2017年2月5日日曜日

最初は期待したが…週刊ダイヤモンド「子会社族のリアル」

最初に見出しを見た時は「週刊ダイヤモンドで久しぶりに評価すべき特集が出てきたか」と思ったが、期待通りとはいかなかった。2月11日号の特集「誰も触れなかった絶対格差 子会社『族』のリアル」では、これまで注目されなかった部分にスポットを当ててはいる。だが、最後まで読んでみると、内容はかなり苦しい。
大分駅(大分市) ※写真と本文は無関係です

まず、持ち株会社傘下の子会社をどう捉えるかという問題から逃げている。特集では冒頭で「『現代の身分差別』。識者がそう言い切る人たちがいる。大企業の子会社で働く人たち、『子会社族』のことだ」と切り出している。

例えば、三菱UFJフィナンシャル・グループの子会社である三菱東京UFJ銀行の行員は「大企業の子会社で働く人たち」だが、「子会社族」として「現代の身分差別」と言えるような親会社社員との格差を感じているだろうか。

同グループではグループ会社が個別に採用をしているようだ。三菱東京UFJ銀行に採用された行員が、特集で取り上げたような「子会社族」として悲哀を感じているとは思えない。今回の特集のように、「大企業の子会社で働く人たち」を「子会社族」と一括りにしてしまうと、三菱東京UFJ銀行の行員までそこに入ってしまう。

この特集には他にも色々と問題がある。ここでは、間違いと思える図を取り上げておこう。ダイヤモンド編集部に問い合わせを送ったので、その内容を見てほしい。


【ダイヤモンドへの問い合わせ】

2月11日号の特集「子会社『族』のリアル」に出てくる66ページの図についてお尋ねします。図の中では「ジェイフォン」から「ソフトバンク」にオレンジ色の矢印が出ており、その矢印の意味は「合併・売却」となっています。

ここから判断すると、ジェイフォンはソフトバンクに売却されたか、ソフトバンクと合併したかのどちらかです。しかし、いずれも実現していないのではありませんか。ジェイフォンは英ボーダフォンの傘下に入って、日本でもボーダフォンとなりました。ソフトバンクは2006年にボーダフォンの日本法人を買収していますが、ジェイフォンを買ったわけではありません。

図の表記は誤りだと考えてよいのでしょうか。正しいとすれば、その根拠も併せて教えてください。御誌では、読者からの間違い指摘を無視する対応が常態化しています。日本を代表する経済メディアとして責任ある行動を心がけてください。

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※ダイヤモンドの体質を考慮すると、回答はないだろう。今回の特集については、以下の投稿も参照してほしい。

週刊ダイヤモンド特集「子会社族のリアル」に感じる矛盾
http://kagehidehiko.blogspot.jp/2017/02/blog-post_6.html

2017年2月4日土曜日

これも「働き方改革」? 日経「働き方改革、AIで後押し」

働き方改革」に絡めれば記事の扱いが良くなるのだろう。最近の日本経済新聞には、やたらとその手の記事が載っている。しかし、やり過ぎも目立つ。
阿蘇山(熊本県阿蘇市) ※写真と本文は無関係です

4日の朝刊企業総合面に載った「働き方改革、AIで後押し 三井物産 社内の情報、共有しやすく」という記事は、最近はやりの「AI」とも絡めている。知名度の高い「三井物産」の取り組みなので、見出しは申し分ない。だが、中身にはかなり無理がある。

記事の全文は以下の通り。

【日経の記事】

三井物産は人工知能(AI)を使って働き方改革を進める。社内のサーバーなどに散在している膨大な情報の中から、新事業の立ち上げにつながる情報をAIが抽出し担当社員に知らせる。子育て中の女性や外国人など社員の多様性が広がる中、効率的に成果を生み出せる環境を整える。

三井物産が扱う分野はエネルギーや金属資源、インフラ、自動車、食糧、流通など幅広く、取引先は26万社にも及ぶ。この膨大な社内サーバー内の文章や画像などのデータファイルを、月内をメドに部局にかかわらず誰でも検索できるようにする。例えば別の部署の社員が同じ会社の決算情報を重ねて問い合わせるといったムダをなくす。

