2019年1月14日月曜日

「郵政とアフラック」の分析が雑な週刊ダイヤモンド藤田章夫副編集長

週刊ダイヤモンド1月19日号に載った「Close Up~2700億円の出資で浮き彫りになった
郵政とアフラックが抱える事情」という記事は雑な分析が目立った。筆者は藤田章夫副編集長。役職から判断すると記者を指導する立場にあるはずだが、このレベルの記事しか書けないのならば指導役は苦しい。
平和公園(長崎市)※写真と本文は無関係です

まず、写真に付けた説明文に触れておきたい。「昨年12月19日に東京都内のホテルで行われた記者会見。提携の功労者であるはずのチャールズ・レイク氏の姿はなかった」と書いてあるが、「チャールズ・レイク氏」について記事の本文では全く触れていない。それで「チャールズ・レイク氏の姿はなかった」と書かれても、読者はどう理解すべきか分からない。

そもそも「チャールズ・レイク氏」がどういう立場の人かも謎だ。調べてみると、アフラック生命保険の会長らしい。そこを省いて記事を作ってしまう度胸が悪い意味で凄い。

ここからは本文を見ていく。

【ダイヤモンドの記事】

2013年7月、日本郵政とアフラックはがん保険の販売で提携すると発表して以降、15年には全国2万局の郵便局でアフラックのがん保険を取り扱うまでになった。さらに昨年末、両社の資本提携にまで発展した。その背景には、両社共に抜き差しならぬ事情が横たわっていることがある。



◎「抜き差しならぬ事情」がある?

両社の資本提携にまで発展した。その背景には、両社共に抜き差しならぬ事情が横たわっている」と藤田副編集長は言うが、記事を最後まで読んでも「抜き差しならぬ事情」があるとは感じなかった。ここから記事の全文を見ていくので、そうした「事情」があると納得できるか考えてほしい。


【ダイヤモンドの記事】

年の瀬も押し迫った昨年12月20日、衆議院第二議員会館の地下1階にある会議室で日本郵政の長門正貢社長は、並み居る郵政族議員たちに詰め寄られていた。議案は、「郵便局の利活用について」。

言うまでもなく、前日に東京都内のホテルで大々的に記者会見を開いて発表した、日本郵政による米保険大手アフラック・インコーポレーテッドに対する約2700億円に上る出資についてだ。

「7%出資するだけで、4年後に議決権が20%を超えて持分法適用になるというのは本当か?」

「非常に分かりにくいスキームだ。むしろ乗っ取るという話の方がすっきりとして分かりやすい」

そう執拗に言い立てる議員たちが恐れているのは、2015年に日本郵政が約6200億円で買収した豪物流会社トール・ホールディングスでの手痛い失敗劇の再来に他ならない。トールを買収した後すぐに4000億円を超える減損を強いられ、3200億円の黒字予想から一転、民営化以降初となる400億円の赤字に転落するという事態に陥ったからだ。

もっとも、今回の日本郵政によるアフラックへの出資の内容が分かりづらいのも確かだ

まず、アフラック株を4年間保有すると議決権が10倍になるという米国でも珍しい仕組みに加え、いずれ筆頭株主になるにもかかわらず日本郵政側からアフラックに経営陣を送り込まず、経営に一切介入しない点だ



◎そんなに「分かりづらい」?

今回の日本郵政によるアフラックへの出資の内容が分かりづらいのも確かだ」というが、特に分かりづらさは感じない。「アフラック株を4年間保有すると議決権が10倍になる」のは、そんなに難しい話なのか。
豊後森駅(大分県玖珠町)※写真と本文は無関係です

筆頭株主になるにもかかわらず日本郵政側からアフラックに経営陣を送り込まず、経営に一切介入しない」のも、ありがちだろう。「そういう方針なんだな」と思うだけだ。

さらに記事の続きを見ていく。

【ダイヤモンドの記事】

昨年5月に日本郵政がアフラックに出資を打診した際には、7%を大きく上回る株数を提示したようだが、安定株主を増やすためにアフラックが導入している4年で議決権が10倍になる規定に加え、米国政府は国内生保が外国政府に支配されることを禁じている。

何より、アフラックの創業者一族であるダニエル・P・エイモス会長兼社長兼最高経営責任者(CEO)が、支配されることを断固として拒絶したという。

とはいえ、日本郵政からすれば想定より少額の出資にもかかわらず、36年にわたり増配を続けているアフラックから年間60億円に上る配当を安定的に受け取れるようになることは、まさに願ったりかなったりの投資といえる。



◎「願ったりかなったり」と言える?

