2019年1月16日水曜日

BNPパリバの中空麻奈氏に任せて大丈夫? 東洋経済「マネー潮流」

週刊東洋経済1月19日号に載った「マネー潮流~ブラックスワンを抑え込む政策」の筆者はBNPパリバ証券投資調査本部長の中空麻奈氏。肩書は立派だが、記事の内容はお粗末だ。「マネー潮流」の筆者に相応しい人物なのか東洋経済の編集部は再考した方がいい。
呼子大橋(佐賀県唐津市)※写真と本文は無関係

まず冒頭に出てくる「ブラックスワン」の話にツッコミを入れてみたい。

【東洋経済の記事】

誰もがそんなことは起こりえないと思っている事象を表す言葉に「ブラックスワン」がある。2019年にブラックスワンは登場するのか。例を挙げてみる。

1羽目のブラックスワン。米中間の通商協議が決裂し、中国から米国への輸入品全体に関税がかかり、米中両国の景気にさらなる下押し圧力が加わる。これがアジア、中南米により深刻な影響をもたらし、新興国リスクが顕在化する。半導体関連製品に関税がかかるため、株式市場の好調を支えてきたIT関連企業の株価が総崩れ、株価指数も大きく低下する。

2羽目のブラックスワン。英国のEU(欧州連合)離脱交渉が時間切れとなり、「合意なき離脱」に陥る。労働者の大規模なデモ活動である「黄色いベスト運動」の過熱により、仏マクロン政権が退陣に追い込まれる。レームダック化する独メルケル政権の後の体制が定まらないまま、5月の欧州議会選挙に突入、ポピュリズムの空気が蔓延して定着。イタリアの財政問題も含め、欧州の混乱がリスクオフに拍車をかける。



◎「ブラックスワン」ではないような…

誰もがそんなことは起こりえないと思っている事象を表す言葉に『ブラックスワン』がある」という説明は問題ない。しかし「1羽目」も「2羽目」も「ブラックスワン」とは思えない。「『合意なき離脱』なんて絶対ないと誰もが信じている」と中空氏は認識しているのか。

英国関連の報道は「合意なき離脱」への懸念であふれている。なのにそれが実現した時に「ブラックスワン」だと感じる中空氏に不安を覚える。「仏マクロン政権が退陣に追い込まれる」「独メルケル政権の後の体制が定まらないまま、5月の欧州議会選挙に突入」といった事態をセットにしても、やはり「ブラックスワン」とは言い難い。

例えば「2019年にEU解体、ユーロ廃止」ならば「ブラックスワン」と呼ぶのも分かる。だが、中空氏の挙げた2つの「ブラックスワン」は十分にあり得そうな話ばかりだ。

記事の続きを見ていく。

【東洋経済の記事】

ブラックスワンが姿を現せば、株式市場やレバレッジドローン(低格付け企業向けで利回りの高い融資)市場などでリスクを取りすぎているシャドーバンク(金融当局の監督対象外のファンドなど)で大きな損失が出て資産凍結が相次ぎ、さまざまな金融市場にリスクが伝播する可能性は大きい。

FRB(米連邦準備制度理事会)やECB(欧州中央銀行)はすでに資産購入プログラムを終了し、FRBはバランスシートの削減を始めている。これは流動性の減少を意味し、銀行の貸し出しを厳格化させる。絞り込みから、信用リスクの高い企業に資金繰り難が生じる可能性は大きい。米中貿易戦争がすでに経済を悪化させる兆候を示しているだけでも、信用リスクは悪化の方向にある。

しかし、19年にブラックスワンが出現するかは微妙である。

現在、米中貿易戦争は90日間のモラトリアム中だ。結論が出る3月には、米国には債務上限問題の期限が、中国には全国人民代表大会が控えるため、米中政府は中身がどうであれ合意すると想像される。ポピュリズムの台頭は阻止できないとしても、通貨統合後20年の節目を迎える欧州の結束が簡単に崩れると考えるのも無理がある。何より、この数年あれだけ効いた金融政策がまったく効かなくなるというのもいささか唐突だ



◎色々と説明に難が…

ブラックスワン」と呼ぶからには、それが起きる前には「発生確率ほぼ0%」と思える
ものでないと苦しい。中空氏によると「19年にブラックスワンが出現するかは微妙」らしい。つまり、かなりの確率で起こり得る。だとしたら「ブラックスワン」とは言い難い。中空氏に見えていることが世界の他の人には見えないならば話は別だが…。
名護屋城跡(佐賀県唐津市)※写真と本文は無関係

通貨統合後20年の節目を迎える欧州の結束が簡単に崩れると考えるのも無理がある」との説明も謎だ。「合意なき離脱」「マクロン政権が退陣」「イタリアの財政問題」などが「ブラックスワン」だとしたら、それは「欧州の結束が簡単に崩れ」なくても実現する。

最も分からないのが「この数年あれだけ効いた金融政策がまったく効かなくなるというのもいささか唐突だ」という説明だ。米国が利上げ局面に入ってから約3年。米国に関して「あれだけ効いた金融政策」という場合、「引き締め効果が顕著に表れた」と理解したくなる。

しかし、文脈的に考えて「この数年あれだけ効いた金融政策」とは「金融緩和政策」を指すのだろう。「緩和的な金融政策って最近そんなに効いてましたか? そもそも米国はここ数年、引き締め局面にあったのでは?」と聞いてみたくなる。

さらに記事の終盤を見ていく。

【東洋経済の記事】

日本も例外ではない。4〜5月に天皇陛下の退位と新天皇の即位、6月に大阪でG20首脳会議の開催、7月に参議院選挙、10月に消費増税など、重要イベントが目白押しだ。安倍政権にとって、株価の高いほうが望ましく、日本銀行の金融政策への期待もおのずと高まるだろう。 

したがって、ブラックスワンが現れる前に、効果的な金融政策や財政政策により強制される形で市場の安定が続くシナリオも考えておきたい。中国人民銀行の追加緩和やパウエルFRB議長の「必要に応じてバランスシート政策を変更する」との発言により、株価が上昇へ簡単に切り替わる市場を見れば明らかであろう。金融・財政政策がいつ効果を発揮するのかを読んでいくことが19年もことのほか大事、ということだ。



◎日銀が出す「効果的な金融政策」とは?

日本」に関する記述にも疑問符が付く。「日本銀行の金融政策への期待もおのずと高まるだろう」と中空氏は言うが、副作用を上回る効果が見込める追加の金融緩和手段など日銀は持っているのか。

ブラックスワンが現れる前に、効果的な金融政策や財政政策により強制される形で市場の安定が続くシナリオも考えておきたい」と書くぐらいだから、日銀も「効果的な金融政策」をまだまだ発動できると中空氏は見ているはずだ。それが具体的にどんなものなのか教えてほしかった。

記事の完成度から判断すると、中空氏も具体的なイメージは持っていない気がするが…。


※今回取り上げた記事「マネー潮流~ブラックスワンを抑え込む政策」 
https://dcl.toyokeizai.net/ap/textView/init/toyo/2019011900/DCL0101000201901190020190119TKW014/20190119TKW014/backContentsTop


※記事の評価はD(問題あり)。中空麻奈氏への評価は暫定C(平均的)から暫定Dへ引き下げる。

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