1年後にはAIが検索の履歴を分析し、社員が求めていそうな新たな情報を自動で掘り起こして知らせるようにする。「新たな発見で新事業などのアイデアにする」(経営企画部)狙いだ。従来は人的ネットワークで広がっていた情報を、共有する速度を上げる。

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AIが検索の履歴を分析し、社員が求めていそうな新たな情報を自動で掘り起こして知らせるようにする」と「働き方改革」につながるだろうか。「働き方が少しでも良い方向に変われば、働き方改革になる」との弁明はできるだろう。だが、普通に考えれば、別の話だ。

労働時間を減らすとか、勤務時間を柔軟にするとか、そういった動きと結び付けずに「働き方改革を進める」と書いても説得力はない。今回の記事は「中身の乏しい大げさな内容」と評するしかない。

同じ面に載った「茨城・牛久に直営保育所 ゼンショー」というベタ記事にも、似たような問題を感じた。記事では以下のように書いている。

【日経の記事】

牛丼店「すき家」などを展開するゼンショーホールディングスは3月、茨城県牛久市に直営の保育所を設ける。2015年9月に茨城県つくば市に開設した直営保育所に続き2カ所目。グループ企業が周辺で運営する飲食店やスーパーなどで働く従業員の子供を預かる。働きやすい環境を整えると同時に、人手不足に対応する狙いもある。

ゼンショーHDの子会社、かがやき保育園が運営する。定員は19人で保育料は月5000円。1時間100円の一時保育も利用できる。

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これも「働き方改革」に関連させたつもりだろう。だとしても、載せる意味はあるのか。ゼンショーが初めて直営保育所を設けるのならば、まだ分かる。だが「茨城県つくば市に開設した直営保育所に続き2カ所目」だ。ゼンショーが直営保育所を開設するたびに、日経はベタ記事で紹介していくつもりなのか。そうではないとすれば、なぜ「2カ所目」を記事にするのか。

直営保育所なので、「従業員の子供」しか預かってもらえない。それでも記事で取り上げるのは、「企業の取り組みとしてニュース価値がある」と判断したからだろう。だが、どこにそんな価値があるのか。ベタ記事であっても、もう少しニュースの価値を吟味して紙面に載せるべきだ。


※2つの記事の評価はD(問題あり)。

「印鑑なつ印」に重複感 日経「印鑑なつ印、クラウドで」

4日の日本経済新聞朝刊企業・消費面に載った「印鑑なつ印、クラウドで シヤチハタ、経営判断迅速に」 という記事で、「印鑑なつ印」となっているのが引っかかった。「なつ印」とは「印を押すこと」という意味だ。「印鑑なつ印」は重複表現だと思える。
筑後川(福岡県朝倉市・うきは市)※写真と本文は無関係です

記事の全文は以下の通り。

【日経の記事】

シヤチハタ(名古屋市)は2月中旬、クラウド上でビジネス文書に電子印鑑をなつ印できるサービスを始める。スマートフォン(スマホ)などの操作で電子印鑑をなつ印し、次の決裁権者などに回せる。経営判断を迅速化するツールとして、出張の多い企業幹部らの需要を取り込む。

商品名は「パソコン決裁Cloud」。まず無償版を公開し、今春から有償版を提供する。利用料は1ユーザーあたり月額100円から。スマホ画面をタッチするだけで、電子印鑑を文書になつ印できる。クラウド上で次の決裁権者に回覧し、メールで到着を知らせる仕組みだ。

無償版は印鑑の種類や使用回数が制限され、有償版は複数の印鑑を無制限で使える。「低価格で付加価値の高いサービス」(舟橋正剛社長)を売りに、2018年3月期末までに無償含め10万ユーザーを目指す。決済システムとして三井物産子会社などが国内販売する「Zuora(ズオラ)」を活用する。

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記事の中にも「電子印鑑をなつ印」が3回出てくる。「電子印鑑をなつ印できるサービス」は「電子印鑑を押せるサービス」と直せば重複を解消できるし、文字数も減らせる。言葉の使い方をチェックすべき記事審査部の担当者は何も言わなかったのだろうか。見出しにもなっているのだから、整理部から声が上がってもよさそうな気がする。

