2019年12月25日水曜日

日経「出生数最少86.4万人~少子化『民』の対策カギ」に思うこと

25日の日本経済新聞朝刊総合1面に載った「出生数最少86.4万人~少子化、『民』の対策カギ 働き方改革や脱『新卒偏重』」という記事にツッコミどころは特にない。ただ、記事で言う「『民』の対策」のうち「脱『新卒偏重』」に関する記述を読むと「昔に戻ろう」という主張に近いと感じる。
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当該部分を見てみよう。

【日経の記事】

多くの人が高校や大学などを卒業してすぐに就職して、そのまま働き続ける慣行も少子化につながっている。就職から一定期間を経てから結婚や出産するのが一般的で、平均初婚年齢は男性が31歳、女性は29歳(18年時点)で、20年前に比べそれぞれ3歳程度上がっている。第1子出産の母親の平均年齢は30.7歳だ。

出産年齢が上がると、子どもを授かりにくくなる。「20歳代の頃は子どものことなんてとても考えられなかった。今思えば、もっと早くから話し合っておけばよかった」。さいたま市に住む34歳の女性会社員は振り返る。32歳の頃に夫と不妊治療を始め、今年8月に待望の第1子を出産した。

中略)海外では高校卒業後、すぐに大学に進まない人も少なくない。その間に結婚や出産、育児を選択する例も多い。働き方や教育システムなど社会保障政策にとどまらない見直しが官民ともに求められている。



◎そのやり方は…

多くの人が高校や大学などを卒業してすぐに就職して、そのまま働き続ける慣行も少子化につながっている」と筆者は言う。そして「海外では高校卒業後、すぐに大学に進まない人も少なくない。その間に結婚や出産、育児を選択する例も多い」とも書いている。

つまり、若いうちに「結婚や出産、育児を選択」して、その後で「就職」(あるいは進学)する選択を増やそうと訴えているのだろう。

既視感がある。出生率が高かった昭和の時代、女性は若いうちに「結婚や出産、育児を選択」する傾向が強かった。大学進学率は低かったし「就職」しても「そのまま働き続ける」ケースは少なく、働く場合は子育てが一段落してからというのが、よくあるパターンだった。

記事で言う「脱『新卒偏重』」もそれに近いものがある。間違っているとは言わない。男女ともに「働き続ける」仕組みが強固になればばるほど少子化に歯止めをかけるのは難しいだろう。

個人的には少子化推進派なので、女性もどんどん働き続ければよいとは思う。ただ、少子化に歯止めをかけたいのならば、子育てをする両親のどちらかの「就業率」を下げるように誘導すべきだ。

子供を産まない選択をする女性がいる以上、子供を4人以上産む女性も相当数いないと出生率は2を超えてこない。子だくさんの家庭で両親が共に働き続けるのはかなり困難だ。どちらかが子育てに専念する時期があっていい。

しかし、世の中の流れから言って「子だくさんの専業主婦(主夫)家庭を優遇する」という政策は取りづらいだろう。

だから結局、出生率が低い状態は今後も続く。個人的には大歓迎だが…。


※今回取り上げた記事「出生数最少86.4万人~少子化、『民』の対策カギ 働き方改革や脱『新卒偏重』


※記事の評価はC(平均的)

2019年12月24日火曜日

編集長時代はミス黙殺 コラムニストとしても苦しい東洋経済 西村豪太氏

高橋由里氏に始まり、今の山田俊浩氏まで週刊東洋経済では記事中のミスを黙殺する傾向が編集長3代に亘って続いている。両氏の間に入るのがに西村豪太氏だ。「本誌コラムニスト」の肩書で今も同誌に記事を書いている。書き手としては優れているかと言えば、そうでもない。
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12月28日・1月4日新春合併特別号の特集「2020代予測」の中の「010 中東情勢~米国の関与縮小で混迷深まる」という記事の中には意味の分からない記述があった。西村氏は以下のように書いている。


【東洋経済の記事】

中東でイランの勢力が拡大する中、オバマ政権時代の15年にイラン核合意が成立。イランの核技術開発を制限する一方で米国や欧州はイランへの制裁を緩和した。ところが、17年に就任したトランプ大統領はその意義を全面否定。一方的に核合意から離脱した後に「最強の制裁」を発動した。

