で逃げた日経 西條都夫論説委員の真価を問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/09/blog-post_16.html

周知の「顔」では?日経 西條都夫上級論説委員「核心~GAFA、もう一つの顔」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/08/gafa.html

「強引」な比較をあえて選ぶ日経 西條都夫上級論説委員「核心」のご都合主義https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/12/blog-post_21.html

2023年3月25日土曜日

前文での「宣言」は忘れた? 日経ビジネス生田弦己記者の記事に欠けていること

記事の前文(リード文)は「これから、こういうことを書きますよ」という読者に向けての宣言だ。前文で持たせた期待を裏切らないように記事を書くのが記者の務め。しかし日経ビジネス3月27日号に生田弦己記者が書いた「旭化成、最悪赤字転落も“勝算”~車載電池の絶縁材で1850億円減損」という記事では、その務めを果たせていない。まずは前文を見ていく。

宮島連絡船

【日経ビジネスの記事】 

旭化成が2023年3月期、同社にとって史上最悪となる1050億円の連結最終赤字を計上する見通しになった。15年に買収した車載電池用セパレーター(絶縁材)事業の不振で、1850億円もの減損損失を計上するからだ。ところが旭化成の工藤幸四郎社長は成長への自信を語り、株価も崩れるどころか発表直後は急騰した。なぜか。


◇   ◇   ◇


「株価も崩れるどころか発表直後は急騰した。なぜか」と書いているのだから、第二段落以降で、そこを分析してくれると期待してしまう。しかし、そうはなっていない。「株価」については記事の終盤で以下のように説明している。


【日経ビジネスの記事】

「戦略は間違っていなかった」「成長が確信めいたものになった」「湿式なら勝てる」──。8日の記者会見で、工藤社長は業績予想の大幅な下方修正を発表した経営者とは思えないほどの前向きな言葉を次々と口にした。

株価もおおむね持ちこたえた。ハイポア事業の平均的な投下資本利益率(ROIC)は2桁台といい、22~24年度の中期経営計画で掲げるROICの全社目標(24年度に8%以上)を上回っている。旭化成の成長を支えるけん引役の一つとしてハイポアに期待できそうな点が、株価が崩れなかった要因となったようだ。

過去最悪の巨額赤字予想を示しながらも、成長への力強い自信を見せた旭化成。今後は投資家の期待に実績で応えることが求められる。今回の発表はしのいだとはいえ、株価は18年10月のピークに比べると約5割も安い。有言実行を果たせるかどうかが問われる。


◎「発表直後の株価」になぜ触れない?

「株価も崩れるどころか発表直後は急騰した。なぜか」と前文で打ち出したのに、本文に入ると「株価もおおむね持ちこたえた」「株価が崩れなかった」とトーンが変わってくる。少なくとも「発表直後」にどのぐらいの「急騰」を見せたのかは読者に見せるべきだ。

「株価も崩れるどころか発表直後は急騰した」件について、会社四季報オンラインの「旭化成が反発、今3月期の大幅赤字予想も織り込み済み」という3月9日付の記事では「当社の株価は22年に年間を通じて下落トレンドが続き1月中旬には923円の昨年来安値まで売られていた。この過程でポリポア社の不振は織り込んできていた」と伝えている。そして「アク抜け感が広がり、買い戻しや見直し買いが先行」したらしい。悪材料の発表直後に株価が上昇することは珍しくない。だいたいが「アク抜け感」が出るパターンだ。「旭化成」の場合も、その可能性が高い。

日経ビジネスの生田記者が違う見方をするなら、それはそれでいい。だったら「急騰」の要因をしっかり説明しないと。それが難しく「株価もおおむね持ちこたえた」で本文を作るなら、前文もそこに合わせるべきだ。

無理に前文で盛り上げようとしたのか。前文で書いたことを、記事を書き進めるうちに忘れてしまったのか。いずれにしても問題ありだ。


※今回取り上げた記事「旭化成、最悪赤字転落も“勝算”~車載電池の絶縁材で1850億円減損」

https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/depth/01732/


※記事の評価はD(問題あり)。生田弦己記者への評価もDとする。

2023年3月6日月曜日

「『リアル書店』米で人気復活」が苦しい日経 清水石珠実記者

 6日の日本経済新聞朝刊国際面に清水石珠実記者が書いた「『リアル書店』、米で人気復活 ~コロナ下で読書ブーム、最大チェーン『今年30店増』」という記事は出来が悪かった。全文を見た上で具体的に問題点を指摘していく。

錦帯橋


【日経の記事】

米国で「リアル書店」の人気が復活している。新型コロナウイルス下で読書ブームが再燃し、書店に足を運んで紙の本を買うことの楽しみが米消費者に再認識された。ニューヨーク市では独立系書店の開店が相次ぎ、米最大チェーンのバーンズ・アンド・ノーブル(B&N)も全米で店舗拡大に動く。

