2017年6月6日火曜日

日経1面「市場の力学~ゆがむ秩序(上)」に感じた誤り

6日の日本経済新聞朝刊1面に載った「市場の力学ゆがむ秩序(上) 読めぬ世界 惑う投資家 マネー滞留 危うい株高」という記事はいくつか引っかかる点があった。その1つが「格付けが高い先進国の長期国債で2%以上あるのは米国くらいだ」という部分だ。どうも違う気がするので、日経に問い合わせてみた。その内容は以下の通り。
小倉駅(北九州市)※写真と本文は無関係です

【日経への問い合わせ】

朝刊1面の「市場の力学ゆがむ秩序(上)」という記事についてお尋ねします。この記事には「株式よりリスクが低く、利回りが年2~3%の運用先があればいいのに、それがない。格付けが高い先進国の長期国債で2%以上あるのは米国くらいだ」との記述があります。しかし「格付けが高い先進国の長期国債で2%以上あるのは米国くらいだ」とは思えません。

例えば、格付けAAAであるオーストラリアの国債利回りは2.4%程度、同じくAAAのニュージーランドも2.7%程度です(格付けはS&P、利回りは10年債)。両国とも「格付けが高い先進国」ですが、「長期国債で2%以上」を確保しています。先進国に入れてよいか微妙ですが、シンガポールもAAAで国債利回り2%を上回っています。

「格付けが高い先進国の長期国債で2%以上あるのは米国くらいだ」との説明は誤りだと考えてよいのでしょうか。正しいとすれば、その根拠も併せて教えてください。御紙では読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。クオリティージャーナリズムを標榜する新聞社として責任ある行動を心掛けてください。

付け加えると「株式よりリスクが低く、利回りが年2~3%の運用先があればいいのに、それがない」との説明も苦しいと思えます。例えば、韓国は格付けAAで国債利回り2.1%程度です。AA格の国債への投資リスクが株式を上回るとは思えません。よほどの低格付けでない限り、国債は株式より低リスクでしょう。そして「利回りが年2~3%の運用先」は米国債以外にもかなりあります。

◇   ◇   ◇

日経からの回答はないだろう。


※今回取り上げた記事「市場の力学~ゆがむ秩序(上) 読めぬ世界 惑う投資家 マネー滞留 危うい株高
http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170606&ng=DGKKZO17341520W7A600C1MM8000


※今回の連載に関しては以下の投稿も参照してほしい。

問題多い日経1面「市場の力学~ゆがむ秩序(上)」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/06/blog-post_7.html


1930年は世界恐慌翌年? 日経「市場の力学(下)」の誤解
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/06/1930.html


「保護主義の波」に無理あり 日経「市場の力学(下)」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/06/blog-post_9.html

2017年6月5日月曜日

日経社説「戦略特区テコに岩盤規制砕け」の奇妙な説明

5日の日本経済新聞朝刊 総合・政治面に「戦略特区テコに岩盤規制砕け」という問題の多い社説が載っていた。社説では「学校法人加計(かけ)学園・岡山理科大の獣医学部新設問題」に関して「民進党と一部のメディアは政権が他大学を締め出したという趣旨の主張をしている」と述べており、日経としては「政権が他大学を締め出した」わけではないと訴えたいようだ。しかし、社説の中身を見る限り「政権が他大学を締め出した」としか受け取れない。
福岡大学(福岡市城南区)※写真と本文は無関係です

社説の前半を見てみよう。

【日経の社説】

ここまで的を外した法案は珍しい。民進党の桜井充参院議員が近く同院に出すと表明した国家戦略特区廃止法案である。施行から2年内に特区廃止を含めて検討するよう政権に義務づける内容だ。

安倍政権が特区に指定した愛媛県今治市での学校法人加計(かけ)学園・岡山理科大の獣医学部新設問題が発端という。しかし、この問題と戦略特区を使った成長戦略とは別の話だ。政権は特区を駆使して岩盤規制をうがつ改革をさらに強化させるべきである

首相を議長とし、民間有識者で構成する特区諮問会議は、獣医学部の新設を学部空白地域で1大学にだけ認めた。民進党と一部のメディアは政権が他大学を締め出したという趣旨の主張をしている

1大学に限ったのは獣医師の業界団体である日本獣医師会の主張に配慮したのが実態だ。同会は新設に強硬に反対し、ロビー活動を繰り広げた。その結果、諮問会議は今治市を突破口と位置づけ、まず加計学園に認めた。


◎結局「政権が他大学を締め出した」のでは?