これで経済的に追い詰められたイランが、制裁解除を求めてアラムコ石油施設への攻撃などで米国に揺さぶりをかけているとの見方が強い。トランプ政権は軍事力行使をちらつかせるものの、実際には動いていない。同盟国への挑発を通じて譲歩を引き出す米国の動きは、今後も続くとみられる

米国の代わりに矢面に立たされているサウジでは、サウジアラムコの上場という大イベントがあった。19年12月11日には2.8兆円という史上最大の巨額調達が実現した。資金使途は脱石油立国に向けた教育・訓練やインフラの整備だとされる。米国の中東への関与が縮小する中で、サウジが生き延びるための投資だといえる。


◎間違いのような…

理解できなかったのが「同盟国への挑発を通じて譲歩を引き出す米国の動きは、今後も続くとみられる」という部分だ。「米国の動き」を「イランの動き」に直せば、話は分かる。「(サウジアラビアなど米国にとっての)同盟国への挑発を通じて(米国からの)譲歩を引き出すイランの動きは、今後も続くとみられる」と考えればいい。

しかし実際は「同盟国への挑発を通じて譲歩を引き出す米国の動きは、今後も続くとみられる」と西村氏は書いている。

同盟国」が「米国の同盟国」なのか「イランの同盟国」なのか明確ではないが、文脈的には「米国の同盟国=サウジアラビア」かなとは思う。しかし米国がサウジアラビアを「挑発」して「イラン」から「譲歩を引き出す」というのが、どういうことか自分には理解できなかった。

なので「米国の動き」は「イランの動き」の誤りではないかと見ている。自分の読解力が足りないだけかもしれないが、少なくとも分かりやすくは書けていない。

付け加えると「サウジアラムコの上場」に関する説明にも問題がある。

2.8兆円という史上最大の巨額調達が実現した。資金使途は脱石油立国に向けた教育・訓練やインフラの整備だとされる」と西村氏は解説している。

しかし、調達した「資金」を国営石油会社の「サウジアラムコ」が「脱石油立国に向けた教育・訓練やインフラの整備」に使うのもおかしな話だ。「それは政府の仕事では?」と聞きたくなる。

朝日新聞は12月6日付の記事で「サウジアラビア政府は5日、国内市場へ月内に上場する予定の国営石油会社『サウジアラムコ』の売り出し価格を1株32リヤル(約8・5ドル、約930円)に決定したと発表した。資金調達額は256億ドル(約2兆8千億円)にのぼり、史上最高額を更新する」と報じている。

この記事の通りならば「巨額調達」の主体は「サウジアラムコ」ではなく「サウジアラビア政府」だ。「上場」に関して資金調達に触れる場合「新規上場企業の資金調達」と見るのが普通だ。なので、西村氏の説明だと「サウジアラムコ」が「巨額調達」の主体だと理解したくなる。

この辺りにも西村氏の書き手としての力量が出ているのではないか。


※今回取り上げた記事「010 中東情勢~米国の関与縮小で混迷深まる
https://premium.toyokeizai.net/articles/-/22472


※記事の評価はE(大いに問題あり)。西村豪太氏への評価はF(根本的な欠陥あり)を据え置く。西村氏に関しては以下の投稿も参照してほしい。

道を踏み外した東洋経済 西村豪太編集長代理へ贈る言葉
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/12/blog-post_4.html

「過ちて改めざる」東洋経済の西村豪太新編集長への手紙
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/10/blog-post_4.html

訂正記事を訂正できるか 東洋経済 西村豪太編集長に問う
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/10/blog-post_25.html

「巨大地震で円暴落」?東洋経済 西村豪太編集長のウブさ
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/01/blog-post_19.html

金融庁批判の資格なし 東洋経済の西村豪太編集長
http://kagehidehiko.blogspot.com/2017/03/blog-post_19.html

「貿易赤字の解消」で正解?東洋経済 西村豪太編集長に問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post_72.html