想定より少額の出資」だったのに「願ったりかなったりの投資といえる」のか疑問が残る。「アフラックの創業者一族であるダニエル・P・エイモス会長兼社長兼最高経営責任者(CEO)が、支配されることを断固として拒絶した」のだから、「日本郵政」としては「支配」を望んだのに「拒絶」されたはずだ。それを「願ったりかなったりの投資」と評価するのは理解に苦しむ。

さらに言えば「アフラックから年間60億円に上る配当を安定的に受け取れるようになる」かどうかは分からない。業績が急激に悪化すれば、減配や無配もあり得るはずだ。

次は「抜き差しならぬ事情」に関する記述が出てくる。

【ダイヤモンドの記事】

いかにアフラックが日本郵政傘下のかんぽ生命保険の競合相手であり、今回の件を受けてかんぽ生命が怒り心頭に発しようとも、かつて野村不動産ホールディングスの買収が不調に終わり、トール買収でもみそを付けた手前、もはやなりふり構っていられるような状況ではないということだ。


◎これが「抜き差しならぬ事情」?

トールを買収した後すぐに4000億円を超える減損を強いられ」た日本郵政が「民営化以降初となる400億円の赤字に転落するという事態に陥った」のは分かる。「野村不動産ホールディングスの買収が不調」に終わったのも、その通りだろう。

だが、そこから「もはやなりふり構っていられるような状況ではない」と結論付けるのが謎だ。「とにかく、どこかに出資しなければならない」という事情が日本郵政にあるのか。少なくとも記事からは伝わってこない。

ついでに言えば「抜き差しならぬ」とは「身動きがとれず、どうにもならない」(大辞林)という意味だ。本当に「抜き差しならぬ事情」があるのならば、日本郵政は積極的に出資には動けない気もする。

次は「アフラック」について見ていこう。

【ダイヤモンドの記事】

一方のアフラックにしても、今回の日本郵政からの申し出は、ありがたかったに違いない。

というのも、これまで40年以上にわたってアフラックの躍進を支えてきた、同社がアソシエイツと呼ぶ保険代理店チャネルでの販売は限界を迎え、今や業績の“足かせ”と化しているからだ。

事実、上の左下写真にあるように、アフラックの業績を支えているのは今や郵便局だといっても過言ではない。アフラックのがん保険の新契約件数約91万件のうち、郵便局経由での販売は実に約25万件を占める。全生保のがん保険の新契約件数に占めるシェアはピーク時の6割超から落ち込んだとはいえ、いまだ5割弱のシェアを誇っているのは日本郵政との提携にあることは論をまたない。

それ故、経営権を支配されることなく、郵便局でのがん保険の販売強化につながるであろう今回の資本提携は、まさに昨年2月に役員ブログで「ツキが回ってくることを願ってやみません」と、自他共に“ラッキーボーイ”と認める営業部門を統括する某上級役員が願いを込めた通り、ありがたい事態になったというわけだ。



◎やはり見えない「抜き差しならぬ事情」

今回の日本郵政からの申し出は、ありがたかった」からと言って「アフラック」に「抜き差しならぬ事情」があったとは断定できない。「アフラックの業績を支えているのは今や郵便局」だとしても、以前から提携関係にあるのだから「郵便局でのがん保険の販売強化につながるであろう今回の資本提携」がなければ収益基盤が崩れてしまうという話でもない。
名護屋城跡(佐賀県唐津市)※写真と本文は無関係です

資本提携」を死活問題と考えなければならないような「抜き差しならぬ事情」はやはり見えてこない。しかも「今回の提携強化」は業績面でマイナスに働く可能性もあるという。そこに触れた部分を見ていく。

【ダイヤモンドの記事】

もっともアフラックにとって今回の提携強化は、もろ手を挙げて喜んでばかりもいられない

日本郵政との提携に不快感を示す信用金庫を筆頭にアフラック離れが進むだろう。業績低迷が著しい代理店チャネルは既存顧客にダイレクトメールを送り、新商品に乗り換えさせる解約新規が大半のため、大型新商品が出ない今年度はさらに業績が沈む見込みだ。