日経の言う通り「1大学に限ったのは獣医師の業界団体である日本獣医師会の主張に配慮したのが実態だ」としよう。その場合、「政権が他大学を締め出したという趣旨の主張」は否定されるだろうか。むしろ裏付けられるはずだ。
大分県日田市豆田町 ※写真と本文は無関係です

他大学にも獣医学部新設の構想があり、それが日本獣医師会の「ロビー活動」によって頓挫したのであれば、「政権が他大学を締め出した」と受け取るほかない。それとも「認めたのは諮問会議であって政府ではない」とでも言うのだろうか。


◎なぜ「特区」にこだわる?

政権は特区を駆使して岩盤規制をうがつ改革をさらに強化させるべきである」という社説の主張にも説得力がない。「岩盤規制をうがつ改革をさらに強化させるべき」だとしても、なぜ「特区を駆使して」となるのか。

社説では「既存の学部や獣医師が不利益を被るというのは、競争を嫌がる供給側の理屈にすぎない。教育と研究の質を高め、食の安全向上や感染症対策の強化で消費者に広く恩恵を行き渡らせるために、新設を自由化するのが筋だ」とも述べている。だったら、「特区」などと言わず、全国的に「新設を自由化」すればいい。

なのに、社説では「それまでの間は第2、第3の特区を矢継ぎ早に指定し、意欲ある大学経営者に参入を認めるべきだ」となってしまう。一気に「新設を自由化」すればいいのではないか。間に「特区」を入れるべき理由は思い付かないし、社説でも説明していない。


◎「岩盤規制をうがつ改革」を求めるならば…

ついでに言うと「岩盤規制をうがつ改革」の必要性を日経が訴えるのは元々無理がある。今回の社説では「新薬開発など医療技術は高度化している。参入規制にあぐらをかく既存医学部に、時代に即応できる医師を輩出させる力があるだろうか」とも書いている。こうした主張は自分たちに跳ね返ってくると自覚すべきだ。

「再販売価格維持制度という岩盤規制に守られてあぐらをかく新聞社に、時代に即応できる報道が期待できるだろうか」と批判されたら日経は何と返すのか。「報道の質を保つために再販価格維持制度は必要」との弁明が成り立つのであれば、「医療の質を保つためにも医学部への参入規制は必要」とも言えるはずだ。

今回の社説では「首相を議長とし、民間有識者で構成する特区諮問会議」という説明も引っかかった。これだと「特区諮問会議」は首相+民間有識者で構成していると受け取れる。だが、どうも怪しい。この件に関しては以下の内容で日経に問い合わせを送った。


【日経への問い合わせ】

6月5日朝刊の「戦略特区テコに岩盤規制砕け」という社説についてお尋ねします。この社説には「首相を議長とし、民間有識者で構成する特区諮問会議は、獣医学部の新設を学部空白地域で1大学にだけ認めた」との記述があります。この説明を信じれば、特区諮問会議は議長である首相を除くと「民間有識者で構成」されているはずです。
久留米工業高等専門学校(福岡県久留米市)
          ※写真と本文は無関係です


しかし、国家戦略特別区域諮問会議の議員名簿を見ると、菅義偉官房長官ら4閣僚の名前を確認できます。「民間有識者」も5人いるようですが「民間有識者で構成する特区諮問会議」とは言えません。記事の説明は誤りと考えてよいのでしょうか。正しいとすれば、その根拠も併せて教えてください。

「首相を議長とし、民間有識者らで構成する特区諮問会議」と1文字加えれば問題はなかったと思えます。正確を期すならば「首相を議長とし、関係閣僚と民間有識者で構成する特区諮問会議」でしょうか。