ついでに言うと「低価格で付加価値の高いサービス」という社長コメントを安易に使っているのは感心しない。記事を読んでも、どこが「付加価値の高いサービス」なのか分からない。このコメントを使うならば、他社の同種のサービスと比べて「付加価値」の高さを示してほしい。

価格についても同様だ。「1ユーザーあたり月額100円から」は安そうな感じもするが、他社と比較しないと何とも言えない。根拠を示さずに「低価格で付加価値の高いサービス」という社長コメントを使ってしまうと、宣伝臭さが強くなる。

記事を書いた企業報道部の記者には、「自分たちは企業の宣伝の手助けをしてるんじゃないんだ」という意識をしっかりと持ってほしい。


※記事の評価はD(問題あり)。

2017年2月2日木曜日

「働き方改革」になる? 日経「パナソニック、夜8時退社」

2日の日本経済新聞朝刊総合2面に載った「パナソニック、夜8時退社に 国内10万人、社長指示」という記事は、説明不足が凄い。記事を読む限りでは「パナソニックは終業時間を午後8時に統一する」と取れるが、怪しい気もする。
杖立温泉(熊本県小国町) ※写真と本文は無関係です

記事の全文は以下の通り。

【日経の記事】

パナソニックは勤務時間を原則、午後8時までに改め、津賀一宏社長が国内の全従業員約10万人に通知した。社長自らが終業時刻を「宣言」することで、長時間労働の是正といった働き方改革の推進をはやめる

「午後8時まで」を新しい労働指針として掲げ、労働組合と1月31日に合意。2月1日から各職場での徹底を始めた。取締役など幹部も対象とした。現在は部署によって始業・終業時刻は異なるが、1日の労働時間は8時間としている。

働き方改革は企業の経営課題となっており、大和証券グループ本社が午後7時までの退社の励行、ユニ・チャームは午後10時以降の残業原則禁止を導入済みだ。パナソニックは就業関連の改革に積極的で、創業者・松下幸之助氏の意向で1965年に早くも完全週休2日制へ移行している。

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素直に読めば、「これまでバラバラだった終業時刻を8時に統一するんだな」と思ってしまう。ただ、色々と疑問が残る。

◎疑問その1~常識的にあり得る?

1日の労働時間は8時間」とすると、パナソニックは全社一律で始業時刻が午前11時、終業時刻が午後8時となったのだろう。しかし、常識的には考えにくい。午前11時までは顧客対応もしないということか。工場は一般的に交代制だが、どうしているのか。記事には一応、「原則」という文字は入っている。とは言え、例えば「工場は例外」となる場合、例外の規模が大きすぎて「原則、午後8時まで」とは言えない。


◎疑問その2~「働き方改革」になってる?

「午前11時~午後8時」の勤務になるとして「長時間労働の是正といった働き方改革の推進をはやめる」効果があるだろうか。「午前9時~午後6時」でも「午前11時~午後8時」でも労働時間は同じだ。終業時刻を8時に変更するとどんな効果があるのか、記事では教えてくれない。

パナソニックの取り組みは「午後8時以降の残業を原則として禁止」ではないかとも思った。ただ、記事では「社長自らが終業時刻を『宣言』」と言い切っている。この場合、社長が「宣言」した「終業時刻」は「午後8時」以外にあり得ない。

この記事はパナソニックの取り組みを正確に伝えているのだろうか。間違っていないとしても、説明が足りないのは明らかだ。


※記事の評価はD(問題あり)。

2017年2月1日水曜日

やはり出てきた大げさな「革命」 日経1面連載「AIと世界」

予想通り、日本経済新聞朝刊1面の連載「AIと世界~気がつけばそこに」の中で「革命」が起きてしまった。1日の第3回「カイゼンの主役交代 物を作るのは誰か」という記事では「今始まっているのはAIによるものづくり革命だ」と言い切っている。日経の1面連載で「革命」の文字を見つけたら要注意だ。基本的には展開に無理がある。今回も例外ではない。
成田山新勝寺の釈迦堂(千葉県成田市)※写真と本文は無関係です

中身を見ていこう。

【日経の記事】

やあマーティ。僕らこうやって動くほうが効率的だよ!」。米デトロイト郊外のゼネラル・モーターズ(GM)の工場。フロントガラスを組み付けたり車体を溶接したりしているロボットが続々と話しかけてくる。消費電力を少なく、組み立て時間をもっと短く――。人工知能(AI)を備え自らカイゼンのアイデアをひねり出す