2019年12月23日月曜日

「無政府主義者」が国家を作る? 日経ビジネス「2020年大転換」の矛盾

日経ビジネス12月23・30日合併号の特集のタイトルは「2020年大転換~『五輪後』に起きる14の異変」。この「大転換」が良くない。世の中、そんなに「大転換」は起きないし、それが「五輪後』に起きる」というストーリーを組み立てるのは至難だ。必然的に無理のある記事が生まれてくる。
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今回は「異変11」の「加速する国家の分裂~世界中で『ミニ独立国』が誕生」という記事を取り上げたい。まず引っかかったのが「20年はそうした無政府主義者による国家の分断が加速しそうだ」という予測だ。

当該部分を見ていこう。

【日経ビジネスの記事】

分断の究極の形は、新国家の建設だろう。考えや立場が異なる人々との議論を放棄し、政治信条を同じくする人たちだけで理想郷をつくる。20年はそうした無政府主義者による国家の分断が加速しそうだ

既に欧州やアフリカなど世界各地で新国家が次々と出現している。「ミクロ国家」と呼ばれており、他国の承認を受けることはまずない。それでも無政府主義者らの動きは止まらない。ミクロのレベルまでバラバラになってゆく世界の最終形がそこにある。



◎「無政府主義者」が「国家」を作る?

記事からは「既に欧州やアフリカなど世界各地」で「次々と出現している」という「ミクロ国家」は「無政府主義者」が樹立したものだと読み取れる。

しかし「無政府主義者」が「国家」を生み出すのは奇妙な話だ。「国家」にしてしまうと、信条に反して「政府」ができてしまう。「どういうことなのか」と思って読み進めると話が変わってくる。


【日経ビジネスの記事】

「新国家の出現はこれからも続く」と断言するのは、リベルランド自由共和国の大統領を名乗るビト・イェドリチカ氏だ。15年に東欧で建国を宣言し、リベルランド人を自称するまでは、チェコ人であった。地元政党の地方代表を務めるなどして、リバタリアン(自由至上主義者)の立場から自由主義経済の重要性をチェコ国民に説いてきた。

ところが「ある時、チェコ国民を説得するより、自分の理想の国を建設した方が早いことに気づいた」という。グーグルマップで領土を探していたところ、セルビアとクロアチアの国境を流れるドナウ川の中州に、誰も領有権を主張していない7km2の空白地帯を見つけた。ここを自国領とし、憲法を制定。自由至上主義に共感する世界の人々からネットで市民権の申請を受け付けており、既に約1000人に付与した。内務相や外務相、財務相も任命し、独自の仮想通貨の運用も始めた。一通り国家体制を整え、将来は自由経済圏として中州にIT産業を興す考えだ。



◎「無政府主義者」はどこへ?

リベルランド自由共和国」を「建国」したのが「無政府主義者」ならば筋としては合っている。しかし「建国を宣言」した「ビト・イェドリチカ氏」は「リバタリアン(自由至上主義者)」だという。「内務相や外務相、財務相も任命し、独自の仮想通貨の運用も始めた」のならば「無政府主義者」とは言い難い。

20年はそうした無政府主義者による国家の分断が加速しそうだ」と言っていたのは、どうなったのか。

記事を読み進めると、さらに混乱は深まる。

【日経ビジネス】

とはいえ、こうした動きを既存国家が放置するはずはない。国内や隣接地に主権が及ばない独立国が林立すれば、国家は衰退しかねない。当然、クロアチア政府も、新国家の既成事実化を警戒して、警察の巡視艇で中州への上陸を阻止している。このため、リベルランドは無人の状態が続く。

それでもイェドリチカ氏は楽観的だ。「見方を変えれば、クロアチア警察がリベルランドを守ってくれている。市民権を持たない第三者が密入国しないようパトロールしている」という。



◎なぜ「上陸を阻止」?