御紙では、読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。クオリティージャーナリズムを標榜する新聞社として責任ある行動を心掛けてください。

◇   ◇   ◇

日経の体質を考えると回答はないだろう。


※今回取り上げた社説「戦略特区テコに岩盤規制砕け
http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170605&ng=DGKKZO17292040V00C17A6PE8000

※社説の評価はD(問題あり)

2017年6月4日日曜日

説明に矛盾 日経の社説「解雇の金銭解決制度は必要だ」

4日の日本経済新聞朝刊総合1面に載った「解雇の金銭解決制度は必要だ」という社説は説明に矛盾がある。「不当解雇で困っている人を助けられる制度を設けないのは建設的でない」「労働者の救済策になる金銭解決の制度は必要だ」と訴えているが、そうした制度は既にあるのではないか。社説でもそのことを認めている。
旧三井港倶楽部(福岡県大牟田市)
      ※写真と本文は無関係です

社説の全文は以下の通り。

【日経の社説】

裁判で解雇が不当とされたとき、労働者がお金を受け取ることで紛争を解決する制度について、厚生労働省の有識者検討会が報告書をまとめた。制度の必要性をめぐってコンセンサスが得られていないとし、補償金の水準など具体的内容には踏み込まなかった。

解雇が不当で無効と認められても、会社との関係が悪化した人の職場復帰は簡単ではない。復職できない場合、中小企業では補償金をもらえずに泣き寝入りする例も多い。労働者の救済策になる金銭解決の制度は必要だ。今後、制度の創設に向けた議論を労働政策審議会で深めてほしい。

解雇の金銭解決制度は労働者からの申し立てがあった場合を対象とし、補償金の額に基準を設けることが想定されている。

復職以外に金銭補償という選択肢を明示できれば、不当解雇された人が別の仕事で再出発するのを後押しする意義がある。

一方で、労働者に金銭補償を選ぶよう促し、復職を妨げる企業が出てくるとの批判もある。労働組合は「お金を払っての解雇を増やすことになる」と反発している。

しかし、だからといって不当解雇で困っている人を助けられる制度を設けないのは建設的でない

もちろん、制度の悪用は防がなければならない。国の労働局などの監視強化が求められる。労働者の自発的な申し立てかどうかを厳格にみる必要もある。乱用の防止策とセットで制度設計の議論を進めてはどうか。

個人と雇い主の紛争を処理する労働審判制度では、解雇をめぐるトラブルを金銭補償で解決する例も多い。だが、金額のばらつきが大きい。金銭解決制度をつくって補償金を安定的な額にすべきだ

欧州諸国の金銭解決制度は補償金の上限を年収の1~2年分などとしている。海外の例も参考に、金額の水準を十分議論したい。

金銭解決を選んだ人が別の職に移りやすいよう、転職支援などの柔軟な労働市場づくりも大事になる。職業訓練の充実も急ぎたい。


◎「解雇の金銭解決制度」既にあるのでは?

個人と雇い主の紛争を処理する労働審判制度では、解雇をめぐるトラブルを金銭補償で解決する例も多い」と社説の中で書いている。ならば「解雇の金銭解決制度」は既にあるはずだ。「労働者の救済策になる金銭解決の制度は必要だ」と改めて訴える必要はない。むしろ「既に制度があるのに、別の金銭解決制度を設ける必要があるのか」などと問題提起すべきだろう。


◎「金額のばらつき」は好ましくない?

「(労働審判制度では)金額のばらつきが大きい。金銭解決制度をつくって補償金を安定的な額にすべきだ」との主張も納得できない。金額は同じような水準にとどまるべきなのか。解雇前の収入、勤続年数、不当解雇の悪質さなどによって差が生じるのは当然だと思える。
千仏鍾乳洞(北九州市)※写真と本文は無関係です

欧州諸国の金銭解決制度は補償金の上限を年収の1~2年分などとしている。海外の例も参考に、金額の水準を十分議論したい」と社説では提案しているので、仮に「補償金の上限」を「年収の1年分」としてみよう。これで「補償金を安定的な額」にできるだろうか。