「今年は総店舗数が30店ほど増える見通しだ」。B&Nのジェームズ・ドーント最高経営責任者(CEO)は日本経済新聞とのインタビューで語った。現在、B&Nは全米で約600店舗を経営する。2年連続で店舗数が純増になる予定で、約10年続いた店舗数の縮小傾向に歯止めがかかってきた。

独立系書店の開店ラッシュも続く。ニューヨーク市に本拠を置く「マクナリー・ジャクソン」は1月、市内随一の観光地ロックフェラーセンターに5店舗目を開いた。2022年には大物ロビイストが経営する書店として話題を集めた「P&Tニットウエア」が、ブルックリン区在住の作家が経営する「ブックス・アー・マジック」は2店舗目をそれぞれ開店した。独立系書店は品ぞろえや内装に個性があり、週末には書店巡りを楽しむ若者の姿が目立つ。

米国では米アマゾン・ドット・コムの台頭を受け、11年に当時書店チェーン2位だったボーダーズ・グループが経営破綻した。B&Nも経営難が続き、19年に米ヘッジファンドのエリオット・マネジメントに6億8300万ドル(当時の為替レートで約740億円)で身売りした。

苦境続きの書店が反転のきっかけを得たのがコロナ禍だ。巣ごもり需要で読書ブームが再燃し、コロナ禍で楽しめる数少ない娯楽の一つとして書店を訪れる人が増えた。米NPDグループによると、21年に米国市場での紙の書籍販売は8億2800万冊と、04年の調査開始以来で過去最高になった。


◇   ◇   ◇


(1)「人気復活」を裏付けるデータは?

この記事はいわゆる傾向物だ。「米国で『リアル書店』の人気が復活している」というなら、裏付けとなる直接的なデータが欲しい。「リアル書店」の米国全体の売上高などがその候補。しかし記事には、その手のデータは見当たらない。となると状況証拠的なデータで「『リアル書店』の人気が復活」と読者を納得させる必要があるが、それもできていない。

「バーンズ・アンド・ノーブル(B&N)」の店舗数拡大は「『リアル書店』の人気が復活」の根拠としては弱い。「米最大チェーン」が中小書店のシェアを奪って成長している可能性もある。それでも多くのチェーンが出店攻勢をかけているなら「人気が復活」しているのかなとは思う。だが、残りの事例も力不足。

「マクナリー・ジャクソン」が5店目、「P&Tニットウエア」と「ブックス・アー・マジック」が2店目を開いたというだけの話。「B&N」の店舗数拡大の動きをベースに傾向物の記事にしようと考えたものの、有力な事例は見つけられなかったのだろう。だったら傾向物にするのを諦めるべきだ。


(2)ネット販売との比較は?

「米国では米アマゾン・ドット・コムの台頭を受け、11年に当時書店チェーン2位だったボーダーズ・グループが経営破綻した」と清水記者も書いているように「リアル書店」の苦戦の大きな原因はネット販売の台頭だったはずだ。だったら、そことの比較も欲しい。

「21年に米国市場での紙の書籍販売は8億2800万冊と、04年の調査開始以来で過去最高になった」とは書いているが、ネットと「リアル書店」に分けるとどうなるのかは触れていない。そもそもなぜ「21年」の数字なのかとの疑問も残る。常識的に考えれば22年のデータもありそう。


(3)「反転のきっかけ」が「コロナ禍」なら

「苦境続きの書店が反転のきっかけを得たのがコロナ禍だ」で「巣ごもり需要で読書ブームが再燃し、コロナ禍で楽しめる数少ない娯楽の一つとして書店を訪れる人が増えた」ことを「復活」の要因とするなら、20年と21年に大きく伸びて22年以降は勢いが鈍っていると見るのが自然。実際、清水記者も米国の「紙の書籍販売」が「過去最高」になったのは「21年」と書いている。なのに23年になって「人気が復活」と取り上げるのはなぜなのか。「コロナ禍」以外の要因を見出さないと苦しい。「独立系書店」(よく分からない表現ではあるが…)の人気が要因なら、記事の柱はそちらにすべきだ。


(4)文が分かりにくい…

「2022年には大物ロビイストが経営する書店として話題を集めた『P&Tニットウエア』が、ブルックリン区在住の作家が経営する『ブックス・アー・マジック』は2店舗目をそれぞれ開店した」という文は非常に分かりにくい。

主語を簡素化すると「2022年にはAが、Bは2店目をそれぞれ開店した」という構造になっている。この形にするなら、まず助詞(「が」と「は」)は揃えた方がいい。また時期もそれぞれに付けた方が意味を捉えやすい。「2022年3月にはAが、同年6月にはBが2店目を開店した」といった具合だ。