セルビアとクロアチアの国境を流れるドナウ川の中州」に関しては「誰も領有権を主張していない」はずだ。となると「クロアチア」の「国内」ではない。なのに「警察の巡視艇で中州への上陸を阻止している」という。どういうことが理解に苦しむ。

セルビア」の動向には記事では触れていない。「クロアチア」が「上陸を阻止」してくるならば「セルビア」側から「上陸」すればいいような気もする。この辺りの事情がよく分からないのは困る。

記事の続きを見ていこう。

【日経ビジネスの記事】

リベルランドに刺激され、ノルウェーでも自由至上主義に基づく都市建設が始まるなど、イェドリチカ氏が始めた試みは広がりを見せている。

陸上のみならず、公海上に新国家を樹立する動きも活発だ。米決済サービス、ペイパルの共同創業者で著名投資家のピーター・ティール氏らが推進する「シーステディング・プロジェクト」が代表格で、公海上に人工の浮島からなる独立国家群を建設する計画だ。海面上昇に直面する仏領ポリネシアの要請で浮島の試験的な設置が始まるなど、技術的にも絵空事ではなくなってきた。

 新国家の建設を推し進めているのは、こうした無政府主義者たちに限ったことではない。英国がEUから離脱したあと、同国内のウェールズ、スコットランド、北アイルランドで独立運動が勢いづき、英国が解体に向かう可能性が指摘される。


◎「無政府主義者」がなぜか復活…

ノルウェーでも自由至上主義に基づく都市建設が始まるなど、イェドリチカ氏が始めた試みは広がりを見せている」と書いているので、「無政府主義者」を「リバタリアン」にすり替えたのだと思っていたら、「新国家の建設を推し進めているのは、こうした無政府主義者たちに限ったことではない」と「無政府主義者」が復活している。

ということは「米決済サービス、ペイパルの共同創業者で著名投資家のピーター・ティール氏」も「無政府主義者」と解釈するしかないが、どうも信用できない。

やはり「大転換」というテーマが筆者に無理を強いている気がしてならない。


※今回取り上げた記事「加速する国家の分裂~世界中で『ミニ独立国』が誕生
https://business.nikkei.com/atcl/NBD/19/special/00313/


※記事の評価はD(問題あり)

2019年12月22日日曜日

日経社説「『漏洩』が示す郵政の統治不全を刷新せよ」は威勢がいいが…

22日の日本経済新聞朝刊総合1面に載った「『漏洩』が示す郵政の統治不全を刷新せよ」という社説は威勢がいい。しかし、この件で批判を展開すると、厄介な問題が生じそうな気がする。まずは社説の最初の方を見ていこう。
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【日経の社説】

日本郵政グループをめぐるガバナンス(企業統治)の機能不全が極まったというほかない。

大規模な保険販売不祥事を引き起こし、処分待ちだった日本郵政の上級副社長(元総務事務次官)に、現職の同次官が行政処分の内容を事前に漏らしていたことが発覚した。監督官庁と日本郵政の「なれ合い」をこれほどわかりやすく示す事例はない。次官が直ちに辞職に追い込まれたのは当然だ



◎情報漏洩は悪いこと?

次官が直ちに辞職に追い込まれたのは当然だ」と書いているので、「行政処分の内容を事前に漏らしていたこと」は許されないと日経は見ているのだろう。

しかし、日経はこれまで官庁からの「漏洩」を狙って取材を進めてきた歴史がある。官庁の幹部と「なれ合い」の関係を築き「行政処分の内容を事前に漏らして」もらえるようになった記者は、日経社内の価値観で見れば「立派に仕事をしている」となるはずだ。

漏洩」は許されないとの立場を取ると、「行政処分の内容を事前に」探ろうとする取材はできなくなる。「監督官庁と日本郵政の『なれ合い』」はダメだが「官庁とメディアの『なれ合い』」は問題ないとするのも難しい。

個人的には、「漏洩」はダメとの姿勢を打ち出し、「行政処分」などに関して発表前の独自報道は避けるのが良いとは思う。しかし、日経が長く染み付いた価値観を捨て切れるだろうか。

結局、自分たちは「漏洩」を官庁に求めるのに、メディア以外への「漏洩」が発覚すると社説などで批判するというダブルスタンダードに落ち着くのではないか。

社説の続きを見ていこう。


【日経の記事】

民営化された郵政グループ各社の社長は民間出身者である。しかし、実際にはグループ最大の実力者が官僚出身の同上級副社長であることは衆目が一致する。権力の源泉は、古巣の総務省との強力なパイプだ。その先輩・後輩の結びつきが癒着を招いた。体制を抜本的に刷新し、ガバナンスの再構築を急がねばならない



◎ちゃんと仕事をしているだけでは?