これはGMが5年以内の実現を目指す「未来工場」の姿だ。世界のGM工場から集まる情報をもとにAIが早く安く造る方法を考えて提案する。生産性が加速度的に高まり「競争力を大幅に底上げできる」(ダグラス・マーティ・リン先進自動化技術部門主幹)。


◎無駄が多そうな「未来工場」

GMは本当に上記のような「未来工場」の実現を目指しているのだろうか。違う気もするが、取りあえず記事が正しいとの前提で考えてみよう。

この「未来工場」が実現するためには、「フロントガラスを組み付けたり車体を溶接したりしているロボット」1台1台にカメラを付けて人間の顔を認識させ、さらに音声を出すようにする必要がある。そして、「カイゼンのアイデア」を近くにいる従業員に口頭で伝えるわけだ。手間とコストの両面で恐ろしいほど無駄だと思える。

AIが「カイゼンのアイデア」を考えたら、それが必要な人のところへ文字情報で自動的に届くようにすれば済む。その方が情報の伝達や共有も容易だ。「車体を溶接したりしているロボット」に「マーティ」の顔を識別させる意味があるとは思えない。

続いてのくだりでは言葉の使い方で注文を付けたい。

【日経の記事】

2009年に米連邦破産法11条を申請したGM。大量の拠点閉鎖を余儀なくされた苦い経験は、従来の手法にこだわらず未来工場へ向かう原動力になった。ファナックやシスコシステムズと組み、世界で8500台強のロボットが90秒ごとに情報を共有する仕組みを導入。昨年は65台のロボットが「あと2週間で壊れてしまう」と声を上げ、事前に対応できた。

米国の自動車産業が機械による大量生産の手法を確立したのは約100年前。クルマの値段は大幅に下がり、庶民が買える時代が到来した。今始まっているのはAIによるものづくり革命だ



◎舌足らずな「破産法11条を申請」

見出しならば「破産法を申請」といった表現でいい。見出し以外では「米連邦破産法11条を申請」ではなく、「米連邦破産法11条の適用を申請」と書いてほしい。そうしないと、舌足らずな印象を与えてしまう。

さて、ここまで記事を読んで「ものづくり革命」が始まったと感じただろうか。AIをものづくりに生かそうとしているのは確かだろう。しかし「革命」と呼ぶほどではない。AIの活用で生産コストが100分の1になったり、生産速度が100倍になるのならば「革命」と呼ぶに値する。しかし、起きているのは「ロボットが故障する前に素早く対応できるようになる」といった地味な変化だ。

続いて出てくる事例はさらに辛い。

【日経の記事】

そのビールはリンゴのいい香りがしたけれど、後味は少し苦かった。

「バージョン13はまた違う味になるよ。君の感想を聞いてAIがレシピを考えるから」。英インテリジェントXブルーイングのヒュー・リース共同創業者は言う。1年半前からすでに12回、AIがレシピを改良した

商品棚に並ぶ限られた種類から選んで飲む――。そんな常識をAIは変える。フェイスブックで顧客からの感想や要望を集め、今求められている味やのどごしを割り出す。ホップの量や泡の出来やすさをAIが考えてレシピを作り替える。

リース氏は「顧客一人ひとりに合わせたものづくりが可能になる」と言う。料理店や個人で違うレシピのビールを短時間で開発し、作り分ける。オーダーメードのビールが当たり前になる時代が近い


◎「オーダーメードのビール」に近付いてる?

顧客の感想を聞いて「AIがレシピを考える」のは分かる。だが「1年半前からすでに12回、AIがレシピを改良した」のであれば、同じ商品を多くの顧客に提供しているのだろう。開発担当者の代わりにAIが商品の味を考えてくれるだけの話だ。

なのになぜ「オーダーメードのビールが当たり前になる時代が近い」という結論になるのか。日本の大手ビールメーカーも多くの顧客の声を生かして、ビールの味を決めているはずだ。しかし、それが「オーダーメードのビール」に結び付くわけではない。