アフラック生命保険の古出眞敏社長の肝いりで投入したイノベーション・ラボ発の健康応援型の新型医療保険は、発売2カ月で数十件しか売れず、これまた望み薄。



◎だったら、なおさら…

日本郵政との提携に不快感を示す信用金庫を筆頭にアフラック離れが進む」としたら、「郵便局でのがん保険の販売強化につながるであろう今回の資本提携」が業績を上向かせる効果は限定的だ。それでも「資本提携」に執着しなければならない「抜き差しならぬ事情」が「アフラック」にあるのか。藤田副編集長はあると見ているのだろうが、その根拠は示せていない。

最後に結論部分の問題点を指摘したい。

【ダイヤモンドの記事】

何より日本郵政にしてもかんぽ生命への気兼ねから、どこまで本腰を入れてアフラックの商品を販売するかは未知数だ。またぞろ、日本郵政がアフラックのがん保険を販売する見返りに、再保険を引き受けることを求めるような事態も想定される。いずれにせよ、アフラックは日本郵政に主導権を握られたことは間違いない



◎「日本郵政に主導権を握られた」?

いずれにせよ、アフラックは日本郵政に主導権を握られたことは間違いない」という結論が唐突で説得力に欠ける。「日本郵政側からアフラックに経営陣を送り込まず、経営に一切介入しない」のに「アフラックは日本郵政に主導権を握られたことは間違いない」と判断した理由がよく分からない。

日本郵政がアフラックのがん保険を販売する見返りに、再保険を引き受けることを求めるような事態」があるとしても「主導権を握られた」とは言い切れない。

郵便局でのがん保険の販売強化につながるであろう今回の資本提携」と藤田副編集長は書いている。ならば「アフラック」が「主導」する形で「郵便局でのがん保険の販売強化」が進むかもしれない。「それはない」と藤田副編集長が見ているのならば、「アフラック」が「主導権」を握る可能性はないと判断できる材料を読者に提示すべきだ。


※今回取り上げた記事「Close Up~2700億円の出資で浮き彫りになった
郵政とアフラックが抱える事情
http://dw.diamond.ne.jp/articles/-/25595


※記事の評価はD(問題あり)。藤田章夫副編集長への評価はDを据え置く。藤田副編集長に関しては以下の投稿も参照してほしい。

「首相官邸の意向」週刊ダイヤモンドが同じ号で矛盾する説明
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_20.html

バランス型投信を「投資の王道」と言う週刊ダイヤモンドへの「異論」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/blog-post_30.html

「マカオ返還」は忘れた? 週刊ダイヤモンド「投資に役立つ!地政学・世界史」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/10/blog-post_29.html

がん保険の「広告」? 週刊ダイヤモンド藤田章夫記者の記事
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/06/blog-post_29.html

週刊ダイヤモンド保険特集で鬼塚眞子氏が選ぶ怪しい「お宝」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/04/blog-post_25.html

「中高一貫校」主要178校の選び方がおかしい週刊ダイヤモンド
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/03/178.html

「最安の信託報酬」に誤り 週刊ダイヤモンド「株&投信 超理解」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2017/09/blog-post_18.html

 週刊ダイヤモンド「株&投信 超理解」に2件目の間違い指摘
https://kagehidehiko.blogspot.com/2017/09/blog-post_94.html

 週刊ダイヤモンド「株&投信 超理解」に3件目の間違い指摘
https://kagehidehiko.blogspot.com/2017/09/blog-post_86.html

週刊ダイヤモンド「株&投信 超理解」に4件目の間違い指摘
https://kagehidehiko.blogspot.com/2017/09/blog-post_65.html

テクニカル分析は必要? 週刊ダイヤモンド「株&投信 超理解」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2017/09/blog-post_22.html

森信親長官への批判が強引な週刊ダイヤモンド「金融庁vs銀行」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2017/07/vs.html

関西知らずが目立つ週刊ダイヤモンド「関関同立」特集
https://kagehidehiko.blogspot.com/2016/09/blog-post_19.html

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