日本郵政の上級副社長」に関しては、そもそも批判されるべきなのかとの疑問が残る。

先輩・後輩の結びつきが癒着を招いた。体制を抜本的に刷新し、ガバナンスの再構築を急がねばならない」というが、「漏洩」に限れば「ガバナンス」の問題は特に見当たらない。

日本郵政の上級副社長」は「日本郵政」の株主などに報いる責務がある。そのために情報収集に当たるのは悪くない。「先輩・後輩の結びつき」を利用して「行政処分」に関する情報を得れば、「日本郵政」の経営に有利に働く可能性が十分にある。少なくとも、知っておいて損はない。自分が「日本郵政」の株主だったら、この問題で「上級副社長」を責める気にはなれない。

漏洩」を求める行為自体が許されないとの主張は成り立つが、それは「ガバナンス」の問題なのかとは思う。それに、「漏洩」を求める行為自体が許されないと言い出すと「では日経は取材で官庁に『漏洩』を求めてこなかったのか」という話に戻ってしまう。

この問題を日経が論じるならば「自分たちのことを棚に上げていないか」と自問する必要がある。


※今回取り上げた社説「『漏洩』が示す郵政の統治不全を刷新せよ
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20191222&ng=DGKKZO53667600R21C19A2EA1000


※社説の評価はC(平均的)

2019年12月21日土曜日

40歳未満で「マンモグラフィ」体験した作家・島本理生氏にメッセージ

20日の日本経済新聞夕刊くらしナビ面に載った「プロムナード~今年の人間ドック」という記事を取り上げたい。と言っても、今回は記事の批評はしない。筆者で作家の島本理生氏に「不必要な検査はもう受けないで!」とメッセージを送りたい。
巨瀬川(福岡県久留米市)
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引っかかったのは以下のくだりだ。

【日経の記事】

そんなこともあって、三十代前半から自主的に人間ドックを受けている。

今年もかかりつけの病院に電話したら、なんと三カ月待ちで驚いた。あわてて予約を取り、前日には飲み会を入れないようにして、当日は空腹でぼうっとしたまま病院へ。

今回、初めて乳癌(がん)検査のためにマンモグラフィを体験した

痛いとは聞いていたが、根が我慢強い性格なのでさほど心配していなかったら、想像よりも痛くて、顔がくーっとなった。台の上に胸だけ置いてぎゅうぎゅうと機械で挟むという、よく考えると原始的な方法にも困惑しつつ、今度は一番苦手なバリウム検査へと向かった。

ところが毎回吐きそうになるうちに体がもう諦めたのか、ゆるい不快と共にわりにあっさり終了していた。

良くも悪くも三十代前半の頃に比べると持久力がなくなったことを実感しつつ全検査を済ませた私は、結果が出たものについては異常なし、という説明を受けてほっとした。


◎なぜ「マンモグラフィを体験」?

島本理生氏は36歳らしい。だとしたら「乳癌(がん)検査のためにマンモグラフィを体験」する必要はないはずだ。

ここでは「乳がん検診、30代には勧められない その代わりに…」という日経電子版の記事の一部を紹介しておこう。

【日経の記事(2016年7月7日付)】

2016年6月、東京・お台場で開催されていた日本乳癌学会学術集会の会場で、複数の乳腺外科医に若い世代が乳がんから身を守るには何をすべきなのか、検診を受けるべきなのかを質問してみた。医師たちの声は、ほぼ同じだった。

「30代やそれより若い世代は原則、マンモグラフィーなどの画像検診を受けることは勧めない。ただし、月に一度、自分で乳房を見て、触って異常がないかをチェックする自己検診は習慣づけておいたほうがいい」

検診は受けたほうがいいに決まっていると思いがちだが、専門家は、「20代や30代の乳がん検診はお勧めしない」という。なぜか。それは、この世代の乳がんはまれなため、がんが見つかることより、検診のデメリットのほうが明らかに大きいからだという。

◇   ◇   ◇

40歳未満での「マンモグラフィ」検診が有効だという根拠はないとされている。医療機関のサイトなどでも確認できるので、島本氏にぜひ見てほしい。

島本氏は2年に1回の頻度で「人間ドックを受けている」という。2年後はまだ38歳だ。「デメリットのほうが明らかに大きい」検査を受けずに済むように願わずにはいられない。