人によって差が大きい「年収」を基準にすると「金額のばらつきが大きい」状況は変えにくい。また「上限」だけを設定するのも「金額のばらつき」を抑える上では好ましくない。同じ年収でも、補償金が1年分か2カ月分かでは大きな差が生じてしまう。

ばらつき」を抑えて「補償金を安定的な額」にしたいのならば、「補償金は一律1000万円」などとするのが効果的だ。しかし、状況がそれぞれ異なるのに、補償金は一律というやり方が合理的とは思えない。


◎本音で語った方が…

脱時間給の問題もそうだが、日経は本音を隠して労働者の味方のように振る舞おうとするから無理が生じるのではないか。日経の本音は「もっと解雇を容易にして経営の自由度を高めてあげるべきだ」といったところだろう。

補償金を安定的な額にすべきだ」と書いた上で、欧州諸国が「上限」を設定していると言及している辺りに本音が透けて見える。「不当解雇で困っている人を助けられる制度」を本気で作りたいと考えるならば、補償金の「下限」を設定した上で、下限の水準を高くするように求めるはずだが…。

日経に労働者の味方になれとは言わない。経営側の代弁者でいいではないか。「経営側にとっては解雇の自由度を増した方がやりやすい。それが日本経済全体のためにもなる」などと主張した方がすっきりするし、奇妙な説明もしなくて済むはずだ。


※今回取り上げた社説「解雇の金銭解決制度は必要だ
http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170604&ng=DGKKZO17280760T00C17A6EA1000

※社説の評価はD(問題あり)。

2017年6月3日土曜日

前川前次官への「違和感」強調する日経に違和感

3日の日本経済新聞朝刊総合3面に前川喜平・前文部科学次官のインタビュー記事が載っている。気になったのは「今になって告発 違和感 政権側の説明も不十分」という解説記事だ。島田学記者(政治部)と小西雄介記者(社会部)は「今になって告発」する前次官に「違和感」を覚えたようだが、そこにこだわる両記者の姿勢に違和感を抱いてしまう。
福岡県うきは市の白壁通り ※写真と本文は無関係です

問題のくだりは以下のようになっている。

【日経の記事】

学校法人「加計学園」(岡山市)の獣医学部新設を巡る問題の核心は、安倍晋三首相やその周辺が国家戦略特区を悪用し、不当な圧力をかけて利益誘導したかどうか。

前川喜平・前文部科学次官はインタビューで、特区での獣医学部新設を認めるにあたって「内閣府から説明といえるような説明はなく、『官邸の最高レベルが』とか『ご意向が』とかしかなかった」と訴えた。

しかし、それが不当な圧力ならば、文科省事務方トップとして松野博一文科相になぜ報告しなかったのか。首相に直訴できなくても、文科相を通じて詰め寄る手はあったはずだ。その点を前川氏に繰り返し問うたが「首相の意向かどうかは政策に関係がないので、首相に確かめる必要はない」と答えるのみだった。「抵抗すべきだった」と反省の弁も口にしたが、今さらの告発に違和感を感じる理由はそこにある


◎「答えるのみだった」?

その点を前川氏に繰り返し問うたが『首相の意向かどうかは政策に関係がないので、首相に確かめる必要はない』と答えるのみだった」はずなのに、その直後に「『抵抗すべきだった』と反省の弁も口にした」と書いている。ならば「『首相に確かめる必要はない』と答えるのみ」ではなかったことになる。

社会面のインタビュー記事には「私自身が動くべきだったが、内閣府に押し切られた。じくじたるものがあるし、反省している。もっと抵抗する姿勢を見せるべきだった」との前次官の発言が出てくる。「反省している」のならば、「今になって告発」でいいのではないか。説明としても辻褄が合っている。

前次官が色々と発言してくれたからこそ「『総理のご意向』などと記された文書」が怪文書かどうかの判断もしやすくなったはずだ。なのに、島田記者と小西記者は「今になって告発」に「違和感」を覚えるのか。「在任中に官邸に掛け合わなかったのならば、退任後も黙っていればいいのに…」と思うのか。だとすると、島田記者と小西記者は「『総理のご意向』などと記された文書」が「怪文書」であってほしかったのかもしれない。