一方、「自分専用のビール」を作るだけならば、AIに頼らなくても今でもできる。サンクトガーレンという地ビールメーカーはタンク1本分のビールを完全オーダーメイドで作ってくれるようだ。結局、「英インテリジェントXブルーイング」の事例から、AIを活用すれば「オーダーメードのビールが当たり前になる時代」が来ると結論付けるのは無理がある。

記事の終盤もおかしな説明が出てくる。

【日経の記事】

不安はつきものだ。日本の素材大手で昨年、AIでデータを収集するコンピューターを社員が勝手に取り外す事件が起きた。情報流出を恐れた
ゲント(ベルギー)で大破した自動車※写真と本文は無関係です

AI導入による効果が分かっていても、どうしてもその副作用に目が行ってしまう。英国の産業革命の時代に機械の普及を恐れた人々が起こした「ラッダイト運動」と本質は似ている

駒沢大学講師の井上智洋氏は「30年には工場の完全自動化が現実になる。流れは不可逆で早く対応した者が勝つ」と話す。未来のものづくりへのかかわり方は今と大きく違っているはずだ。再びラッダイト運動を起こしている暇はない。


◎「ラッダイト運動」と本質は似ている?

まず「素材大手」の話が分かりにくい。「日本の素材大手で昨年、AIでデータを収集するコンピューターを社員が勝手に取り外す事件が起きた。情報流出を恐れた」と書いてある場合、「情報流出を恐れた」のは、コンピューターを勝手に取り外した「社員」だと解釈するのが普通だ。しかし、常識的に考えると「情報流出を恐れた」のは「日本の素材大手」のような気もする。

説明が足りないので実際はどうなのか分からないが、いずれにしても「ラッダイト運動」とは似ていない。「機械の普及」で仕事がなくなると考えた人が機械を打ち壊したのが「ラッダイト運動」だ。しかし、「素材大手」の話では「AIに仕事を奪われるからAIを使えないようにしよう」という要素が見当たらない。

AI関連で現代の「ラッダイト運動」を探したものの、適当な事例が見つからなかったのだろう。その場合、「ラッダイト運動」と絡めることへのこだわりを捨てるべきだ。


※記事の評価はD(問題あり)。

2017年1月31日火曜日

日経の「大和ハウスがプレミアムフライデー」に残る疑問

31日の日本経済新聞朝刊企業総合面に載った「プレミアムフライデー 大和ハウス、午後有休に 偶数月、従業員1.9万人対象」という記事には疑問が残った。日経が提供する情報だけでは、大和ハウスの取り組みが評価に値するものかどうか判断できない。
草千里ヶ浜(熊本県阿蘇市)※写真と本文は無関係

記事の全文は以下の通り。

【日経の記事】

大和ハウス工業は30日、偶数月の最終金曜日の午後を有給休暇にすると発表した。経済産業省が推奨する国民運動「プレミアムフライデー」に対応する。柔軟な働き方を導入することで、新入社員の採用などで円滑な人材確保を図る。

新施策は2月の最終金曜日である24日から採用する。パートなどを含む1万9千人の従業員が対象となる。通常の勤務時間は午前9時から午後6時まで(正午から午後1時までは休憩)。始業時間を8時にして午前を4時間とし午後1時から5時までの4時間は有休とする。


金曜日の午後が休暇になると、仕事と生活のバランスを整えることができる可能性がある。大和ハウスは事業拡大に伴い社員を増やしており、建設業界では人材不足が加速していることもあり「働きやすい会社」をアピールする。
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これを読んで「大和ハウスの取り組みは従業員にとって良いこと」と感じるだろうか。自分が社員だったらと考えた場合、「偶数月の最終金曜日の午後を有給休暇にする」分だけ、有給休暇の日数が増えるのならば歓迎だ。しかし、記事からは何とも判断できない。大和ハウスのニュースリリースでも同じだ。

取得可能な有給休暇の日数が変わらない前提で言えば、この制度は「改悪」の可能性が高い。これまで自由に配分できた有給休暇の一部が「偶数月の最終金曜日の午後」に固定されてしまう。大和ハウスが有給休暇もまともに取れない会社ならば、有給休暇の消化を促す効果はあるだろうが…。

筆者には、そういう問題意識を持って追加取材をしてほしかった。今回の取り組みを記事では「柔軟な働き方を導入」と言い切っているが、一部の有給休暇の取得時期を固定化させるのは「柔軟な働き方」とは逆を向いている気もする。