初めて経験した「マンモグラフィ」は「想像よりも痛くて、顔がくーっとなった」そうだ。カネと時間をかけて、痛い思いまでして「デメリットのほうが明らかに大きい」検査を受けたことになる。

問題なのは「かかりつけの病院」だ。40歳未満での「マンモグラフィ」検診が有効でないと医師が知らないとは考えにくい。島本氏が「どうしても」と頼んだのならば別だが、そうではないのならば「かかりつけの病院」の変更も検討してほしい。


※今回取り上げた記事

プロムナード~今年の人間ドック
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20191220&ng=DGKKZO53347090T11C19A2KNTP00

乳がん検診、30代には勧められない その代わりに…
https://style.nikkei.com/article/DGXMZO04412690U6A700C1000000/


※記事・筆者への評価は見送る

2019年12月20日金曜日

日経 小柳建彦編集委員の「インド、バブル収縮か」に感じた問題

20日の日本経済新聞朝刊国際2面に小柳建彦編集委員が書いた「相次ぐ住宅建設遅延や停止~インド、バブル収縮か 無法地帯へ規制、裏目に」という記事には色々と問題を感じた。まずは「相次ぐ住宅建設遅延や停止」に関する説明を見ていこう。
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【日経の記事】

インドが住宅市場の混乱に揺れている。2年前の法規制導入や昨秋来の信用収縮で多くのマンション建設が工事の遅延や停止に追い込まれ、融資していたノンバンクの不良債権が増える悪循環に陥っている。2008年リーマン危機以来の低成長に沈みつつあるインド経済で、根の深い構造問題の1つになっている。

「カネは払った。早く私のマンションを完成させてほしい」――。マンションの前払い価格200万ルピー(約300万円)を払ったというデリー在住の公務員は嘆く。

インドではいま、買い手から前受け金を集めたまま工事が止まって完成できなくなったマンションなど、多くの住宅不動産開発プロジェクトが滞っている。インド不動産コンサル大手アナロックによると9月末時点で、七大都市圏だけで販売価格総額4兆6400億ルピー(約7兆円)に当たる58万プロジェクトが深刻な工事の遅延または完全停止に陥っているという。

事態を重く見た政府は11月、工事再開資金を融資する2500億ルピーの国営ファンドを国有金融機関との共同出資で設立すると発表したが、問題全体の規模に比べると小粒さは否めない。

工事中止が続発する着火点になったのは17年5月に導入された不動産開発規制法だ。その前までインドの不動産開発事業は文字通り完全な無法地帯だった。デベロッパーはチラシ1枚で買い手から前受け金を集め、その資金で資材費や工事費を払って物件を建設するのが標準。つまり、自己資本なしで客から前借りした資金に丸々依存して事業を回していた。しかもその資金の他用途への流用が横行していた。



◎「自己資本なし」と言える?

自己資本なしで客から前借りした資金に丸々依存して事業を回していた」との説明が引っかかる。

まず「自己資本なし」と言えるだろうか。「デベロッパーはチラシ1枚で買い手から前受け金を集め、その資金で資材費や工事費を払って物件を建設するのが標準」だとしても、個別の「デベロッパー」が「自己資本なし」かどうかは判断が難しそうだ。

自己資本なし」と聞くと「自己資本率0%(あるいは債務超過)」だと理解したくなる。今回の記事の場合、「自己資金なし」と言いたかったのではないか。

前受け金」を「客から前借りした資金」とするのも気になる。「前受け金」は負債ではあるが、代金の一部とも言える。「その資金」で「物件を建設する」ことに問題があるような書き方をしているが、そうは感じない。インドでは違うのかもしれないが…。

完全な無法地帯だった」と聞くと「デベロッパー」が酷いことをしていたとの印象を持つ。しかし、具体的な内容はそれほどでもない。

その資金の他用途への流用が横行していた」ことも、日本的な感覚で言えば問題はない。入ってきた代金を銀行への利払いに充てたとしても、ちゃんと「物件を建設」すれば済む。責められる話ではない。

記事の続きを見ていこう。


【日経の記事】

新法は、前受け金を各プロジェクト専用の監査付き銀行口座で管理することを義務付けた。これで既存の住宅プロジェクトの多数がいきなり違法状態に。流用した資金を戻して専用口座を作れないプロジェクトは登録が認められず、相次いで工事を停止した。