「確かに読みずらい」と清水記者は同意してくれるだろうか。「何が問題なのか、さっぱり分からない」と感じるようなら記事の書き手としては苦しい。


※今回取り上げた記事「『リアル書店』、米で人気復活 ~コロナ下で読書ブーム、最大チェーン『今年30店増』」

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230306&ng=DGKKZO69000640V00C23A3FF8000


※記事の評価はD(問題あり)。清水石珠実記者への評価もDとする。清水記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

あるべき情報が見当たらない日経「NYタイムズ、電子版収入が紙超え」https://kagehidehiko.blogspot.com/2020/08/ny.html

2023年2月25日土曜日

日経朝刊1面「ウクライナ侵攻1年」連載に2つの誤り

25日の日本経済新聞朝刊1面の囲み記事を書いた甲原潤之介記者(安全保障エディター)と中村亮記者は「第2次大戦の後」の歴史を誤認しているのではないか。そう思えたので以下の内容で日経に問い合わせを送ってみた。

錦帯橋

【日経への問い合わせ】

日本経済新聞社 甲原潤之介様 中村亮様

25日の朝刊1面に載った「ウクライナ侵攻1年:変わる世界秩序(中)核抑止、米ロ危うい均衡 ~やまぬ脅し、拡散リスクも」という記事についてお尋ねします。まず問題としたいのは「第2次大戦の後、他国への軍事侵攻は国際法違反となった。侵攻に踏み切る国は米欧の軍事介入に遭ってきた」とのくだりです。「第2次大戦の後」に「侵攻に踏み切る国は米欧の軍事介入に遭ってきた」とは必ずしも言えないのではありませんか。

例えば1979年に起きた中越戦争は「中国とベトナムとの戦争」(日本百科全書)であり「中国軍は雲南、広西方面から侵攻」したものの「米欧の軍事介入」に遭うことなく「近代戦に慣れたベトナム軍によって多大の損害を強いられ、自主的に撤退」(同)しています。

1969年の六日戦争(第3次中東戦争)も「イスラエルがエジプト、ヨルダン、シリアとの間で行なった戦争」(ブリタニカ国際大百科事典)であり「米欧の軍事介入」に至っていません。ちなみにイスラエルは「6日間に東エルサレムを含むヨルダン川西岸地区、ガザ地区、シナイ半島、ゴラン高原を占領」(同)しています。

付け加えると、今回の記事の「ウクライナ侵攻が過去の例と決定的に異なるのは国連安全保障理事会の常任理事国で、核保有を認められているロシアが国際秩序を侵す暴挙に出たことだ」との説明にも問題を感じました。

1978年にソ連はアフガニスタンに侵攻しています。言うまでもなく「国連安全保障理事会の常任理事国で、核保有を認められている」国でした。この侵攻を「国際秩序を侵す暴挙」と見た日本を含む西側諸国は1980年のモスクワ五輪をボイコットしました。「ウクライナ侵攻」と似た状況と言えます。

「第2次大戦の後」に「侵攻に踏み切る国は米欧の軍事介入に遭ってきた」

「ウクライナ侵攻が過去の例と決定的に異なるのは国連安全保障理事会の常任理事国で、核保有を認められているロシアが国際秩序を侵す暴挙に出たことだ」

いずれも説明として誤りではありませんか。問題なしとの判断であれば、その根拠も併せて教えてください。御紙では読者からの間違い指摘を無視してミスを放置する対応が常態化しています。日本を代表する経済メディアとして責任ある行動を心掛けてください。


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※今回取り上げた記事「ウクライナ侵攻1年:変わる世界秩序(中)核抑止、米ロ危うい均衡 ~やまぬ脅し、拡散リスクも」

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20230225&ng=DGKKZO68768550V20C23A2MM8000


※記事の評価はE(大いに問題あり)。甲原潤之介記者と中村亮記者への評価もEとする。


※甲原記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

何があってもやっぱり「日米同盟強化」? 日経 甲原潤之介記者「アフガンの蹉跌(下)」https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/08/blog-post_20.html

日経 甲原潤之介記者は「非核化の歴史3勝3敗」と言うが…https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/33.html

どうなったら「世界分裂」? 日経 甲原潤之介記者に問うhttps://kagehidehiko.blogspot.com/2019/08/blog-post_25.html

日経 甲原潤之介記者の見立て通りなら在日米軍は要らないような…https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/04/blog-post_20.html


※中村亮記者に関しては以下の投稿も参照してほしい。

メキシコは「低税率国」? 日経1面「税収 世界で奪い合い」http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/09/blog-post_3.html

なぜ韓国は対象外? 日経 中村亮記者「米軍がアジアに対中ミサイル網」https://kagehidehiko.blogspot.com/2021/03/blog-post_5.html

EU批判は「NATO批判」? 日経  中村亮記者に注文https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/07/eunato.html