※今回取り上げた記事「今になって告発 違和感 政権側の説明も不十分
http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170603&ng=DGKKZO17268930T00C17A6EA3000

※記事の評価はC(平均的)。島田学記者と小西雄介記者への評価も暫定でCとする。

2017年6月2日金曜日

日経 武智幸徳編集委員はサッカーと他競技の違いに驚くが…

日本経済新聞の武智幸徳編集委員が2日の朝刊スポーツ面に「アナザービュー~2つの頂上決戦」という記事を書いている。「5月20日に村田諒太のボクシングの世界戦、27日にバスケットボールのBリーグチャンピオンシップと、週末に異なる競技の頂上決戦を見た」上で、武智編集委員の専門分野であるサッカーとの違いに驚いてみせる内容になっている。だが、サッカーとの違いがそんなにあるとは思えない。
福岡県行橋市の今川 ※写真と本文は無関係です

まずは記事の前半部分を見ていこう。

【日経の記事】

5月20日に村田諒太のボクシングの世界戦、27日にバスケットボールのBリーグチャンピオンシップと、週末に異なる競技の頂上決戦を見た。

ボクシングは村田を負けにした判定が物議を醸した。怪しい判定はつきものの世界とはいえ、こんなことなら「いっそAI(人工知能)にジャッジを委ねたら」と思ったくらいだった。

判定に驚いたが、その後で世界ボクシング協会(WBA)のトップが非を認め、村田を負けとした2人のジャッジを資格停止にしたのはもっとびっくりした。サッカーがそうだが、普通の感覚なら審判団の決定は最終的なもので、仮に誤りがあっても公式の場で組織の長が審判をなじることなど考えにくいからだ。

判定が買収などの不正で左右されたのなら処罰は当然。しかしWBA会長の非難は「おまえの目は節穴か」という次元のよう。であるならば、そんな審判を世界戦に割り当てた側の任命責任も一緒に問われないとおかしい。それは最終的に会長にも届くはず。そんな筋目は無視しトカゲの尻尾だけ切って恥じないのだとしたら、ダメな組織の典型としか思えない。


◎「審判団の決定は最終的なもの」?

武智編集委員によると、サッカーでは「審判団の決定は最終的なもの」らしい。本当だろうか。サッカーキングの「欧州史上初の残り18秒から再試合…主審がPK時の判定を間違える」という記事(2015年4月10日付)によると「U-19女子欧州選手権予選のイングランド対ノルウェーの試合」で、「UEFA(ヨーロッパサッカー連盟)の規律委員会はクルテス氏の誤審を認め、ミスが起きた場面から、別の審判での試合やり直しを決定」したという。

この記事には「過去には2005年にワールドカップ・アジア予選5位決定戦のウズベキスタン代表対バーレーン代表戦で、吉田寿光主審が同様の判定を行い、再試合となっていた」とも書いてある。つまり、サッカーの代表戦レベルでも「審判団の決定は最終的なもの」とは限らないようだ。サッカーでは「公式の場で組織の長が審判をなじることなど考えにくい」のかもしれないが、ボクシングとそれほど大差があるとは思えない。

説得力に欠ける話はさらに続く。

【日経の記事】

Bリーグの読後感は爽やかだった。栃木と川崎の一進一退の攻防は最後まで目が離せなかった。失礼を顧みずにいえば、栃木から日本一になれるプロスポーツというのも素晴らしい。大都市を後背地に持たないチームに大きな励みになったのではないだろうか


◎鹿島や磐田は?