仮に有給休暇を取得できる日数が増えるとしても、「偶数月の最終金曜日の午後」を休みにするのは「柔軟な働き方を導入すること」ではないだろう。「柔軟」と呼ぶのであれば、「2カ月に1回は自由に半休が取れる」といった制度になるはずだ。

ついでに言うと、「金曜日の午後が休暇になると、仕事と生活のバランスを整えることができる可能性がある」という部分は、記事にする意味がない。金曜日の午後が仕事でも「仕事と生活のバランスを整えることができる可能性」はあるし、わざわざ言われなくても分かる。

短い記事でこういう情報を盛り込むと、実質的な情報量はさらに少なくなる。その辺りはもっと工夫してほしい。

もう1つ付け加えると、大和ハウスに関しては「建設業界」よりも「住宅業界」の一員と見る方が自然だ。


※記事の評価はC(平均的)。

2017年1月30日月曜日

「落とし穴」は浅い?日経「AIと世界~理想社会の落とし穴」

苦しい展開になりそうな連載が30日に日本経済新聞朝刊1面で始まった。「AIと世界~気がつけばそこに」という連載の第1回は「理想社会の落とし穴 公平とは何か」。色々とツッコミどころが多い記事になっている。「理想社会の落とし穴」と見出しに付けているが、記事を読む限り「落とし穴」は大したものではなさそうだ。

ブルージュ(ベルギー) ※写真と本文は無関係です
記事の前半を見た上で、問題点を指摘したい。

【日経の記事】

フィリピン・マニラ市のカジノ。「帰りの航空代金がなくなっちゃう」「泳いで帰るしかないわね」。ルーレットで負け続けた韓国人男性客と地元の女性ディーラーのやりとりが笑いを誘った。

ここで働くディーラーや顧客は、ある最新技術が導入されたことをまだ知らない。天井を見上げると50センチごとにぎっしりカメラが並ぶ。単なる監視カメラではない。不正を犯しそうな人を事前に見つけるシステムだ。

大麻中毒や、万引きをする人など約10万人の画像データを解析。顔や体の細かい揺れから怪しい人物を特定する。1日10人程度にシステムは反応している。本人には知らせないまま重点監視の対象とした女性もいる

同様のシステムは世界の空港やイベント会場でも採用が進むが、問題も浮上している。米国のあるシステムでは過去のデータなどから“公平”に分析すると、白人よりも黒人を怪しいと判断する比率が高いのだ

人工知能(AI)の法整備に詳しい慶応大学の新保史生教授は「犯罪者は生まれつき決まっているとの学説もある。そんな考えをもとにしたシステムは深刻な人権侵害を起こす」と言う。悪いことをしていないのにある日突然、AIに犯罪予備軍と認定され、周囲から白い目で見られる。犯罪が減ったとしても、それは理想の社会なのか。


◎知らせないのが当然では?

まず「本人には知らせないまま重点監視の対象とした女性もいる」との説明が引っかかった。この書き方だと「ほとんどの人には重点監視の対象になっていることを知らせている(例外となった女性もいる)」と受け取れる。だが、従業員はともかく、まだ問題を起こしていない顧客に「あなたは重点監視の対象ですよ」と警告するだろうか。知らせないのが当然だとすれば、「本人には知らせないまま重点監視の対象とした女性もいる」と強調されても困る。


◎何が「問題」?

過去のデータなどから“公平”に分析すると、白人よりも黒人を怪しいと判断する比率が高い」ことの何が問題なのか。「世界の空港やイベント会場」で「犯罪予備軍」を正しく検知できるシステムがあるとしよう。そのシステムを使って、黒人と白人の参加者が半々のイベントで「犯罪予備軍」を割り出したら90%は黒人だった場合、何か問題があるだろうか。

怪しい人を会場から追い出すといった措置を取るならば別だが、参加者には気付かれずに監視するのであれば、黒人比率が高くても大きな問題はないはずだ。「このイベントの参加者の中で怪しい人を選んだところ、90%は黒人でした」と発表するわけでもないだろう。

悪いことをしていないのにある日突然、AIに犯罪予備軍と認定され、周囲から白い目で見られる」のは困った話だが、「不正を犯しそうな人を事前に見つけるシステム」ができたからと言って、記事で言うような心配する必要はなさそうな気がする。