18年秋に大手ノンバンクの経営破綻で発生した信用収縮が追い打ちをかけた。ノンバンクが手元資金不足に陥り、ノンバンク融資に頼っていたデベロッパーが相次ぎ債務不履行に。工事が止まる案件がさらに増えた。ノンバンクの不良債権が増え、ノンバンク向けとノンバンク発の両側で信用収縮が続いている。

民間住宅建設投資は自動車など耐久消費財の消費、企業の設備投資などとならんでインド経済の民需の柱の1つ。しかも不動産はインドの家計資産の7割を占め、その価値が毀損すると家計の購買力と消費意欲に響く。

11月末にインド政府が発表した7~9月の国内総生産(GDP)の伸び率は前年同期比4.5%。13年1~3月の4.3%以来の低さだ。中央銀行は12月5日、19年度の成長率予想を08年度以来の低さとなる5.0%と10月の前回予想から1.1ポイントも下方修正した。

アショカ・モディ・プリンストン大客員教授は「借金による不動産開発と建設業で経済成長をかさ上げしてきたバブルがとうとうしぼみ始めた」と厳しい見方を示す。



◎2019年が「バブル」のピーク?

まず、何を以って「バブル」と言っているのか分かりにくい。「借金による不動産開発と建設業で経済成長をかさ上げしてきたバブル」というコメントから判断すると、インド経済全体が「バブル」との趣旨だろう。

ただ、インドの経済成長率は近年のピークでも8%台。それが「バブル」なのかとは思う。他の指標で見れば違って見えるのかもしれないが、「バブル」状態にあったと納得できる材料を小柳編集委員は提示していない。

さらに言えば「バブルがとうとうしぼみ始めた」とのコメントも理解に苦しむ。「工事中止が続発する着火点になったのは17年5月に導入された不動産開発規制法」だ。そして「18年秋に大手ノンバンクの経営破綻で発生した信用収縮が追い打ちをかけた」。そこからさらに1年が経って「バブルがとうとうしぼみ始めた」のか。

しぼみ始め」てからしばらく経過していると見る方が自然な気もする。


※今回取り上げた記事「相次ぐ住宅建設遅延や停止~インド、バブル収縮か 無法地帯へ規制、裏目に
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20191220&ng=DGKKZO53583880Z11C19A2FF2000


※記事の評価はD(問題あり)。小柳建彦編集委員への評価はC(平均的)を据え置くが弱含みとする。小柳編集委員に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「インドの日本人増やすべき」に根拠乏しい日経 小柳建彦編集委員
http://kagehidehiko.blogspot.com/2018/04/blog-post_32.html

北朝鮮のネット規制は中国より緩い? 日経 小柳建彦編集委員に問う
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/09/blog-post_17.html

ライドシェア「米2強上場が試金石に」が苦しい日経 小柳建彦編集委員
https://kagehidehiko.blogspot.com/2019/05/2.html

2019年12月19日木曜日

「ドラッグ出店年50店」で大丈夫? 日経 荒木望記者に感じる未熟さ

基礎的な技術が身に付いていないのに、十分な指導を受けないまま記事を世に送り出している--。日本経済新聞の荒木望記者はそんな状況にあるのだろう。19日の朝刊九州経済面に載った「ドラッグ出店年50店 ナチュラルHD、まず関西・東北~同業買収も検討 全国展開目指す」という記事からは、そう判断できる。
筑後川の河川敷(福岡県久留米市)
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記事の全文を見た上で、問題点を指摘したい。

【日経の記事】

九州が地盤の「ドラッグストアモリ」などを展開するナチュラルホールディングス(HD、福岡県朝倉市)は、年50店舗を新規出店していく方針を明らかにした。並行して各地の同業をM&Aなどで傘下に入れ、全国に店舗網を広げる。ドラッグストア業界は競争激化で、再編・提携が進んでいる。規模を拡大して生き残りを目指す。

ナチュラルHDは約280店舗あるモリのほか、中国地方を拠点に約160店舗ある同業のザグザグ(岡山市)を傘下に持っている。10月には宮城県の「くすりのベル」(同県美里町)を買収し、東北にも進出した。売上高も全体で2200億円規模まで増えている。