Jリーグでは鹿島アントラーズやジュビロ磐田が年間王者に何度もなっている。この2チームは「大都市を後背地に持たないチーム」のはずだ。今年Bリーグで栃木が日本一になったからと言って、「大都市を後背地に持たないチームに大きな励みになったのではないだろうか」と考えるのが不思議だ。「大都市を後背地に持たないチーム」でもプロスポーツで日本一になれるとJリーグが何度も証明していることは、武智編集委員も分かっているはずだが…。

「せっかくボクシングとバスケットの試合を観たんだから何か記事にしよう」と考えたのだろうが、もう少し説得力のある中身に仕上げてほしかった。


※今回取り上げた記事「アナザービュー~2つの頂上決戦
http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170602&ng=DGKKZO17209990R00C17A6UU8000

※記事の評価はD(問題あり)。武智幸徳編集委員への評価もDを据え置く。

2017年6月1日木曜日

最近の日経に目立つ「メディア公開記事」は要らない

最近の日本経済新聞を読んでいて気になる企業ニュース記事がある。「メディア公開記事」とでも呼べばいいのだろうか。報道陣への自社施設などの公開を伝えるものだ。非常に注目度が高い場合を除けば、記事にする必要はないと思える。まずは、1日の朝刊企業2面に載った「有機ELテレビ、フル生産 パナソニック、宇都宮のライン」という記事の全文を見てみよう。
北九州メディアドーム(北九州市)※写真と本文は無関係です

【日経の記事】 

パナソニックは31日、モノづくり革新センター(宇都宮市)内に新設した有機ELテレビの生産ラインを公開した。5月の製造開始以降フル稼働している。海外では7月からはマレーシアで生産するほか、チェコでもこのほど製造を始めた。まず世界3拠点体制で需要に応える。

16日の発売にむけて、足元では現在の生産能力上限の1日約300台をつくっている。テレビの画質調整に欠かせない電子基板も製造する。ロボット活用でコストを抑える一方で、人手が必要な組み立て工程では熟練の従業員を置き品質を担保する。

パナソニックは世界約20カ国で有機ELテレビを販売する予定だ。


◎「公開した」ことがニュースならば…

有機ELテレビの生産ラインを公開した」ことがニュースだと言うのならば、公開された生産ラインがどんなものだったか報告すればいいのに、「何を見てきたか」に関してほぼ情報がない。「『公開した』では苦しいから、今後の展開なども絡めてニュース記事らしくしよう」と工夫したのだろうが、それが記事としての価値のなさを裏付ける形になっている。

見出しにも「公開」を入れるべきだと思えるが、ニュース記事としての筋の悪さを整理部も理解しているのだろう。あえて「公開」と入れずに「フル生産 」が主題であるかのような見出しにしている。

パナソニックが16日に有機ELテレビを発売することは日経も既に報じているのだから、それで十分ではないか。今回のような無理を重ねて「メディア公開記事」を載せる意義があるとは思えない。

「メディア公開記事」は他にもある。5月25日には「老朽インフラ、ドローンで点検 デンソー」という記事が出ていた。これも「デンソーは25日、老朽化した橋梁などのインフラを点検する無人小型飛行機『ドローン』のデモ飛行を公開した」という内容だ。「ドローンのデモ飛行を見てきたことを記事にされても…」という感は否めない。そして、この記事でも見出しに「公開」を使っていない。

記事が足りないのか、「公開」に招待してくれた企業への配慮なのか分からないが、この手の記事の掲載はやめた方がいい。「安易に紙面を作ってるなぁ…」と読者に感じさせるだけだ。


※今回取り上げた記事「有機ELテレビ、フル生産 パナソニック、宇都宮のライン
http://www.nikkei.com/paper/article/?b=20170601&ng=DGKKASDZ31HI8_R30C17A5TJ2000

※記事の評価はD(問題あり)。

2017年5月31日水曜日

「おつり投資」に意味ある?週刊エコノミストのフィンテック特集

週刊エコノミスト6月6日号の特集「お金が増えるフィンテック」の最初に出てくる「第1部 おつりを投資に回す 意識せずに資産を増やす」という記事では、トラノテックという会社を冒頭で取り上げている。大堀達也記者と松本惇記者はこの会社に好意的だが、投資家にとって好ましいサービスとは思えない。記事の中身を見た上で、その理由を述べたい。
八坂神社(北九州市)※写真と本文は無関係です