従来も、監視カメラを使って人の目で怪しそうな人の目星を付けることはできたし、やってきた。だからと言って、「ある日突然、犯罪予備軍と認定され、周囲から白い目で見られる」といった社会問題は起きていない。人の目がAIに代わると、なぜ急に問題になるのか謎だ。

記事の後半部分はさらに辛い。

【日経の記事】

企業も同様の問題に直面する。日立ソリューションズは2月、休職する可能性が高い社員をAIで割り出すシステムを発売する。業務の様子や残業時間から判断。管理者に警告を出し、業務を分散させるなどして休職の防止に生かす

プロジェクトを率いる山本重樹本部長が頭を悩ませたのが個人を特定するかどうか。休職の可能性がありと上司に知られれば人事評価に影響が出かねないからだ。「個人の不利にならないように使うこと」という項目を契約に盛り込み、休職しそうな人数だけを伝えることにした。休職を防ぐ効果は限られてしまうだけにジレンマも感じる。


◎ショボすぎる事例

この日立ソリューションズの話はかなりショボい。「AIはすごい力を持つがリスクもある諸刃の剣だ」とこの記事では伝えたいはずだ。しかし、「休職する可能性が高い社員をAIで割り出すシステム」は大した力を発揮しそうもない。

大分県立日田高校(日田市) ※写真と本文は無関係です
日経の別の記事によると、このシステムは「残業時間や有給休暇取得日数に加え、最近上司が変わったか、などの要素も加味した上で分析する」らしい。つまり、大したデータ分析はしてくれない。

会話、運動、食事、睡眠といった個人の様々なデータをAIが総合的に分析して休職する可能性を割り出すのならば、「休職の可能性が高い人」と認定された時にショックもある。しかし、「残業時間や有給休暇取得日数」「最近上司が変わったか」は一緒に働いている上司でも簡単に分かる。その上で本人の様子も職場で直に見ているのだから、AIより判断材料は豊富だ。日立ソリューションズのシステムが下す判断は、精度の低い参考情報の域を出そうもない。

記事の終盤には、どう理解したらいいのか分からない話も出てくる。

【日経の記事】


AIと人間の共存へ向け、あらゆる分野でAIをどう使うかのルール作りが必要になる。出遅れたのが将棋の世界だ。

昨年、三浦弘行九段が対局中にスマホでソフトを使ったと疑われた。その後の調査で「不正の証拠はない」と結論づけられた。辞任を決めた日本将棋連盟の谷川浩司会長は「ソフトが急速に力をつける中、規定を整えるのが遅れた」と悔やむ。

2020年の東京大会を控えるパラリンピック。「レギュレーションを作らないと」。日本パラ陸上競技連盟の三井利仁理事長は言う。義足や車いすに特段の規制はないが、AIを使った人だけ際限なく記録が伸びる可能性もある。

AI自体は公平でも人間の使い方次第では不公平になる。AIでどんな社会をつくるのか、問われているのは人間だ。


◎なぜ「パラリンピック」限定?

上記の「パラリンピック」の話がよく分からない。まず、AIを使って「義足や車いす」の性能を上げるとはどういうことか。AIと将棋の関係は分かるが、AIを使った「義足や車いす」のイメージが湧かない。しかも、それは「際限なく記録が伸びる可能性もある」ものらしい(眉唾な感じはするが…)。

用具の開発にAIを活用するという話ならば、規制は無理だろう。記事では、競技中に用具を通じてAIの助けを受ける状況を念頭に置いているのだと思うが、肝心の「どうやって助けてくれるのか」に触れていない。

さらに言うと、仮にAIを使った「義足や車いす」が問題ならば、規制が必要なのは「パラリンピック」に限らないはずだ。オリンピック競技のスキーやカヌーでも対策が求められる。スキーやカヌーは既にAIの使用に関する規制が既にあるのかもしれないが、これまた記事では何も教えてくれない。

連載の第1回でこの内容だ。第2回目以降、大したことのない事例を基に「AIで世界が変わる」とか「革命が起きる」といった大げさな話に仕立ててきそうで怖い。前途多難だ。


※記事の評価はD(問題あり)