2019年1月23日水曜日

日経 川崎健次長の「一目均衡~調査費 価格破壊の弊害」に感じた疑問

22日の日本経済新聞朝刊 投資情報面に載った「一目均衡~調査費『価格破壊』の弊害」という記事には色々と疑問を感じた。筆者の川崎健証券部次長は「調査費『価格破壊』」について以下のように説明している。
玄海エネルギーパーク観賞用温室(佐賀県玄海町)
            ※写真と本文は無関係です

【日経の記事】

証券アナリストがじわじわと追い詰められている。きっかけは欧州連合(EU)が2018年1月3日に導入した「第2次金融商品市場指令(MiFID2)」だ。証券会社に支払うアナリストの調査費用を「見える化」する新ルールの破壊力は甚大だった。この1年で欧州のみならず、日本を含めた世界の株式市場でアナリスト費用の値下げが加速している。

「株式リサーチの手数料は2~3割減った。日本株も例外ではないですよ」。大手証券の株式部門の担当幹部はこう明かす。

MiFID2は証券会社に支払う調査費用の「アンバンドリング(分離)」を欧州の運用会社に義務付けた。機関投資家は売買手数料に含まれていたアナリスト向けの費用を別途支払うことになる。

売買執行サービスと調査情報の対価の合計だった手数料を分離し、あたかも無償と捉えられてきたアナリスト情報の「費用対効果」を明確にする狙いだ。投資家は無駄なアナリスト情報に払っていた費用を削減でき、市場には質の高いリサーチ情報だけが残るようになる、はずだった。

実際は何が起きたか。大手グローバル金融機関によるリサーチの価格破壊だった。

中でも米JPモルガンは全リサーチ情報の対価として1社あたり一律年1万ドル(約110万円)という破格の安値を提示。あおりでリサーチ情報の相場は下がっていった。優秀なアナリストを抱える独立系リサーチ会社はコストが賄えなくなり英ロンドンでは人員削減の動きも出ている。

JPモルガンも調査部門の損益は悪化したとみられるが、顧客数を大きく伸ばした。「JPモルガンの一人勝ち。MiFID2のタイミングを狙い勝負に出て、一気にシェアを高めた」。ライバルの証券会社幹部は舌を巻く。

日本株市場にも対岸の火事ではない。約7割の売買シェアを握る海外勢で最大のボリュームを占める欧州投資家はMiFID2の規制対象だ。米ブラックロックなど外資系運用会社は証券会社に支払う日本株リサーチの金額を引き下げ、欧州年金基金から受託する国内運用大手の一角も値下げに動いたとされる。

◇   ◇   ◇

疑問点を列挙してみる。

(1)いきなり「破格」と言われても…

1社あたり一律年1万ドル(約110万円)という破格の安値を提示」といきなり言われても、「全リサーチ情報の対価」に関する相場観がないので納得しにくい。「従来の常識的な金額」とどの程度の差があるかは入れるべきだ。
田島神社(佐賀県唐津市)※写真と本文は無関係


(2)本来はゼロでは?

あたかも無償と捉えられてきたアナリスト情報」と書いているのだから、2017年までは「リサーチ情報」の対価としてカネを払う必要はなかったはずだ。そして「米JPモルガン」は「MiFID2のタイミングを狙い勝負に出て、一気にシェアを高めた」。

だとしたら、名目上は「無償」だったものを「1社あたり一律年1万ドル(約110万円)」に設定しただけの話ではないか。同業他社にとっては予想外の安値だったかもしれないが「価格破壊」とはやや違う気がする。同業他社が最初に2万ドルとか3万ドルと設定していたのならば、「JPモルガン」の動向を読み違えていただけだろう。


(3)「調査部門の損益は悪化」?

JPモルガンも調査部門の損益は悪化したとみられる」との説明も謎だ。17年まで「アナリスト情報」はタダだったはずだ。なので「調査部門」だけ取り出せば大幅な赤字だろう。それが「破格の安値」とは言え収入を得られるようになった。なのに「損益は悪化」となるのか。17年との比較ではないのかもしれないが、ならばいつと比較して「悪化」なのか。

記事の終盤も見ていこう。

【日経の記事】

だが貧すれば鈍するともいう。情報は安ければいいわけではない。欧州ではリサーチ情報が減った結果、株の流動性が低下する弊害が目立っている。英ハードマンによると昨年1年間で英国株の1銘柄あたりの担当アナリスト数は6.2%減り、ロンドン証券取引所上場銘柄の1株あたり売買高は15.5%減った。

「逆説的だが、今ほどアナリストの役割が高まっているときはない」。三菱UFJモルガン・スタンレー証券の塩原邦彦インベストメントリサーチ部長はいう。アナリスト情報の不足に加え世界の運用マネーのパッシブ(指数連動)化が加速する中、市場が付ける株価が適正価値から大きく外れる例が目立ってきた。多様な調査と分析を提供し株価をこなれたものにする市場の「公共財」として、アナリストの奮起が期待される。


◎「適正価値」が分かる?

市場が付ける株価が適正価値から大きく外れる例が目立ってきた」という説明が引っかかった。「適正価値から大きく外れ」ているかどうか川崎次長は判断できるのか。仮にできるとすれば「アナリストの奮起」に期待する必要はない。「適正価値」を大幅に下回る株価が付いた銘柄には自然と買いが入るのだろう。川崎次長でも簡単に分かることが、他の投資家に分からないと考えるのは無理がある。

ついでに言うと「欧州ではリサーチ情報が減った結果、株の流動性が低下する弊害が目立っている」との解説も引っかかった。この因果関係は立証できているのか。「昨年1年間で英国株の1銘柄あたりの担当アナリスト数は6.2%減り、ロンドン証券取引所上場銘柄の1株あたり売買高は15.5%減った」としても、そこに因果関係があるとは限らない。

個人的には「1銘柄あたりの担当アナリスト数」が「6.2%」減った程度で「流動性が低下する弊害」が出るかなとは思う。


※今回取り上げた記事「一目均衡~調査費『価格破壊』の弊害
https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20190122&ng=DGKKZO40258450R20C19A1DTA000


※記事の評価はD(問題あり)。川崎健次長への評価はDで据え置く。川崎次長に関しては以下の投稿も参照してほしい。

川崎健次長の重き罪 日経「会計問題、身構える市場」http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/07/blog-post_62.html

なぜ下落のみ分析? 日経 川崎健次長「スクランブル」の欠陥http://kagehidehiko.blogspot.jp/2015/09/blog-post_30.html

「明らかな誤り」とも言える日経 川崎健次長の下手な説明http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/02/blog-post_27.html

信越化学株を「安全・確実」と日経 川崎健次長は言うが…http://kagehidehiko.blogspot.jp/2016/07/blog-post_86.html

「悩める空売り投資家」日経 川崎健次長の不可解な解説
http://kagehidehiko.blogspot.com/2016/10/blog-post_27.html

日経「一目均衡」で野村のリーマン買収を強引に庇う川崎健次長
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/09/blog-post_11.html

英国では「物価は上がらない」と誤った日経「モネータ 女神の警告」
https://kagehidehiko.blogspot.com/2018/12/blog-post_29.html

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