今後はまず、関西や東北などに出店していく。ナチュラルHDの森信社長は「5年以内に年50店を新規出店できる体制を整える」と話す。

新規出店で必要となる登録販売者らの確保へ、福利厚生を充実する。モリは2017年、本社内に保育園を開設して人手の確保につなげてきた。今後もこうした取り組みを出店エリアで実施することで、登録販売者をはじめ従業員を確保していきたい考えだ。

新規出店と並行し、各地の同業を買収することも検討している。規模拡大で仕入れ価格の低下など経費の削減も進められることから「出資比率は3割程度でも提携先を探し、出店と合わせ全国展開を目指す」(森社長)考えだ。

ナチュラルHDは規模拡大と同時に「専門知識を武器に、コンサルタントとして付加価値をつける」(森社長)ことで顧客満足度を高め、他社との違いを出していく。モリは起源である漢方薬局時代から、顧客との「対話販売」に力を入れてきた。今後も薬は登録販売員や薬剤師らが顧客に症状を聞きながら販売し、飲食料品などは低価格で提供していく。ナチュラルHDは30年にはグループで売上高5000億円を目指す。

ドラッグストアは店舗数が全国で2万店を超え、競争が厳しい。インバウンド(訪日外国人)による化粧品や薬などの「爆買い」は落ち着いてきている。飲食料品や日用品などは、コンビニエンスストア・食品スーパーなど他業態との価格競争も激しくなっている。

生き残りへ再編や提携も進んでいる。大手のマツモトキヨシホールディングスとココカラファインは8月、経営統合の協議入りを発表した。


「年50店舗を新規出店していく方針」?

最初の段落で「年50店舗を新規出店していく方針」と荒木記者は書いている。しかし読み進めると「ナチュラルHDの森信社長は『5年以内に年50店を新規出店できる体制を整える』と話す」と出てくる。この発言からは「年50店舗を新規出店していく方針」とは判断できない。「体制を整え」た上で、出店を「50店」より少なくする選択もあり得る。

5年以内に年50店を新規出店できる体制を整える」と話しただけで「年50店舗を新規出店していく方針」と書かれた場合、自分が「森信社長」の立場ならば「危ない記者だな。先走ったことを書くので要注意」と評価するだろう。

問題はそれだけではない。今回の記事は九州経済面のトップを飾っている。なので行数もそこそこある。しかし出店に関する話は前半で終わる。出店について十分な情報を提供した後ならば、背景説明に多くを割いてもいい。だが、そうはなっていない。

まず、これまでの出店数の推移が分からない。記事に付けたグラフで「店舗数」が増えてきたことは分かるが、これは「出店数」ではない。できれば具体的な過去の「出店数」を記事に盛り込みたい。

その上で、2020年の新規出店(できれば閉店も)の計画も見せたい。「5年以内に年50店を新規出店できる体制を整える」との発言から判断すると、2020年は「年50店」を下回るはずだ。

年50店を新規出店できる体制を整え」た後は実際に「年50店」を出していくのか。何年ぐらい「年50店」を続けるのか。どの程度の投資負担になるのか。入れたい情報はたくさんある。

今後はまず、関西や東北などに出店していく」と言うならば、それがどの程度の数になるのか。九州経済面なので地盤の九州での出店がどうなるかも触れたい。

各地の同業を買収することも検討している」といった話は、出店についてしっかり情報を盛り込んだ後で、余った行数の中に潜り込ませればいい。

メインテーマについてしっかり書き込むという基本が、この記事ではできていない。最近の日経の企業ニュース記事によく見られる傾向でもある。「業界の動向などをあれこれ書いて行数を伸ばして記事を仕上げれればいい」と荒木記者は考えているかもしれないが、その甘さは捨ててほしい。

まずはメインテーマに関して十分な情報を読者に与えるべきだ。業界動向などは「行数に余裕があれば触れる」との認識でいい。


※今回取り上げた記事「ドラッグ出店年50店 ナチュラルHD、まず関西・東北~同業買収も検討 全国展開目指す
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO53523660Y9A211C1LX0000/


※記事の評価はD(問題あり)。荒木望記者への評価も暫定でDとする。