【エコノミストの記事】

知らないうちに自分のお金が投資に回って、資産が増えている--。

フィンテックのベンチャー、トラノテック(東京都港区)は、買い物をするたびにおつりが自動的にたまっていき、投資に回るウェブサービス「トラノコ」を開発した。

買い物時、現金で払うとおつりが来るが、スイカやパスモなど電子マネーのカード払いでは、おつりが発生しない。

そこでトラノコでは、「おつり相当額」という「仮のおつり」を算出する。例えば、喫茶店で税込み380円のコーヒーを買う場合、400円との差額の20円をおつり相当額とするのだ。

おつり相当額は、買い物をした人のカード利用履歴がトラノテックに送られ、それを基に同社が算出する。あらかじめトラノコのユーザーが指定した銀行口座から毎月、おつりの合計が自動で引き落とされ、投資の原資となる。

消費者の買い物データは「家計簿アプリ」企業も持っている。トラノテックと提携する家計簿アプリのユーザーは、簡単な操作でトラノコを利用することができる。

投資先は、リスクとリターンの大きさによって異なる「小トラ」「中トラ」「大トラ」という愛称の3つのファンドから利用者が選ぶ。ファンドはトラノテックの子会社トラノテック投信投資顧問が組成・運用する。

「小トラ」は安全資産の債券が中心でローリスク・ローリターン、「中トラ」は投信で言えばバランス型でミドルリスク、「大トラ」はリスク資産が入った分、高い利回りを狙う商品だ。具体的には「中トラ」で3~4%を目指しているという。

◇   ◇   ◇

投資初心者から「トラノコを利用しようかと考えているけど、どう思う?」と聞かれたら、迷わず「やめた方がいい」と答える。理由は3つある。

◎「おつり相当額」で決める意味ある?

トラノコを利用すると「おつり相当額」によって投資額が決まる。ここに合理性があるだろうか。サービスを売り込む側が「おつりを貯金する感覚で投資できます」などと誘い込むのは分かる。だが、投資家にとって「おつり相当額=投資に充てるべき額」となる理由はほぼない。「おつり相当額=余裕資金」でもない。
高崎山自然動物園(大分市)※写真と本文は無関係です

投資に充てる額は投資家が自らの判断で決めるべきだ。それが「おつり相当額」と合致する可能性は非常に低い。


◎買い物情報をタダで渡す?

おつり相当額は、買い物をした人のカード利用履歴がトラノテックに送られ、それを基に同社が算出する」という。つまり、「カード利用履歴」という個人情報をトラノテックにタダで提供することになる。その代償に得られるのは「おつり相当額」の算出だ。

かなりの個人情報を差し出すのに、得られるものにはほとんど価値がない。これならば「毎月サイコロを振って、その1000倍の金額を投資する」とでも決めた方がマシだ。

既に述べたように「おつり相当額=投資に充てるべき額」ではない。「おつり相当額」で決めてもサイコロを振って決めても、投資額の決定方法として本質的な違いはない。


◎3つのファンド限定に意味ある?

百歩譲って「おつり相当額」を投資に充てるのが妥当だとしても「トラノテックの子会社トラノテック投信投資顧問が組成・運用する」3つのファンドに投資先を限定する意味はない。3つのファンドはいずれも信託報酬が税抜きで0.3%。他に、ファンドが購入するETFの信託報酬も負担することになる。

特に「安全資産の債券が中心でローリスク・ローリターン」の「小トラ」は問題が大きい。現在のような超低金利の状況で年0.3%の信託報酬を取られるのは苦しい。これならば銀行預金に回した方がマシだ。

結局、「おつり相当額」を計算してもらうことに非常に高い価値を見出す人以外に、トラノコを利用する意義は乏しい。大堀達也記者と松本惇記者には、そうした点を十分に検討した上で記事を書いてほしかった。


※記事の評価はD(問題あり)。大堀達也記者への評価もDを据え置く。松本惇記者は暫定でDとする。


※今回の記事に関しては以下の投稿も参照してほしい。

ヨイショが過ぎる週刊エコノミスト「お金が増えるフィンテック」
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/05/blog-post_29.html